「音楽業界の新たなモデルを目指して」話題の社長アーティスト Pinokkoに聞く
- 取材・文 藤村はるな
- 2018年5月3日
北野武や小泉今日子、満島ひかりなどを筆頭に、かつては芸能事務所に所属していたタレントやアーティストたちが、個人事務所設立や事務所を離れ、フリー宣言する動きが目立つ。
そんななか、今年4月に自身で立ち上げたレコードレーベル「HAWHA MUSIC RECORDS」からデビューしたのが、歌手のPinokko。
実は彼女は、それまで「里咲りさ」の名義で活動するアイドルだった。アイドル通で知られる吉田豪氏や掟ポルシェ氏などにも絶賛され、「いま一番面白いアイドル」として多くの支持を集めてきた。
早稲田大学に入学するも、自身の学費を稼ぐためのアルバイト生活に明け暮れ、「このまま疲弊しながら大学に通う意味が見いだせない」として、2年で退学。その後は、自身がプロデュースするレコードレーベルのアイドル育成資金のために、100円のタオルにサインをしてファンに1000円で販売するなど「ぼったくりアイドル」としても注目を集めた。
昨年にはZeppダイバーシティ東京で、フリーのアーティストとして初めての単独ライブを決行。レコードレーベルの立ち上げからアイドルのプロデュースまで、あらゆることをDIYするその精神やビジネスセンスから「しゃちょー」との愛称で親しまれてきた。
そんな彼女が、今年4月に突然活動停止を発表。4月23日から「Pinokko(ぴのっこ)」と名義を改め、新たにレーベルを設立した。「イチから新しい気持ちで出直したかった」と語る彼女に、現在の思いを聞いた。
「安定」を捨てないと、ワクワク感は得られない
――Pinokkoさんは自身で立ち上げたレーベルからこの度デビューされました。名義変更のきっかけはなんだったんでしょうか。
Pinokko これまでの名義ではやりたいことをやり切ってしまった気がしたんです。18歳からこの仕事を始めて、最近はおかげさまでライブもコンスタントに呼ばれるし、ありがたいことに、お仕事も苦労せずに入ってくるような状態が続いていたんです。
でも、なんだか「あれ、このままだと数年後にはおもしろくなくなっていくぞ」って予感が強くなってしまって。この状態は自分にとって、そしてなによりも応援してくださってるファンの方にとってよくないなと。私が一番好きなことって、誰もやったことがない新しいことをやることなんですよ。でも「新しい形のアーティストモデルに挑戦したい」って思っているのに、「このままの状態でいた方がいい」って気持ちも強くあって、数ヶ月、躊躇し続けてたんです。でも、守りに入るからこそ、ワクワク感が得られない。そこで今回「大変なのは承知の上、やってみたいんだから、やってみよう」と思って、改名に至りました。
――ちなみに、「Pinokko」の名前の由来は?
Pinokko 半年くらい前に何気なく父に「今は楽しいし充実してるけど、このままの自分で進んだらアーティストとしての数年後がない。この際、思い切って名前変えようかな」というような話を、冗談半分でしていたときに、父が紙を出してきて『Pinokko』と書いて「これがいいよ」と。最初、大爆笑しちゃったんですけど、数日後、お風呂に入りながら考え事をしているときにその名前を思い出して、湯気で曇ったところに書いてみたんですよ、Pinokkoって。ピンときて。「よし、ここからはこれでいくぞ!」と。
理想は、ラジオのMCとリスナーの関係性
――でも、せっかく軌道に乗っているアーティストとしての立場を名義とともに捨てる、というのはなかなか思い切った決断でしたね。
Pinokko 何かとてつもなくインパクトのあることをやりたいなと思ったんです。昨年の年末、実は私はメジャーレーベルの会社さんにFA宣言して「私と契約してくれるレーベルさんはいませんか?」と募集をかけたんです。
結果、いろんなレーベルさんに手を挙げていただいて、なかには行きたいと思う会社が数社あったんです。でも、いろいろと先方と交渉をしたり、自分なりに考えたりした末、私は思いついたことをすぐに実行したい人間なので迷惑をかけてしまいそうだったし、やはり大きな企業に所属すると、それだけいろんな人が介在して、自分のやりたいことがぼやけてしまう気がしてメジャーにはいかなかったんです。でも、同じ場所に何年も留まるわけにはいかない。そこで、自社レーベルのチーム体制の強化を軸に、数年後を見据えた新しい展開を仕掛けたらもっとおもしろいことになるんじゃないかと考えました。
――大手に所属するメリットよりも、自分でレーベルを立ち上げて活動するほうが楽しそうだな……と思われたんですね。
Pinokko そうですね、自分にあったスタイルを作って、そこをフィールドにして活動していきたかったんです。あとは、アーティスト自身が社長を務める少人数の会社ならば、使ったお金がどこに流れているかも明確にわかるからこそ、ファンの方にも変な心配をさせずに済むと思いました。
――事務所に所属していると関わっている人が見えづらいので、「悪い大人たちに搾取されているのでは」と不安を抱かせることもありますからね。
Pinokko あと、メジャーレーベルに所属しなかった理由のひとつとして、ここ数年でアーティストとファンの関係性が変わりつつあると感じたのも大きかったですね。
――それはどんな変化ですか?
