「どうする? 漫画『海賊版サイト』」(くらし☆解説)
2018年05月02日 (水)
三輪 誠司 解説委員
海賊版サイトというのは、出版物や音楽を作者などに無断でコピーして販売したり、無料で公開したりている違法なホームページです。こういうサイトは、広告収入で運営されています。閲覧するだけで広告収入が入り、違法行為を手助けすることになりますので、利用しないほうがいいと思います。
特に問題になっている3つのサイト(漫画村、Anitube、Miomio)で、現在、表示されなくなっていますが、著作権侵害などの被害額はあわせて4000億円にのぼっていると見られています。被害がこれだけ増えると、作家や出版社の収入が減り、出版業界が成り立たなくなってしまうと懸念されています。海外にサーバーがあるため、誰が設置したものかわかっていません。
私たちがインターネットを利用するとき、接続業者を通じてさまざまなホームページにアクセスします。その中で、今回のような違法なホームページがあった場合、著作権者などが、ホームページを配信しているサーバーの管理者に、ページの公開をやめるように申し立てます。その結果、削除されます。
しかし海外の事業者の場合、削除要求に応じなかったり、法的な対応が取れなかったりして放置されてしまいます。
そこで出てきたのは、接続業者に対応を求める方法です。利用者が違法なホームページにアクセスしようとしたことを接続業者が監視し、その時だけその通信を遮断するというアイデアです。これをブロッキングといいます。
政府は4月、この対策を接続業者が自主的に行うことが適切だという緊急対策をまとめました。
しかし、この対応をめぐって、さまざまな団体が意見を述べています。
まず、著作権団体は「歓迎する」と賛成の意見です。また、NTTグループの3社は、政府の緊急対策を受ける形で、近くブロッキングを行うことを表明しました。一方、インターネット接続業者で作る「日本インターネットプロバイダー協会」は、「断じて許されない」と強く反対しています。消費者団体も反対です。
違法なホームページを見られなくするのは悪いことではないと思う人がいると思いますが、遮断するサイトがどんどん拡大し、事実上の検閲になってしまうかもしれないという懸念から、根強い反対意見があるのです。
憲法21条には「通信の秘密」の規定があります。通信の秘密は、誰からも干渉されずに、コミュニケーションを取ることが出来るというものです。ホームページを見ることもその一つです。この規定により、インターネット接続業者も、利用者の通信を監視することは法律で禁止されていますし、監視の結果通信を遮断するブロッキングも原則認められていません。
しかし、その規定によって、違法なものを野放しにしていいのかというところが難しいところです。このため2010年に例外のルールが設けられました。それが「児童ポルノ」です。
インターネットによる権利侵害は、児童ポルノのように人格を傷つけるもの、今回の著作権侵害のように、経済的な利益を侵害するもの、さらに名誉毀損などもあります。このうち、児童ポルノの場合は、犯人が検挙され、損害賠償が行われたとしても、画像が流通すると取り返しがつかなくなります。このため、ブロッキングが認められるのは、児童ポルノのような人格権を侵害する場合で、他に防ぐ方法がない場合に限るという唯一の例外が設けられました。
今回は、著作権侵害ということになりますが、こうした議論が不足しているように思います。さもないと、名誉毀損の場合も含めて、拡大解釈がどんどん行われる恐れがあります。例えば、政治家や官僚の不祥事に関する報道も、本人にとって見れば嫌なことなので「名誉毀損」という理由で、遮断しろと申し立てることが理論上は可能になります。
イギリスやオーストラリアでは、著作権保護のためのブロッキングが行われていますが、法律が整備されています。一方、中国では、政府当局に都合の悪い情報が書かれたサイトはブロッキングされ、ほとんどアクセスできません。こうなると、ネットの利用者は正しい情報を得ることができなくなってしまいます。
最後に、 私たちインターネットの利用者も、この問題に関心を持っていく必要があります。今回の問題は、インターネット利用者にも責任の一端があるからです。
実は、これまでも同じような海賊版サイトは存在していました。しかし、いわゆるアングラサイトとみなされ、アクセスする人も少なかったんです。しかし今回、海賊版サイトのアドレスをSNSで宣伝してしまう人がいて、多くの人が利用してしまったんです。著作権を無視して公開されたものであるということが見ればすぐわかるのに、面白がってみんなで利用していたことが、今、自分たちの通信の秘密まで制限されるかもしれないという議論につながっています。
インターネットは自由な空間ですが、その自由はモラルがあってこそ保たれるということを、家庭や教育現場で教えていくことの大切さを、今回の問題は示していると思います。
(三輪 誠司 解説委員)