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Windows 10はどうなる? マルチデバイスやHEIF、HDR強化「April Update 2018」

 マイクロソフトは4月30日(米国時間)、Windows 10の最新大型アップデートである「Windows 10 April Update 2018」を提供開始した。現在、同社は年に2度、無償で大型アップデートを公開する方針なのだが、そのうち「春」のものが、このアップデートにあたる。

 記事執筆段階では正式名称は公表されておらず、開発コード名の「Red Stone 4(RS4)」の名称で呼ばれていたが、4月27日に「Windows 10 April Update 2018」として30日に提供開始すると発表した。なお、秋を目標に開発中のアップデートは「Red Stone 5(RS5)」と呼ばれている。

 細かなアップデートを繰りかえす上に、マイクロソフトは各アップデートにおいて「どこがどうかわったか」の一覧を公開していない。だから、多くの人には「アップデートはあるが、なにが起きるのかよく分からない」はずだ。

 '17年秋、「Fall Creators Update(RS3)」が出た時にも同様の記事をお送りしたが、今回も、April Update以降でなにが変わるのか解説してみたい。PCはいまや、AVの基礎プラットフォームでもある。そこでなにが起きようとしていて、今後どう使われていくのか。その辺も、なんとなく見えてくるはずだ。

積み残した「マルチデバイス対応」を推進

 Windows 10は、前秋に公開された「Fall Creators Update(通称RS3)」で大きく進化するはずだった。スマートフォンなどのマルチデバイス連携が強化され、作業中のアプリやファイルの状況を記憶する機能が搭載されることで、より「デバイスをまたいだ利用」が進むはずだったのだ。

「はずだった」という表記が連続したことでおわかりのように、RS3では、そうした機能の搭載が後送りになった。April Update 2018の目玉は、RS3で積み残した「マルチデバイス連携」になる。ただし、今回もすべての機能が搭載されたわけではない。「一部機能の搭載が始まった」というのが正しい。

 中でも大きな要素といえるのが「タイムライン」だ。これは、PC上での作業履歴を保存するものであり、他の機器から作業を再開しやすくするものだ。

Windows 10 April Update 2018から搭載される「タイムライン」。これまでに行った作業やウェブの閲覧の履歴が見える。ブラウザとしてEdgeを使っていると、閲覧したウェブのサムネイルも見える
タイムラインでの履歴は日毎にサマリーが用意されている。詳細を開くと、履歴が時間毎にくわしく整理されていることがわかる

 画像を見ていただけばおわかりのように、これまでは起動中のアプリを表示するだけだった「タスクビュー」ボタンの役割が大きく変わっている。過去に起動したアプリ・ファイルの他、閲覧したウェブサイトなどが記録されている。クリックすればそのファイルを使っていた時の作業にすぐ戻れるし、ウェブの情報を再び確認することもできる。

 マイクロソフトのクラウドと連携することで、自分が持つデバイス(同じMicrosoftアカウントでログインしたPC)同士で共有することもできる。どのデバイスでどのように作業をしても、同じように履歴が導入できるし、コルタナをみると、ワンクリックで「前回PCで終了した作業に戻る」ことができるのもわかる。

Cortanaはタイムラインと連動し、「前回作業を終了した時に使っていたファイル」を覚えている。だからワンクリック(もしくは音声コマンド)で作業を再開できる

 プライバシーへの配慮はなされているが、もちろん、「記録されるのは気持ち悪い、同意できない」と思う人もいるはず。特にPCを他人と共有している場合には、この機能はふさわしくない。そういう場合には、「設定」内「プライバシー」から、「アクティビティの履歴」という項目を選ぶことで、機能のオン・オフを設定できる。この時、アプリ毎に記録する・しないを設定することはできず、一括に「記録するかしないか」という選択になってしまうので、その点、注意が必要だ。

