小説「新・人間革命」

〈小説「新・人間革命」〉 誓願 三十 2018年4月30日

 法悟空 内田健一郎 画 (6360)

 ゴルバチョフ大統領は、山本伸一の社会・平和行動について言及していった。
 「私は会長の知的・社会的活動、平和運動を高く評価していますが、その理由の一つは、あらゆる活動のなかに、必ず精神的な面が含まれているからです。私たちは今、『政治』のなかに、一歩一歩、道徳やモラルという精神的な面を盛り込んでいこうとしています。困難なことですが、それができれば、すばらしい成果をあげられると思っています。現在、人びとは、それを考えられないと思うかもしれないが、私は可能だと信じたい」
 二人は、「政治」と「文化」の同盟・統合の大切さでも、意見の一致をみた。さらに、日ソ関係、ペレストロイカの現状と意義、青年への期待など、幅広く意見交換した。
 大統領との会談にあたって、伸一には、一つの“宿題”があった。というのは、戦後四十五年がたとうとしているのに、ソ連の国家元首が日本を訪れたことはなく、ゴルバチョフ大統領の訪日が実現するか、注目されていたのである。しかし、この二日前に日本の国会代表団との会見が行われたが、大統領が、訪日に言及することはなかった。
 伸一は、大統領に、こう切り出した。
 「新婚旅行は、どこに行かれたのですか。日本には、どうして来られなかったのですか」
 そして、笑みを浮かべて言葉をついだ。
 「日本の女性は、大統領がライサ夫人とお二人で、隣国である日本へ、春の桜の咲くころか、秋の紅葉の美しい季節に、必ずおいでになっていただきたい、と願っています」
 「ありがとうございます。私のスケジュールに入れることにします」
 即答であった。伸一は重ねて要請した。
 「日本を愛し、アジアを愛し、世界平和を愛する一人の哲学者として、大統領の訪日を念願しています」
 大統領は、「絶対に実現させます」「幅広く対話をする用意があります」「できれば春に日本を訪れたい」と明言した。新しい時代の扉が、大きく開かれようとしていた。

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