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サラリーマンの体力が「30代に入ってガタッと低下する」医学的理由

ちゃんと説明できるんです
日本の大人と切っても切り離せない「疲れ」。本連載では、東京睡眠・疲労クリニック院長の梶本修身先生が、その知られざるメカニズムと対処法を明かします。

第1回はこちら→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55174

疲れやすい人、そうでない人の差

日本の大人は、きわめてストレスフルな環境で暮らしています。ですが、すべての人が同じように「疲れ」を感じているわけではないことは、多くの人が感じているのではないでしょうか。

同じ職場で働いていても、常に「疲れた、疲れた」と連発している人がいると思えば、疲れなど感じる様子もなく、いつも元気な人がいます。徹夜仕事も平気でこなせる人もいれば、すぐにダウンしてしまう人もいます。

疲れが、単に肉体の酷使によって起こるものなら「あいつは学生時代も体育会系だったから」とか、「いつも昼飯にもガッツリ栄養のありそうなものばかり食べているから」体力があって疲れにくいのだろうーーと、納得もできるかもしれません。

しかし実際には、体育会系出身者であっても、過労で倒れてしまうことは珍しくありません。反対に、スポーツはからきしダメでも、仕事をバリバリこなす人はいますよね。

前回、「疲れとは、根本的に脳の自律神経の消耗によって引き起こされる現象である」と説明しました。

疲れの感じやすさに個人差が非常に大きいことは、医学的にも実証されています。つまり気のせいではなく実際に、同じ環境で同じような仕事をしても、疲れやすい人とそうでない人がいるのです。

では、このような差は、いったい何によって生じるのでしょうか。近年わかってきているのは、先天的、いわば遺伝子レベルの体質の違いと、後天的に身につけた能力の違いという、2つの要素があるということです。

 

自律神経の能力は、測れる

前者の「先天的に疲れを感じにくい人」は、「自律神経の機能が高い人」と言い換えてもいいでしょう。

世間ではあまり知られていませんが、自律神経の能力は、あたかも血圧を測るように、専用の測定装置を使って計測し数値化することができます。専門用語では「脈波」と呼んでいますが、毛細血管が収縮・拡張するときの差を測ることで、交感神経と副交感神経のパワーを読み取るのです。

緊張した状態では、交感神経の作用で毛細血管が収縮します。反対にリラックスした状態では、副交感神経の作用で毛細血管は拡張します。こうした収縮と拡張の大きさ(厳密にいうと加速度)を数値化した「脈波」が、その人の自律神経がもつパワーを示している、という考え方です。

交感神経と副交感神経がうまく機能し連携していると、血管が収縮・拡張するときの加速度は大きくなります。生まれつき疲れにくい体質の人は、普段から脈波が大きいといえます。

もっとも、普段は交感神経と副交感神経の数値の合計が100を超えている人も、疲れたときには70〜80に低下します。慢性的な疲労がある人は、脈波の値がいつも低い傾向にあるわけです。

ただ残念ながら、先天的な自律神経の能力差、つまり生まれつき疲れやすい人とそうでない人の違いがなぜ生じるのかは、まだよくわかっていません。

一般に、自律神経の能力を男女で比較すると、男性の方が高いということはわかっています。やはり徹夜仕事には、男性の方が向いているといえそうです。

この脈波の測定器を各会社に設置すれば、いちいち病院に行かずとも、疲れやすさやその時々の疲労度を知ることが可能になり、過労死の予防にも役立つのでしょうが、なかなか普及が進んでいないのが現実です。

測定器の価格が1台およそ150万円と高額なこともありますが、会社としては、「今日は脈波が下がっているから」という理由で、堂々と仕事を休まれると困るからかもしれませんね。