ボラQ120:形容詞を教えるときに、「~い」で終わっているものはイ形容詞で、そうでないときはナ形容詞だと教えたら、「きれい」や「嫌い」は「~い」で終わっているのにイ形容詞ではないけれどどうしてかと聞かれて困りました。何かイ形容詞とナ形容詞の見分け方のようなものはないのでしょうか。
ボラとも先生A120:以前の記事(No.116)ではイ形容詞とナ形容詞を見分けるのは難しいと書きましたが、実はイ形容詞とナ形容詞にはいくつか特徴があります。ただ、この特徴はある程度その単語の語源や由来を知らなければならないので、初級レベルの人にとっては実用的ではありませんが、一応紹介しておきます。
まず、いちばんはっきりしているイ形容詞の特徴は、「いい」「悪い」「高い」「暑い」のように必ず「~い」で終わり、日本語の基本的な形容詞を表す“和語”が多いことです。ちなみに、動詞「ある」の否定の「ない」もイ形容詞です。
また、「楽しい」「悲しい」「うれしい」「苦しい」など、「~しい」で終わるイ形容詞は古文の「シク活用」を引き継いだもので人の感情を表す語が多く、そうでない「高い」「安い」「長い」「短い」「高い」「低い」「安い」などは古文の「ク活用」を引き継ぎ、物の状態を表す語が多いそうです。『大野晋の日本語相談』(朝日新聞社)pp.232-235参照。
ただし、「新しい」「難しい」「忙しい」「易しい」「涼しい」のように「~しい」で終わっても物の状態を表したり、「憎い」「ひどい」のように「~い」で終わっても人の感情を表す例外があるので、語尾の「~しい」と「~い」の絶対的な区別はないようです。
それに対して、ナ形容詞は「元気」「親切」「便利」など、“漢語”が多いのが特徴です。ボラQ120さんが例として挙げられた「きれい」も、普通は平仮名で書くので和語のように思いがちですが、本来は「綺麗」という漢語だったことからナ形容詞になっているわけです。
そのほかに「有名」や「丁寧」や「心配」も「~い」で終わっていますが、漢語であるためにすべてナ形容詞になっています。ただ、少数ながら「四角い」など、漢語でありながらイ形容詞であるものもないわけではありません。
また、「ハンサムな」「クールな」「ユニークな」「ロマンチックな」などの外来語も基本的にナ形容詞になります。例外的にイ形容詞になった外来語がありましたが(1980年の『現代用語の基礎知識』にも掲載された流行語「ナウい」)、この言葉も最初は「ナウな」というナ形容詞でした。ただし、現在は「ナウい」も「ナウな」も死語になっています。
漢語も外来語も本来の日本語(和語)ではないことから、和語でないものがナ形容詞なると言えそうですが、「嫌い」や「静か」などは和語なのにナ形容詞ですから、和語か和語でないかという基準だけでは決められないことが分かります。
では、「嫌い」や「静か」などの和語に共通しているものは何でしょうか。語源や由来を詳しく調べてみると次のようなことが分かります。
まず、「嫌い」と「好き」というナ形容詞ですが、この2語はもともと「嫌う」、「好く」という動詞の連用形(マス形語幹)から派生した名詞が「ナリ活用」の形容動詞(ナ形容詞)になったものです。「嫌う」という動詞はまだ使われていますが、「好く」という動詞は最近ではあまり使われなくなっています。受け身や慣用句や方言などではまだ使われているようですが…。
次に「静か」の語源をしらべてみると、やはり「沈(しづ)く」という動詞の連用形で、「沈んでいく」という意味だそうです。これは「雫」(しずく)ということばにまだ残っていますが、水が垂れて落ち、静かに落ち着いた状態をいうそうです。ほかに「賑やか」も「賑わう」の名詞形ですし、「巧み」は「たくむ」という動詞から派生した名詞形だそうです。さらに、「幸い」も「幸(さき)+はう」という動詞の名詞形です。
また、「確か」は「手+しっかり」の複合語で、「幸せ」も「仕+合わせ」、「暇」は「ひ(び)+間」という複合語からできた名詞形で、派生語や合成語の名詞からナ形容詞になったものが多数を占めます。
特に平安時代前半に盛んに使われた「~やか」「~らか」という接尾辞は名詞、イ形容詞の語幹や擬態語に付けられて多くのナ形容詞(「ナリ活用」の形容動詞)が作られ、それが現在まで残っています。「穏やか」「鮮やか」「細やか」などや「明らか」「滑らか」「朗らか」「滑らか」などですが、当時は名詞の前では「~なる」という形だったのが、「る」が脱落して現在の「~な」になり、日本語教育でナ形容詞と呼ばれるようになったわけです。
最後に、「意地悪な」「身近な」「手軽な」「色々な」「様々な」「怪しげな」「同じような」「可愛そうな」「真っ赤な」などの雑多なタイプの和語起源のナ形容詞がありますが、“名詞+イ形容詞の語幹”、“畳語”、“接尾辞”、“接頭辞”などから作られたものです。
以上のことをまとめると、イ形容詞は基本的に“和語”であり、ナ形容詞は基本的に“漢語”と“外来語”または“和語の派生語”から作られていることが分かります。
その理由は、和語の形容詞であるイ形容詞が時代の変化に伴って次第に不足していったため、新たに外国語(中国語や西洋諸語)や派生語の名詞から形容詞を作り出すという方法を採用したのですが、奈良・平安時代にはすでに「~い」という接尾辞を使って形容詞を作る方法は行われなくなっていたため、当時利用できた方法、つまり外来語や派生語を名詞にして「~なり」や「~たり」を付ける方法を採用したためだと考えられます。
というのも、前回の記事(No.119)で少し触れたように、「~になる」と「~となる」は変化以外の意味用法(つまり、断定)「~である」を表すことができますが、その変化形である「~なり」と「~たり」が断定の意味用法として使われたのがナ形容詞の起源だと考えられます。ちなみに、「タリ活用」は現在では「~とした」という形で残っています。
120元気のないミキちゃん2015.10.12








