いまから3年ほど前に、私自身、左耳を失聴したのが始まりです。ちょっとショックではあったんですが、傘を差すと左側だけ雨音が聴こえず、雨が降っていないかのように感じるのがおもしろくて、「これはドラマになる」と思いました。片耳の聴こえないヒロインが、傘を差しながら空を見て、「半分、青い。」と、つぶやく――。そんな情景が、ポンと浮かんできたんです。
傘を差すと左側だけ雨音が聴こえない。「これはドラマになる」
『半分、青い。』は、どのように生まれたのでしょうか?
この時点では、朝ドラらしからぬ感じかもしれません。それでも朝ドラとして提案したのは、物語の軸の一つに、“ホームドラマ”ないし、“母と娘の関係”があったからでした。朝ドラではないようで、やっぱり朝ドラっぽくもある、というか。『半分、青い。』を朝ドラとして描けたなら、画期的なものになるのでは、と思いました。
私は恋愛よりも家族を書くことに恥ずかしさを感じるタイプで、ホームドラマをずっと避けてきたんですが、序盤のお話を書いていく中で、恋愛も家族も変わらないなと思いました。私は人と人とのつながりを書くのが好きなんだと、改めて感じているところです。
芽郁ちゃんと、私の頭の中にいたスズメがタッグになって、一人の鈴愛になった
ヒロイン・楡野鈴愛(にれの すずめ)役の永野芽郁さんには、どんな印象を持ちましたか?
オーディション映像で芽郁ちゃんを見たとき、「鈴愛を見つけた」と思いました。早口でポンポンしゃべるし、表情もコロコロ変わる。左耳が聴こえなくなっても強く生きていきそうなたくましさも感じられて、鈴愛にピッタリだと思ったんです。
芽郁ちゃんと初めて顔を合わせたのは、ヒロイン発表会見の前日。ヒロインの内定と、翌日に会見があることを、本人にサプライズで知らせた席でした。だまされた芽郁ちゃんは、「明日は早朝からファッション雑誌のロケだって聞いていたのに!」「早朝からロケとか鬼か!(と思った)」って、かわいくボヤいていましたね。ヒロインに決まって、うれしくて、翌朝の会見までに誰かにしゃべってしまわないようにと、事務所がホテルまでとっていたんです(笑)。
永野芽郁さんがヒロインに決定する瞬間の動画はコチラ
劇中でいろんな登場人物が「鈴愛の口は羽根より軽い」と言うのですが、そんなところもハマっていますよね。「鬼か!」というフレーズは、スズメっぽいので、ヒロインのセリフに採用しました(笑)。
ヒロインが芽郁ちゃんに決まってからは、私のなかで自然と“あてがき”(役者の個性を念頭に置いた脚本執筆)が始まった気がします。芽郁ちゃんと、私の頭の中にいたスズメがタッグになって、一人の鈴愛という人になっていきました。
律は、これまで私が書いてきたラブストーリーのどの相手役とも違う
鈴愛の幼なじみである萩尾 律(はぎお りつ)は、どんな役どころなのでしょうか? また、演じる佐藤 健さんの印象はいかがですか?
律は、鈴愛にとってのヒーローです。鈴愛は子どものころから、『マグマ大使』でマモルくんがマグマ大使を呼ぶように、笛を3回吹いて律を呼びます。これは逆にいうと、律は鈴愛に呼ばれることで(はじめて)ヒーローになるということ。あまり自発的に動かないタイプである彼が、自分の人生をどうやって見つけていくのか。それが、このドラマの裏テーマだと思っています。『半分、青い。』は、鈴愛の話でもあり、律の話でもあるんです。
そんな律役に求められるのは、優しく受け止める芝居と、自分の意志や強さを出していく芝居。そのさじ加減、変化を演じ切ることができるのは、佐藤健君だけだと思いました。健君からは、普通に話をする中からも、優しさと強さの両方を感じられるんです。
彼は、『半分、青い。』を私の代表作にするんだと意気込んでくれています。私の脚本を読んで、そんなふうに熱を持ってくれたのは、本当にうれしいですね。佐藤健が演じる律という人物は、これまで私が書いてきたラブストーリーのどの相手役ともきっと違う。まだ未知数なんです。どう、転ぶかわからない。そんな気分にさせてくれたのは、佐藤健、という役者でした。怖くもあり楽しみでもあり。
もしかして朝ドラに革命を起こしたんじゃないか
脚本を書き進めてみて、いまのところの手応えはいかがですか?
完成した第1週(第1~6話)の映像を見たときに……手前味噌ですが、もしかして朝ドラに革命を起こしたんじゃないかと思いました。
朝ドラは、実在の人物をモデルにするか、戦時下を舞台にすると、比較的ヒットしやすいと言われています。でも私は、そういった定石を踏まえないからこそ生まれるおもしろさがあると思っていて。ありがたいことに、今回は本当に好きなように書かせていただきました。プロデューサーや監督をはじめとしたスタッフ、そしてすばらしい役者の方々がしっかりと支えてくださるので、いろいろな“冒険”ができているんです。
第1週で言うと、ヒロインが“胎児”として初登場することもそう。新生児室で隣同士になった赤ちゃんの鈴愛と律に、「まだ名前もないときに僕たちは出会った」という佐藤健君のナレーションが重なる出会いのシーンもそうです。
細かいところでは、週ごとのサブタイトルも、「生まれたい!」(第1週)のように、「●●したい!」という人間の本能とも言える欲求を、言葉にする形で統一させてもらおうと思っています。本来は、その週何が起きるのか、という具体的な内容を説明するべきですが、生きようとする本能、生きる力を描きたいという、『半分、青い。』のテーマにも通じる形にできたと思っています。
みなさんにも、全く新しい朝ドラ『半分、青い。』を、ぜひ観ていただきたいです。いろいろ言いましたが、笑って泣ける、楽しんで見られるエンターテインメントにしているつもりです。そこが、一番、重要です。