友達といってもSNS上だが。10年ほどの付き合いになるだろうか。お互い学生だったのが社会人になって、そしてもう付き合うのをやめようと思った。忘備録というか、スッキリしたい故の思い出の発散だ。
AはTwitterより古いSNSからの付き合いで、少し年上だった。彼女の書く二次創作の小説が好きで、私から声をかけて仲良くなった。それから私はAを姉のように慕っていたし、向こうも妹のように可愛がってくれた。私は真面目で一生懸命で、自分の憧れる素敵な文章を書くAが大好きだった。最初に仲良くなった時は同じジャンルだったが、そのうち私は腐女子になり、彼女はならず、声優というジャンルだけのゆるい繋がりに変わっていった。
ジャンルが違っても、姉妹のように仲良くしていたし、わからないジャンルでもなかったので彼女の文章には相変わらず憧れていた。オフで一緒に映画を見にいったり、イベントに行ったりもした。お互い別ジャンルで友達ができても、ずっと彼女はなんとなく、特別な人だった。
そのバランスが崩れ始めたのは、Aが声優から舞台俳優にジャンルを変え始めた頃だったと思う。声優はお互いになんとなくわかったが、私は2.5舞台が苦手だったので共有できなかった。この頃から彼女は私の知らない場所に生きる人に見えるようになった。会話も少しずつ減った。それでも彼女のことが好きだったから、会って遊ぶのも嫌ではなかった。Aはあまり小説を書かなくなっていたが、私の誕生日祝いにいつも何か書いてくれていた。でも、ノーマルオタのAの書く小説は、腐った私の読みたいものからだんだんズレてきていた。
Aは大学を卒業する年になった。無事就職が決まったと言っていて、私は心から祝福した。4月から上京して頑張るというAに、学生に出来る範囲だが、少し高い、社会人が使っていても不自然じゃないようなペンケースを贈って、一緒に遊んでお祝いした。
「決まった業界、ブラックが多いって聞きますけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫、みんないい人そうだったし、なんとかなるよ」
姉のように慕ってきたAが言うなら、大丈夫なのだろう。この時はそう思っていた。
AのTwitterは就職してすぐに職場の愚痴一色になった。やはり大変なのだろう。そう思って、励ますリプを送ったりしていた。そして、Aは数ヶ月で仕事を辞めた。私は心配で、会ってご飯にでも行こうということになった。せっかく上京しているのだからと、都内のレストランにした。下町ではなく、上京したてでなくても少し背伸びをしたくなるような、お洒落な街でのご飯会を、私は心配ながらも楽しみにしていた。
Aはきちんと時間通りに現れた。現れたのだが、こちらに来る彼女を見て、私は上手く笑えなかった。小洒落た街でご飯と伝えたはずなのに、彼女の服装はイベントTシャツにジーパン、缶バッジやラバストのたくさんついた小さい鞄だった。大好きなAと一緒にいるはずなのに、恥ずかしくて仕方なかった。移動している間、ずっと周囲の視線が気になって辛かった。Aとの会話も上の空で、早く店に入ってしまいたいという気持ちでいっぱいだった。
店に入って、少し落ち着いて話を聞き出して、さらに唖然とした。仕事を辞めてしまったAは今後のことにとても楽観的だった。
「表現する仕事がしたい。やったことはないけど、とりあえず試してみたい」
「どうやって稼ぐんですか、経験もない分野にいきなり行っても…」
都内で一人暮らしというのは、そんなに楽なことではないと、その当時訳あって上京せざるを得なかった別の友人Bが静かに発信しているのを見ていた私には、あの真面目だったAがそんな楽観的な考えでいるのに心底驚いてしまった。幸い彼女が最初に就いた職の経験が求められる求人がTwitterで出回っていたので、こういうところで働きながらその夢を両立させたらどうか、と話してみたが、全く聞き入れてもらえなかった。(これは、辞めた仕事に少しでも関わることが嫌だったのかもしれないが)
結局彼女はそのまま東京に残り、かつかつのアルバイター生活をしていた。日々の大変さはTwitterで見ていたが、夢を追えているのかはわからなかった。
どう声をかけていいかわからなくなった頃、Aに頼みたいことがあると言われた。内容は、ある舞台のチケットを取るのに協力してほしいということだった。
「毎日大変ですもんね、一回くらい見に行きたいですよね」
「違うよ、全通できそうだけどここだけ連休中で倍率が高いから、手伝ってほしいの」
またも唖然とした。たしかに、趣味がなければ生きていくのは辛い。オタクならなおさらだ。私もオタクだからその気持ちはわかる。でも、趣味は生活がある程度整っていて初めてできることだ。この時もBのことが脳裏をよぎった。Bは落ち着くまではと趣味を削って、諦めて、絞って楽しんでいた。それに比べて今DMしているAは何を考えているんだろう。そう思った。全通したいのはわかる。2.5舞台は観ないが演劇自体は何度も観に行ったことがあるし、演劇の面白さが生であることだというのは知っている。でも、Twitterや本人の話から見える彼女の自転車操業状態だった生活状況を考えれば、そこは我慢してどこか数日に、できれば一日に絞るべきだと思った。
