6月上旬にも開催予定の米朝首脳会談をめぐって、駆け引きが続いている。焦点は北朝鮮の非核化だが、勘違いしてはならない。実は「日本人拉致被害者の解放と中短距離ミサイルの撤去」こそが、北朝鮮の真意を確かめるリトマス試験紙なのだ。
米朝両国は本番前の事前協議で相当、詰めた議論をしているようだ。5月3日付の朝日新聞は1面トップで「北朝鮮、核全廃応じる構え 米朝事前協議 核兵器査察も」という見出しで「北朝鮮が、米国が求める手法による核の全面廃棄に応じる姿勢を示している」と報じた(https://www.asahi.com/articles/ASL524QNQL52UHBI01F.html)。
記事によれば、北朝鮮は「核兵器の査察にも初めて応じ、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の廃棄も行う意向」という。ただ「核廃棄に向けた期間や北朝鮮への見返りでは意見の違い」が残っていると報じている。
この報道が正しいなら、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が譲歩したかのように読める。だが、これは朝日の報道だ(笑)。私は3月30日公開コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55057)で書いたように、朝鮮半島問題で朝日新聞を信用していない。
記事は情報源について「米朝関係筋が明らかにした」と書いているが、朝日は北朝鮮の宣伝に乗せられた可能性がある。つまり、朝日がそう自覚しているかいないかは別として、記事は北朝鮮の善意を報じることによって、首脳会談に期待を抱かせる効果がある。
そもそも、正恩氏の最優先目標は「とにかく米朝首脳会談を実現する」という1点にある。もちろん、軍事攻撃を避けるためだ。そのためなら、いまはどんなに妥協してもかまわない。実際の核廃棄を引き延ばす条件闘争はいくらでも可能だし、舞台裏で秘密開発を続ける手もある。
そんな正恩氏にとって、朝日の報道は実にありがたい。世界に期待感が高まって、トランプ政権が首脳会談を拒否する口実がなくなってしまうからだ。そう釘を刺したうえで、朝日が報じたシナリオに沿って首脳会談が実現する、と仮定しよう。
そのとき、問題になるのは「いつ、どんな手法で北朝鮮の非核化を実現するか」である。ボルトン大統領補佐官は4月29日、米国のテレビで非核化について、リビア方式を踏襲する考えを表明した。リビア方式とは何か。
リビアは2003年、核兵器や弾道ミサイルなど大量破壊兵器の放棄を表明した。国際原子力機関(IAEA)の査察を受け入れ、遠心分離機などを米国に引き渡した。その後で米国は制裁を緩和し06年、テロ支援国家の指定を解除、最終的に国交を樹立した。
この例に倣うなら、今回も北朝鮮がIAEAの査察を受け入れ、核施設を閉鎖する。さらに既存の核兵器やICBMを米国に引き渡すか廃棄し、米国が確認した後、国交回復など金体制を保証する手立てを講じる手順になる。