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ガンダム初の舞台化は是が非か? 展開次第では有力コンテンツに?

 先ごろ、『機動戦士ガンダム00(ダブルオー)』が来年2月に舞台化されることが公式サイトで発表され、ガンダムファンの間で賛否が分かれた。来年は放送開始40周年を迎え、新作映画発表などもあり盛り上がりを見せている巨大コンテンツ・ガンダムシリーズだが、なぜここにきて舞台化に踏み切ったのか。それを考察していくと、大いなる意味をもった舞台化であることが見えてくる。果たして、ガンダムシリーズ初となる『ガンダム00』の舞台化は是か非か?

初の舞台化もファンの反応は驚きと戸惑い「本質を描けるのか」

 『機動戦士ガンダム00(ダブルオー)』(※以下『00』)は2008年に放送されたテレビシリーズ。その10周年記念サイトでガンダムシリーズ初として舞台化が発表されると、「スクリーン映像やVJでMS(モビルスーツ)を表現するのか?」、「昨今の舞台化の波は凄い」、「ファーストじゃないんだ?なんで『00』なのか」、「うそ?もう10年!?」などなど、ネットでは賛否両論の声が溢れた。原作アニメ(2次元)と映画やドラマによる実写化(3次元)との中間にある“2.5次元”の舞台となると、若手イケメン俳優や声優が集団で登場するというのが定番。「美形キャラが多数登場する『00』は舞台化と親和性が高いのでは?」という声も。

 しかし、約1年間・50話かけて展開されるアニメの物語や世界観は、短時間の舞台では描き切ることは難しい。ガンダムが長年愛されている人気の“本質”は、大人向けの骨太なストーリー性・メッセージ際にある。戦争がもたらす悲劇や政治との関連性、敵軍をせん滅する勧善懲悪ものではなく両陣営それぞれにある“正義”、人類間の新人類と旧人類の差別や選民思想、少年期・思春期のモラトリアム問題…等々。そこに綿密に作り込まれた世界設定と骨太なストーリー性・メッセージ性こそがガンダムシリーズの魅力の“本質”だ。今回の『00』の舞台化に対しても、そうした世界観を“舞台”というステージと限られた時間でどこまで描き切れるのか、どこを切り取るのかと、ファンたちの不安の声があるのも事実なのである。

過去ロボットアニメの舞台化に見る、アレンジと原作の両立の難しさ

 『00』主人公機のモビルスーツ、ガンダムエクシアは全長18.3m。これを舞台に上げるのは無理であるが、何かしらの形で“ガンダム”は登場させなといけないだろう。そんな、高いハードルを背負った“ロボットアニメもの”でも、過去舞台化された作品は存在する。2009年に『攻殻機動隊』などで知られる押井守氏の演出・脚本による『鉄人28号』だ。舞台版は、舞台中央に巨大な鉄人が鎮座し、クライマックスで鉄人が動くという演出を施した。学生運動華やかな1960年代に偽史を設定し、公安やテロリストなどが登場するという、押井色を前面に出した作品となったが、原作の魅力の本質から乖離していたことは否めないだろう。逆にいえば、メカ描写の難しさをはじめ、ロボットアニメを舞台作品として成立させるには、ここまで手を加えないと成立しないのである。

 しかし、『銀河英雄伝説』という長期にわたって舞台化に成功している作品もある。同作はキャラクターたちの群像劇が最大の魅力で、舞台化でもその点を中心に展開できるからこそ成功していると言えよう。そうした意味では『00』の舞台化にしても、「新人類(イノベイター)と旧人類」を中心に据えた物語や、美形のキャラクターに焦点を当てた人間ドラマ“のみ”に絞って舞台化すればできなくもなさそうだが、そうなれば生粋のガンダムファンからは猛烈な批判を浴び、“炎上”することは容易に想像がつく。