タイムラインへのアクティビティの記録は、「設定」からオン・オフできる。また、マイクロソフトIDによる機器共有についても同様にオン・オフができる

 また現状、すべてのアプリの履歴が残るわけではない。例えば、ウェブの閲覧履歴については、OS標準である「Microsoft Edge」はページ毎に記録を残すものの、Chromeは残らない。一方で、「ChromeでダウンロードしたPDFを開く」とその履歴は残る。現状、アプリ側で対応しているのはマイクロソフト製アプリが中心で、あとは、UWPアプリがいくつか。Adobe系ソフトなどは未対応だ。基本的には「アプリケーション側が明示的に対応する必要がある」とされており、本当に実用的になるには、対応アプリの増加が重要な要素となる。

 この機能、'17年5月のマイクロソフト開発者会議「BUILD 2017」で発表された際には、スマートフォン用アプリとも連携し、スマホ上のMicrosoft Officeなどでも継続して仕事ができる……ということがウリになっていた。だが現状、連携できるのはWindows PC同士のみであり、AndroidやiOSデバイスの連携は積み残されている。

 ただ、スマホ側からPCへと「見ているウェブを送る」ことは、RS3から出来るようになっている。iOSやAndroidにマイクロソフト製のアプリ(Androidなら)Microsoft Edge」のAndroid版もしくは「Microsoft Launcher」、iOSならば「Microsoft Edge」のiOS)を入れ、それぞれの中でファイルやURLを開くと、それと同じものをPC上のブラウザ(Microsoft Edge)に送り、開くことができる。Androidの場合、画像やオフィス関連のファイルなどをAndroidからPCへ送ることも可能になっている。まだ使ったことがない方は、試してみてはいかがだろうか。

近くのPCへファイルを送る「Near Share」

 機器同士の連携という意味では、Windows 10を搭載したPCに限られるが、興味深い機能が搭載された。それが「Near Share」だ。読んで字のごとく、近くにあるWindows PCに、ウェブのURLやファイルを転送する機能である。iPhoneなどのアップル製品の利用者には「AirDropのWindows版」といった方がわかりやすいかもしれない。

 Near Shareは、ブラウザであるEdgeとエクスプローラーに組み込まれた形で提供されている。例えば見ているウェブを送りたい時には、Edgeのウインドウ上部、右から二番目にある「共有」ボタンを押して呼び出す。すると、周囲にあるPCが見つかり、URLを送信できる、ファイルの場合には、エクスプローラーでファイルを選んで、「ファイル」メニューにある「共有」から呼び出す。Near ShareはBluetoothで機器を見つけ、BluetoothもしくはWi-Fiでファイルを転送する。機器の間でファイルを渡したいが、USBメモリやNAS、クラウドストレージを使いたくない……という時にとても便利なものだ。

Edgeを使っている場合、近くにあるPCなどへURLを送れる。使うのは、SNSへのシェアなどと同じく「共有」ボタン。
ファイル単体を送ることも可能。その場合にはエスクプローラーでファイルを選んだ後、「ファイル」→「共有」とメニューをたどる

 Near Shareの問題点は「対象となる機器が限られる」こと。April Updateを導入したWindows PCのみが対象で、ほかの機種は使えない。この種の技術は非常に便利なものなのだが、どうにも機種/プラットフォームによる制限が大きい。AirDropにもアップル製品のみ、という制限があり、自由に使えるわけではない。Near Shareは、今後利用可能な機器やプラットフォームが増えていくと予測できるが、今はかなり限定的な存在である。

Windows MRは継続進化

 RS3では、マイクロソフトのAR/VRプラットフォームである「Windows Mixed Reality(Windows MR)」への対応が本格化したことが大きな違いだった。アプリ不足であることもあってか、Windows MRのヘッドセットはまださほど普及していない。しかし、April Updateでも改善は続けられており、進歩が見られる。

 April Updateでのもっとも大きな変化は、ポータルとなる風景に選択肢が追加されたことだ。RS3までは「クリフハウス」と呼ばれる、崖に作られた部屋だけが用意されていたものの、April Updateではビルの最上階に立てられたような空間も使えるようになった。都会のビル群を見下ろすような場所にあり、非常に開放感がある。機能そのものに大きな変化はないが、部屋の構造が変わることで気分は一新されるし、使い方も変わってくる。引っ越すと部屋の使い方が変わるようなものだ。

