昔、一回だけ同じバンドを好きになった女の子と付き合ったことがあるんですが、今思えば地獄でした。
そのバンドの名はMr.Children。みなさん覚えておいてください。ミスチルファンというのはある種『新興宗教的』な側面がありまして、教祖でボーカルの桜井和寿が「カラスは白い」と言えば白、ちょっと教祖が「乃木坂46の『きっかけ』が良い」と言えば信者は全員「乃木坂マジで神」とか言い出すのです。そしてファン歴が長ければ長いほど頭がイカれてきて最終的に、ファン同士による
「自分がミスチルのことをどれだけ愛しているか」
のマウントの取り合いみたいになることがあります。そう、当時の俺たちは言わば「ミスチル狂信者」。極論「ミスチル以外の音楽は全てゴミ」みたいな考えが頭の中を侵食していました。
例えば、ミュージックステーションなんかの音楽番組を観て他のミュージシャンの音楽を聴けば、「これミスチルっぽくない?」は当たり前で「このフレーズ絶対ミスチルの○○のパクリでしょ」「コイツの歌い方桜井さん意識しすぎ気持ち悪い」と毎回天下一糞悪口大会が開催されていました。本当にテレビの画面割れんじゃねぇかってくらいに汚い言葉を撒き散らしていました。多分あのとき二人とも黒目だけになってた。
逆にミスチルが出演する時は、家の中にもかかわらずライブTシャツを着て視聴するのは当たり前。画面に映るミスチルに向かって「桜井さ〜〜〜ん!」「ジェ〜〜〜ン!(ドラム)」などの呼びかけ。演奏中は手拍子、縦ノリなど完全にアッチの世界の住人。
でも、当時は好きなもの、嫌いなものが共通している彼女と一緒にいるのは楽しかったですし、恋は盲目といいますか「彼女とミスチルだけあればいい」くらいに思っていた時期だったので、その行為がおかしいとはまったく思わなかった。
しかし、そんな彼女と別れるキッカケになったのもやっぱりミスチル。そう、冒頭でも書いた「ミスチル愛のマウント合戦」は例え恋人同士だろうが目が合った瞬間にガチのストリートファイト。
一括りに「Mr.Children」と言っても25年(当時でも13年とか)と活動を続けているとファンそれぞれに確固たる「一番好きなミスチル」というものがあり、例えば俺はアルバム『Atomic Heart〜深海』の時期のヒット曲を連発し他を寄せ付けなかった時期のミスチルが好きだったのに対し、彼女はアルバム『HOME〜SUPERMARKET FANTASY』の辺りの桜井和寿自身もトゲがずいぶんと抜けて音を楽しむ、ファンとの一体感を大事にする、というようないわゆる「優しいミスチル」が好きでした。そう、分かり合えない者は傷つけ合うしかない。俺たちは互いを認め合うことができなかった。
最初は、
「Atomic Heartからミスチル一気に殻を破った感じがする。とにかく一曲一曲の厚みがハンパじゃない。歌詞もそれまでの爽やか路線から一気にメッセージ性の強いものに変わってきてその変遷もすごく面白い」
「HOMEでまたひとつ上のステージに行ったよね。国民的バンドと呼ばれるようになって、その重たい看板を背負うことの覚悟みたいなものがこのアルバムにすごく感じる」
と、互いが思う「この時期のミスチルのここがスゴい!」を言い合っていたのですが、いつしか「この時期のミスチルのここが糞」に代わり、彼女の「ミスチルの暗い曲は聴いててつまらない」の一言から着火、俺も返す刀で「最近のミスチルはヌルい」と真正面からの殴り合い。どちらもミスチル、どちらも素晴らしい。それはわかっていたのに止まらないミスチルに対する罵詈雑言、最終的にミスチルそのものにかかる風評被害、
「あの時のミスチルはコバタケの操り人形」
「桜井さんの前髪スカスカでヤバいだろうが」
「ぶっちゃけ裏声キモい」
「ファン以外に他の3人の名前言える奴0人」
そしてそれはいつしかお互いの不満のぶつけ合いになり、
「持ってる服全部ダセい」
「歯並びどうにかしろ」
「風呂上がりの天パマジでキモい」
「ヒザ超汚ねぇ」
「もういい!バーカ!死ね!」
そのまま彼女は家を飛び出し、俺もそれを追いかけることはしなかった。それから彼女と会うことは二度とありませんでした。
いまもし、付き合っている人が同じバンドのファンだったなら決して俺たちのようにならないでほしいです。
別に良かったんです、昔のミスチルが好きでも、今のミスチルが嫌いでも。ファン歴20年だろうが、1年未満だろうが、どっちが上とか偉いとかじゃないんです。いつもミスチルが歌ってたのに。「ひとつにならなくていいよ、認めあうことができるから」って。いや、
「ひとっつになぁらなくていいよぉぉぉ〜〜〜ぉぅん!!んぅう゛ぅんあぁんっ!!みっとめあうことができぃるぅからぁあっ!!」
って。
それでは聴いてくださいMr.Childrenで『掌』。
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