“本道”から離れた派生展開の大いなる成功例、『SDガンダム』

 ただ、ガンダムはこれまでの40年にもわたる歴史の中で、さまざまな“派生作品”を展開させてきた巨大産業だ。その中で、先述のガンダムの魅力の“本質”から大きく離れていつつも、成功したコンテンツもある。パイロットが乗り込む“メカ”であるモビルスーツをデフォルメ・キャラクター化した「SDガンダムシリーズ」である。

 パイロットは存在せずに、デフォルメ化されたモビルスーツがしゃべって動くという世界観は、『コミックボンボン』(講談社)をはじめとした連載コミカライズ、カードダス、ガンダム消しゴム(ガン消し)などで確立され、さらには戦国武将化した「武者ガンダム」、西洋の騎士をモチーフとした「ナイトガンダム」といった派生展開もそれぞれ人気を博したのだ。ガンプラとしてもジャンルが確立し、実際に「入口はSDガンダム」というガンダムファンも多く輩出したのである。

 また、このSD化=デフォルメ化によりモビルスーツの描写が容易になり、ゲームでの展開を加速させた。ファミコン時代の『ガシャポン戦記』から、現在まで続く『スーパーロボット大戦』シリーズなど、ガンダムが登場するゲームの多くが、デフォルメ化されたビジュアルで表示されてきた。さらに、デフォルメ化されつつパイロットも存在する『G‐ジェネレーション』シリーズなど、SD×リアルガンダムのハイブリッドパターンもあるなど、SD化はゲームとの親和性も非常に高かったのだ。

超巨大コンテンツゆえにハイリスク、しかし成功すれば大いなる展開に期待

 もはや日本を代表する巨大コンテンツとも言えるガンダムだが、バンダイナムコホールディングスの第3四半期(2017年4~12月)IP別売上高によると、グループ全体で『ガンダム』は『ドラゴンボール』と並ぶ“稼ぎ頭”で、3位以下を大きく離して2位。トイホビー分野においては『ガンダム』が1位(2位は仮面ライダー)である。通期の売上高の見込みは675億円。『アンパンマン』が110億円、『妖怪ウォッチ』が38億円であることを考えれば、ガンダムがいかに巨大な産業であるかがわかるだろう。

 こうしたガンダムの規格外の強さは、誕生後40年近い今もなおファンたちが“現役”であることだ。ファーストガンダムの世代は50代以上、SDガンダムにより若年層のファンもリアルタイムで生み続け、親・子・孫と3世代にわたって愛されるという裾野の広がりを持っている。それだけに、新たなガンダムコンテンツによるマネタイズが成功すればそのリターンも大きいわけだが、これまでは“ガンダム愛”の流れをしっかりと見定めていたからこそ、SDガンダムのような“冒険”も可能になり、新たな購買層を獲得することもできたと言える。

 今回の『00』の舞台化は、ファンにどのように受け取られるのだろうか? 巨大産業ゆえに、その評価は全ガンダムブランドにも影響を与える可能性もあり、舞台化の企画は批判のリスクを承知の上の“英断”だったと思われる。しかし舞台化が成功すれば、『W』や『SEED』で獲得しかけた女性ファン層の掘り起こしや、2.5次元好きの女子層をも新たに獲得する可能性もあり、ビジネス的にも大きな“実”が得られる。さらには、過去シリーズも多彩なだけに、テレビ外のチャンネルで後世に名作を語り継ぐという役割も果たすことができるかもしれない。

 先日、新たなスタンダードガンダムを生み出すべく新作映画『ガンダムNT(ナラティブ)』が発表された。5月5日にはファーストガンダムのリブート作品『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 誕生 赤い彗星』の上映がスタートするほか、NHK総合にてファン投票によるまさかの“ガンダム総選挙”的特番『発表!全ガンダム大投票』も放送予定だ。来年に誕生40周年を迎えることもあり、ガンダムコンテンツをさらに世界に誇るコンテンツに育てようという運営側の気概も感じられる。今回の『00』ガンダムの舞台化は、今後のガンダムコンテンツの方向をうかがう試金石にもなるであろう。ガンダム世界の新たなる展開に期待しつつ、見守りたい。

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