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海賊版サイト遮断を「言論統制」につなげないために必要なこと

あの組織を復活させてはどうか
町田 徹 プロフィール

推定被害額は3192億円

そこで、冷静な検証が必要なのが、反対派に多い「ブロッキングは憲法違反だ」という議論だ。ユーザーの同意を得ずに、接続のために発する信号から海賊版サイトにアクセスしようという通信を特定し、サイトからの往信を遮断してしまうことから、この種のサイトブロッキングは、「通信の秘密は、これを侵してはならない」(憲法21条2項後段)の侵害につながる可能性があると幅広く主張されているのだ。

しかし、この「通信の秘密」は、通信が手紙など「1対1」のやり取りだった時代に、個人の政治信条を暴いて弾圧するようなことがないよう設けられた規定だ。海賊版サイトのように、違法コンテンツを幅広く閲覧・流布させることを目的としたサイトとのやりとりは、その「1対多」という関係からみて、むしろ放送に近い情報流通という側面がある。

そこには、守るべき秘密があるとは考えにくいのではないだろうか。「表現の自由」にしても、違法コンテンツを広く閲覧させる行為を正当化する根拠にはならないはずである。

 

このところ海賊版サイトによる被害の急増は目に余り、とても放置できない深刻な事態になっている。海賊版の情報収集などを行う「コンテンツ海外流通促進機構」によると、最大規模の海賊版サイトの一つと目されているサイト「漫画村」では、昨年9月から半年間の閲覧回数が6億1900万件、推定被害額が3192億円に達したという。

「言論・表現の自由」に著しい制約を課している中国のような国家のネット統制は論外だ。しかし、イギリス、オーストラリア、韓国など世界40以上の民主国家でも、必要に応じてブロッキングが実施されていることを、我々も直視すべきだろう。特にドイツでは、音楽の違法ダウンロードサイトへのブロッキングに関して、最高裁が一般的な法規の解釈によって憲法に違反しないとの判決を下していると聞く。

政府が長年、対策を怠ってきたことに免罪符を与えるわけではないが、他に有効な対策がないこともあり、「法整備が行われるまでの臨時かつ緊急の措置」としての今回のブロッキング対策は、やむを得ない措置と言わざるを得ない。

ただし、今回のやり方では、一歩間違えれば政府による情報統制になりかねない危うさがある。今回の3サイトを違法な海賊版サイトと決め付けた「知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議」は、安倍総理が官邸で主宰する会議であり、時の政権の意向そのものを映す組織がサイトの違法性を判断した格好になっているからだ。

こんなことが恒常化しては、内閣に都合のよい恣意的な判断が、ネットメディア向けに連発される恐れがある。それゆえ、早急に、きちんとした情報社会作りのための法整備を行う必要がある。