食品ロス推計646万トン 15年度外食など事業系増える
2018年04月18日
農水省と環境省は17日、食べられるにもかかわらず捨てられている「食品ロス」が2015年度で646万トンに上るとの推計値を発表した。飢餓に苦しむ人に向けた世界の食糧援助量をはるかに上回る量だ。推計値を公表し始めた12年度以降で最も多く、14年度に比べて25万トン増えた。農水省は「外食産業の市場規模が拡大し、それに伴ってロスも増えている。外食での食べ残しなどの対策が重要になっている」と分析する。
646万トンのうち、外食産業や食品製造業など事業系の食品ロスは推計357万トンと55%を占めた。残り45%は家庭系。事業系の食品ロス量は、14年度に比べて推計18万トン増えた。内訳は、食品製造業が39%、外食産業37%、食品小売業19%、食品卸売業5%だった。
同省は、食品製造業での食品ロス対策は一定の成果を上げているとしており、今後は“川下”である外食産業やスーパーなど小売店で食品ロスを減らすことが課題となる。外食店では食べ切りを促すとともに、食べ残した料理は自己責任で持ち帰ってもらうなどの対策を広げていく考え。小売店では手前から商品を取る、見切り品を買うなどを消費者に推奨する。
農水省は「消費者を巻き込んで、いかに対策に取り組むことができるか。それが食品ロスを減らす鍵になる」とみる。
同日は、食品ロス削減に向けた新たな啓発資材も発表した。
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食品ロス646万トン もったいない どう共有?
646万トンのうち、外食産業や食品製造業など事業系の食品ロスは推計357万トンと55%を占めた。残り45%は家庭系。事業系の食品ロス量は、14年度に比べて推計18万トン増えた。内訳は、食品製造業が39%、外食産業37%、食品小売業19%、食品卸売業5%だった。
同省は、食品製造業での食品ロス対策は一定の成果を上げているとしており、今後は“川下”である外食産業やスーパーなど小売店で食品ロスを減らすことが課題となる。外食店では食べ切りを促すとともに、食べ残した料理は自己責任で持ち帰ってもらうなどの対策を広げていく考え。小売店では手前から商品を取る、見切り品を買うなどを消費者に推奨する。
農水省は「消費者を巻き込んで、いかに対策に取り組むことができるか。それが食品ロスを減らす鍵になる」とみる。
同日は、食品ロス削減に向けた新たな啓発資材も発表した。
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「モリ・カケ問題」再び
「モリ・カケ問題」再び。今の国会審議停滞は、強過ぎる官邸主導こそが“根源”ではないか▼国立公文書館で特別展「江戸幕府、最後の戦い」を開いている。明治維新150年の今、内憂外患の中で幕府重臣らの貴重な記録が生々しい。展示した関係年表は1792年のロシア使節・ラクスマンの通商要求から始まり、1840年の西欧で唯一交流のあったオランダから中国のアヘン戦争惨状の知らせ▼58年の〈安政の開国〉、維新前年に当たる67年の徳川慶喜の大政奉還、そして69(明治2)年の徳川家転封先静岡での学問所と兵学校開校で締めくくる。幕末は、外国の通商・軍事攻勢との対応に終始したことが分かる。その備えを日本全体でどうするのか。幕府側と倒幕派との主導権争いとも重なる▼今回の官僚による公文書改竄(かいざん)で、18画もあり超難字の〈竄〉の成り立ちを思う。ネズミが〈穴〉に隠れる意を表し、転じて悪事などを指す。公文書は憲法の定める国民主権の文脈で読み解けば、民主主義の根幹を成す国民の知る権利とも表裏一体である▼きょうは「憲法記念日」。公文書館には、明治の大日本帝国憲法と現行の日本国憲法の“原本”も天皇の署名と共に展示してある。改めて、官邸主導の弊害と憲法の大切さを考える一日にしたい。
