自分の人生において青春時代は格ゲーブーム真っ只中だった。
わかりやすく言うと漫画の「ハイスコアガール」。あれは実際の格ゲーを中心に少年から青年時代の主人公たちが描かれる漫画だけど、リアルに換算してたしか彼らと1コ違い位の年だったはず。
とにかく自分のゲーム人生において格ゲーは1つの重要な分野として刻まれている。
ただし、自分は格ゲーはめっちゃ下手だ。好きだけど対戦は未だに怖いしすぐ負けるから基本家庭用機でこっそりほそぼそじわじわやる。でも好きだ。KOFは全作やってるし、餓狼もかなりやった。月華の剣士はずっとやってる。ストリートファイターは途中ちょっと飛び飛びだけどそれでもだいたいは遊んでる。
で、自分はヘッタクソなんだけど、友達は違った。
中高と一緒で自分を格ゲーの世界に引き込んだ友達はとにかく強かった。
特にY田はめちゃくちゃ強かった。ゲーセンでやっているのももちろんだが、家にNEOGEO(CDじゃなくてカートリッジ)を持っていたからというのもあったと思う。
そしてさらに強い人がいた。それがY田の兄だ。
Y田の兄は少し年が離れており、自分たちが中学生の時すでに大学生後半だったと思う。NEOGEOのクッッッッッソ高いゲームソフト(1本3万以上する…)は中学生に買えるわけもなく、親もそうそう買ってはくれない。それでも持っていたのはこの兄がバイトして買ってきたものだった。
そしてこの兄こそ自分の知る限り最強の格ゲープレイヤーだった。
どれくらい強いかというと、当時KOF'96が発売されてすぐに友達数人でY田の家に泊まり込みで一晩徹夜でゲームをやりまくっていた。色んなキャラを試して腕を磨いて慣れてきた朝方。
Y田の兄が深夜のバイトから帰ってきた。
「おう、やっとんな。どんなもんや」
と2コンを手にして自分たちと戦っていくのだが、全員1回も勝てない。
1回も勝てないというのはKOFの3対3全体で最終的な勝利ではなくて、1キャラすら倒せないのだ。つまり向こうからすると全員3キャラ抜き。
自分たちの中でY田は一番強く、自分たちの中で3キャラ抜き出来る位強かった。そのY田がまさに赤子の手をひねる様に3キャラ抜きされる様は同じゲームとは思えなかった。キング(KOFのキャラ)が最後見事に超必殺技でフィニッシュを決めたのを今でも覚えている。
最後に「まだまだやな!(笑)」と言いながら部屋を出ていった。
そしてこのY田兄、それだけでは済まなかった。
当時SNKは大阪の江坂にあり、本社の目の前にはお膝元の公式ゲーセンともいえる「ネオジオランド」があった。
そしてそこでは、通常稼働前の新作がどこよりも速くロケテストとして出されることもあり、ファンは駆けつけたものだった。
Y田兄もその1人だった。同行して見ていたのだが、ここでもY田兄は強かった。
強かったというより負けなかった。
当時の向き合った対戦台の上には「◯人抜き」という表示があり、Y田兄はカンストである99までいっても勝ち続けた。そして普通は対戦台両方の背後にできる次のプレイを待つ行列がY田兄の後ろから消えた。
こっちで待ってもこの人は負けないから順番は来ない、と反対の対戦台の後ろにしか人が並ばなくなったのだった。
しかし、ここで話は終わらない。
当時、まことしやかに噂があった。
ネオジオランドであまりにも勝ち続けると、目の前にあるSNK本社から開発者が出てきてそのプレイヤーを(ゲームで)ボコボコにして帰っていく、と。
勝ち去っていったプレイヤーがSNK本社から出てくるところを見た人がいる、という話もあり、噂の域はでないが当時自分たちの間では確信を持って信じられていた。
そしてその日、実際にY田兄はふと現れたプレイヤーに負けた。完封だった。
その時点で自分たちは疑いもなく「アレがSNK社員か!」と思っていた。
が、時が経って、どうだったのか自信がなくなってくる。
確かに噂の信憑性はあったと思うのだが、どれもY田兄が負けたということ以外自分の目で見たものはない。
大人になって世界が広いことを知れば強プレイヤーが他にもいた可能性がある、ということも十分考慮に入ってくる。
噂の様にその人をつけてSNKの中に入っていくか確認すればよかったとさえ思うがそれも今ではままならない。
あの日のことは夢だったんじゃないか、とすら思えて来てしまい20年が経った。
自分はアプリメディアの人間としてゲーム会社い取材に行くことも増え、
その中で同業の人と仲良くなった。
自分より一回りも年が離れているが、同じ仕事で同じ趣味の人間なのだから話が合わないはずがない。
その人と何気なく話していたとき、ふとその人が言った
「私、以前はずっとSNKで働いてたんですよ」
マジか。
それを聞いて自分はいてもたってもいられず、当時のことを話始めていた。
そして、Y田兄が勝ち抜きカンストしたことを言った時。
「あ、じゃあSNKの人間出てきたでしょ」
そう言ったのだ。
こちらから全部話しをして、最後に本当ですか?と聞くのではなく、
あちらの口から出てきたのだ。
「そう!そうなんですよ!っていうか、あの人って本当にSNKの人なんですか!?中の人が出てきてやっちゃうのマジなんですか!!?」
たぶん、肩に両手で掴みかかる位の勢いで聞いたと思う。
「そうそう、自分は営業系だったからそこまで強くないしそんなん出来なかったけど、開発の人間は本当にやってたよ。昼飯いくついでくらいの感じで「なんか外(ネオジオランド)にイキってるやつがいるらしいぞ(笑)」位の感覚で出てくのよ。そんで勝ってくる」
マジだった。
20年前で見た、自分にとって神にも等しい格ゲープレイヤーが対戦台カンストという神の如き所業をして、さらにそれがいとも簡単に崩れ去るという、本当は夢だったんじゃないかと思うような出来事が20年の時を経て真実に繋がったのだ。
なんかよくわからんが、その日それを聞いたあとなんかずっと感動しっぱなしだった。
何に感動したのか自分でもよくわからん。当時のことが本当だったことなのか、それが今になった繋がったことなのかわらかんが何か感動してしまった。
とにかく好きで居続けるだけでこんな奇跡にも出会えるのだからゲームは止められないのかもしれない。