Windows MRの新しいポータル。これまでの「クリフハウス」と好きな方を選べる。

 なお、これはApril Updateには直接関係ないが、RS3公開からしばらく後に、Windows Mixed Reality HMDを、HTC Viveなどが採用している「SteamVR」対応とするためのソフトウエアモジュール「Windows Mixed Reality for SteamVR」が公開されている。いまだベータ版であるが、このソフトの存在により、Steamを介して配布されている多くのSteamVR対応VRアプリが使えるようになって、Windows MR用HMDの価値が大きく上がる。

SteamVR対応アプリの一部をWindows MR用HMDとコントローラで使う「Windows Mixed Reality for SteamVR」は、Steamで無償公開中。ただしベータ版で、表記は英語のみ

 一方で、Windows Mixed Reality for SteamVRのセットアップ方法やWindows MR用アプリケーションの所在など、コンシューマがVRを楽しむための基本的な情報があまりに不足しており、「がんばってググれる人しか使いこなせない」状態にあるのが、このプラットフォームの最大の欠点である。April Updateから先に向け、マイクロソフト側に、よりわかりやすい導線設計と情報公開を求めたい。

AV面での特徴は「HEIF」と「HDR」への対応

 April Updateで見逃せないAV周りの機能としては、「HEIFへの対応」と「HDRへの対応」がある。

 前者は、昨年秋からiOSなどで対応が始まっている画像フォーマットだが、Androidでは次期バージョンである「Android P(仮称)」で対応するとされており、WindowsではApril Updateからサポートされる。

ファイルの拡張子に注目。iOS11で採用され、今後Androidでも使われる「HEIF(拡張子HEIC)」の画像ファイルが、JPEGと同じく標準で扱えるようになる

 ただし、サポートといっても「閲覧」がサポートされるだけのようだ。エクスプローラーではHEIF(拡張子HEIC)のファイルが正常に表示され、標準のアプリである「フォト」で閲覧が可能になっているが、「フォト」でも「ペイント」でも、編集後の保存にはJPEGが使われ、HEIFでの保存はできない。

 HDRのサポートについては、実際はRS3から進められていた。Windows 10では、利用にライセンスコストがかからない標準規格である「HDR10」のみがサポートされており、その先はアプリケーション単位での運用となっている。

 OSとしてのサポートとは、標準のウェブブラウザであるMicrosoft EdgeでHDR対応ストリーミング配信に対応することと、HDRに対応したソフトで表示する方法を用意することだ。特に現状は、HDRをストリーミング市場が引っ張っている状況もあり、前者が重要だろう。後者にはUHD BDなどの再生ソフトの他、ゲームなどでの対応が想定される。

 最近はPC用のHDR対応ディスプレイも出始めており、本来はそれとPCの組み合わせで使うのが「WindowsでのHDR対応」の本道である。「Direct X診断ツール」を使うと、現在使っているディスプレイのHDR対応状況が確認できる。

「Direct X診断ツール(コマンド名:dxdiag)」を使うと、今の利用環境がHDRに対応しているか、確認できる

 だがApril Updateでは、HDR非対応のディスプレイであっても、HDRコンテンツの表示をするための仕組みが準備されるつつ「あるようだ」ということがわかる。「Windows HD Color」という仕組みが用意され、それを使い、HDRコンテンツを「ディスプレイ側の輝度・色域に合わせて表示する」機能が搭載されている。この場合、標準で色域や表示が一応設定されているものの、自分である程度調整することもできる。

「設定」内の「アプリ」→「ビデオの再生」から、HDRの設定は行なえる
HDRビデオの見え方の調整。まず中央のビデオを「全画面再生」にして設定する。
スライダーを左右に動かし、映像のダイナミックレンジに伴う見え方を調整。グレーの部分が「規定」の位置
表示はWindowsに組み込まれたテスト映像。HDオフだとこんな感じ
HDR非対応のディスプレイでも、「Windows HD Color」を使ってHDR表示を行なうとこのような色調に。表示は「規定」の設定の場合
同じ映像も、HDR表示の設定を変えるとこのような見え方になる

