憲法記念日 平和主義は不変の針路
2018年05月03日
きょうの憲法記念日に、改めて憲法の価値を考える。混迷した時代だからこそ「平和主義」が輝きを増す。平和の御旗は下ろしてはならない。
日本国憲法には、広く知られた三つの原則がある。国民主権、基本的人権の尊重、平和主義である。前文と103条で組み立てられたこの最高法規は、国と国民の規範であり、日本が目指す国の形でもある。
施行から71年。曲折はあったにしても、日本は世界に誇るこの憲法をよりどころに戦争を放棄し、誰も差別されずに平等で、自由で、幸せに一生を送れる国を目指してきた。この「人類普遍の原理」の重要性は今も失っていない。
国民がこの憲法を手にするまでに、尊い血が流された。農村からも多くの若者が戦場に駆り出され、命を失った。二度と戦争による悲劇と苦難を繰り返さないように、「国民の権利及び義務」の前に、「戦争の放棄」を据えた。その意味をかみしめる必要がある。
戦後生まれが人口の8割を超え、日々の生活の中で殊更に憲法を意識することも少なくなった。治安、労働、教育など国民の日常生活に関わる全てについて、憲法が為政者の勝手な行動を縛っている。われわれが安心して豊かさを享受できるのは、立憲主義に基づく社会の仕組みがあるからである。
最近、その憲法からの「離反」が目立つ。殊に安倍政権になってから顕著だ。「憲法上許されない」とされてきた集団的自衛権を限定的に容認し、自衛隊の海外派遣の範囲を広めた。安保法制も強行した。今度は自衛隊を「9条」に明記するという。
十分な国民的議論がないまま、その時々の政権の考えや政党の駆け引きで、憲法改正が進んでしまうことに国民の不安が高まっている。唯一の被爆国でありながら、核兵器禁止条約に反対する政権である。熟議なき「9条改正」は、世界の国々の警戒心を高めるに違いない。
朝鮮半島が和平に踏み出そうという状況が生まれる中、70億を超す人間が民族や宗教、イデオロギーの対立を超えて平和に共存する道こそ追い求めるべきである。平和憲法を持つ日本はその先頭に立つべきだ。
もちろん憲法だから一字一句変えてはならないというのも現実的ではない。近年の地球温暖化などでは補強が必要だとの指摘もある。立憲主義をより深化・徹底する観点から改正を促す意見もある。
憲法は国民のものである。その改正は、国民が納得できる中身であることが何より重要だ。国家を「私物化」したような不祥事で内閣支持率を急落させた安倍政権に、改正発議の資格はあるか疑問である。改憲の前にただすべきことがあろう。
豊かな農業の営みや自由な経済の発展は平和があってこそだ。憲法が目指す平和国家に近づける努力こそが、為政者が取るべき道である。
日本国憲法には、広く知られた三つの原則がある。国民主権、基本的人権の尊重、平和主義である。前文と103条で組み立てられたこの最高法規は、国と国民の規範であり、日本が目指す国の形でもある。
施行から71年。曲折はあったにしても、日本は世界に誇るこの憲法をよりどころに戦争を放棄し、誰も差別されずに平等で、自由で、幸せに一生を送れる国を目指してきた。この「人類普遍の原理」の重要性は今も失っていない。
国民がこの憲法を手にするまでに、尊い血が流された。農村からも多くの若者が戦場に駆り出され、命を失った。二度と戦争による悲劇と苦難を繰り返さないように、「国民の権利及び義務」の前に、「戦争の放棄」を据えた。その意味をかみしめる必要がある。
戦後生まれが人口の8割を超え、日々の生活の中で殊更に憲法を意識することも少なくなった。治安、労働、教育など国民の日常生活に関わる全てについて、憲法が為政者の勝手な行動を縛っている。われわれが安心して豊かさを享受できるのは、立憲主義に基づく社会の仕組みがあるからである。
最近、その憲法からの「離反」が目立つ。殊に安倍政権になってから顕著だ。「憲法上許されない」とされてきた集団的自衛権を限定的に容認し、自衛隊の海外派遣の範囲を広めた。安保法制も強行した。今度は自衛隊を「9条」に明記するという。
十分な国民的議論がないまま、その時々の政権の考えや政党の駆け引きで、憲法改正が進んでしまうことに国民の不安が高まっている。唯一の被爆国でありながら、核兵器禁止条約に反対する政権である。熟議なき「9条改正」は、世界の国々の警戒心を高めるに違いない。
朝鮮半島が和平に踏み出そうという状況が生まれる中、70億を超す人間が民族や宗教、イデオロギーの対立を超えて平和に共存する道こそ追い求めるべきである。平和憲法を持つ日本はその先頭に立つべきだ。
もちろん憲法だから一字一句変えてはならないというのも現実的ではない。近年の地球温暖化などでは補強が必要だとの指摘もある。立憲主義をより深化・徹底する観点から改正を促す意見もある。
