トランプ氏、ポルノ女優への「口止め料」支払い認める 選挙資金ではなかったと
ドナルド・トランプ米大統領は3日、顧問弁護士がポルノ女優に払った口止め料を返済したとツイッターで認めた。選挙資金は使っていないので合法だと説明している。
トランプ氏は連続ツイートで、2016年米大統領選の最中に自分の担当弁護士マイケル・コーエン氏がポルノ女優ストーミー・ダニエルズ(本名ステファニー・クリフォード)氏に口止め料を払い、自分が後に弁護士に払い戻したと認めた。ただし、選挙資金を使ったわけではないので、合法だと強調した。
トランプ氏が、ダニエル氏への支払いについて直接言及するのは今回が初めて。
ダニエルズ氏は、トランプ氏と2006年7月に性的関係をもったと主張しているが、トランプ氏は一貫して不倫関係を否定している。トランプ氏はメラニア・トランプ夫人と2005年に結婚した。
トランプ氏の顧問弁護士、コーエン氏は、2016年大統領選の直前に13万ドル(約1400万円)をダニエルズ氏に支払ったことを認めている。
トランプ氏の最新の連続ツイートに先駆けて、法的顧問のルディ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長は、トランプ氏が個人資金からダニエルズ氏に金銭を払ったと発言していた。
トランプ氏の発言は
大統領は3日朝、ダニエルズ氏への支払い返済と秘密保持契約(NDA)について連続して3回ツイートを投稿した。
「弁護士のコーエン氏は毎月決まった依頼料を受け取っている。選対本部からではなく、選挙とは何の関係もない。その依頼料から、払い戻しを通じて、当事者2人の間の私的契約を結んだ。契約は秘密保持契約あるいはNDAと呼ばれるもので、合意内容は……」
「……有名人や資産家の間ではとても一般的なものだ。この場合、契約内容は全面的に有効で、クリフォード(ダニエルズ)氏に対する損害賠償請求の仲裁において適用される。合意は、彼女が不倫だとして虚偽の内容を主張し、恐喝的な糾弾をするのを制止するためののものだ……」
「……彼女はすでに不倫などなかったと認める詳細な手紙に署名しているのに、虚偽で恐喝的な内容を主張している。クリフォード氏とその担当弁護士がNDAに違反する前は、これは当事者間の私的な合意だった。選対本部や選挙献金は、このやりとりに何のやくわる(訳注・原文はrole=役割をrollとつづりを間違えている)も果たしていない」
トランプ氏はこの連続ツイートを通じて、ダニエルズ氏とのNDAは著名人にとって一般的なもので、選挙とは無関係だと主張している様子だ。
ダニエルズ氏への13万ドルの支払いが合法だったかどうかは、重大な意味を持つ。
トランプ氏のツイートを受けて、報道陣は3日のホワイトハウス定例会見でサラ・サンダース報道官に内容を問いただした。トランプ氏がコーエン氏に払い戻しをしていたと、報道官はいつ認識したのかという質問に対して、報道官は「私が最初に気づいたのは、昨晩の(ジュリアーニ氏の)インタビューだった」と答えた。
関係者のこれまでの発言は
4月5日に記者に、ダニエルズ氏への支払いについて知っているかと聞かれた際、トランプ氏は「いいや」と答えていた。
なぜダニエルズ氏に高額の資金が支払われたのか聞かれると、大統領は「マイケル・コーエンに聞いてくれ」と付け足した。
しかし4月末にフォックス・ニュースに電話で出演したトランプ氏は、「あの狂ったストーミー・ダニエルズの取引」の最中にコーエン氏が自分の代理人だったと認め、内容を多少は承知している様子を示していた。この時のトランプ氏は、詳細については言及しなかった。
これに対して、コーエン弁護士は今年2月、米紙ニューヨーク・タイムズに対して、「トランプ・オーガナイゼーションもトランプ選挙対策本部も、クリフォード氏との取引に関わっていないし、どちらも私に支払いの払い戻しをしていない。直接的にも間接的にも」と話していた。
弁護士のこの発言と、トランプ氏が個人的に払い戻したという発言との整合性は、はっきりしない。
連邦捜査局(FBI)とニューヨーク連邦検察官事務所は4月9日、ダニエルズ氏とのNDAに関連して、コーエン弁護士のニューヨークの自宅と事務所を家宅捜索している。
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なぜ選挙資金が問題なのか
米国の連邦法は、個人や組織が選挙活動資金にどれだけ献金できるか、上限を定めている。選挙資金の出所についても、厳密な情報公開が必要となっている。
ダニエルズ氏に支払われた13万ドルが、果たして大統領選においてトランプ氏の名誉を守るためのものだったかが、焦点になる可能性がある。大統領選での評判を傷つけないことが目的だった場合は、選挙関連の支払いだと位置づけられるかもしれない。
