Medley Developer Blog

株式会社メドレーのエンジニア・デザイナーによるブログです

医療ITの未来に向けて取り組むこと

こんにちは、平山です。メドレーのプロダクト開発全般を管掌しています。先日4/29 (日)に虎ノ門ヒルズフォーラムで開催されたCLINICS SUMMIT 2018と合わせて、3本のニュースリリースをだしました。

これらのニュースリリースはひとつのストーリーにもとづいているのですが、それぞれを読んだだけではメッセージが伝わりづらいと思いますので、このブログで補足させて頂きます。 

ニュースリリース

www.medley.jp

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オンライン診療システムのいま

まず背景として我々が提供しているプロダクト「CLINICS」について振り返るところから話を進めます。

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オンライン診療システムCLINICSは、2015年8月に厚生労働省から示された遠隔診療に関する通知をうけて、2016年2月にプロダクトをローンチしたところからはじまりました。

ローンチ当初はネイティブアプリもなくウェブアプリケーションのみで、オンライン診療の肝となるビデオチャット機能も外部サービスで代替するなど、わかりやすいMVP (Minimum Viable Product) からスタートしました。その後、様々な医療機関で利用頂き、多くの医療機関スタッフの皆様からの叱咤激励をうけながら、プロダクトやオペレーションを磨き進化を続けて参りました。

その結果として、現在では契約医療機関は800を超え、1ヶ月に100回以上ものオンライン診療を実施するような医療機関もでてきました。また平成30年度の診療報酬改定ではオンライン診療料が新設され、オンライン診療というものが正式に医療の現場で認められるようになってきています。

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しかし、オンライン診療システムの進化の中で常につきまとう課題がありました。それは電子カルテや医事会計システムなど医療機関の中心で使われるシステムとの連携です。 

オンライン診療から電子カルテ

医療現場の業務において中心で使われるシステムはオンライン診療システムではなく、一般的には電子カルテや医事会計システムとなります。

オンライン診療システムは、予約、問診、診察、会計、薬または処方せんの配送、これら一連の業務を対面・オンラインに限らずにワンストップで処理できるという思想で開発を進めてきました。しかし、実際の現場においては、オンライン診療システムでの業務と電子カルテシステムでの業務を連携させるために人手を介在させる必要があり、オンライン診療システムをいれると現場オペレーションが増えてしまうといった課題がありました。

このオンライン診療システムにつきまとう課題を解決するため、昨年より電子カルテに関する調査を進めてきました。他社電子カルテシステムとの連携など様々な選択肢があったなか、この調査を経て現状の電子カルテをとりまく課題と将来の可能性を感じ、電子カルテを内製で開発しオンライン診療システムを電子カルテシステムに進化させるという結論に至りました。

 

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おりしも2017年は3省4ガイドラインの改定 (医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5版) や、日本医師会ORCA管理機構による日レセクラウドAPI拡張 (HAORI)の提供開始などの動きがあり、医療業界においてもクラウド化の波が確実にきていることを感じました。これが電子カルテ開発の背景です。 

患者とつながる電子カルテ「CLINICSカルテ」

開発した電子カルテシステム「CLINICSカルテ」は、医事会計ソフトであるORCAを会計エンジンとして組み込んだORCA内包型のクラウド電子カルテとなります。

医療機関のスタッフは予約から受付、患者管理、診察、オーダリング、会計、請求といった、ひととおりの業務をウェブブラウザだけあれば行うことができます。またオンライン診療の機能が搭載されているため、患者がアプリから予約しチェックインした情報をもとに、医療機関スタッフが患者情報を登録し、そのままオンライン診療を実施し、会計まで進めるということも可能となります*1

まさに患者とつながる電子カルテということを実現したプロダクトとなります。

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もちろんセキュリティ統制の強化についても昨年から本格的に取り組んできておりまして、3省4ガイドラインへの準拠は当然のことながら、第3者認証機関による認証取得に向けても動いています (TRUSTe取得完了ISMS取得作業中)。  