憲法は国民のものである。その改正は、国民が納得できる中身であることが何より重要だ。国家を「私物化」したような不祥事で内閣支持率を急落させた安倍政権に、改正発議の資格はあるか疑問である。改憲の前にただすべきことがあろう。
豊かな農業の営みや自由な経済の発展は平和があってこそだ。憲法が目指す平和国家に近づける努力こそが、為政者が取るべき道である。
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送料上げ どう対応 農産物通販 農家・JAを直撃 価格転嫁―悩み深く
宅配便の相次ぐ送料値上げを受け、農産物を全国発送する農家やJAが対応を迫られている。消費者に送料の上昇分を負担してもらうJAなどは「売り上げに響くのではないか」と、不安視する。送料の価格転嫁について、消費者にどう理解を求めるのか、農家が模索している。(猪塚麻紀子、尾原浩子)
まとめ買い提案
「送料値上げの一部を商品価格に転嫁しても買い続ける」か「購入をやめる」か──。岐阜県白川町で「和ごころ農園」を営む伊藤和徳さん(40)は値上げを控えた2月、顧客にアンケートをした。9割から回答があり、全員が「買い続ける」と答え、安堵(あんど)した。
同農園は関東や東海などの個人向けに、野菜セットを年間800個ほど配送料込みの価格で販売してきた。アンケートを踏まえ、5月に野菜セットの値上げに踏み切る予定だ。
さらに送料値上げを逆手に取り、まとめ買い商品の提案も始める。野菜セットの箱の空いたスペースを生かし、野菜と一緒に米や調味料などの加工品、工芸品といった商品をまとめ買いしてもらう提案だ。
「送料の値上げがなければ考え付かなかった。新たなビジネスの機会にするしかない」と伊藤さん。値上げをチャンスに変える考えだ。
伊藤さんは、名古屋市で毎週土曜日に開かれる朝市「オアシス21オーガニックファーマーズ朝市村」の一人。伊藤さんだけでなく、出店する農家の多くは宅配で農作物を売り出す。値上げに対し、今後の経営を不安視する農家は多い。
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相次ぎ 宅配大手3社
大手宅配業者は、昨年秋から相次いで値上げを決行した。ヤマト運輸は10月1日、27年ぶりに基本運賃を40~180円上げ、事業者向けも個別対応で値上げした。佐川急便も、昨年11月21日から飛脚宅配便などの基本運賃を60~230円上げた。日本郵便は今年3月1日、平均12%送料の基本運賃を値上げした。10個以上同時に出すときに適用された数量割引も廃止した。
3社とも農業法人など事業者が大量に送る場合は個別対応で、値上げの交渉を随時行ったという。いずれも「社員の労働環境の重視」「人手不足」などを理由にする。
“顧客離れ”心配
マンゴーやパイナップルをJA全農が運営するJAタウンなどで販売するJAおきなわは、宅配大手を利用するJAタウンについては送料を上げた。JAは「沖縄は離島で送料が高く、消費者の負担は重い。売り上げに響かないか心配だ」(営農販売部)と話す。現時点で主要な契約先である沖縄の業者は値上げしていないが、「万が一、送料が上がれば非常に厳しくなる」(同)と不安を募らせる。
ネット上の直売所で送料込み、もしくは送料無料で特産品を販売するJAふくおか八女は「送料値上げは仕方ないが、経営に影響はある。一部、商品価格に反映せざるを得ず、お客さんには申し訳ない」と話す。
農産物を全国発送する北陸の農家は「送料上げは仕方ないが、経営には大打撃。政府も対策を議論してほしい」と嘆く。
問題は長期化
流通経済大学の矢野裕児教授は「物流にかかるコスト全体が上がっており、問題は長期化する」とみる。これまでは「さまざまな業界で配送料を気にしていなかった風潮がある」と指摘。「地域でまとめて配送手段を考えるなど、対策を業界全体で講じていく必要性がある」としている。
2018年05月02日
「モリ・カケ問題」再び
「モリ・カケ問題」再び。今の国会審議停滞は、強過ぎる官邸主導こそが“根源”ではないか▼国立公文書館で特別展「江戸幕府、最後の戦い」を開いている。明治維新150年の今、内憂外患の中で幕府重臣らの貴重な記録が生々しい。展示した関係年表は1792年のロシア使節・ラクスマンの通商要求から始まり、1840年の西欧で唯一交流のあったオランダから中国のアヘン戦争惨状の知らせ▼58年の〈安政の開国〉、維新前年に当たる67年の徳川慶喜の大政奉還、そして69(明治2)年の徳川家転封先静岡での学問所と兵学校開校で締めくくる。幕末は、外国の通商・軍事攻勢との対応に終始したことが分かる。その備えを日本全体でどうするのか。幕府側と倒幕派との主導権争いとも重なる▼今回の官僚による公文書改竄(かいざん)で、18画もあり超難字の〈竄〉の成り立ちを思う。ネズミが〈穴〉に隠れる意を表し、転じて悪事などを指す。公文書は憲法の定める国民主権の文脈で読み解けば、民主主義の根幹を成す国民の知る権利とも表裏一体である▼きょうは「憲法記念日」。公文書館には、明治の大日本帝国憲法と現行の日本国憲法の“原本”も天皇の署名と共に展示してある。改めて、官邸主導の弊害と憲法の大切さを考える一日にしたい。
