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法的権利よりも沈黙を選んでしまう同性カップルの心情

時代を進めていくために、いまなにが必要なのか

同性カップルの不利益を問う直球の裁判始まる!

4月26日、同性パートナーの遺産の引き渡しなどを求める訴訟が大阪地裁に起こされたという報道に驚きました。日本で「同性婚」を問う、こんな直球の裁判が起こされるとは予想してなかったからです。

報道内容によれば、

  •  原告男性(69歳)のパートナー(故人)は8歳年上の男性。1971年ごろから同居し、自営事務所を設立。パートナーが代表だが、実際には男性だけが働いて生計を立てていた。
  •  パートナーは前立腺がんなどで度々入院し、男性は毎日見舞いに訪れていた。
  •  相続問題に備えて養子縁組も検討していたが、2016年3月に心臓発作で急死した。
  •  親族は、男性が葬儀で家族席に座ることや火葬への立ち会いを拒否。事務所の賃貸契約を解除したり、パートナー名義の通帳を持ち出したりし、事業の閉鎖を余儀なくされた。
  •  遺言はないが、男性側は「相手が亡くなった場合は全財産を相続する」と13年ごろに口頭で合意したと主張。
  •  親族に慰謝料700万円の支払いと財産の引き渡しを求める。

同性カップル間での婚姻制度がないため法定相続がなく、死亡時には(往々それまで疎遠だった)親族が現れて財産を持っていってしまう話はしばしば聞かれ、同性カップルの典型的悲劇の一つとされています。

これに対し、立法の場で進捗が見られないなか、司法で問う必要が言われてきましたが、裁判をどう構成するかは悩みでした。婚姻届を出し、(予定通り)不受理になり、その取り消しを争うなども、訴えの利益がなく却下(門前払い)される懸念があります。

訴訟の前哨戦とするべく、現在、日弁連に対し、「同性婚人権救済申し立て」が取り組まれているところです(2015年7月7日、申立人454人)。

同性カップル間での相続には従来、①遺言を作成する、②養子縁組をする、などの対策が知られてきました。婚姻でき、同性間でも法定相続があるなら、あえてとらなくてもいい方策です。

今回は遺言もなく、一見、「無理筋」な訴えの感はあります。しかし、あえて直球で挑むこのケースには、悲しい事態に至ってしまった当事者がいたからではありますが、私はコロンブスの卵的な驚きを禁じ得ませんでした。40年以上のパートナーシップを否定され、最後の別れすら満足にできず、さらに生活の糧をも奪われる事態に至った原告男性の心中はいかばかりでしょう。

私は裁判のなかで、裁判所がどのようなことを述べるのか、そこにこそ注目したいと思います。判示はかならずや、立法を推進するちからとなると信じます。司法の場へ、「これ、どうしてくれるんや」と問いかけた弁護士のみなさん、そしてなにより悲しみをふるって訴えを起こされた原告男性に、心からの敬意を表します。

同性婚がないなかでもできることを伝える

多くのメディアが伝えたこともあり、本件はネット上でも話題となりました。そのなかには「40何年も一緒にいながら、なんで遺言作ったり養子縁組したりしないんだ」と疑問視ーー否、「なじる」声さえ散見されました。人はいつも、できたことを後から言うものです。

また、昨今のネット論士の傾向を反映してか、

「講演が多いLGBT講師も、キラキラした話や、逆に病院で会えない、相続できないといった不幸話ばかり語らず、法的対策法も説いたらいいのに」

「同性婚ばかり求めて、いまできることを言わない夢見派?」

「やっぱり自治体の証明書なんて意味がない」

など、ここを先途とマウンティングに余念がありません。

この人たちは知らないだけなのでしょうが、コミュニティのさまざまな人がーーとくに弁護士など法律家を中心にーー法的対策についての解説を発信し、すでに書籍や雑誌特集も何冊も出ています。

弁護士会の電話相談など、無料の専門相談ラインも各地で実施されていますし、検索すれば対応する法律事務所も増えています。

不肖、私も2000年代からライターとしてそうした情報を著書で発信し、現在は行政書士として、またNPO法人 として、同性パートナーシップの法的サポートや、講座の開催や相談で情報提供にあたってきました。

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たしかにこうした法的情報は、テレビをつければいつでもやっているとはいかず(某Eテレ等で毎回3分の一口情報コーナーとかやったら人気になる?)、自分から探さないと手に入らない情報かもしれませんが、多くの先人たちが研究とその発信を重ねているのもたしかなのです。

法的婚姻の適用がない同性パートナーシップを営む人は、自分たちを守る法的手段について正確に理解し、実行する勇気をもっていてほしいのです(事実婚男女のかたにも言えます)。

それと同時に、いささか矛盾するようですが、それがなぜ実行できないのか、今回の訴訟に踏み切ったかたはなぜ対策をとることが間に合わなかったのか、その背景についても、私の行政書士業務のなかで気づいたことをお話ししてみたいと思うのです。

