中国・暗号通貨事情
過剰なる規制が生んだ
イノベーターたち
昨年9月に行われた中国政府の暗号通貨に対する規制は、中国の起業家たちにイノベーション創出の機会を与えた。一方で政府の目的は、単なる暗号通貨の抑制ではなさそうだ。 by Yiting Sun2018.05.01
2017年9月4日午後11時、チュアン・チャンは中国で人気の暗号通貨取引Webサイト「フォービー・ドットコム(Huobi.com)」のアカウントにログインし、自分が持つビットコインをすべて売却した。チュアン・チャンは約40万元(6万4000ドル)を失ったが、それ以外の選択肢はほとんどなかった。
この日、急増している国内の暗号通貨情勢に、中国政府が一見致命的とも思える打撃を与えていたからだ。中国政府はバーチャル・コインなどの採掘(マイニング)は禁止しなかったが、新規暗号通貨公開(ICO)や国内の暗号通貨取引を禁止し、多くの人々が保有するコインを事実上、無価値にした。その日の暗号通貨の売りはかなり大量で、チュアン・チャンが売ったビットコインの売上が銀行口座に入金確認されるのに、通常は30分ほどですむところが、4日もかかったほどだった。それでも何とか売れたのは、政府の禁止宣言が出てから取引所への閉鎖命令までの間に猶予があったおかげだ。
モルガン・スタンレーによると、ピーク時の2016年11月と12月には、中国人民元による取引が全世界のビットコイン取引量の90%以上を占めたが、2017年9月の取り締まりから1カ月後の10月には10%以下になった。中国当局はその後も規制をさらに厳しくし、海外のWebサイトを使った暗号通貨取引の抜け道も閉ざした。2018年1月には、中央銀行である中国人民銀行が国内のビットコイン採掘産業に対する電力の供給制限を提案した。現在、中国のビットコイン採掘産業は、世界全体のビットコイン採掘処理能力の3分の2を占め、その大半は余剰電力が豊富な人口の少ない地域であるにも関わらず、地方自治体がばかげた規制を実施している。
だが、中国において暗号通貨がなくなったわけではない。実際、これらの規制措置が、暗号通貨が直面するいくつかの問題に対処するイノベーションの波を引き起こしてしまったようだ。そしてこれは、中国以外のどの国も直面する問題なのだ。
新しいタイプの取引所
暗号通貨取引所は、あるデジタル通貨から別のデジタル通貨への取引、ならびに通常の法定通貨との間の取引を処理する。だが、暗号通貨が少なくとも理論上は分散管理されており、いかなる組織にも統制されていないのに対し、一般的な暗号通貨取引所は、普通の証券取引所と同様に、単一の企業が運営している。この点は、暗号通貨に関する最大の弱点の1つだ。
確かに、この事実は潜在的な問題を次々に生み出す。取引所は銀行と同様に投資家の資産を保有しているせいで、ハッカーの主要なターゲットになるし、内部者取引の防止も難しい。世界中には数百もの個別の取引所があり、断片化した非効率的な金融システムを作り出している。ある取引所のアカウント保有者は、より条件の良い他の取引にすばやくアクセスできないのだ。
それがまさに、上海で集中型の取引所を運営していたダニエル・ワン最高経営責任者(CEO)が「ループリング(Loopring)」と呼ぶプロジェクトを立ち …