ライフ 週刊現代 日本

「年収4千万・退職金1億」最高裁判所エリートの羨ましすぎる境遇

裁判よりも「出世」が大事!
岩瀬 達哉

広がる「裁判官内格差」

金品を受け取っていた裁判官は、その後、国会の裁判官弾劾裁判所において「罷免」の決定を受け、法曹資格を失った。

しかし、この前代未聞の不祥事への批判は容易に収まることなく、新聞は、裁判所への批判を繰り返し、国会でも連日質問があいついだ。

燻り続ける批判の根を絶つ目的で考えられたのが、裁判官の国内研修制度だった。有能な裁判官を新聞社に送り込み、新聞社の幹部連中を懐柔し、批判記事を書きにくくするとともに、裁判所には優れた人材がいるとのPRをおこなうのが、その真の目的だったのである。

この計画は、当時、最高裁事務総長だった矢口洪一によって立案されたもので、矢口は、参議院決算委員会でこう語っている。

「過日新聞にも一部報道されましたが、部外の機構に裁判官を研修に出しまして、社会教育といいますか、まあいまさら社会教育と言われるかもしれませんが、そういった外の世界を見る、そういうことによって自己修養に努めその結果を後輩裁判官にも及ぼしていくというような施策を講じてまいっておるのが現状でございます」(1982年10月7日付議事録)

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煩いハエのようにまとわりついては、批判記事を書く新聞社に頭を下げ、研修をさせてほしいと下手に出て、彼らの自尊心をくすぐったうえでの新聞社研修だった。

そして事件翌年の9月から翌々年の3月にかけ、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞などに、数名の裁判官を1ヵ月程度派遣している。

当時、この研修制度を間近で見ていた元裁判官が言う。

「この時、新聞社に派遣された裁判官は、外国留学から帰ってきたばかりのエース級が多かった。彼らは、研修の必要などない知性の持ち主で、人柄もいい。

だから、受け入れた新聞社のほうは、すっかり魅了されてしまって、こういう人なら、いつでも採用したいと言っていたほどです」

 

元裁判官の話が続く。

「一方、裁判現場で汗を流している裁判官からすれば、彼らは海外留学中、同僚に仕事の面で負担をかけているわけです。その負担をカバーするどころか、帰国するなり、次は国内留学とばかり、また裁判現場を離れていく。

これじゃ、仕事が増える一方の裁判官は嫌気がさしますわね。地方でどさ回りしている裁判官にすれば、もう、勝手にやってくれという気持ちになる。

裁判部門の足腰を強くするどころか、現場の一体感を削いだうえ、その後の研修にも悪影響を及ぼした事例だったと思います」

しかし矢口洪一は、新聞社からの高評価を聞くと、自身の思惑が的中したことにご満悦で、側近を前に「ああ、うまくいった、うまくいった」と破顔一笑したという。これこそが、矢口が得意とした行政手腕であった。

司法行政部門に「一番いい人材」を集めるとした矢口の基本方針は、いまも変わっていない。