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【社説】

日銀の物価目標 実体経済の好転が先だ

 日銀が物価目標の達成時期を明示しない方針に転じたのは異次元緩和の失敗をようやく認めたことを意味する。物価は人為的にコントロールできない。実体経済の好転や将来不安の払しょくが先だ。

 日銀は四月末に発表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」の中で、これまで示してきた物価上昇目標2%の達成時期見通しを削除した。「見通しが、目標達成の期限ではないことを明確にする」(黒田東彦総裁)という。

 しかし、異次元緩和は、日銀が2%の達成時期を示し、それをコミットメント(約束)することで人々の物価上昇予想が高まると説明してきた。前提となる達成時期を示さなくなるのだから事実上、異次元緩和が失敗したことを認めたことになる。

 もともと黒田総裁は二〇一三年四月の異次元緩和開始時に「二年で2%」の目標達成を明言した。だが想定通りには物価は上がらず、その後は「できるだけ早期に」との表現に変える一方、三カ月ごとに公表する展望リポートで達成時期見通しを示すようになった。

 展望リポートでは、ずるずると六回も見通しの修正を繰り返したため、市場からは「展望でなく願望リポートか」と皮肉られ、日銀の信認が失墜しかねない状態となっていたのである。

 五年間の異次元緩和でわかったのは金融政策だけでは物価上昇目標は達成できないということだ。リフレ派が主張した「デフレは貨幣現象。量的緩和で物価は上げられる」といった単純なものでも、マイナス金利や長短の金利操作を量的緩和に組み合わせた現行の政策でも効果がなかったのである。

 むしろ円安により輸入物価が上がり、賃金が伸び悩む中で国民生活は苦しくなった。マイナス金利は金融機関の経営を悪化させるなどの副作用が目立っている。

 異次元緩和は政府と日銀との共同声明に盛り込まれ、アベノミクスの柱として安倍政権の意向を反映してきた。それは目先の成果を急ぐのが特徴だ。日銀の財務悪化や国の借金累増には目をつぶる。

 しかし、企業も個人も目先だけを見ているわけではない。将来不安があるから国民は消費を控え、不確実性が高いから企業は賃上げや投資に踏み切れない面がある。

 目指すべきは、実体経済の好転に伴う「良い物価上昇」である。そのためには異常な緩和をできるだけ早く縮小し、持続可能な金融政策に戻していくことが必要だ。

 

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