同性カップルなら知っておいてほしい書面の知識

婚姻とはなんでしょう。人は婚姻することで、なにを得たいのでしょう。私は婚姻で得られるものをつぎのように説明しています。

  1.   二人の関係への社会的な承認・証明
  2.   病気や老後に相手を世話する立場(財産管理の代理権や身上監護権)
  3.   亡くなったときの財産承継

証明、世話、相続----婚姻はそれが紙1枚の提出でできるとイメージしてよいでしょう。でも、それができない人はどうしたらよいのでしょう。

おたがいに世話することは合意や委任といった契約ですし、死後に財産を渡すことは遺贈です。それらに応じた書面を第三者にもわかるように作成しておくことで実現できますし、そこまで書面を作成している関係は社会的にも尊重されるべき間柄でしょう。

婚姻と同様の状態は、きちんと書面を作成すれば、いまここで実現できるのだということは、なにがなんでも頭に叩き込んでおいてほしいのです。

今回の原告男性の場合、亡くなったときに備え遺言を作成しておかなかったのは残念でした(責めているのでないことは、最後までお読みいただければわかると思います)。遺言では、まず自分名義の財産の承継についてパートナーへ指定することができます(遺贈)。税金がかかる場合も、贈与税ではなく相続税で計算がされます。

お葬式が問題になっていますが、祭祀主宰者の指定をすることで、むしろこちらが葬儀や埋葬の主導権をとることができます。親族からの抵抗が心配な場合は、弁護士などを遺言執行者に指定しておけば、すでに亡き自分に代わって強力な助っ人となってくれるでしょう。

遺言はほかにも、小さな子どもがいる場合、パートナーを未成年後見人に指定しておくことで、親権者に準じる立場を保証し、親族の介入を防ぐこともできます。

家族として相手を世話するにあたって法律は、自分に判断能力がある場合と、認知症などで判断能力が失われた場合とで区分けして考えます。自分で自分のことがわかる、相手に委任しても自分の判断でそれを撤回できるーーそれが契約の前提です。

しかし、判断能力が失われた場合、原則、お任せしっぱなしです。判断能力のないときあなたに任せますという契約を任意後見契約といい、そのための法律があります。重大な契約ですから、公正証書という重い書式で行なうことになっています。

それ以外の場合については、あらかじめ相互に委任契約書を交わしておくもよし、つどつど委任状を書くもよし、二人でパートナーシップ契約を合意するもよし、病院での対応にだけは備えておくもよし、いろいろな方法が考えられます。

家族や配偶者という漠然としたくくりで認められていることを、きちんと内容を明らかにし、権限を委任しておくのが書面の役割です(とはいえ、金銭や契約などの代理は本人の意思確認が厳格化されており、男女夫婦でも窓口等では本人確認や委任状が求められます)。

書面と時間との関係を表にしたのが下図です。

これらを公正証書にすることがあります。公正証書は、公証役場で公証人という公務員に申述して作成してもらう書面のことで、公文書として扱われ、高い信頼性が認められます。それ以外は弁護士が作ろうが私文書です。

任意後見契約は公正証書ですることが法律で決まっていますし、遺言もおもに、自筆で作るか公正証書で作成するかの方法が選ばれます。公正証書はそれだけ費用がかかることは言うまでもありません。

ちなみに、上図でパートナーシップ契約書と任意後見契約書を公正証書で作成していれば、「健やかなるときも、病めるときも」、長く添い遂げる意思を確認できるということで、渋谷区は婚姻に相当する関係と認めて「パートナーシップ証明書」を発行します。

もっとも、私はなぜこの二つの書面だけが「婚姻に相当する」関係の証なのか、それ以外の書面ではなぜ証にならないのか、疑問に思っていますが……。

もう一つ、書面作成以外に養子縁組するという方法もあります。二人のあいだで縁組してもいいし、相手の親と自分が養子縁組し、パートナーと法律上のきょうだいになることもあります。1枚の戸籍に収まる信頼感がありますが、書類上の名字をすべて変更しないといけないとか、年上が先に亡くなる場合は順当でも、養子側が先に亡くなる逆縁の場合、実親と養親の3人が相続人になるなど、若干の注意が必要です。

なぜ書面作りに踏み出せないのか

私は、同性婚法や差別禁止の法制もないこの日本で、同性カップルとしての暮らしと財産を守るためにいまできることを求め、書面やライフプランについての情報を発信してきました。2013年に行政書士の資格を得て、14年以後、実際に同性カップルの書面作成にもあたるようになりました。

依頼者さまから、「安心できた」と喜びの声をいただく一方、みなさんのお話しから、逆になぜ書面作成に踏み切れない人がいるのかも見えてくる気がします。相談のなかから感じた当事者の実情、そして課題といったものを述べたいと思います。

まず、この4年余りで当事務所の同性カップル書面の作成は約35組です。金銭的負担もありますし、他の先生がたはわかりませんが、それ専業とできるほど多いわけではありません。

内容的には、遺言や任意後見などフルバージョンで作成するかたから、パートナーシップ契約書のみ、さらに病院のことは心配だからと、私が作成する医療の意思表示書だけのこともあります。渋谷区のパートナーシップ証明書の発行数は現在28組だそうですが、そのうち5組のかたの公正証書を作成、証明取得のお手伝いをさせていただきました。

