『できる人の共通点』(陰山孔貴著、ダイヤモンド社)の著者は、メーカーで会社員として働き、30代で学者の道に転向。現在は経営学者として大学に勤めているという、異例の経歴の持ち主。経営学は企業や働く人を対象にした分野であるため、これまでさまざまな企業の人々に会ってきたといいますが、そのなかで、あることに気づいたのだそうです。
各会社・各業界で「できる」と言われるような人は、申し合わせたかのように同じような言動をするということ。しかも、そういう人には次のような共通点があるというのです。
1. 「学ぶことがあたりまえ」だと考えている
2. 人生に起きるすべての経験に「意味づけ」をしている
3. 独自の「ルール」を決め、習慣化している
4. 「運」を大切にしている
5. 「試行錯誤」の末に新たな価値を生みだす
6. 明確な「判断基準」を持ち、不必要なことはやらない
7. すべては「直感」から始まっている
(「はじめに」より)
「できる人」の土台として、これらの考え方や習慣があるということなのでしょう。序章「できる人の7つの共通点」に目を向け、これら7項目をさらに突き詰めてみたいと思います。
共通点1 「学ぶことがあたりまえ」だと考えている
できる人は学ぶことにどん欲で、とにかく積極的。人との出会い、新しい知識、トレンドなどを追うこと、あるいはチャレンジし、何歳になっても学ぶ姿勢を忘れず、つまりは学びに対して謙虚な姿勢を持っているというのです。
ちなみにここでいう「学び」とは、一般的にイメージされる「勉強熱心」とはちょっと違うのだそうです。自分自身の専門分野や興味のあることを勉強するだけではなく、「日常で起こることすべてが学び」であると考えているということ。情報だけではなく、人から学ぶ、体験から学ぶことを大切にしているというわけです。そのため、自分よりはるかに年下の人であっても「これを学びたい」と感じれば積極的につきあい、新しい知識、技術、価値観などをアップデートしていくのだといいます。
- できる人の共通点
- 陰山 孔貴ダイヤモンド社
しかも学びに対してどん欲でありながら、「必死に努力している」という印象は皆無で、ごく自然。学ぶのはあたり前で、「そうしたいからしている」というスタンスだというのです。(16ページより)
共通点2 人生に起きるすべての経験に「意味づけ」をしている
華々しいキャリアの持ち主に対しては、つい「挫折知らずの天才」という印象を抱いてしまいがち。しかしそうではなく、むしろ、活躍している人ほどキャリアのどこかで大きな挫折をしているものだと著者はいいます。
その原因は、世の中の流れや事故など、本人にはどうにもできないものもあれば、仕事の問題や、家庭の問題などもあるはず。しかし原因がどうであれ、できる人はそうした経験を「あの経験には意味があった」と前向きに捉えているのだそうです。「過去の体験があったからこそ、いまの自分がある」という実感を持っているということ。
つまり、できる人たちは、数々の経験を重ねていくなかで「人生は、万事うまくいかないのはあたり前(でも、いつまでも悪いことは続かない)」という考え方に行き着き、経験に独自の解釈を与え、仕事や人生を前向きに捉えているということです。(19ページより)
共通点3 独自の「ルール」を決め、習慣化している
できる人は「初志貫徹」「有言実行」であり、そんな姿勢を支えているのが「特定のルール」を持つこと。「これ」と決めた習慣などを持ち、それを実践していくわけです。「1日1冊本を読む」などの小さな習慣から、「停滞しているときには新しいことをしない」といった、仕事の判断に直結する大きなルールまでさまざま。
なお、このルールには大きく2つの視点があり。1つは「誰に強制されるわけでもなく、自分で決めて、その習慣を続けている」ということ。2つ目は、「決めたことは破らない」ということ。
ただし、実践しているルールは必ずしも「最初からそのルール・習慣」だったわけではなく、いろいろ試行錯誤をした結果、やめたものもあれば、多少のルール変更をしたものもあるのだとか。しかし誰もが、「この期間はこうしよう」と決めたら、最低限その期間はやりきるという行動力を持っているのだといいます。
習慣をつくる、ルールを徹底するというのは、「仕事のため」「健康のため」といった表面的な理由ばかりではないそうです。物事を継続することが、「内面を磨く」「自分の価値を高める」といったことにつながっているというのです。(22ページより)
