[水稲栽培中止] ブランド米を守らねば
( 5/4 付 )

 火山活動の影響がじわじわと広がりつつあることを憂慮せざるを得ない。
 伊佐市と湧水町は今季、川内川から取水する水田での水稲栽培の中止を決めた。
 霧島連山えびの高原・硫黄山の噴火以降、川内川上流の長江川で環境基準値を超えるヒ素などが検出されたことを受けた措置だ。
 伊佐市と湧水町はそれぞれ「伊佐米」「湧水米」のブランド米の生産地として知られ、市場や消費者の評価は高い。
 風評被害に伴ってブランド米の価値が下がるのを懸念した事前対策といえ、他の水系を使う農家に影響が及ばないようにするためである。
 火山活動で栽培を取りやめるのは初めての経験だという。田植えシーズンを間近に控え、農家の思いは複雑に違いない。
 それでも、地域の基幹産業を守り抜くためにはやむを得まい。早急な対応は理解できる。
 伊佐市と湧水町は連休明けに、えびの市を含む関係者と上京し、農林水産省や環境省などに今後の補償や対策を要請する方針だ。官民一体で支援したい。
 中止の対象となるのは両市町の計約750戸で、広さは2割に相当する620ヘクタールだ。内訳は伊佐市が水稲2500ヘクタールのうち400ヘクタール、湧水町が600ヘクタールのうち220ヘクタールを占める。
 長江川はえびの市を流れる川内川の支流で、硫黄山が源流だ。硫黄山の噴火以降、白濁するなどの現象が見られるようになった。
 宮崎県は噴火で流れ込んだ泥水が影響したとみており、水質調査を続けている。
 4月21日の調査地点は長江川の上流域2カ所で、環境基準値の約200倍に当たるヒ素を検出するなど、六つの有害成分が基準値を超えた。
 追加調査した29日は下流域2カ所と合流後の川内川2カ所、合流地より上流の1カ所の計5カ所に拡大した。4カ所で環境基準値の2.4~36倍のヒ素が検出されたという。
 長江川からの飲用水の取水はないが、宮崎県は井戸や湧き水の飲用に加え農業用水などに利用しないよう呼び掛けている。情報周知を徹底することが欠かせない。
 農家が最も心配しているのは、上流で確認されたヒ素の風評被害だ。「環境基準値の約200倍」が独り歩きし、川内川から取水していない水田の米まで売れなくなる事態である。
 風評被害を防ぐため国や県など関係機関と連携し、正確な情報発信に努めることが重要だ。

blank
blank