「ゲーム脳」ご注意 毎日2時間以上で、前頭前野が働かず--森・日大教授が確認
2002年7月8日


 ◇「キレやすい」「集中できない」「つきあい苦手」--脳波測定実験で、日大教授が確認

 人間らしい感情や創造性をつかさどる大脳の前頭前野の活動が、テレビゲームをする時に目立って低下することを、日本大学文理学部の森昭雄教授(脳神経科学)が脳波測定実験で突き止めた。今秋、米オークランドで開かれる米神経科学会で発表する。ゲーム時間が長い人ほど低下の程度が大きく、ゲームをしない時も活動レベルが回復しないことも分かった。森教授は「ゲーム脳」と名づけ、「情操がはぐくまれる児童期にはゲームの質や時間に気を配ってほしい」と警告している。

 昨年から今年にかけ、6~29歳の男女240人を対象に実験した。脳波のうち前頭前野の活発さや緊張度合いを示すベータ(β)波と、安静時によく出るアルファ(α)波の2種類を調べる電極を額につけてテレビゲームをさせ、その前後の波形の現れ方を調べた。ベータ波が健全(活発)な方から、ノーマル脳▽ビジュアル(視覚依存)脳▽半ゲーム脳▽ゲーム脳――に分類した。

 ほとんどゲームをしない人は、ベータ波が常にアルファ波よりも強く出て、ゲームを始めても二つの波はほとんど変化しなかった(ノーマル脳)。週3~4日、1回1~3時間ゲームをする人は、ゲーム前は二つの波の強さがほぼ同じで、ゲームを始めると、ベータ波の活動レベルが極端に下がり、アルファ波を下回った(半ゲーム脳)。毎日2~7時間ゲームをする人は、ゲームをしなくてもベータ波は常にゼロに近く、前頭前野がほとんど働いていないことを示した(ゲーム脳)。

 240人の内訳は「半ゲーム脳」がもっとも多く約40%、他の3タイプは10~20%ずつだった。

 背景について森教授は(1)ゲームでは視覚と運動の神経回路だけが働き、「考える」ことが抜け落ちる(2)ゲームを長く続けると、前頭前野の活動低下が慢性化する(3)テレビなどの視覚刺激になれた人(ビジュアル脳)は「ゲーム脳」に移行しやすい、と考察した。

 また、実験対象者に対する聞き取り調査で、「ゲーム脳」の人に「キレやすい」「集中できない」「友達づきあいが苦手」という自覚が多いことも判明した。

 森教授は「テレビゲームは緊張や恐怖心をあおるものが多く、自律神経などへの影響も心配だ。子供時代はゲームではなく、外で友達と遊ぶことが一番だ」と話している。【元村有希子】

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 ◇前頭前野

 大脳の最前部の額の辺りに位置し、人間の「個性」を決める場所といわれる。本能をつかさどる視床下部や古い皮質などの働きを抑制する機能がある。イヌやネコなどには見られずサルにもわずかにあるだけで、前頭前野が未発達だったり損傷を受けると、行動が子供っぽくなったり感情がコントロールできなくなる


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