2018年05月03日
もやし 鮮度重視で深夜作業 それでも「特売の目玉」とは 熊本の生産者
安売りの目玉商品とされ原料高騰などで厳しい経営環境にあえぐ、もやし業界。廃業が相次ぐ中、小規模生産者は深夜に作業して取れたての高品質なもやし作りで生き残りを懸ける。店頭に安価で並ぶもやしだが、温度管理や発芽調整が難しく、細心の注意を払って生産する“農家”に支えられている。1袋数十円のもやしには、農家のプライドが詰まっていた──。(猪塚麻紀子、尾原浩子)
小規模だけど“食”育む誇り
日付が変わる少し前の午後11時。熊本市でもやしを生産する熊本製萠(せいほう)の従業員が出社してくる。1日に1・5~2トンを生産する同社では、朝の市場出荷に合わせて真夜中に出荷作業を進める。「取れたてのもやしを消費者に食べてほしい。おやじの教えを守っている」と5代目社長の鳥井文博さん(34)。種を5~7時間湯に漬け、発芽させ、暗室に入れ水を掛けて4、5日たって収穫、袋詰めして出荷する。作業のほとんどが夜間だ。
もやしは工業製品のように誤解されがちだが、温度管理や水の量などを少しでも間違えると腐ることもあり、細心の注意が欠かせない。だからこそ鳥井社長は「自分は生産者、職業は農業」と考える。季節や外気によって管理は異なり、暑い時期は配送時には氷を入れるなど気を配る。
社員の松下信一さん(47)は「もやしは生きている。うちのは濃厚で歯応えが抜群。どこのもやしでも同じと思われる食材だが、食べたら違いが分かる」と思いを語る。もやし作りへのプライドが、昼夜逆転の生活をして10年近い松下さんを支えている。
安売り商品の代名詞となるもやし。同社の適正価格への思いは強い。卸値で1袋(200グラム)30円以下なら、同社の場合は利益が出ない。150の販売先を持つ同社は、販路開拓などの経営努力と、均質な味への信頼から極端な安値で販売する売り先が減り、2年前にやっと赤字を脱却した。
鳥井社長は「食べ物が安価に流れる社会は、絶対に良くない。あえてこの時代、愚直でも効率の悪いもやしを作り続けたい」と言う。味や安心にこだわり、直接スーパーや飲食店に納品し、顔が見える関係を地域で築く経営スタイルは「小規模だからこそ」(鳥井社長)。大手企業だけが生き残る社会になってほしくないと願う。
営業を終えた飲食店から、同社に深夜かかってくる翌日分の注文の電話では「いつもありがとう」の言葉が添えられる。配送担当の浪花秀二さん(32)は「繊細なもやしを無事に運ぶのは苦労する。値段だけではない魅力をお客さんに届けたい」と話す。
原料が高騰、廃業100社超
工業組合もやし生産者協会によると、小規模・零細の業者は今も夜間に製造するところが多いという。協会に加盟する58社のうち、1年間に使う原料が50~100トンの小規模業者は半数。協会の林正二理事長は「小規模だからこそできるサービスや商品の売り方がある」と強調する。
一方で、深夜作業を避け、早朝から工場を稼働させる九州の別の業者は「種によっても成長具合は異なるため、生産には細心の注意が必要。時間帯にかかわらず、どの経営者も苦労して作り続けている」と話す。
協会によると、2009年に全国で230社以上あったもやし製造会社・生産者は100社以上が廃業。卸値が抑えられる中で、原料の中国産緑豆の価格高騰を受け採算が悪化したためだ。17年産は緑豆価格が1、2割下がり、一部のスーパーで値上げの動きも出始めたことから、この1年で廃業には歯止めがかかっているという。
林理事長は「鮮度や手りという付加価値を高め、近隣の飲食店などとの信頼関係を築いていけば、健全な経営を続けていくことができる」と理解を求めている。
2018年05月01日
水路用ステンレス堰板 流量調節 安全・楽に 岡山のメーカー
