【社会】宇宙望遠鏡技術で、がんのもと逃さず センサーで「幹細胞」発見の試み宇宙の観測技術で、がんを発見する-。東京大などのグループが宇宙望遠鏡を応用して、がん治療に役立つ顕微鏡の開発を進めている。2020年ごろまでに試作機を作り、レンズを宇宙から体内へ向ける。 (三輪喜人) 応用するのは、エックス線天文衛星「ひとみ」に搭載し、ブラックホールや超新星爆発を観測するために開発された超高精度センサー。探す標的は、手術や抗がん剤、放射線で治療したはずなのに生き残り、がんの再発や転移の原因とされる「がん幹(かん)細胞」。数が少なく、普通のがん細胞と見分けにくい。現在の技術では、患者の体内で見つけることは難しい。 計画ではまず、幹細胞にだけ付き、放射線を出す薬を飲む。超高精度センサーは、この放射線を目印にして幹細胞を探す。さらに全身の分布を調べることで、幹細胞の動きを追えるようにもする。 東大カブリ数物連携宇宙研究機構(IPMU)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が新組織を設け、慶応大医学部なども加わり、四月から研究を始めた。 同学部の佐谷秀行教授は「がんの悪性度や再発の可能性を知るためには、幹細胞を検出するシステムが必要。薬の効果を確認しやすくなり、新薬開発コストを削減できる。幹細胞を標的にした治療にもつながる」と期待する。IPMU主任研究員の相原博昭さんは「装置作りや画像処理は私たちの得意分野。医学でも強みを生かせる」と話す。 IPMUは、物理や数学の分野を融合させ、暗黒物質やニュートリノの観測で世界的成果をあげている。ノーベル賞受賞者の梶田隆章さんもメンバーに名を連ねる。研究は基礎的で、何の役に立つのか分かりにくい。村山斉(ひとし)機構長は「基礎研究が役立つことを示したい」と話している。 (東京新聞)
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