 ただ、Windows HD Colorとはなにもので、どういう調整をしているのか、という詳細情報が出てきていない。「機能上こうなっている」という話がわかる程度だ。HDRでのストリーミングに対応しているNetflixなどを表示した際も、この辺の機能がどう影響しているのか不明である。というよりも、反映されていないように見える。もう少し詳しい話がわかってきたら、また続報をお伝えしたい。

 なお、現状のWindowsでのHDR対応は、どの機能の場合も、あくまで「動画を全画面表示にした時のもの」である。ウインドウの中の動画については、HDR処理は行なわれない。勘違いしがちな部分なので、ご注意を。

通知を抑制する「集中モード」を搭載

 April Updateの新機能として、地味だがありがたいのが「集中モード」が登場したことだ。集中モードは、メールやメッセンジャー、ニュースサービスなどの「通知」を、条件に応じてオフにすることができるもの。スマホなどにも似た機能があるが、そのPC版だと思っていい。

 「設定」から詳しく設定もできるが、Windows 10の場合、通知領域の「クイックアクション」から、シンプルに切り換えられるのがいいところだろう。クリック毎に、「未設定」「優先順位の高いもののみ」「アラームのみ」と切り換えられる。

通知に邪魔されたくない時には、「クイックアクション」の中央にある「集中モード」をクリックし、設定を切り換える
「集中モード」の設定。時間帯や場所による規制、プレゼン中・ゲーム中の規制など、色々なルールを設定できる。

 今後PCもスマホと同じように、WANにつながって「いつでも通知を待ち受ける」ような使い方をする場合が増えていくだろう。その場合、より仕事に集中できるように、通知をオン・オフできる「集中モード」のような機能は必須と言える。

RS5では「Sets」を導入、だがその効果は?

 April Updateのアップデートを控えてはいるが、マイクロソフトはすでに「RS5」の準備を進めている。Windows Insiderとして登録済みのテスターには、「RS5」の機能が搭載されたビルドの公開が行われている。

 RS5の最大の特徴としてすでに見えているのは「Sets」という機能の実装である。ただし、Setsはすべてのテスターに公開されているわけではなく、使えている人とそうでない人がいる状態だ。筆者の手元では使えていない(正確には、ある日まで使えたが、現在はなぜか手元の端末のすべてで使えない)状態なので、画面については、マイクロソフトが公開しているものを流用する形とさせていただく。

Sets in Windows 10
マイクロソフトの説明動画より。ウインドウ上部に「タブ」があり、複数の種類の文書がまとめられている点に注目

 Setsは、複数のアプリを「ひとつのウインドウ・複数のタブ」で扱うものである。今のPCやスマホは、作業を「アプリ」単位で切っている。ブラウザの中やアプリの中で、複数の文書・URLを「複数のタブで管理する」ようにはなっているが、それはあくまで同じアプリの中でのことだ。

 Setsでは、タブをアプリの枠から解き放ち、違うアプリ同士でも「同じ作業に関わるもの」であれば、ひとつの塊として扱う。例えば、ある文章を書くために調べ物・検証をしている時ならば、Wordの文書とブラウザで開くURL、Excelの文書やPDFなどを、それぞれタブで管理した上でまとめられる。

 なかなか面白い考え方なのだが、現在すでに、複数の問題が指摘できる。

 第一に、タブになるのはすべてのアプリでない、ということ。非対応ソフトを使っているばあい、Setsの価値が出ない。第二に、タブでまとめるという作業そのものが煩雑であるということ。分かってしまえば便利なのだろうが、「アプリ毎に仕事をわける」流儀に慣れきった我々には、なかなか受け入れがたく、見通しの悪い機能にも思える。

 そうしたことはマイクロソフトもよく分かっているようで、使い勝手については慎重なリサーチが行なわれている。すべてのユーザーに提供されていないのも、「ユーザーによる使い方の違い」を把握したいためのものだと思われる。

 どちらにしろ、RS5が出てくるのは今年の秋であり、それまでに、機能の姿は相当変わってくるのではないか、と予想できる。例年、5月に開催されるマイクロソフトの開発者会議「BUILD」では、次のWindowsの詳細が発表される。Setsを含めたRS5以降の姿についても、そこで言及がありそうだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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