岡山県津山市の富士金物製作所が開発したステンレス製の水路用堰板(せきいた)が好評だ。さびに強く「半永久的に使える」(同社)耐久性を持ち、水路の構造に応じて設計する。取っ手を持って段階的に堰を上下させるだけで簡単に流量を調節できる。使い勝手が良く安全に作業できる点が人気で、全国で注文が増えている。
同社はステンレスやアルミ、鉄を加工し、手すりや柵、家具などさまざまな商品を製造する。流郷和範代表は「小さな鍛冶屋だが、大手では対応できない単体、小規模な注文も要望に応じて設計、加工、施工を引き受ける」と強みを語る。
堰板の注文は、幅と高さが数十センチ、重さ10キロ程度と小さなものが多い。板の上下幅は要望に合わせて何段階にも設計する。上下幅の調節は、水路の上から取っ手で簡単にできる。幅・高さが各50センチ、厚さが6ミリの標準的な型で5万円ほど。水路の構造に応じ変則的な設計は、別途費用がかかる。
止水性を高めるため側面や底面にゴムシートを付けるなど、細かい要望にも応える。
同市久本地区で多面的機能支払制度を受ける地元組織の代表を務める河本知義さん(67)は、機能性の良さを実感する。以前は木板をはめ、石や砂を袋に詰めて重しにしていた。「木板は寸法を合わせるのが難しく消耗も早い。増水で流されることも多かった」という。同制度を使い20カ所近くで堰板を設置した。
田に水を入れるために深さが3メートルもある水路を降り、堰を上げ下げする高齢農家からの注文もあった。「使い勝手が良く、負担が少ない。安全に作業できる堰板の必要性は高いはず」と流郷代表。本格的に売り出したところ4月は7台の注文が入った。
問い合わせは富士金物製作所、(電)0868(29)2498。
動画が正しい表示でご覧になれない場合は下記をクリックしてください。
https://www.youtube.com/watch?v=CLmhIo5hxPc
2018年05月04日
神の笑み JA鳥取中央
鳥取県三朝町の神倉集落で、古くから栽培されてきた特産大豆「三朝神倉(みささかんのくら)」で作ったあんを使ったどら焼き。JA鳥取中央が販売する。一般的な大豆に比べて、イソフラボンが多く含まれる。
JAは納豆や水煮など加工品5種類を「神シリーズ」と名付けて商品化しており、どら焼きは初のスイーツ商品。昨年6月に販売を始めた。
「三朝神倉」の濃厚な風味やうま味を生かすため、甘さを控えめにした上品さと、大豆のしっかりとした食感が特徴。1個195円。JA管内の直売所などで販売している。問い合わせはJA店舗事業部直販課、(電)0858(28)5686。
2018年05月01日
規制会議の進捗管理 「気にする必要なし」 農相、JAは着実な実行を
誰が何を言おうと気にする必要なし──。斎藤健農相は27日の閣議後会見で、政府の規制改革推進会議が農協改革の進捗(しんちょく)管理に着手したことに関し、同会議の意見に特に耳を傾ける必要はなく、自己改革を着実に進めるようJAグループに呼び掛けた。
2018年04月28日
経済の新着記事
鶏卵価格 過去10年で最低水準 供給過多、低迷長期化も
鶏卵の価格が低迷している。JA全農たまごの2日時点の価格は前年を約3割下回り、過去10年で最低水準に落ち込んでいる。ここ2、3年の相場高を受け、生産量が過剰になっている。出荷を抑制する国の事業が発動されたが、「需給はすぐには改善されず、相場低迷は長引く」(東京都内の流通業者)見込みだ。
全農たまごの2日のM級価格は東京地区で、1キロ170円。前月23日から7営業日連続で同じ価格だ。ただ、前年同期と比べると28%安く、M級は3月下旬から大きく下落した。