2018年05月03日
「政」と「官」にまつわる不祥事
「政」と「官」にまつわる不祥事が止まらない。風薫るどころか、どんより重苦しい空気が霞が関を覆う▼「官」の由来は軍の駐屯地にあるという。軍をつかさどることから役所や役人の意味に転じたと、漢文学者白川静さんに教わる。今や文民統制も危ういが。一国の政務を預かる人たちの「たが」がこれほど緩んでは、国家の運営はおぼつかない▼行政を正す役割の「政」もいただけない。1強体制の下、「官」を下僕のように使い権勢を振るってきたが、ほころびが目立ち、民心の離反著しい。「政」といえば男が統べる天下国家の政と思いがちだが、歴史を見ればそうでもない。秀吉の妻を「北の政(まん)所(どころ)」、母を「大政所」と呼び、奥さんやお母さんを指す言葉になぜ「政」の字が使われたのか▼疑問を抱いた漢字通の作家円満字二郎さんが調べると、「政」は、家族から国家まである集団をうまく組織して運営することを指す漢字だった。ならば家庭も国家も同じ。「まして、最高権力者の妻や母ともなれば、どうしたって、『政治的』な動きとは無縁ではいられなかった」と円満字さんの著書にある▼なにやら今に通じる話ではある。「政所」が力を持ち過ぎれば「政」と「官」の在り方がゆがめられ、国家衰亡の道をたどらないとも限らない。
2018年04月28日
ニホンジカ捕獲増へ 請負業者に協力要請 中部森林管理局
林野庁中部森林管理局は、ニホンジカの食害対策として、国有林の造林、治山などを請け負った事業体に対して捕獲などの協力を求める取り組みを始めた。全国初の試み。「くくりわな」の設置や見回りなどの協力を得て、ニホンジカの捕獲を増やし、森林被害の抑制につなげたい考えだ。
同管理局管内(長野、岐阜、愛知、富山の4県)の国有・民有林では、植林したばかりの苗木や木の皮が鹿に食べられる被害が年々拡大。2016年度の被害面積は計310・5ヘクタールに上った。
造林地を保護する防護柵を設置する一方、地元の猟友会と連携するなどして12年度以降、年間3000頭前後を捕獲してきた。しかし、捕獲従事者の減少や鹿の生息範囲拡大などで被害は増え続けている。
造林や治山などの事業を実施した場所には鹿が集まる可能性があることから、森林組合や建設業者など請負事業体に捕獲の協力を要請することにした。
具体的には、狩猟免許保有者がいる場合、事業を実施した場所周辺や通勤経路での「くくりわな」による捕獲、設置したわなの見回り・通報の協力を求める。4月から事業体にちらしを配布して、協力を要請している。
同管理局の事業は総合評価落札方式を採用しているが、今後は事業体の捕獲などの取り組み実績を技術点の加点対象とすることも検討している。
2018年04月29日
外国人就労特区 愛知に管理協議会 事業者申請も開始 県や内閣府
国家戦略特区を活用した農業分野での外国人労働者受け入れのため、愛知県や内閣府などは26日、「愛知県適正受入管理協議会」を全国に先駆けて立ち上げた。人材派遣会社など受け入れ事業者が、「特定機関」の基準に合っているかの確認などを行う。同日には、事業者からの特定機関の申請受け付けも始めた。労働力としての外国人受け入れが同県で本格的に動きだした。メンバーは他に東海農政局、愛知労働局、名古屋入国管理局。
2018年04月27日
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2018年05月03日
空転続く国会 正常化へ与党は譲歩を
国会の空転が続いている。最大の原因は、政府内で相次ぐ不祥事の真相解明や政治責任の明確化を求める野党の要求を拒む政府・与党のかたくなな姿勢にあると言わざるを得ない。とはいえ、不正常な状態が長引けば法案審議に支障が出て政治不信を助長する。与野党は国会の正常化へ歩み寄る必要がある。
今国会は、過度な残業を規制する働き方改革関連法案や、成人年齢を20歳から18歳に引き下げる民法改正案など、国民生活に関わる重要な法案が控えている。残業規制は十分なのか、一部専門職を労働時間規制から外す制度に課題はないのか、熟議が必要だ。民法改正案は、主要国で「18歳成人」が多いことを踏まえた対応だが、明治時代の民法制定以来、「大人」の定義を変えるもので、影響は広範囲に及ぶ。