共通点4 「運」を大切にしている
できる人はみな、「運」についても独特な(そして芯の部分では共通する)考え方や習慣を持っているもの。どんな成功体験も、すべてが実力だとは考えていない。そのような基本姿勢があるからこそ、謙虚でいられるということです。
注目すべきは、できる人は「いい体験」も「悪い体験」もしていて、それらを含めて「運がよかった」と考えていること。また、できる人は「運」という概念を大切にしているものの、運がすべてだとは決して考えていないのだそうです。
運まかせ・神仏頼りにするのではなく、自分でやれることはやっており、「成功の引き金・決め手が運」だと考えているということ。「人事を尽くして天命を待つ」を実践し、あとは神のみぞ知る、という状況をつくっているということ。そのうえで、独自の運に対する考え方や習慣があるというわけです。(25ページより)
共通点5「試行錯誤」の末に新たな価値を生みだす
5つ目の共通点は、それぞれのフィールドで「新たな価値」を生み出していること。その業界や社会にはなかった大胆なアイデアや行動によって商習慣を変えたり、新たな商品やサービスを生み出すなどの経験をしているということです。
しかもこれは、生まれついたセンスや才能無くしてはできない、というものではないのだそうです。なぜなら、最初から「業界のルールを破ってやろう」「破天荒なことをして目立とう」などと思っている人はいないから。
できる人の多くがやっているのは、「革新的なアイデアをいかに効率よくひらめかせるか」などというスマートな方法ではなく、もっと泥くさい、シンプルなトライ・アンド・エラーの繰り返しだというのです。仕事をしていくうえで「こうすればうまくいくのでは?」と仮説を立て、うまくいかなかったら新たな仮説を立てて実行する、というサイクルを繰り返しているということ。
それを繰り返していきながら、「より上へ」「もっと高みを」目指していく結果、「最後には自然と新たな価値にたどり着く」というケースが大半。意図して型破りなのではなく、結果的に肩を破っているにすぎないということなのでしょう。(29ページより)
共通点6 明確な「判断基準」を持ち、不必要なことはやらない
6つ目の共通点は「独自の判断基準を持っている」ということで、特に注目すべきは、「やらないこと」をはっきりと決めている点。「部下に指示を出したら、結果が出るまで一切口を出さない」「集中したい作業の時間は、人の誘いに一切応じない」など、どんなことであれ、迷いが一切ないというのです。
そのような習慣を持っている理由のひとつは、時間への強烈な意識。時間は有限で、貴重なものであるということを理解しているからこそ、「なにをしたいか・したくないか」の判断が明確だということ。
そしてもうひとつは、「なにに集中し、なにを手放すか」と「選択と集中」を徹底し、自身のあり方・仕事の方向性をきちんと持っているということ。そのうえで、「こういう商売には絶対手を出さない」「会社の理念に沿わないことはしない」「こういう人とは仕事をしない」など、固く決めて徹底しているということ。(33ページより)
共通点7 すべては「直感」から始まっている
最後の共通点は「直感」。新規事業への大きな投資、キャリアの大きな変更などの大きな決断から、「どの予定を優先するか」など日常の小さな判断までを、直感で決めている人が多いというのです。
ただし、できる人の言う直感とは、完全にあてずっぽうの「山勘」とはニュアンスが異なるのだとか。うまく言語化はできないけれど、それまでの経験則が働いている直感、いわゆる「暗黙知」の積み重ねによる直感だというわけです。
いわばそれは、日々の判断の積み重ね、失敗や成功の蓄積、「○○だから□□になった」といった内省を繰り返していくことで、精度が高まっていくもの。その直感によるひらめきや決断を、人にわかりやすく伝えるために「理屈(ロジック)」を利用して、人生の重要な局面を考えているということです。(36ページより)
こうした考え方を軸として、著者は、経営者・ビジネスマン、医者、弁護士、スポーツ選手、芸術家、デザイナー、漫画家、料理人、研究者など多彩な人々にインタビューを重ね、「できる人」の本質を浮かび上がらせています。印象的なのは、「仕事の内容は違っても、彼らを動かすシステム(行動原理)は同じ」だと主張している点。つまり、本書の内容は、職種に関係なく、すべてのビジネスパーソンに役立つ可能性があるというわけです。
Photo: 印南敦史
印南敦史