東京都内の流通業者は「供給過多で需給が緩んでいる」と話す。日本種鶏孵卵協会によると、採卵用ひなの餌付け羽数は1~3月の累計で2661万羽と前年比で4%(100万羽)多い。鶏卵生産量では4500トン(3カ月)に相当する。農水省によると、2017年の鶏卵生産量は260万トンで1996年以降で最多を更新。18年はその水準を上回る勢いだ。
卸売価格の下落は、小売価格にも反映されている。東京都内の中堅スーパーでは1パック10個入りが125円(税別)で、特売の目玉商品となっている。総務省の小売物価統計調査によると、4月の東京地区の鶏卵価格(L級)は前年同月比6%安の1パック232円だった。
加工・業務向けの需要は底堅いが、それ以上に生産量が多い状況。在庫を抱えている業者も多く、相場はさらに下がるとの見方が広がる。
日本養鶏協会は前月23日、鶏卵出荷を抑制する成鶏更新・空舎延長事業を5年ぶりに発動。標準取引価格が1キロ162円で、同事業の発動基準である安定基準価格(163円)を下回った。
2018年05月04日
菊類の低迷続く 前年比22%安 墓参り需要鈍い
大型連休の墓参りシーズンを迎えたが、仏花の菊類の相場が低迷している。2日の日農平均価格(各地区大手7卸のデータを集計)は1本31円(前年比22%安)で、過去5年間で最安値となった。今年は連休期間が長く、行楽に出かける消費者が多いため、墓参り向けの売れ行きが鈍い。3日以降に悪天候が見込まれ、生花店は客足の落ち込みを懸念して仕入れを抑えている。卸売会社は「連休明けも取引はもちあい」と見通す。
同日の日農平均価格は、輪菊が1本34円で前年比28%安、小菊は22円で15%安、スプレイ菊は39円で15%安と、軒並み前年を割り込んだ。入荷は決して潤沢ではないものの、卸売会社は「例年なら4月末から仏花として引き合いが強まるが、今年は需要が鈍い」と指摘。東京都内の仲卸業者も「連休後半は雨の予報があり、転送需要も弱い」と話す。
好天続きで出荷は順調だ。輪菊とスプレイ菊の主力産地のJAあいち経済連は「2L級など上位等級品中心の出荷が続いている」と話す。
一方、沖縄産の小菊も生育は良好だが、「輸送費の高騰もあり、出荷を2割近く抑えている」(県花卉=かき=園芸農協)とし、出回りはやや減っている。
大型連休明けも菊類は安定入荷が続く見込み。卸売会社は「需要のヤマ場もなく、低調な取引が続く」とみる。
2018年05月03日
[17年度景況感 本紙調べ 1] 法人組織5割が減収 供給力落ち込み悪化
2017年度に減収した集落営農法人・組織が5割に上ったことが、日本農業新聞による景況感調査で分かった。減収の割合が前年度から20ポイント以上増えた。天候不順や人手不足により農畜産物の供給量が落ち込み、所得確保が十分に進まなかった。組織運営では、構成メンバーの高齢化や労働力不足といった経営基盤の弱体化を問題視していることも浮かんだ。安定経営に向けて生産費を補う所得補償や後継者対策などの政策拡充への要望が高くなっている。
法人・組織の17年度決算状況は、「増収した」が51%、「減収した」は49%で拮抗(きっこう)した。ただ、前年度と比べると減収が23ポイント増と大きく増えている。収入を減らしたのは、経営面積が20~60ヘクタールの中規模から100ヘクタール超の大規模にまで広がっている。
農畜産物の販売価格は品目別に上げ下げがあったが、販売数量が全般に少なくなったことで減収が拡大した。米は17年産の価格が上向いたものの、需給安定へ産地が自主的に主食用米の作付面積を絞り込んだことに加え、全国の作況指数が前年産より3ポイント減ったことで、収入増に直結しなかったとみられる。
米以外では、作業が重労働の野菜や果実、酪農、牛肉で高齢化などで農業基盤の弱体化に歯止めがかからず、供給力が落ちている。米を除いた農畜産物の販売数量の設問では「減った」が41%で、「増えた」「変わらない」を上回っている。