農林水産関連法案は、卸売市場法改正案や都市農地貸借円滑法案、森林経営管理法案、土地改良法改正案など9本。これまでに成立したのは改正水産加工業施設改良資金融通臨時措置法の1本だけにとどまる。政府提出法案としては、近年では2004年の10本に次ぐ多さで、与党は全法案の成立を目指す方針だ。だが、与党だけによる強行的な採決は決して許されない。
都市農地の保全をしやすくする都市農地貸借円滑法案など、関係者が早期成立に期待を寄せる法案の一方で、卸売市場法改正案など関係者の評価が分かれる法案も少なくない。特に後者については慎重審議が必要だ。
衆参両院の農林水産委員会は、与野党で主張が対立しても議論を重ね、双方が折り合える着地点を可能な限り探ってきた。「農政は政争の具にしない」との不文律を尊重してきたためで、懸念される課題については付帯決議などの形で委員会の意思を示すケースも多い。強行的な採決は今後の農林水産委員会の議事運営にも支障を来すだけでなく、農業関係者に不信を残す副作用を生む。
衆院外務委員会での米国を除く環太平洋連携協定(TPP11)の承認案の審議は、連休明けに持ち越された。与党側は既に十分な質疑をしているとして、早期の議決を目指す構えだが、日米間の貿易環境は大きく揺れている。生産現場の不安解消へ、ただすべき点は少なくない。
日米首脳会談では、閣僚級の新たな貿易協議を始めることで合意した。米側は11月の米中間選挙を意識し、早期に貿易赤字是正策を求める方針だ。日本側はTPPへの復帰を働き掛けるが、トランプ大統領は2国間協定の姿勢を崩していない。今後、安全保障を絡めて農業を含む市場開放を強硬に迫ってくることが懸念される。この問題について国権の最高機関として明確な意思を示す必要がある。
今国会は6月20日に会期末を迎える。与野党の歩み寄りが求められるが、まずは混迷の要因を作った政府・与党が正常化への打開策を示すべきだ。
2018年05月02日
民進・希望が新党 見えぬ野党結集の道筋
民進党と希望の党が新党「国民民主党」の結成で合意した。新党に参加する国会議員は両党所属議員の6割に届かない見込みだ。安倍政権批判の民意の受け皿づくりは重要だが、野党結集への道筋は見えない。
新党は5月7日に結党大会を予定している。「野党結集を図る第一歩」(希望の党・玉木雄一郎代表)とされるが、岡田克也元民進党代表や野田佳彦前首相らの無所属系有力議員は参加しない方向。民進・希望両党所属議員の不参加組も多く、希望結党メンバーの一部は分党する。衆院で野党第1党を取るのは困難で、野党再編へのインパクトに欠ける船出となる。
野党の勢力結集が難しいのは、現在第1党の立憲民主党が背を向けているためだ。昨年10月の衆院選を前にした民進党分裂騒動、立憲を躍進させた有権者の期待、野党の中で高い支持率、安全保障を巡る見解の不一致などを踏まえれば、国会会期中の拙速な合流話に乗らないのは当然といえる。
一方で、安倍政権が森友・加計学園問題や官僚不祥事などで窮地にありながら、野党が攻め切れないのは数の非力によるところが大きい。安倍晋三首相が一定の支持率を維持し、自民党の政党支持率が高いのも、政権を担うに足る野党が存在しないことが要因だ。来年夏の参院選や早期の解散総選挙も取り沙汰される中、野党の大きな塊をつくらなければならない。参院選は1人区が主戦場になる。「1対1」の対決構図なくして、巨大与党とは勝負にならない。
主要政策での擦り合わせが前提になるが、野党勢力の結集は不可欠だ。国会で3分の1程度の野党勢力が固定化されるのは、政権交代を可能とする小選挙区制度の精神に反し、政治から緊張を奪い、民主主義の空洞化を招きかねない。
日本農業新聞の政治農政意識調査結果によれば、野党の中で中で唯一2桁の12%の支持率を得たのが立憲民主党だ。希望の党、民進党を足しても2%に届かない。衆院選が近く行われる場合の比例区での投票先では立憲が18%と上がる。地方・農村部がどの党を野党結集軸に考えているかは明らかである。他のメディアの調査でも同様の傾向が見られる。
立憲抜きの野党再編はあり得ない。野党第1党として、政権交代可能な政治勢力の結集へ責任を果たすべきである。
農政は立憲、民進、希望3党が元々同じとあって、ほぼ差は見られない。合同の勉強会の開催や法案審議で同一歩調を取るケースも多い。安倍政権が農政改革で推し進め、生産現場に不安が広がっている種子法廃止に対し、野党合同で復活法案を国会提出するなど具体的な動きも出ている。こうした成果を他の分野にも広げながら、政策での共通項を増やすべきだ。
「1強多弱」を生み出した責任の一端は野党にある。民意の受け皿づくりを進めるべきだ。
2018年05月01日
直売所の目指す姿 地域課題解決の拠点に
