ドラマ「ブラックペアン」での治験コーディネーター(CRC)の描写に批判的な声が急激に広がっています。
治験に関わる患者さんの立場からも、臨床に携わる医療関係者からも怒りの声が高まり、日本臨床薬理学会がTBSに抗議する事態に発展しています。
Facebookに掲載された抗議文はかなりの勢いでシェア数が増えており、その抗議文の中では私のブログ記事も引用されています。
私がドラマ関連記事を書く時はいつも、「ドラマを楽しんだ方が不快にならないように」とかなり気を遣うので、引用された記事も批判的な意見に多くを割いたわけではありません。
「医者がドラマにムキになって目くじらを立てている」などと思われるのは本意ではないし、そもそも私は医療ドラマは好きで、楽しく見ている立場です。
ドラマを楽しむ方々を興ざめさせてしまうような重箱の隅をつつく粗探しもしたくはありません。
しかし問題は大きくなっていますし、私の記事も引用されていることですので、今回改めて治験コーディネーターの描写に関する問題点について焦点を絞っておきたいと思います。
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ドラマにおける医療現場の描写
これまで医療ドラマに関するブログ記事で私が繰り返し述べているように、
「あくまでドラマはエンターテイメント、面白ければOK、リアルでなくてよい」
というのが私の意見です。
しかし、ドラマという影響力の大きな媒体が医療現場を描く以上は、
「患者さんが見た時にどんな風に感じるか?」
「患者さんがこれを現実(の誇張)だと思ったら、医療現場にどういう事態が起こりうるか?」
ということを、作り手は常に頭の片隅に置いておく必要があります。
医療、健康をテーマにする以上は、それだけセンシティブな話題を扱っているという自覚が必要です(むろん医療に限った話ではないと思いますが)。
ドラマ中での「治験コーディネーター」は、女性が一人、スーツ姿で仕事をし、医師に高級レストランでたびたび接待をし、300万円という謝礼を患者さんに手渡して治験参加を促します。
患者さんは「借金が返せる」と不承不承、参加を決意します。
これは実際の治験コーディネーター(CRC)の仕事内容とは「似て非なる」どころか「似て」すらないわけですが、ドラマを見た人の中には、
「ありえないとしても医師が監修している以上、これに近いことは行われているのだろう」
「医師が執筆した原作をドラマ化しているのだから、原作にも近い描写があり、現実の誇張だろう」
と考える人は多いと思います。
(原作は治験コーディネーターという職業がなかった1980年代が舞台で、ストーリー自体も原作とドラマとでは全く違います)
原作の解説はこちら
今回の治験に関する描写については、
「ドラマの演出上、登場人物の行動は、治験コーディネーターの本来の業務とは異なるものも含まれています」
とホームページ上で注釈がありますが、「異なるものも含まれている」どころか、「ほぼ異なるものしかない」という事実に気付ける視聴者は多くないと思います。
実際、医療スタッフの一員として治験に関わっているCRCのみなさんの姿は、以下のようなものです(勝俣範之先生のツイートを引用させていただきました)。
病院内で医療スタッフとして働く以上、このような動きやすくて清潔感のあるユニフォームを着ているのは当然で、スーツであるはずがありません。
また、患者さんに対する300万円という高額の謝礼がありえないのは私が解説記事で書いた通りです。
実際には、治験に参加する患者さんたちに余分に発生しうる交通費など、経済的な負担を軽減する目的の補助に過ぎません。
多額のお金が動くのは演出上のことだ、という注釈もありますが、金額の多寡が問題なだけではありません。
むしろ治験では、
「金銭的な補助が治験参加の誘因にならないように」
ということが極めて慎重に議論されなくてはならない点では、倫理的に「最もやってはならない表現」であったことが問題です。
今回に関して言えば、
「エンターテイメントとして許容できる誇張か、それとも一線を越えてしまっているか?」
は、実際に現場を見て調べれば容易にわかる以上、その小さなステップを怠ったことに対する批判は免れないのではないでしょうか。
これから治験に関わる可能性のある患者さんたちに不信感を抱かせる点では、学会の抗議文にもある、
「患者さんのために、医療の発展のために真摯に努力しているCRCの心を折り、侮辱するものであった」
「医療イノベーションを目指す日本にとって大きな損失につながります」