組織運営の課題を複数回答で尋ねたところ、特に多かったのが「メンバーの高齢化」(69%)と「労働力不足」(64%)で、経営基盤に対する危機意識の高まりが鮮明となった。供給力が落ちていることなどから、「販売額の伸び悩み」も30%に上った。課題への対応策(複数回答)では「経営の多角化」が46%で最も多い。作物の相場変動リスクをできる限り抑えようとする意識がある。
地域農業の担い手が発展するために優先すべき農業政策(複数回答)の問いでは、「生産費を補う所得補償政策の確立」が51%、「担い手の育成・確保」が43%、「収入減少の影響緩和対策」が34%など、中長期的な経営の安定を求める回答が上位に並ぶ。最多は「資材価格引き下げ」で59%だった。
4月に108の集落営農法人・組織に郵送調査し、61の回答があった。
2018年05月02日
[17年度景況感 本紙調べ 2] 米需給「緩む」3割強 助成金廃止 経営に打撃
全国の集落営農法人・組織を対象にした本紙景況感調査で、国が米の生産数量目標の配分をやめることで2018年産米の需給が「緩む」とする見方が3割強に上った。18年産から米の直接支払交付金(10アール当たり7500円)が廃止されることは、9割近くが「経営にマイナス」と受け止めており、一連の米政策改革を巡り、担い手は厳しい評価を示している。
18年産で主食用米の作付け計画は「現状維持」が75%と大半を占め、飼料用米も「前年と同程度作る」が31%で最多となるなど、大きな変動はない。
それでも米需給を17年産と比べると「緩む」が34%で、「締まる」の12%を上回った。19年産では「需給を見通すことは困難」が34%と最多だったが、18年産同様に「緩む」とした見方が「締まる」より多い。国が米の生産数量目標の配分をやめて民間主体の取り組みに移行することに対し、今後の需給動向への不安が浮かび上がった形だ。
「農業再生協議会などから18年産主食用米の目安が示されているか」の設問では、「農業者別まで示されている」「地域別まで示されている」が共に38%でトップ。しかし、「目安をどう活用するか」では、「生産数量目標ほど厳格に守らない」が23%、「目安と関わりなく自らの経営判断で作付ける」が15%あり、需給の不確定要素も残している。
不足感が根強い業務用米は「増やす」は30%で、「減らす」の5%より多かった。ただ、多収性品種を導入するケースが増え、米の供給量を押し上げる可能性もあり、産地は全体需給を踏まえながらの生産が欠かせない。
米の直接支払交付金の廃止は経営に「大きくマイナス」「マイナス」が合わせて89%を占め特に100ヘクタールを超える組織・法人で危機感が強かった。
2018年05月02日
もやし 鮮度重視で深夜作業 それでも「特売の目玉」とは 熊本の生産者
安売りの目玉商品とされ原料高騰などで厳しい経営環境にあえぐ、もやし業界。廃業が相次ぐ中、小規模生産者は深夜に作業して取れたての高品質なもやし作りで生き残りを懸ける。店頭に安価で並ぶもやしだが、温度管理や発芽調整が難しく、細心の注意を払って生産する“農家”に支えられている。1袋数十円のもやしには、農家のプライドが詰まっていた──。(猪塚麻紀子、尾原浩子)
小規模だけど“食”育む誇り
日付が変わる少し前の午後11時。熊本市でもやしを生産する熊本製萠(せいほう)の従業員が出社してくる。1日に1・5~2トンを生産する同社では、朝の市場出荷に合わせて真夜中に出荷作業を進める。「取れたてのもやしを消費者に食べてほしい。おやじの教えを守っている」と5代目社長の鳥井文博さん(34)。種を5~7時間湯に漬け、発芽させ、暗室に入れ水を掛けて4、5日たって収穫、袋詰めして出荷する。作業のほとんどが夜間だ。
