集団的に自衛するTOKIO
もう4年近く前になるが、安保法制が議論されている頃に、集団的自衛権と引っかけて「集団的に自衛するTOKIO」というタイトルの原稿を書いた。その時点では、自分のタイトル付けに酔いしれたものだが、こうして時間が経過してみるとちっとも面白くない。TOKIOの連帯感は、無条件に人を巻き込むパワーがあるから、当時、自衛官募集のCMを担当していたAKBよりもTOKIOを使ったらいいのでは、などと記したのだった。山口達也の強制ワイセツ発覚を受け、各種報道が、福島復興や東京五輪など公的な方面にも迷惑がかかっちゃってますと伝え、メンバーのそれぞれがお通夜のようなスーツを着込んで謝罪する姿は、長年の「集団的な自衛」が崩れる光景にも思えたが、逆に、これからも「集団的な自衛」を継続していく決意のようにも思えた。どっちなのかは、現時点ではわかるはずがない。2日の14時に4人が会見を開くというが、なぜ4人が責任を負わなければならないのだろう。
健康的な上下関係などあるのか
2014年、24時間テレビのマラソンに臨み、〝毎年好例の〟放送時間ギリギリでのゴールを達成しようとする城島茂のもとへ、サプライズでTOKIOのメンバーが登場した。路上で城島を囲むようにして併走し、日本武道館の入口まで辿り着くと、あとは1人で行けと促し、他のメンバーは会場には入らなかった。その理由を羽鳥アナが放送終了直前に明かす。「今回は(メインパーソナリティを務めていた、後輩の)関ジャニ∞の24時間テレビだから、オレらが出ていってはいけない」との理由だった。
芸能界の内部を知らなくても、芸能界という世界では上下関係が異様に厳しいらしいことを知っていて、セクハラでもパワハラでもハラスメントを乗り越えてこそ一人前だとされる世界だと、なぜだか理解してしまっている。外野の私たちまで放任している異様さの中にあって、TOKIOの5人は、いいや、上下関係にも健康的なものだってあるんだぜ、という例示を続けてきた。今回、その例示が崩れた。女性への行為ももちろんだが、山口が会見で「TOKIOにまだ席があるのであれば……やっていけたらな」と述べてしまったことにメンバーが憤怒したのは、健康的に見えた上下関係もまた、芸能界ならではのパワーバランスに依拠していたと強烈に臭わせてしまったからではないのか。
「Kissされたら、トイレに行ってうがいして」
お酒の問題を抱えていた山口に対して、とにかくちゃんと治療してこい、との声が飛ぶ。確かに治療したほうがいい。アルコール依存症のしんどさが語られる。だが、なぜ「アルコール依存」と「女子高生を呼び出して強引にキス」がスムーズに連結されてしまうのだろうか。「いっつも酒飲んでる」と「女子高生に無理やりキスしちゃう」には飛躍がある。「女子高生に無理やりキスはダメだ」と苦言を呈した後に、議論が「やっぱりお酒の問題を治さないと」に移行して終わる報道が多かったが、その2つって、絶対的な因果として提示すべきではない。
デヴィ夫人の軽薄なブログが、まさにその通りの展開をしていた。「“許されない行為”と言っているけれど、本当にそうでしょうか。泥酔男性のKiss位で? この女の子達は山口達也氏の所だから行ったんでしょう」「Kissされたら、トイレに行ってうがいして『ちょっと失礼』と言って2人で帰ってくれば良かったわけじゃないですか」「山口氏は確かにアルコール依存症。これはしっかり直さなければいけませんね。しかしこれでは山口氏が気の毒すぎます」。
ここに、『バイキング』(4月26日)での俳優・中条きよしの発言「高校生2人行ったら、蹴飛ばしてでも逃げられるし帰ってこれるでしょ」「行かなきゃいいじゃない」を付け加えてみる。芸能界で圧倒的な力を持つ46歳の泥酔男に呼ばれた女子高生は行かなきゃよかったんだし、キスされても蹴飛ばすか、うがいをしたらいい、ということになる。どうかしている。どうかしている理論をはぐらかすために「でも、お酒は治さなきゃね」というフォローが登場する。
「アルコール依存症」に避難させている感じ
今件は、まず山口の問題である。問題行動を起こした山口に、お酒の問題が更に付随している状態である。これはお酒の問題だ、とシンプルにカットする働きはズルい。シンプルにカットするなら、お酒の問題をカットして、山口の問題を残すべきである。私はお酒をほとんど飲まないので、日々、津々浦々の泥酔者が辛うじて守っているリテラシーを冷静に見届けている。泥酔者が繰り広げる光景は押し並べてうざったいが、その光景と、未成年への強引なKissを延長線上には置かない。デヴィ夫人は「泥酔」と「強引なKiss」を横に並べて繋げているが、それは横に並べてスムーズに繋げるものではない。武田鉄矢は「身体治して、戻ってきてほしいなあ」と言う。間違っている。「ついお酒を飲んでしまい、女子高生を誘ってしまった」状態から「ついお酒」を引き算すれば全てが解消するかのような期待感が漂うのだが、お酒を引いても「女子高生を誘ってしまった」が残る。
ジャニーズの方々を見ていて、とても大変そうだなと思うのは、彼らが付き合っている女性と結婚するかどうか探られる時に、(実際に事務所がどういう判断をしているのかはひとまず保留するが)報道として、「結婚を許された」との表現が出ることだ。「東京五輪の2020年は、嵐にとって結婚の許しを得る勝負の年だ」(『FLASH』 2017年3月21日号)、「岡田の結婚が許された背景には、」(山田美保子『NEWSポストセブン』2017年12月24日)といった具合。個人の恋愛感情、その中でも最も大きな判断が、個人以外の部分に握られているとの前提に立つ報道に対し、ファンがブチキレている様子はない。どうしてキレないのだろうか。結婚の判断を組織に制約されるって、その個人にとって、とても酷なことだ。
未成年を含む少女たちに「恋愛禁止」というルールを課す中年たちもいるが、男女問わずアイドルという職業がそういった感情を個人で抑え込まなければならない職務だとしたら、それって、アルコール依存と同様に改善すべき点だと思うのだがどうか。推察を重ねてしまうが、(「の」が続く悪文ですが)思春期の感情の抑制の強要って、中年になっても影響してくるのではないか。集団的に自衛してきたTOKIOの健康的な上下関係をぶっ壊したのが、「女子高生とKissしたい」という感情だったのが極めて残念だし、それを今度は「アルコール依存症」という大きな問題に緊急避難させてうやむやにしちゃおうとしている感じが解せない。
(イラスト:ハセガワシオリ)
『日本の気配』(晶文社)刊行記念
トークイベント&サイン会
日時:5月17日(木)18:45開場 19:00開始
出演:青木理、武田砂鉄
会場:ブックファースト新宿店地下2階Fゾーンイベントスペース
定員:先着50名様
入場料:500円
お問合せ:ブックファースト新宿店03-5339-7611
http://www.book1st.net/event_fair/event/page1.htm...
※トーク終了後にサイン会を行います。サインご希望の方は『日本の気配』をご持参いただくか、当日会場にてお買い求めください。
「最適予測からはみ出すには・最適解を探すことをやめるには」
若林恵 × 武田砂鉄 トークイベント
日時:5月29日 (火) 18:30開場 19:00開始
定員:110名
会場:青山ブックセンター本店 大教室
料金:1350円(税込)
お問合せ:青山ブックセンター 本店 03-5485-5511
http://www.aoyamabc.jp/event/optimum/