という文言を作り手は重く受け止めるべきではないかと感じます。
私は医療ドラマは大好きですし、多くの方に医療に興味を持っていただく点で、医療ドラマはリアリティにこだわりすぎず、楽しいエンターテイメントであるべきだと信じています。
また医療ドラマ製作に関わる方々の、その大変な努力には頭が上がりません。
しかし、製作の過程で頭のどこかに「今現実に病気で悩み、病院に通ったり入院したりしている患者さんたちの姿」はあってほしいと思います。
それが医療、健康を扱うメディアに求められる慎重さではないでしょうか。
原作はかなり明確なテーマ性を持った、新たな外科治療に警鐘を鳴らす名作です。ネタバレなし解説もどうぞお読みください。
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医師。専門は消化器外科。二児の父。
ブログ開設4ヶ月後に月間67万PV達成。
時事通信社医療情報サイト「時事メディカル」で定期連載中。
エムスリーでも連載中&「LIFESTYLE」企画・監修。
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ごばんは。
このような騒ぎになっているとは知りませんでした。
以前にもコメントいたしましたが、世の中このようにネットで調べたり、社会的に色々な人々、または職種の方と関わりが持てる世代だけではありません。
失礼な言い方かもしれませんが、年齢を重ねると閉鎖的な生活になり、行動範囲なども限られ、自分の目で見た物や身近なものからの情報収集になりがちです。
そういった方も楽しめるドラマにして頂くことはドラマなので良いと思いますが、現実とはかけ離れているとしても、極端な不安要素や描かれていたり、その職種の方に失礼な描写はなるべく避けて頂く工夫が必要なのかな。と思います。
私個人的にドラマというのは、あれはないよねーと語り合ったりするのも楽しみの1つだと思っていますがその判断も人それぞれで、デリケートなものにもなり得ると言うことだと思います。
長々とすみません。
その通りです。ネット等で自分で情報収集できる方は問題ないですが、テレビのように完全に受け身的に情報を受け取ることが主体の方は、注意が必要ですね。
現実の脚色は問題ないとしても、押さえるべきポイントは押さえ、どこは脚色してはならないか、という線引き、というかバランス感覚は求められると思います。
その意味でも、今回のドラマのように治験なども含めて広く描くのであれば、複数の専門家の取材が必要ではないかと思いますね。
けいゆう先生、おはようございます。
学会のTBSへの抗議文を読みました。
先生のブログの一部分が引用されてました。
けいゆう先生のドラマ解説は、医療従事者、患者、一般の視聴者、その誰も傷つかないように配慮してくださっていることを、一度でもけいゆう先生のブログを読んだことがある方なら解ると思います。
また、先生がコメント欄で読者から質問されたり、時には意見されたりすることがあっても、どのコメントにも一つ一つ丁寧に解りやすい言葉で答えていらっしゃるのも、多くの人が知っていると思います。
けいゆう先生が一つ一つ積み上げてきた物が形となり、現在色んなメディアで連載が始まって、ファンとしてとっても嬉しいです。
一方で、けいゆう先生が「ブログを書いている一人のドクター」ではなく、今ではインフルエンサーとなりつつあることも、今回の抗議文での引用やTwitter等のSNSで取り上げられる回数の多さで明らかになってきたとも思いました。
けいゆう先生は、医療素人で患者でもある私のような人が、「もし仲の良い友人がお医者さんだったら聞きたいこと」を、色んな角度から教えてくださいますよね。
「抗議文の引用からこのブログに辿り着いた人にも、ぜひ先生のブログの真意が伝わりますように」と願っています。
林檎さん
そうですね、特に今回引用された記事も、どんな批判記事かと思って開いたら「オペ室の悪玉菌」などと書かれているブログ記事で意外性があったのか爆発的なアクセスを集めております笑
批判一辺倒ではダメで、どこかで読んだ人がクスッと笑える記事にしたいと思っていますし、でも看過できない部分は医療者としてきっちり指摘します。
異なった意見をいただくこともありますが、こういう指摘には賛否両論あって当然です。
あまり記事にして長々と意見をまとめる医師はそれほど多くない(特にドラマに対しては)ので、学会の引用もそうですし、利用していただけることも多くなってきて嬉しい限りです。
読んでくださるみなさんのおかげですよ。