農産物直売所への社会的な期待が高まっている。地産地消、農家の所得向上は言うまでもない。その上で地域の課題を解決し、元気なまちづくりをリードしていく。地方創生の拠点となる直売所の整備が待たれる。
直売所はどのような成果を生み出しているのか。日本農業新聞が昨年実施したJA直売所調査で最も多かったのが「生産者の所得向上」だった。次いで「生産意欲の向上」「消費者に好評」「女性・高齢者の生きがい」。
これらは直売活動の核心だ。農家から一定の評価を得ているのが分かる。それ以外の波及効果に着目したい。消費者との交流促進、雇用の場の創設、新たな特産品の開発、観光客の増加、郷土料理の保存・継承など地域貢献活動が徐々に浸透してきたと言える。
全国的にJA直売所が開設されたのは2000年代に入ってからだ。1店舗の売上高が10億~20億円台の大型店が次々と誕生した。いまや全国に直売所は2万カ所を超え、1兆円産業となった。スーパー・百貨店の売り上げがここ数年伸び悩む中で、直売所の売上高は増加傾向にある。
生活インフラとしても市民の暮らしに定着した。愛媛県のいよぎん地域経済研究センターによると、県内の食料品支出額に占める直売所シェアは、野菜・果物で3割に達していた。直売所王国として知られる同県には20億円前後を売り上げるJA直売所が3カ所ある。“住民の台所”となっていることが裏付けられた格好だ。
その一つ、JAえひめ中央は直売所「太陽市」を核に、新たに住民の生活拠点を整備する。松山市にあるJA本所と直売所の敷地内に金融店舗、レストラン、保育所を新設し若い子育て世代を含め幅広く集客する計画だ。地域の元気を創り出す先進的な取り組みに注目したい。2019年度の開業予定だ。
地方都市の多くが人口減少、コミュニティーの低下、雇用の場の減少に直面している。同JAは好調な直売所運営を基盤にさらに地産地消を進め、伝統食を広めたり、若い世代に家庭料理を伝えたりして食の改善に寄与していくという。地域住民の交流の場や子育て支援も強化し、コミュニティーづくりにも関わる。地域に根を下ろしたJAこそできる社会貢献として評価したい。
そもそも直売所の原点は、農家の高齢化、共販の減少、後継者不足など厳しい状況下で農業を振興しようとスタートした。それが社会に定着し、今また新たな地域創生の拠点として期待を背負っている。
これからは地域の飲食店や商工業者、ホテル、観光業など多様な業態と連携することで経済波及効果は一層高まるはずだ。地産地消にとことんこだわり、売れる直売所を目指す。地域経済を回していくことが、農家の所得向上にもつながっていく。それこそがJAの目指す姿だ。
2018年04月30日
増える食品ロス 業界挙げた対策が急務
まだ食べられるのに捨てられる「食品ロス」が2015年の1年間で646万トン(推計値)に上ることが分かった。国民1人が茶わん1杯分の食料を毎日捨てている計算だ。飢餓に苦しむ人に向けた世界の食料援助量をはるかに上回る。いかに減らすか。消費者の意識改革と有効活用、食品業界が一体となった対策が求められている。
農水省と環境省が推計値の公表を始めた12年度以降で最も多く、14年度に比べて25万トン増えた。内訳を見ると外食産業や食品製造業など事業系の食品ロスは357万トンと55%を占め、残り45%は家庭系だ。
事業系だけで前年度より18万トン増加した。内訳は食品製造業が39%、外食産業37%、食品小売業19%、食品卸売業5%。農水省は「外食産業の市場規模が拡大し、それに伴ってロスも増えた。外食での食べ残しなどの対策が重要になっている」(食品産業環境対策室)とみる。
外食店で食べ残しを減らすには、食べ切れる量の注文と仮に食べ残した料理は持ち帰るなどの対策が有効だ。分かりやすい手法に「ドギーバッグ」運動がある。ドギーバッグとは、客が食べ残した料理を自分で詰めて持ち帰るための袋や容器を指す。欧州などの海外で普及し、客が恥ずかしくないよう「犬に食べさせる」名目で持ち帰るのが語源とされる。
そのドギーバッグ運動に政府が本腰を入れ始めた。消費者庁、農水省、環境省、厚生労働省は共同で昨年5月、個人で取り組める食べ残し対策をまとめた。食べ切りを推奨するとともに、食べ残した料理の持ち帰りを呼び掛ける。スポーツ会場でごみを拾う観客の清掃ぶりが海外で話題になっている。レストランでの持ち帰り運動の広まりに期待したい。
食品ロスは日本だけの問題ではない。世界で発生する食品ロスは13億トンといわれる。国連は持続可能な開発目標(SDGs)で30年までに食料廃棄を半減するとの目標を掲げる。国連食糧農業機関(FAO)によると、世界中で廃棄された食品を一つにまとめて温室効果ガスの排出量に置き換えると、日本は中国、米国に次ぐ規模になる。環境負荷は計り知れない。「もったいない」だけで済む話ではなくなっている。