「大丈夫なんですか」
真面目で、私が憧れていたAという存在は、この時に崩れてしまったんだと思う。少なくとも私の知っていたAは借金してまで趣味に走るような人ではなかった。何が彼女を変えてしまったのかはわからないが、その話を一方的に私にし続ける彼女は、手のかかる妹のようだった。
チケットの協力は、すると言ったが申し込まなかった。Aを騙すのは胸が痛かったが、他にも頼んでいると言っていたし、何よりここで落選したら少しは目を覚ますんじゃないかと期待したのだ。
結果は当選だった。喜ぶ彼女を一通り口先だけで祝って、彼女のアカウントをミュートした。いつのまにか頼れるお姉さんから心配な妹になってしまったAを見ているのは、イライラしたし辛かった。ミュートしてすぐの頃は気になって何度もAのアカウントを覗きに行ったが、それもだんだんしなくなって、本当に疎遠になってしまった。そんな間に私も就職して、少しだけ「就職祝い」なんて話もした。
それからしばらくして、昨日、大型同人イベントでAに会うことになった。Aは舞台からのめり込んだジャンルで同人誌を出すのだと言って、一般参加を表明していた私に会えないかと声をかけてきた。私はオーケーした。正直気は乗らなかったが、あれから時間も経ったし少しはマシになっているかと期待して、会うことに決めた。目的地に近かったというのもある。昔だったら彼女の本を買うつもりで行っただろうが、そんな気力はなかった。
久しぶりにあったAは何も変わっていなかった。Tシャツでこそないが、服装もどこか浮いていた。まあ、そんなものか、と挨拶だけして帰ろうとした時に、差し入れを渡された。
「就職祝いってことで」
冗談めかして言ったのだろう。その意図はわかった。ありがたく受け取って、移動しつつ中身をちらりと見た。よくある差し入れ駄菓子だった。中身を見た瞬間、すっと何かが冷めていった。私は、Aと疎遠になっていても、就職祝いはきちんとした。いつもお世話になっていたし、何よりAが好きだったから。結局、Aにとっては普通の差し入れを就職祝いと言って差し出してもいいや、という程度の人間なのだろうと思った。これまでたくさんの時間をかけて、たくさん色々なことをしてきたし、プレゼントをもらうこともたくさんあったが、メモひとつない普通の差し入れを就職祝いと言われたことで、何かが壊滅的に冷めた。Aにとってはちょっとした冗談だったんだろうが、私には笑えなかった。
冷静になって彼女のことを思い出すと、昔から少しズレている人だった。お洒落ではなかったし、顔もお世辞にも美人とは言えない。でも、それ以上に私はAに憧れていたし好きだったから気にしないようにしていた。昔、Aが転売チケットで数倍の値段を出してイベントにきて、一緒に過ごしたことを思い出した。私は転売ヤーに反対だし、そういう人からチケットを買うことに嫌悪感があったが、Aならまあしょうがないかと見逃した。プレゼントを何度もくれたが、もらっても困るものがあったり、生ものが宅急便で送られてきていたこともあった。善意だからと困惑しても何も言わなかった。昔から、自分がいいと思ったら相手や周りのことをあまり考えない人だったということに、今更気付いた。
もう付き合えないなと思って、彼女のアカウントをリムーブした。それから、以前何度か晒されている、といった発言をしていたので、今後の関わり方を考えるためにも少し検索した。
正直、後悔した。熱心な俳優、舞台へのオタ活の数々を突っつかれ晒されていたが、Aが善意でやっていたであろうことは、どう見ても非常識だったり、ズレすぎていた。俳優へのプレゼントもなんだかズレている。送っているリプライもどこか的外れ。Aに悪意がないことは長い付き合いがあるからわかる。でも見ている人がいい気がしないだろうという方が共感できた。
そして、何より気になったのはAの外見だ。俳優も声優も、推しは生きている。生きている相手である以上、ファンは本人の目に映ることがある。Aは存在を認識してもらいたいタイプのオタクのようなので、なおさらだ。それなのに、Aのファッションセンスは上京する前から大して成長していなかったし、お世辞にも美人とは言い難い顔も、化粧でどうにかしようというようには見えなかった。ここは意見の割れるところだと思うが、推しの視界に外見を磨く努力をしていないファンが入るのを嫌悪するオタクはそれなりにいると思う。私もそうだ。薬の影響で太っている、何か病気で化粧ができない、そういう事情があるならともかく、全通してリプを送りまくっているくせに自分磨きは一切せず、なんだかズレたプレゼントを推しに送っているオタクがいたら、いい気はしないだろう。晒したり馬鹿にするのは酷いと思うが、そっちの意見の方が理解できてしまった。
Aは自分を客観視することができない人だった、と結論付けた。今後の彼女の行動で晒しなどに巻き込まれたくないと思った私はAをブロックした。長い付き合いに終止符を打った。
でも、少し思うのだ。私がただ盲目的にAを慕わないで、もう少し違うことは違うと言えていたら、Aは今も仲良しのお姉さんで、晒しなんてされていなかったんじゃないか、と。
うんち
リアル日記に書いとけ
ま〜ん(笑)