公職選挙法と選挙資金に詳しいローレンス・ノーブル弁護士は米紙ワシントン・ポストに対して、「もしも支払いの目的が(ダニエルズ氏による)選挙への悪影響をやめさせることだったなら、それはコーエン弁護士が選対本部に金を貸したことになる」と述べている。
13万ドルは、個人に認められる大統領選への献金上限を超える。
トランプ陣営による払い戻しは、違法となる。
しかし、大統領候補本人は自分の選挙活動に無制限の資金を提供できる。トランプ氏は、コーエン弁護士への払い戻しは個人的な内容によるものなので合法だと主張しているのかもしれない。
もし13万ドルがコーエン弁護士への貸付だった場合、選挙関連のものでなければ、連邦選挙委員会への報告義務はなかった。
トランプ氏による2017年6月の個人資産公開に、コーエン弁護士への借金の記載はない。
ジュリアーニ発言との整合性
ジュリアーニ元ニューヨーク市長は、4月下旬にトランプ陣営の法律顧問になったばかり。2日夜のフォックス・ニュースに出演した際、コーエン弁護士がダニエルズ氏へ払った13万ドルを、トランプ氏が弁護士に返したと発言し、大勢を驚かせた。
ジュリアーニ氏はさらに、「(大統領は)支払いの詳細について知らなかった。私が知る限り。しかし、こういう問題はマイケルが何とかするというのが大まかな取り決めで、それは(大統領も)承知していた」と付け足した。
ジュリアーニ氏はフォックス・ニュース出演後、ニューヨーク・タイムズに対して、「選挙が終わってしばらくして、(トランプ氏の)個人的な家族口座から、月3万5000ドルずつの払い戻しを設定した」と述べた。返済された額は、手数料を含めて45万ドル~47万ドルだったという。
元市長はさらに、自分がフォックス・ニュースで何をどう言うか、トランプ氏は事前に承知していたと述べた。インタビューの前後に、トランプ氏と会話したという。
ジュリアーニ氏はニューヨーク・タイムズに対して、ダニエルズ氏に13万ドルが支払われた当時、トランプ氏がそのことを承知していたかどうか、自分は知らないが、大統領は最近になって初めて知ったばかりだと自分は認識していると述べた。
ジュリアーニ氏のこの発言と、弁護士に毎月依頼料を払っていたというトランプ氏自身の発言との整合性は、はっきりしない。
コーエン弁護士の支払いは
コーエン弁護士は当初は、ダニエルズ氏への支払いを否定していた。しかし、NDAへの合意と引き換えにダニエルズ氏に自己資金から13万ドルを2016年10月に払ったと、後に認めた。
弁護士は、トランプ氏はこの支払いに関与していないと主張している。
今年3月にダニエルズ氏は、2016年のNDAにトランプ氏が署名していないためNDAは無効だとして、コーエン弁護士を訴えた。トランプ氏側は、ダニエルズ氏がNDAを破ったとして、2000万ドルの損害賠償を請求している。
ダニエルズ氏はこれに加えて、大統領を名誉毀損で訴えている。ラスベガスの駐車場で見知らぬ男に「この件から手を引け」と脅されたと発言したダニエルズ氏について、トランプ氏が「まったくの詐欺だ」などとツイートしたのを受けたもの。
<解説> 嘘をついているのは誰だ――アンソニー・ザーカー北米特派員
ドナルド・トランプ氏は4月の時点で、ストーミー・ダニエルズ氏の沈黙を確保するための金をマイケル・コーエン氏がいったいどこから調達したのか、まったく知らないと発言していた。しかし今やこの発言は、ニクソン政権のロン・ジーグラー大統領報道官の言葉を借りるならば、「もはや有効ではない」ようだ。
ホワイトハウスのサラ・ハッカビー・サンダース大統領報道官は3月、大統領は「何らかの支払いがあったなど何も承知していない」と述べた。サンダース報道官は今では、この状況について何もコメントできないと話している。
コーエン弁護士は法廷で、憲法修正第5条、つまり黙秘権を主張している。しかし、自分にとって不利な証言を拒否する前には、自分の金からダニエルズ氏に払ったと話していた。大統領個人の法律顧問団に新しく加わったルディ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長は、大統領が2017年の間中、コーエン弁護士に払い戻しをしていたと述べた。ジュリアーニ氏はさらに、「こういう問題」を「何とかする」のがコーエン弁護士の役割だったとも話した。
ドナルド・トランプ氏を守るため、誰かが嘘をついた。あるいは嘘をついている。誰が。そしてなぜ。それが問題だ。
ダニエルズ氏を担当するマイケル・アベナッティ弁護士によると、トランプ関係者の発言の真偽を証明できるだけの証拠を、ダニエルズ氏は持っている。
トランプ氏はツイッターで、「虚偽で恐喝的な糾弾」と呼ぶ発言を重ねるダニエルズ氏を沈黙させるために法的手段をとると約束した。
ホワイトハウスのストーム(嵐)が収まる気配は、まったく見えない。
(英語記事 Stormy Daniels case: Trump denies campaign funds paid off porn actor)