もやしは工業製品のように誤解されがちだが、温度管理や水の量などを少しでも間違えると腐ることもあり、細心の注意が欠かせない。だからこそ鳥井社長は「自分は生産者、職業は農業」と考える。季節や外気によって管理は異なり、暑い時期は配送時には氷を入れるなど気を配る。
社員の松下信一さん(47)は「もやしは生きている。うちのは濃厚で歯応えが抜群。どこのもやしでも同じと思われる食材だが、食べたら違いが分かる」と思いを語る。もやし作りへのプライドが、昼夜逆転の生活をして10年近い松下さんを支えている。
安売り商品の代名詞となるもやし。同社の適正価格への思いは強い。卸値で1袋(200グラム)30円以下なら、同社の場合は利益が出ない。150の販売先を持つ同社は、販路開拓などの経営努力と、均質な味への信頼から極端な安値で販売する売り先が減り、2年前にやっと赤字を脱却した。
鳥井社長は「食べ物が安価に流れる社会は、絶対に良くない。あえてこの時代、愚直でも効率の悪いもやしを作り続けたい」と言う。味や安心にこだわり、直接スーパーや飲食店に納品し、顔が見える関係を地域で築く経営スタイルは「小規模だからこそ」(鳥井社長)。大手企業だけが生き残る社会になってほしくないと願う。
営業を終えた飲食店から、同社に深夜かかってくる翌日分の注文の電話では「いつもありがとう」の言葉が添えられる。配送担当の浪花秀二さん(32)は「繊細なもやしを無事に運ぶのは苦労する。値段だけではない魅力をお客さんに届けたい」と話す。
原料が高騰、廃業100社超
工業組合もやし生産者協会によると、小規模・零細の業者は今も夜間に製造するところが多いという。協会に加盟する58社のうち、1年間に使う原料が50~100トンの小規模業者は半数。協会の林正二理事長は「小規模だからこそできるサービスや商品の売り方がある」と強調する。
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協会によると、2009年に全国で230社以上あったもやし製造会社・生産者は100社以上が廃業。卸値が抑えられる中で、原料の中国産緑豆の価格高騰を受け採算が悪化したためだ。17年産は緑豆価格が1、2割下がり、一部のスーパーで値上げの動きも出始めたことから、この1年で廃業には歯止めがかかっているという。
林理事長は「鮮度や手りという付加価値を高め、近隣の飲食店などとの信頼関係を築いていけば、健全な経営を続けていくことができる」と理解を求めている。
2018年05月01日
産地品種銘柄が拡大 米販売戦略が多角化 すし、弁当玄米食 特定用途に照準
米産地の販売戦略が多角化している。農水省が公表した2018年産うるち米の「産地品種銘柄」は、前年産から42増えて795銘柄。増加数は過去10年で最多となった。家庭用を意識したブランド米市場の競争に加え、すしやコンビニ弁当向け、健康性商品といった特定の用途に照準を合わせた銘柄の販売競争が激しさを増している。
「◯◯産コシヒカリ」など銘柄を米袋に表示して流通させるためには、産地品種銘柄の設定が必要になる。18年産では新たに52銘柄で設定されたが、廃止銘柄を差し引くと795銘柄になる。10年前より5割増えた。
18年産では、今年本格デビューする富山県のオリジナル品種「富富富(ふふふ)」や、高知県の「よさ恋美人」など、家庭用向けの良食味のブランド米だけでなく、業務用を意識した産地品種銘柄の設定が目立つ。
青森県黒石市は、粘りが少なくすしに向く「ムツニシキ」を産地品種銘柄に申請し、18年産から本格販売を進める。かつて県の奨励品種で広く栽培されていたが、倒伏しやすいなどの理由で生産量が激減。しかし地元すし店から根強い支持があり、「需要の隙間を狙いたい」(同市農林課)と復活を目指す。
コンビニ弁当に向く米として人気の高い宇都宮大学の育成品種「ゆうだい21」は、福島、富山、石川の3県で新たに産地品種銘柄に設定。9県に広がった。冷めても電子レンジで加熱するともちもち感が出ることで、支持を広げている。