もちろん、ガチなパートナーシップ保証だけというより、外国人パートナーの在留資格であったり、住宅手当申請の証明とするための2人間での賃貸契約書作成であったりと、実際の作成内容はそれ以外にも及び、あるいは逆に相談のみで終了されるかたもいます。

この間をふりかえってまず思うのは、圧倒的に女性カップルが多いということ。一般的に女性のほうが堅実とか長続きすると言われますが、書面作成もその傾向があるようです(LGBT業務で、男性/女性といっても意味がないのですが。苦笑)。

作成の契機は、40代になったからとか、パートナーシップが10年を迎えたから、という声をよく聞きました。男女の法律婚が、「おつきあい」「同棲」に区切りをつけ、早い時期に届出したり挙式したりして夫婦という公的関係になるのに対し、同性カップルの場合はいつまでも「おつきあい」「同棲」が続くのかもしれません。

それに対して、責任感がないという声があるかもしれませんが、自分たちの関係が社会的に認められるという承認経験が乏しく、また長く着実に暮らしつづけるカップルのモデル像を学ぶ機会がほとんどないからかもしれません。

ともかく、同性愛者のほとんどは異性愛者の家庭に生まれ育つわけですから、父母はモデルとなりにくいのです。

法的に有効でも、むしろ沈黙を選ぶ当事者

そのうえで、最近気づいたことがあります。

私は上述のように、同性婚がないなか現行法で優先されがちな親族への対抗として書面作成の必要を説いてきました。現在は本人の自己決定が尊重される時代であり、相続や課税、刑事手続など法で親族が指定されている以外は、パートナーへきちんと委任し周囲にもわかる書面にすることでほぼ希望が実現されるからです。

しかし、それゆえに書面の作成に踏み切れない人たちもいるのです。

「先生がいうように、遺言や書類を作成すれば乗り切れることは私たちも知っています。でも、親族にはこれまでずっと秘密にしてきた手前、そこで遺言を持ち出すということは、こいつがじつはゲイだったと明かすことにもなる。ずっと隠してきたのなら、俺も最後まで隠し通してやろうと思う」「それがあいつへの本当の供養」

それではあなたはこの家や彼名義の財産を失うかもしれないけれど……と問う私に、それはしかたがない、と言うのです。

振り返れば、来所して書面作成をしたかたは、意外に両親をはじめ身内が事情を知り、理解もしてくれている人が多かった。

若いカップルなど、「彼女と付き合っていると話したら、そういうときは公正証書を作るんでしょ、と親に言われたので来ました」とか、「二人で家を買うと相談したら、親に遺言を作成しておきなさいと言われたので来ました」というかたもいて(その親たちは、すでに私より年下の場合もありますが)、時代の変遷を感じたものです。

また、熟年ゲイがついにご老母へカミングアウトしたら、ぜひ相手の人を連れてきなさいと、まさかの反応をもらい、親族の食事会の日までに書面作成したいというかたもいました。親類が揃った食事会では、ふだん見慣れない委任契約と任意後見契約の公正証書を回覧し、その詳細な内容に感心されたそうです(さすがに遺言公正証書までは見せなかったそうですが)。

書面は、親族に秘密裏に作成するものではなく、私の事務所ではカミングアウトを前提として、その有言無言の後押しがあってはじめて作成へ踏み切れている人が多かったことに、いまさらながら気づきました。

たしかに突然、書面だけが出てくれば、たとえ法的には有効でも、混乱や紛争が起こる。ゲイとも知られる。ならばやめる……と思うのもむべなるかな、です。

これはたとえ同性婚ができてもおなじことで、親族の理解がないところで婚姻に踏みきる人は少ない。婚姻はカミングアウトにほかならないからです。

最初の裁判の話に戻りましょう。男性は相手親族とは、火葬場の立会いさえ拒否される関係性のなかで、だからこそ事前に書面を作るべきというのも一理ですが、だからこそ踏み出せなかったという現実もあるのでしょう。

しかし、原告男性はことここに至って(パートナーの死去から2年もたって)、裁判をする決意をしたのです。記者会見で男性は、「同性カップルへの差別は歴然と存在する。誰かが声を上げないと状況は変わらない」と述べたそうです。

この裁判が法整備への一歩となってほしいことはもちろんですが、制度ができてもその利用をためらわせることのない社会へと変わる一歩となってほしい。私も心からそう願っています。

【永易 至文(ながやす・しぶん)】NPO法人事務局長、ライター、行政書士

1966年、愛媛県生まれ。1980年代後半よりゲイコミュニティーの活動に参加。ライター/編集者。行政書士NPO法人パープル・ハンズ事務局長。当事者の生活実感に即したゲイ/性的マイノリティーの暮らしや老後の法的・実践的サポートをライフワークとする。


BuzzFeed Japanは東京レインボープライドのメディアパートナーとして2018年4月28日から、セクシュアルマイノリティに焦点をあてたコンテンツを集中的に発信する特集「LGBTウィーク」を実施中です。

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