「求人を探して、履歴書を作成し、面接を受けるのが面倒臭い」
就職活動や転職活動を経験したことのある人ならば恐らく誰もが一度は思ったことがある不満だろう。
「会社の方からアプローチしてもらい、そこから働きたい場所を選べるなら良いのに」
このような怠惰な発想をしたことのある人も少なくないはずだ。
そういった中、2018年初頭にNHKが報じたことで話題になったのが「AIスカウト」である。
しかし、このとき話題になったAIスカウトの内容に対して、違法性があるのではないかと話題になったことも記憶に新しい。
私もその一人である。
ただし、私が違法性を覚えたのは、多くの人々によって疑義が指摘された点とは異なる。
広く疑義が寄せられたのは、個人情報の取扱についてだった。
私が疑義を抱いたのは職業安定法上の取扱である。
今回は、一時期話題になった「AIスカウト」について、職業安定法上問題はないのか、厚生労働省職業安定局需給調整事業課に確認した内容を伝えたいと思う。
目次
- 合法か違法か物議を醸したAIスカウトとは何か?
- AIスカウトに寄せられた「個人情報の保護に関する法律」にまつわる合法か違法かの疑義
- AIスカウトは職業安定法上合法なのか? 違法なのか? 厚労省職員の見解
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合法か違法か物議を醸したAIスカウトとは何か?
一時期話題になった「AIスカウト」について、その後話題になることがなかったこともあり、そもそも一体どういうものなのか分からないという人も多いかもしれない。
話題になったのは、株式会社scoutyが提供するサービスで、「日本初のAIヘッドハンティングサービス」と謳われるものである。
学習能力に優れた人工知能が、インターネット上のオープンデータから情報を取得して、
エンジニアの能力を自動分析し、最適な企業とマッチング。
出展:株式会社scouty
つまり、求職者は求人サイトに登録することなしに企業側からオファーを受けられるというサービスである。
概要としては、株式会社scoutyが運用するAIが、インターネット上にある情報(個人のブログやSNS、技術者情報共有サービスなど)を収集し、求職者のデータベースを作成。
その求職者の情報(匿名情報としている)を元に、企業側はオファーを送りたい人物を選び、株式会社scoutyのサポートを受けながら作成したオファーを送付。
求職者側と直接やり取りを行うというサービスだ。
2018年5月5日時点で、以下の上場企業を含む、ベンチャー企業などが利用しているとのこと。
- 楽天
- DeNA
- Cyber Agent
- freee
- News Picks
- Gunosy
- Retty
- eureka
- team Lab
- MISOCA
- TeamSprint
- nextremer
- コロプラ
- coconala
- giftee
- Game With
AIスカウトに寄せられた「個人情報の保護に関する法律」にまつわる合法か違法かの疑義
AIスカウトがNHKによって報じられた後、瞬く間に広がったのは、その適法性についてである。
つまり、そもそもこのサービスは合法なのか違法なのかといった点だ。
SNSなどネットで個人情報を収集する”AIスカウト”人材紹介会社について考える
違法か? 合法か? これ対して指摘された内容について幾らか取り上げれば、主に以下の点があげられる。
- 個人情報の保護に関する法律第17条について示されているガイドライン(通則)32項(個人情報の保護に関する法律、個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編))
- 個人情報の保護に関する法律2条
- 職業安定法5条の6(職業安定法)
- GDPR(eur-lex)
- 匿名加工情報の取扱(匿名加工情報制度について)
- 個人情報保護委員会への届出義務(これについては、後日3月9日に行われた)
また、この他「情報収集先(情報ソース)として利用されているサービス(qiita)の利用規約違反にあたるのではないか」「オプトアウト方法の不在は問題でないか」などの指摘も行われていた。
出典:Hiromitu Takagi on Twitter
※後日規約変更が行われており対処されているものもある
尚、これら全てへの回答があったわけではないが、個人情報の取扱については、株式会社scoutyのホームページ上にて公表されている。
それによれば、以下の人物によって確認が取れているとのこと。
ただし、この内容は3月25日時点のもの。
5月5日時点では以下のように変更されている。
scoutyは、ひかり総合法律事務所 板倉陽一郎弁護士をはじめとする複数の弁護士に相談の上、法令を遵守した運営を行っております。
出展:株式会社scouty
なぜ経済産業省商務情報政策局情報経済課及び個人情報保護士の名称が消えたのかは分からないが、少なくともひかり総合法律事務所の弁護士によって合法性は担保されているということなのだろう。