玄米食向け巨大胚芽米の設定も目立った。「はいごころ」は茨城、静岡、愛知、岡山4県で、「金のいぶき」は山形、広島、山口の3県で設定された。いずれも胚芽が大きくGABA(ギャバ=●アミノ酪酸)含量が多い品種で、健康志向の高い層を狙い導入が進んでいるとみられる。
民間育成の良食味の多収米「縁結び」も、三重、滋賀など4県で産地品種銘柄に設定された。伊勢神宮など縁結び系神社のある地域を中心に、「縁起の良い名前を前面に出して売りたいという要望が生産者から出ている」(種子を生産・販売する岐阜県のアグリトレード社)という。
米の流通に詳しい日本農業研究所客員研究員の小澤健二氏は「家庭用の競争が激しくなり、中食外食需要の広がりを受けて、産地が売り込む品種銘柄も多様化している」と分析する。
編注=●はギリシャ文字のガンマ
2018年04月30日
やまがシルク商品化 12百貨店販売 養蚕の可能性に期待 熊本県山鹿市
熊本県山鹿市で国内最大規模の養蚕工場を誇る「あつまる山鹿シルク」は、工場で生産した繭を使った「やまがシルク」のスカーフ「アンタイトル」を、全国12百貨店で販売を始めた。
新たなシルク産業の創生に向けた繊維製品化第1弾。全国の百貨店などで若い女性向けの服飾ブランド「UNTITLED」(アンタイトル)などを展開するフィールズインターナショナル(神戸市)が商品化した春夏限定商品で、3万1320円。同社は「熊本地震からの復興と、日本養蚕業の新たな可能性を秘めた商品」と説明する。
求人案内情報誌を発行する熊本市の「あつまるホールディングス」が出資する新工場では、収穫した桑の葉を乾燥させ人工飼料にし、蚕の無菌飼育と新用途開発によるシルク産業の新領域開発に取り組む。昨年5月から工場養蚕を稼働した。
スカーフは、横糸に山鹿シルクを使用。合繊では得られない優雅な光沢と発光性に富む。花柄や幾何学模様の4種類がある。阪急うめだ本店、鶴屋百貨店では4月25日~5月1日の限定販売。昨年は、シャンプーとトリートメントも開発し、限定販売された。
2018年04月30日
「ふるさと納税」 10年の転機 地域元気に―趣旨浸透 大分県宇佐市佐田地区
自分が住んでいる地域ではなく、古里や応援したい地域を選んでお金を寄付する「ふるさと納税制度」が始まって30日で10年を迎える。豪華な返礼品競争の加速化に異論が出る一方、総務省によると、地域を応援したい気持ちで寄付する都市住民と農山村を同制度がつなげ、過疎地再生の財源にする自治体が増えてきた。農山村と関わる「関係人口」を育むなど、ふるさと納税が転換期を迎えている。(猪塚麻紀子、尾原浩子)
つながり重視 使途選び寄付 手紙添え返礼
地区の特産品を作る煎餅を焼く機械、子どもたちが使うタブレット型端末、住民が集う施設の手洗い場──。いずれも、大分県宇佐市の住民らでつくる地域運営組織「佐田地区まちづくり協議会」が、ふるさと納税の寄付金を使って購入や設置したものだ。
協議会事務局長の河野好昭さん(50)は「都会にいても佐田が元気でいてほしいという願いがこもったふるさと納税。ありがとうという気持ちでいっぱい。毎年、地域に役立つ使い方をしている」と笑顔で話す。
400世帯の同地区。過疎化が進み、小学校は全児童31人にまで減少した。協議会では、地域のにぎわいを取り戻そうと祭りなどのイベントや農道の維持管理、古紙回収などの活動を行う。ふるさと納税は一般財源ではなく別枠にし、地域のために使う。
寄付者には、返礼品とお礼の手紙などを届ける。寄付をした大分市の会社経営者、土屋和幸さん(65)は「15歳まで暮らした、かけがえのない古里。104歳まで佐田の人に支えられて長生きできたおやじの分も含めて、恩返しをしたい。消滅せずに古里が続いていくのが願い」と思いを明かす。
