古谷経衡(文筆家)

 私が『ニュース女子』への抗議デモを目撃したのは、昨年の某月であった。エフエム東京(TOKYO FM)からの帰り、道路を挟んで隣接する東京メトロポリタンテレビジョン(東京MXテレビ)のビルの方に目をやると、横断幕を持った数十人が東京MXテレビに対して抗議活動をしている。

 私はピンときた。これが、例の『ニュース女子』の沖縄報道に対する抗議行動だな、と。当時は放送倫理・番組向上機構(BPO)による同番組放送回への結論が出る前の段階であった。しかしながら、『ニュース女子』は持ち込み番組であり、放送局としての東京MXテレビが制作に関与していないことは、常識である。なぜ『ニュース女子』の制作元である制作会社「DHCテレビジョン」や、その親会社でスポンサーの化粧品大手、ディーエイチシー(DHC)の前で抗議活動をしないのだろうか。

 例えばラジオ番組に抗議することを目的としてデモ隊がラジオ局ではなく、ただ電波を発しているからという理由で東京スカイツリーの前で抗議するとしたら、滑稽(こっけい)であろう。このときの私も、漠然としたこのような違和感を、デモ隊に対して感じるのみで終わった。しかし、私の認識は甘かったのである。

 昨年12月14日、BPOが『ニュース女子』問題について「重大な放送倫理違反があった」とする結論を下した。私はすぐさま、PDFにて公開された意見書の全てを、目を皿のようにして読み込んだのである。

 そこには驚愕(きょうがく)の、番組制作過程に対するお寒い実態が縷々(るる)述べられていたのである。私は驚愕を通り越して唖然(あぜん)としてしまった。『ニュース女子』に対するBPOの裁定は、全く妥当なものであった。

 私も、沖縄問題の取材は何度となく現地に行った。那覇での辺野古移設反対運動「オール沖縄」の集会は当然だが、普天間・嘉手納はもちろん、米軍将校住宅(基地区域外住宅)まで、可能な限り見て回ったつもりである(これと、沖縄戦戦跡取材はまた別)。
東京MXテレビの番組「ニュース女子」の一場面
東京MXテレビの番組「ニュース女子」の一場面
 名護市辺野古の埋め立て予定地はもちろんのこと、北部訓練場の返還に伴う代替ヘリパッド6個新設問題(高江ヘリパッド問題)では、山林の中に反対派がつくったテント村の中まで入り、反対派から仔細にその反対理由を聞いた。辺野古と高江(東村)は、元来同じ沖縄特別行動委員会(SACO)の合意から始まった米軍施設の返還計画の一環だが、地理的にもその軍事性格的にも同じ問題としてひとくくりにすることはできない。

 本土でネット番組だけを見て、現地に行かなければ、危うくこういった沖縄問題に関するデマを信じてしまう危うさがある。私自身、現地に何度も足を運んだのは、ネットに安易に繁茂する沖縄問題に関するデマの真偽を自分の足で確かめる意味合いが少なくなかった。名護市辺野古と高江の反対派は、平時相互にリンクしている。

 つまり、高江で大規模な集会があると辺野古は空き、辺野古で大規模な集会があると高江のゲート前はがら空きになる。同じ問題意識を持った人が、この二点を自家用車やバスで移動しているのは紛れもない事実だ。