この個人情報の保護に関する法律の取扱上、株式会社scoutyのサービスが合法なのか違法なのかは、私の方でも確認ができていない。
そのため、現実問題どうなのかは分かりかねる。
しかし、少なくとも弁護士による確認ができており、当局から何らかの指摘がなされているといった話題が出ていないのは間違いない。
AIスカウトは職業安定法上合法なのか? 違法なのか? 厚労省職員の見解
さて、個人情報の保護に関する法律において、株式会社scoutyのAIスカウトに疑義が寄せられている点については、上記の通りだ。
一方、先ほど少し指摘があった旨を書いたが、AIスカウトに関しては職業安定法上も疑義があったことは見ての通りである。
私が真っ先に疑義を感じたのも、個人情報の保護に関する法律ではなくこちらの方だ。
先ほど指摘されていたのは5条の6。
公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者は、求職の申込みは全て受理しなければならない。ただし、その申込みの内容が法令に違反するときは、これを受理しないことができる。
○2 公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者は、特殊な業務に対する求職者の適否を決定するため必要があると認めるときは、試問及び技能の検査を行うことができる。
(求職者の能力に適合する職業の紹介等)
出展:e-Gov「職業安定法」
私の方で気になったのは、5条の4である。
公共職業安定所、特定地方公共団体、職業紹介事業者及び求人者、労働者の募集を行う者及び募集受託者並びに労働者供給事業者及び労働者供給を受けようとする者(次項において「公共職業安定所等」という。)は、それぞれ、その業務に関し、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報(以下この条において「求職者等の個人情報」という。)を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
○2 公共職業安定所等は、求職者等の個人情報を適正に管理するために必要な措置を講じなければならない。
(求人の申込み)
出展:e-Gov「職業安定法」
そもそも、求職登録の受付が行われないという時点で、苦情処理について等様々な条項に抵触するのではないかと感じたが、真っ先に感じたのはその仕様上職業紹介に不必要な情報まで収集してしまう点である。
そこで今回、厚生労働省職業安定局需給調整事業課に対して、株式会社scoutyのホームページを確認して頂きながら見解を伺った。電話に対応して頂いた職員の見解を簡単にまとめると、以下の通りである。
- 当該サービスは、求職者から求職の申込を受けて職業を斡旋しているとはいえない
- 当該サービスを提供している事業者が行っているのは、インターネット上において個人が自主的に公開している情報を収集し、人材を欲している企業に対してその情報を提供しているものと推察する
- 当該サービスの概要を鑑みるに、そもそもこのサービスは人材紹介業にあたらないと思われる。よって、その限りにおいて職業安定法に抵触するとは断言できない
要するに、株式会社scouty側ではマッチングという言葉を使っているものの、現状のサービス内容を鑑みるに、あくまで株式会社scoutyが行っているのは情報提供に留まっているため、そもそも人材紹介業としてみなして職業安定法に当てはめられるとは思えないということ。
※ただし、この見解はサービス内容を細やかに精査した上での判断ではないため、あくまで表面上このような判断に至ったという点に留意して欲しい。
そのため、仮に合法か違法かが争われるのであれば、それは個人情報の保護に関する法律が焦点になるだろうとのことである。
少なくともその点に関しては、個人情報保護委員会などの見解によるとしている。
ここまで読んだ人には拍子抜けの結論かもしれない。
AIスカウトが、法的枠組みの中で今後どのような扱いになっていくか分からないが、少なくとも職業安定法上は今回得た回答のようになるとのことである。
私としては、このようなサービスを望む人間は少なくないと感じる。
就活にせよ、転職活動にせよ、あまりに非効率で不合理な手続きが罷り通る現状を思えば、非常に合理的であり、求人者・求職者双方の負担軽減にも繋がるサービスではないかと考える。
しかし、その一方で誰も彼もが転職を望んでいるわけではないのは確かだ。
また、本来の意図に沿わない個人情報の取扱がなされれば、決して良いと感じない人間も多いだろう。
何より、それを嫌って様々なサービスの利活用が萎縮する可能性すらある。
転職活動のためにSNSやブログ、技術情報共有サービスを利用している人間など、極々限られた一部の人間だけなのである。
求人・求職とは何ら関係を持ちたくない不特定多数の人間にとって、何ら不利益が生じない形となるよう、今後改善が行われることを願ってやまない。