同市では、暮らしを守り地域課題の解決に向けた活動を実践する16の地域運営組織が住民自治を担う。ふるさと納税はみそやジャムなど地域の特産品を返礼品とする。寄付金は運営組織の活動資金にする他、子育て支援、都市農村交流などを寄付者が選択できる仕組みを取る。
2017年度は市全体で3700万円が寄付された。そのうち、運営組織全体への寄付金は636万4005円。佐田地区では20件82万5000円が集まった。
他の運営組織でも、ふるさと納税は避難所のテレビや祭りの用具の購入、花壇の設置など地域のために使われる。市は「他の自治体に比べ返礼品は金額的に低く見劣りするが、宇佐を思って寄付する人の気持ちを受け取って、地域づくりに使っている」(観光まちづくり課)と主張する。
復興、過疎対策…
08年4月30日、地方税法に明記されスタートしたふるさと納税。自治体による「返礼品合戦」が問題となった一方、総務省によると、最近では災害の復興支援の他、過疎対策に生かす自治体が目立つ。
野田聖子総務相は27日、会見で「寄付してくれた人との継続的なつながりを持つことを重視してほしい」と呼び掛けた。同省が今年発行した事例集では農業高校のドローン(小型無人飛行機)を活用した調査研究(北海道遠別町)、雪下ろし代行サービス(秋田県湯沢市)、若者の地元定着支援(山口県宇部市)など、地域活性化に結び付けた66の現場を紹介した。同省によると、地域と寄付者を結び関係人口を育むケースも増えているという。
2018年04月28日
3月輸入野菜 13年ぶり13万トン超 ハクサイ18倍キャベツ4倍 中国産敬遠薄れる
3月の生鮮野菜の輸入量が13万3847トンと、単月としては13年ぶりの高水準だったことが、財務省が26日公表した貿易統計で分かった。輸入野菜離れを起こした2007年の中国製冷凍ギョーザ中毒事件以降では最大。国産の高騰が長期化するとの懸念が拭えず、中国産の結球野菜を中心に業務・加工業者からの輸入物への需要が強かった。業者は4月以降も輸入量が前年を上回る可能性が高いと見通す。
生鮮野菜の輸入量が13万トンを超えるのは、05年3月以来。今年2月に続いて、10万トンを超えた。
輸入量を押し上げたのはハクサイやキャベツなどの結球野菜。国産が品薄高となった1月から、外食店といった業務筋からの需要に加え、カット野菜など加工需要の引き合いも依然強い。3月のハクサイの輸入量は前年の18倍となる5211トン、結球キャベツは3・7倍の2万7585トンで、共に過去10年間で最多。中国産の輸入業者は「3月も国産の出回りが少ないと予測し、仕入れ数量を十数年ぶりに大幅に増やした」と話す。
結球野菜をはじめ、輸入が増えたニンジンやネギなどは軒並み中国産が大半を占める。飲食店への納入業者は「低価格を重視する顧客が増えてきた。中国産の仕入れに慎重な声をあまり聞かなくなった」と明かす。
一方、3月に入って天候が回復し、国産の出回りは急増。相場は安値基調で推移する。だが、国産が需要を取り戻すのは簡単ではないとの見方がある。別の輸入業者は「急に仕入れを増やしただけに、国産が安くなったことを理由に今後の取引を断れない」と打ち明ける。輸入業者は、今後も輸入物の潤沢な出回りを予想している。
2018年04月27日
外国人就労特区 愛知に管理協議会 事業者申請も開始 県や内閣府
国家戦略特区を活用した農業分野での外国人労働者受け入れのため、愛知県や内閣府などは26日、「愛知県適正受入管理協議会」を全国に先駆けて立ち上げた。人材派遣会社など受け入れ事業者が、「特定機関」の基準に合っているかの確認などを行う。同日には、事業者からの特定機関の申請受け付けも始めた。労働力としての外国人受け入れが同県で本格的に動きだした。メンバーは他に東海農政局、愛知労働局、名古屋入国管理局。
2018年04月27日