食品ロスの原因は何か。日本を含む先進国は、消費者の意識の問題が大きい。外観や鮮度への厳しい要求の結果、スーパーなどでまだ食べられる食品が捨てられてしまうことがある。賞味期限を少しでも過ぎれば食べられないと思い込む意識も大きい。また、必要以上に買う、注文するという問題もある。
外食では料理の量を確認して少しずつ注文するとよい。宴会の席でも最初に時間を設けて、料理を食べる習慣を広げたい。日本では6人に1人の割合で子どもが十分に食べられていないとの調査結果もある。子ども食堂への提供も価値がある。
2018年04月29日
地域運営組織 総合事業でJA関与を
地方の集落は、人口減少と高齢化で存続の危機に直面する。コミュニティー機能を将来にわたってどう維持するかは、今の日本が抱える重要課題の一つだ。その手法の一つに各地に広がる「地域運営組織」が注目される。国や自治体による効果的な支援と併せ、JAによる積極的な関係づくりに期待する。
総務省が発表した人口推計(2017年10月時点)によると、総人口は1億2670万人で7年連続減少した。人口が増えたのは首都圏と愛知、福岡、沖縄の7都県。それ以外の40道府県は減少した。沖縄を除けば地方は人口減の一途をたどり、減少幅が拡大傾向にある。高齢化の一層の進行と併せ、労働の主たる担い手となる生産年齢人口(15~64歳)の減少は、地方の産業存続に重くのしかかる。
現役世代の減少は地域社会の機能維持にも影を落とす。自治会の活動や祭り・行事の開催が困難、日用商品を売るスーパーの店じまいで買い物に困るといった事態に直面する集落が増えている。辛うじて今維持できている集落でも、人数の少ない若い世代に過度の負担がかかっているのが実情だ。
地域運営組織とは、こうしたコミュニティー機能を支える活動に参画する人たちの集まりだ。公共的な取り組みにとどまらず、農業や特産品開発など経済活動に踏み出す動きもある。
総務省の調査によると、その数は17年度に675市町村の4177件に上った。前年度より1000件強増え、特に中山間地域が多い西日本で広がっている。まだ存在していない市町村の大半が、こうした組織の必要性を認識しており、さらに増える可能性が高い。
「公助」を担う自治体は、予算・要員の縮小でサービス機能が弱体化している。そうした中で生活インフラを維持するには「共助」の力が大きい。祭りや防災、生活用品の買い物、高齢者の見守りなど、暮らしの上で必要なものは、住民が助け合って守っていくしかない。
その司令塔にして実行部隊が地域運営組織である。政府は地域コミュニティーを持続させるため、徒歩圏内に生活店舗、学校、福祉施設などを集める「小さな拠点」づくりを促進している。その運営の担い手としても期待されている。
一方で、課題は少なくない。まず、リーダーとなる人が少ないことや後継者の確保だ。生活店舗の運営や地域興しの事業化に乗り出す場合は、専門知識・技術や経営のノウハウも身に付けなければならない。持続的な運営体制をつくる手段として法人化は一つの選択肢である。
JAグループは、こうした地域運営組織との関係を深めるべきだ。理念の上でも親和性があり、生活事業を含む総合事業体のJAがサポートできることは多い。経理など煩雑な事務処理も手助けできる。「地域の活性化」を自己改革の一つに掲げるJAの役割は大きいはずだ。
2018年04月28日
JA組織基盤強化 直売所と広報誌が鍵に
JA組織基盤の強化が改めて問われている。正組合員と共に准組合員への対応も急務だ。焦点は対話を通じ「多様な組合員」に具体的にどう向き合うのか。基盤強化は、人づくり運動でありJA運動の再構築でもある。鍵を握る直売所と広報誌の活用を位置付けたい。
間もなく政府による「農協改革」議論の二つの大きな節目を迎える。中家徹JA全中会長が繰り返し今年度を「正念場の一年となる」と強調する理由だ。まずは1年余り先の来年5月末の「農協改革集中推進期間」の期限、いま一つは、あと3年を切った2021年3月末の准組合員の事業利用規制の是非を問う農協法5年後検討条項の期限だ。いずれも結果次第で、今後のJAグループ全体の組織・事業に大きな影響を及ぼしかねない。
全中が提起している「アクティブメンバーシップ」。長いカタカナに意味を測りかね、戸惑う向きもあろう。組織参画の人づくり運動と考えれば分かりやすい。組合員への対応強化と言ってもJAごとに大きく異なる。地域実態を把握し客観的なアンケート調査などの数字を基に、正組合員・准組合員別の階層分けをした上で、戦略的な対応が必要だろう。
全中が25日まで東西2カ所で開いた准組合員との関係強化に向けた初のセミナーは意義がある。事例を基に意見交換したことを、先の農協改革の時間的な節目を念頭に各JAの自己改革と組織基盤強化に生かしたい。今後は、担い手対応の戦略会議である営農・経済フォーラムと組織基盤強化セミナーを表裏一体で進める必要もあろう。
