海賊版サイト問題 対策へ向けた論点整理 | COMEMO
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2018/05/05 11:13
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2018/05/05 11:13

海賊版サイト問題 対策へ向けた論点整理

何が起こったのか
2017年5月までに海賊版サイト「漫画村」が立ち上がり、2018年3月時点で1.7億訪問を超えるトラフィックを集めた。「漫画村」は元サイトをウクライナの防弾ホスティングサービスに置いていたが、米国のCDN「Cloudflare」を通じて日本国内の米データセンター大手「Equinix」から配信され、収益源となっていた広告は日本国内のネット広告業者が取り扱っていた。広告主には無料マンガサイトを運営する「NTTソルマーレ」などが含まれていた。
2018年4月13日に政府は「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策」を決定し、海外で運営されている海賊版サイトの「漫画村」「Anitube」「Miomio」について、ISPがサイトブロッキングを行うことが適当とした。この決定を機に3サイトへの関心が高まり、サイトブロッキングに先立って3サイトとも閉鎖された。
2018年4月23日にNTTグループが政府の決定を受けて準備が整い次第、速やかに3サイトのサイトブロッキングを実施すると発表。政府はサイトブロッキングについて「緊急避難(刑法第37条)の要件を満たす場合には、違法性は阻却される」と決定したが、閉鎖されて「現在の危難」がない海賊版サイトの遮断が要件を満たすとは考え難い。しかしながらNTTグループは政府の決定に基づく措置として、自社の法解釈について公表していない。
何が問題なのか
漫画村が2017年5月までに立ち上がって多くのアクセスを集めたにも関わらず、1年近くも有効な対策が取られてこなかった。そのため海賊版サイトによる被害が拡大してしまった。
「漫画村」は米国企業を通じて日本国内から配信されていたため、日本で被害届を出して、日米で訴訟を起こすことができた。しかしながら知的財産戦略本部では日本法が及ばない海外のサイトであることを前提に対策が検討された。実際に海賊版サイトによる被害を防ぐため制度を見直すのであれば、まず規制対象の実態を把握する必要があるのではないか。
政府は海賊版サイトによって大きな被害が生じているため、立法までの間に緊急対策が必要としているが、被害の根拠について明示していない。2017年の紙・電子を合わせたコミック市場は全体で4330億円、前年度比2.8%減となっているが、権利者が主張する4000億円規模の被害は売上への影響としては確認できていない。
個別の事案について緊急避難(刑法第37条)の要件を満たすかどうか判断できるのは、行政ではなく裁判所である。にも関わらず政府の決定では何ら立法がないまま3サイトを名指ししてサイトブロッキングが適当と決定した。これは法治主義の原則を歪め、憲法の定める「憲法尊重擁護義務」「検閲の禁止」「表現の自由」や、電気通信事業法の定める「通信の秘密」に抵触するのではないか。
仮にDNSブロッキングを実施したとして、公衆DNSを利用すれば容易に迂回できる。また海外に対する配信を止めることはできない。
やるべき検討課題
なぜ政府は「漫画村」について実態を把握できなかったのか。検討した会議体の有識者の構成や事務局の調査能力に問題はなかったのか。海賊版サイトについて捜査中の警察が持っている情報は、適切に犯罪対策閣僚会議と連携できていたのか。
検挙率の低下に結びつきやすいサイバー犯罪について、現場が被害届の受理を拒みがちでなかったか。所轄での対処の難しいサイバー事案について、適切に対処できる技術力を持った全国的な捜査機関とその窓口が必要ではないか。
なぜ権利者は早い段階でCloudflareやEquinixに対して海賊版サイト配信の差止請求を行わなかったのか。権利者側の弁護士の能力に問題があったのであれば、サイトの閉鎖方法に詳しい技術者や弁護士と権利者とのマッチングにニーズがあるかも知れない。
日本国内に配信拠点を持つCDN事業者の中には、電気通信事業者の届出を行っている事業者ばかりではない。日本での削除依頼対応を迅速化するため、日本国内に配信拠点を持つCDN事業者に対して、電気通信事業法の届出を促すことが有効ではないか。
日本のプロバイダー責任制限法では、発信者情報開示やコンテンツの削除について、ISPの責任制限は規定しているが、開示や削除の義務を課していない。米DMCAなどを参考に削除義務を課すことを検討してはどうか。
日本の民事訴訟では被告不詳のまま裁判を起こすことができない。そのため発信者情報開示に成功しないと、訴訟を起こすことができない。被告不詳のまま訴訟を起こせるようにして、国外にいる被告に対しても公示送達を有効とすることで、当該コンテンツの違法性について民事訴訟で判決を得ることができるようにすべきではないか。
海賊版サイトの収益源となっていた広告業者に対して規律が及んでいない。届出制や登録制を入れて行政指導の対象として、海賊版サイトの配信を通じて広告費などの利益を得ること自体を著作権に対する間接侵害として規制できないか。
正確な被害の把握。海賊版サイトによる経済的被害が甚大で、政府が違法行為に対して適切に対処できていないことに起因しているのであれば、補償や緊急融資を検討する必要がある。今のところコミック市場の売上に対しては軽微な影響しか確認できていないが、無料マンガサイトなど、統計から漏れている分野で売上への大きな影響が出ている可能性も否定はできない。
今後Torなどを悪用して「漫画村」以上に摘発やブロッキングが難しい海賊版サイトが登場するだろう。民事訴訟に先立つ調査や犯罪捜査のために、不正アクセスなどの手段を用いなければ難しいケースが増えるのではないか。諸外国に於けるダークウェブのテイクダウン事案なども参考としつつ、より悪質なサイトの閉鎖に必要な法整備も検討する必要があるのではないか。
弊害の大きいサイトブロッキング以前に、ざっとこれくらいの対策は現行憲法の下でも考えることができる。法制化を前提としてサイトブロッキングの検討も行って構わないが、技術的回避策が確立している上、違法サイトに対して政府の調査が及ばず、民事訴訟が機能していない現状において、サイトブロッキングだけが対策として有効に機能すると考えるのは、あまりに楽観的ではないだろうか。
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