医療ITの課題とアプローチ

しかし、CLINICSカルテをはじめとしたクラウド電子カルテが普及するには時間がかかると考えています。

クラウドサービスに慣れた若い世代が開業し、システム導入の意思決定をするための世代交代に一定以上の時間が必要であるというのはもちろんですが、それ以上に医療情報システム関連技術の標準化が遅れていることや、ローカルネットワークを前提とする院内システムのエコシステムができあがっているためです。これにより、ウェブ系の新興プレイヤーが参入することが難しくなり、結果として医療業界全体がテクノロジーの進化の恩恵をうけづらくなっているように感じます。

この現状をふまえ、我々はCLINICSカルテの公開とあわせて、医療ITの世界をオープンにし、様々な新興プレイヤーが参入しやすい土壌をつくることについてもコミットしていきたいと考えています。その思いがORCA APIオープンソース公開」ブロックチェーンを活用した電子処方せん管理方式に関する特許出願」という2つのニュースリリースにあらわれています。 

ORCA APIオープンソース公開

ORCA APIORCA*2が提供するAPIRubyから利用するためのライブラリです。ORCA APIオープンソースとして公開することで、ORCAと接続するウェブアプリケーションの開発が促進されることを期待するものです。

github.com 

ブロックチェーンを活用した電子処方せん管理方式に関する特許出願

電子処方せんに関してはすでに実装ガイドが作成され指針が示されていますが、この中で認められているように、実装ガイドに基づいて電子処方せんシステムを実装しても実運用で使うにはいくつかの課題が残ります。また、それらの課題を解決するために今後の方向性についての議論も行われているようですが、なかなか前に進む気配が見られません。

それに対する我々からのひとつの考えを示してみたのが今回の特許出願となります (我々が独占的に利用するといった意図の特許出願ではありません)。

名称 電子処方せん管理方法、電子処方せん管理システム、及びプログラム
内容 処方せんの電磁的記録による作成、交付及び保存を実施するための電子処方せん管理方法、電子処方せん管理システム、及びプログラム
概要 ASPサーバを用いずとも、実運用が可能な電子処方せんを実現するもの

 

この2つは現状の医療ITに存在している課題に対してアプローチしたものになりますが、これ以外にも検査結果データの標準化やHPKIのオープン化と促進 (特定プラットフォーム依存性の排除)、SS-MIXの促進など、標準化という観点で医療ITの世界には取り組むべき課題が多くあります。

標準化においてはトップダウンによるアプローチが理想だと思いますが、トップダウンでの標準化には時間がかかり、テクノロジーの進化の時間軸との間にギャップが発生しがちです。我々は今回のORCA APIや電子処方せんブロックチェーンでのアプローチのように、トップダウンでの標準化の動きを待つだけでなく、テクノロジーを活用したボトムアップの技術提案も積極的に行っていきたいと考えています。

その結果として、技術の標準化が進み、新興プレイヤーが増え、医療機関間の連携も円滑になり、地域医療構想のような動きも加速され、医療現場のIT化が進み、医療従事者が診療により専念できる環境がつくられる。

そのような世界の実現にむけて我々は取り組んでいくという意思を明確にするために、今回のニュースリリースを公開させて頂きました。

 

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医療ITの未来に向けて

toppa.medley.jp

以前このブログでも書いたとおり、インターネット業界で活躍してきたような、高い能力をもちプロダクトにこだわりをもって開発をしてきたような人が圧倒的に少ないことが、医療ITにおける課題であると私は思っています。

若く優秀なクリエイターたちが医療ITの世界に参加し、様々な取り組みをすることで、業界内の循環が進み、結果として業界の進化にもつながるものと考えています。まずは我々が積極的に技術をオープンにしていくことで、その流れの起点をつくっていきたいと思います。 

メドレーは「医療ヘルスケア分野の課題を解決する」というミッションのもと、医療ITの世界における標準化の課題に対しても積極的にアプローチしていきます。

さいごに

メドレーではこのような医療業界に存在する課題に取り組んでいきたいメンバーをデザイナー・エンジニアを中心に全職種絶賛募集中です。皆さまからのご応募お待ちしております。

 

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*1:もちろんオンライン診療を実施するための基準を満たしていることが前提です

*2:正確にはORCAプロジェクトが提供している日医標準レセプトソフト