『The Problem with Apu』(IMDb)より
「ずっと以前に始まったことって、その時は賞賛されて、無害で、でも今はポリティカリー・インコレクト(政治的に正しくない)。どうすればいいの?」
これは4月8日に放映されたアメリカのTVアニメ『シンプソンズ』の中で、シンプソン一家の長女リサがテレビを観ている視聴者に向かって語りかけたセリフだ。
ことの起こりは『シンプソンズ』に登場するインド人キャラクター、アプーだ。強いインド訛りで喋るコンビニ・オーナー、アプーの描写はあまりにもステレオタイプ過ぎるとして以前より批判があったのだが、昨秋、若手のインド系アメリカ人コメディアンのハリ・コンダボルがこの問題を『アプーにまつわる問題』(The Problem with Apu)と題したドキュメンタリー映画にしてしまったのだ。多くのメディアがこのドキュメンタリーを取り上げ、『シンプソンズ』製作側はなんらかの対応を迫られた。リサのセリフは、この件に対する『シンプソンズ」制作側からの答えであった。
インド系移民のステレオタイプ・アプー
『シンプソンズ』は1989年に放映開始されたアニメだ。社会風刺、ブラックユーモア、過激な描写を含み、“シットコム・アニメ”と呼ばれている。放映開始とともに爆発的なヒットとなり、現在、第29シーズン目を迎えている。米国テレビ史上、シットコムとしても、アニメとしても、ともに最長寿記録だ。
舞台はアメリカ中央部の架空の街、スプリングフィールド。そこにある原子力発電所に勤める中年男性ホーマーは、気は良いが怠け者でアタマも切れない。妻のマージは典型的な専業主婦。長男バート(10歳)は過激なイタズラを繰り返し、成績は最悪。妹のリサ(8歳)はバートとは正反対の秀才かつジャズ・ファンだ。末っ子のマギーは赤ん坊。
このシンプソンズ一家を中心に、街の住人、ホーマーの同僚や上司、子供たちのクラスメートなど、様々な脇役が登場する。アプーはその中で最も人気の高いキャラクターの一人だ。
アプーは “クイッキー・マート” というコンビニのフランチャイズ・オーナーとして、一人で店を切り盛りしている。アプーにはインド系移民のステレオタイプがぎっしり詰め込まれている。
・強いインド訛りの英語
・小銭にまで細かい
・賞味期限の切れた食品も売る
・96時間連続シフトで働く
・苗字が長く、かつアメリカ人には発音不可能(Nahasapeemapetilon)
・見合い結婚
・子供は8人
・実は博士号を持っている
根は善人で、客に向かって決まり文句の「サンキュー、カム・アゲ~ン!」(ありがとうございます。また来てくださ~い!)を明るく繰り返す。もちろん、強いインド訛りで、だ。