JAごとに状況が全く違い、「多様な組合員」が重層的に存在している。全国一律的な対応には無理がある。広域的な大型合併が進み、1JAで都市型もあれば純農村や中山間地など地域ごとで事業環境も組合員構成も大きく異なる。支店単位でのきめ細かな自己改革と組織基盤強化の実践が問われる。
自己改革を進める上で、准組合員が600万人に達する現実を直視しなければならない。准組がJAの理解者となり、「食の応援団」となり、さらに一歩進んで農産物を作ることを通じて「農の応援団」となることは、組織の体質を強める。
先の准組セミナーの事例発表で明らかになったのは、地域住民の接点であるJA直売所を、組織基盤強化にどう有効活用できるかの視点だ。これと総合ポイント制度を絡め、事業や組織参画へ導いていく。もう一つはJA広報誌の内容充実と活用だ。一方的な情報提供では意味がない。広報誌に准組の声も反映する参加型、情報の双方向型展開が欠かせない。地域住民への全戸配布もJA理解の一助となる。
いま一度、「聞く・話す・動く」のステップを踏みながら、JAと組合員の対話運動で組織基盤強化を進めたい。
2018年04月27日
米買い取りリスク 差損への備え忘れるな
米の買い取りを手掛けるJAや全農県本部は年々増えているが、差損リスクに対する備えは大丈夫だろうか。赤字が発生しても複数年かけて解消してきた共同計算方式と違って、JAの経営を直撃する。差損に備えた積立金を持つJAも一部あるが、多くは不十分のままだ。2年続いた売り手市場が今後も続く保証はない。買い取り水準の設定を含め、十分なリスクへの対応が必要だ。
この10年間だけでも、米の共同計算や買い取りを導入したJAは2度危機に見舞われた。1度目の2009年産は、リーマン・ショックによる不景気のあおりを受け、出来秋からじりじり相場を下げ、主産地の東北や北陸を中心に、委託販売の共同計算が赤字に見舞われた。多くの県は、翌年からの概算金を引き下げ、数年かけて赤字を処理することになった。
4年後の13年産は、高値に沸いた前年から一転して相場が低迷。特に終盤の販売に苦戦し、北関東を中心に共同計算の赤字が発生した。この時も数年かけて赤字を処理する方式を選ぶ県が多かった。買い取りを手掛ける県本部はまだほとんどなく、取り組むJAも少数だった。
買い取りの動きは、この2年で急増した。相場の好転で、商系業者との集荷競争が厳しさを増したこともあるが、JA改革でそのムードが広がったことが大きい。西日本では、中国地区で移行が目立つ。JAが買い取る県と、JAは委託のままで県本部が買い取る県と、買い取りJAから県本部が買い取る県など、方式はさまざまだ。
北関東でも、JAだけでなく県本部で増えてきた。飼料用米への転換で主食用米の集荷が激減する中、取扱量確保のため買い取りを増やしている。その結果、4年ほど前に2割弱だった割合が、5割にまで高まった県もある。
買い取り方式に移行したJAや県本部の担当者の多くは、相場の行方に神経をとがらす。「この2年は上げ基調で、買い取りリスクの不安は少なかったが、これからは安心できない。いつ変わってもおかしくない」という。
差損に備え、数億円の積立金を持つJAも一部あるが、多くは通常の決算で処理してきた。4年前にも、委託された60万俵(1俵60キロ)の「コシヒカリ」が、1俵当たり600円の差損で、共同計算が3億円を超える赤字となった県本部や、2億円を超える赤字が発生した買い取りJAが出るなど、差損額は大きな金額となる。
こうしたリスクへの対策として、積立金などの備えも一つだが、最も重要なのは、無理のない買い取り価格の設定だ。組合員からは高値を期待されるだろうが、赤字を出して組合員全体への迷惑は避けなければならない。さらに、一部JAのように、追加払いを前提とした価格設定でリスクを減らす対策も必要ではないか。
2018年04月26日
切り花 新JAS 日持ちの信頼を武器に
花壇苗や鉢花はよく買うが、切り花はあまり買わないという消費者が結構いる。鉢花などより観賞期間が短く、日持ち(花持ち)の程度が分からないという不安感が背景にある。今年度から始まった、新しい日本農林規格(JAS)では、日持ち性を高めるための栽培・出荷方法を実践する生産者の切り花を認証する。消費者は店頭でJASマークを見て、「日持ちの良さ」を確認できる。信頼を武器に新たな販路を広げたい。
従来のJAS法は、規格の対象を農林水産物・食品の原材料や成分などの品質に限っていた。新JAS法では生産方法や取り扱い方法なども基準に加えた。品質以外の価値を「見える化」し、他の国内外の商品と区別できるようにする。切り花では、栽培から出荷までの日持ちを良くする管理方法の基準を定め、「日持ち生産管理切り花」として認証する。