Pinokko 昔のアーティストとファンの関係性は、発信するアーティストとその情報を受けるファンという、どちらかというと一方通行な関係性だったと思うんです。でも、いまの時代は、個人もSNSなどで発信力を持っているし、ただの受け手としてではなく、よりアーティストと関わって、一緒に楽しむ場を作りたいという人が多いと思うんです。
だから、アーティスト側も見ている人たちに「応援したい」「この人が好きだ」と思ってもらうだけじゃなくて、「一緒に楽しめるアーティスト」を目指すべきだなと思って。わかりやすくいうと、ラジオのMCとリスナーの関係みたいな形でしょうか。ただ聞くだけじゃなくて、リスナー自身が「こういうネタを送ってみよう」と参加して、楽しめる場を作れるような感じが理想です。
本人がワクワクしないものは、ファンもワクワクしてくれない
――アーティストとファンが、より双方向でコミュニケーションをとれる関係性を目指してるんですね。
Pinokko そうですね。フリーのアーティストでも簡単に発信ができる上、ファンの方の反応を見たり、いろんなやりとりをする流れが生まれつつあります。だから、時代に合った活動を私たち世代のアーティストたちが、どんどん作っていくべきじゃないかなと。そして、その環境を実現するうえでは、「自分がこれがいい」「これがやりたい」と思ったら、臨機応変に実現させるフットワークやスピードも大切だと思っていて。それは関わる人が多い大企業ではできないことじゃないかと思っています。
また、一方で、ネット上での露出が増えた分、ウソや本音がこもっていないものは通用しない時代でもあります。アーティスト本人がワクワクしていないものを作ってもダメなんだなと。まっすぐに自分自身が楽しんでいるという気持ちがないものは、見透かされてしまいます。だからこそ、「大人の事情」は無視して、本音で自分がやりたいことだけをやっていきたいし、じゃないと楽しくありませんから。こういう取り組みをしているアーティストは、まだまだ少数だと思うので、今までより、もっと圧倒的な形で実現させられたらな……と。
――従来とは違う、新しいアーティストの在り方という気がします。
Pinokko 私みたいな動き方は、おそらく15年前だったら成立しないと思うんです。でも、これだけSNSや発信のプラットフォームが増えつつあるなか、企業をはさまず、より個人が全面に出たアーティストたちは、これからももっと増えていくんじゃないかなと思います。
MVから宣伝まで、すべてを手作りにしたい
――昔から、「DIYアイドル」と異名をとるほどプロデュースからレーベル立ち上げまで、すべて自分でやられることでおなじみでしたが、Pinokko名義になってもそのスタンスは変わらずですか?
Pinokko むしろ、余計に強くなりました。これまで以上に、自分の作品や宣伝に細かく携わっていきたいなと。これまでは、映像は企画から委託することが多かったんです。
でも、現在は自分の意志をもっとダイレクトに反映させるために、映像も音楽もすべて自社で完結させています。なので、HAWHA MUSIC RECORDSはレコード会社でありながら制作会社でもあるので、外注も受けられるような体制になっています。制作会社としても機能させたいです。あと、新しいHPは私自身が作ってます。コードを書いたり、ウェブページをデザインしたりすることは、結構楽しいです。
――最後に、これからの一番の目標を教えてください。
Pinokko ラジオが好きなのでラジオのレギュラーを増やしたいです。あとは、ただ音楽をたくさんの人に聴いてもらいたいだけですね。でも、CDを20万枚は売ってみたいという気持ちもあります(笑)
【動画】今年4月にPinokko名義で発表した初の新曲「Trend」。現在公開5日で10万回再生を記録した。また同曲を収録したデジタルシングル『Resuscitation』は、ototoyにて現在限定無料配信中
――いまの時代、メジャーレーベルに所属する有名アーティストでも3万枚売れればヒットといわれる時代に、20万枚という目標はすごいですね。
Pinokko そうですね。以前はよく「インディーズで3000枚売れたならすごい」と言われてたんですけど、インディーズだから、という言い訳は、Zeppでワンマンをやったあとの今ではもう通用しないなあと。これだけCDが売れない時代だとは言われていますが、「思わず買いたくなるような楽しい仕掛け」を作れば、みんなCDを買ってくれるんじゃないかと思っていて。
――どんな仕掛けですか?
Pinokko それはまだ内緒です! でも、できればインターネット上ではPinokkoの曲は全曲無料で聴けるようにしておきたいです。もう無料でいいじゃんって思ってきちゃって。人気があればスポンサーを付けて音楽を作ることもできます。まっすぐな気持ちで音楽を作りながら、がんばっていきたいと思います。
<プロフィール>
Pinokko(ぴのっこ)
1992年9月25日生まれ。群馬県出身。幼少期からシンガーソングライターを目指し、自身で作曲に取り組む。早稲田大学文化構想学部に現役入学するが、大学2年に事実上退学。その後、家電量販店の専属アイドルなどを経て、アイドル「里咲りさ」として活動。2014年にレコードレーベルのフローエンターテイメントを立ち上げやアイドルグループ「少女閣下のインターナショナル」を旗揚げ。今年4月に「Pinokko」への名義変更を発表。それと同時に、自身のレーベルHAWHA MUSIC RECORDSを立ち上げ、社長に就任した。4月23日には初のデジタルシングル『Resuscitation』もリリース。
https://ototoy.jp/_/default/p/101402
すきなことはおしゃべり。すきなものはラジカセとギターとCD-R。特技はひよこのお絵かきと営業。趣味はガチャガチャ。身長155.5cm / 体重44.4kg
HP : http://pinokko.jp
Twitter : @hawhashacho
Instagram : @hawhashacho
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