基準は、まず清潔さ。病気の花は捨て置かない。使う水は水道水に限り、他の水はきれいでも抗菌剤を入れる。はさみは使う前に消毒する。茎内で増殖した菌が日持ちを悪くすることは知られているが、管理は意外と徹底されていない。日本花き生産協会の2年前の調べでは、はさみのきれいさに6割の生産者が「留意していない」と答えた。清潔な環境は基本だ。
採花時や保管時の温度、採花の作業時間や出荷までの時間なども定める。採花時の温度が高温だった場合には早めの出荷でカバーできる。これらの対策は、多くの生産者が品質管理で日ごろ心掛けていることばかりだろう。部会などで取り組む場合には、共通の目的意識を持ち、相互の検証が大切になる。農業生産工程管理(GAP)の切り花向けの団体認証と考えれば難しい取り組みではない。
小売店や卸など流通関係者の日持ちへの関心は高い。日本農業新聞は昨年末、国産花きに求める2018年のキーワードを尋ねた。「日持ち」が3分の2とトップ。前年トップだった「安定出荷」は4割弱で、意識の変化がうかがえる。花は必ずしも生活必需品と見られていない。堅い財布のひもを緩めさせるには、日持ちの良さという「お得感」の提供が効果的だろう。
日持ちの改善には、生産と流通、小売りの連携が欠かせない。産地や生産者は新JASを活用し、川下の要望に応えつつ、積極的に優位点をアピールしていくべきだ。一定の日数の日持ち期間を保証する小売店の販売方法も、産地との連携がなくては広がらない。
日持ちの改善は輸入切り花への対抗策になる。低価格、安定供給が売りの輸入品のシェアは年々増え、16年には26%に達した。多彩な品種と日持ち性の良さが消費者に浸透すれば、国産シェアの奪還につながる。輸出にも好材料だ。「消費地での効果が見えにくい」と後ろ向きにならず、新JASの活用を検討すべきだ。
2018年04月25日
公共牧場の活用 担い手集めに将来像を
日本草地畜産種子協会は、公共牧場の新たな活用方法に関する中間報告をまとめた。整備された牧場の草地は、畜産の生産基盤であるばかりか、地域住民の憩いの場になり、観光資源にもなり得る。牧場への関心が高まっている時期でもあり、各牧場は新たな活用法を入れた将来ビジョンを示してほしい。
公共牧場は戦前から、入会地として共同で管理してきた牧野が起源とされる。旧農業基本法農政時代の選択的拡大で畜産が脚光を浴びると、農家から育成を預かる組織として重宝され、国が予算を投入し、各地で受け入れ頭数増に向けた草地造成が進んだ。1970年代にかけて牧場数は増え、80年には全国で1179牧場になった。
近年は畜産農家が減り牧場数も減少。2016年に723牧場にまで減った。利用頭数も80年の21万3000頭が16年には12万9000頭に。だが、このところの増頭意欲の浸透で、1牧場当たりの受け入れ頭数は10年前より1割ほど増えている。農家の規模拡大に貢献することから、関心は高まっている。
公共牧場の牧草地は、国内牧草地面積の14%を占める。一大飼料基盤だ。農水省は13年度に26%だった飼料自給率を25年度までに40%にする目標を掲げており、飼料自給率向上の一翼を担うとの期待もある。関心が高まっている間に、公共牧場の今後の利用方法について、将来ビジョンを策定しておきたい。
中間報告は、牧場の管理・運営技術を継承する人材の不足を問題視する。70代の作業員が山道を車を走らせて通い、牛の管理をしているような牧場もある。牧場作業を引き継ぐ若い世代は全国的に育っていない。農村での人員・人材の不足は公共牧場に限ったことではないが、広く畜産の生産基盤を担っている施設であるだけに、早急に担い手を確保したい。そのためにも、新たな事業展開と活用方法を考えたいところだ。
若い人を引き付けるには魅力的な職場づくりが欠かせない。厚生労働省などの調査では、若い世代が仕事を選ぶ尺度として、収入を重視する傾向が高まっているが、一方で社会貢献に関心を持ち生活の楽しさを追求する人も多い。牧場の施設を生かして楽しい仕事や社会貢献ができれば、関心を持ってもらえる可能性はある。
酪農ヘルパーをしながら多くの酪農経営を観察して技術を身に付け、酪農経営で自立したときに学んだことを生かすように、公共牧場で働けば放牧技術を学べる。国内外の先進地で研修を受けられるような制度も作れば、将来の放牧を志す若者には魅力が増すかもしれない。
施設を生かし、自ら生乳や肉牛、飼料作物の生産・販売を手掛ける公共牧場や、ふれあい牧場や観光事業に結び付けるケースもある。将来ビジョンで魅力ある仕事と環境を目指すことで、公共牧場の技術を引き継ぐ若者も引き付けてもらいたい。
2018年04月24日