原発と活断層 規制委調査の波紋
原発直下に“活断層”判断の根拠は
福井県にある日本原電敦賀原発。
2号機の真下にはD‐1と呼ばれる断層があります。
これが将来、動く可能性のある活断層かどうか。
原子炉の下は直接調べられないため、D‐1の延長線上にある場所で調査が行われました。
専門家たちが注目したのは、活断層の基準となる12万から13万年前より新しい年代の地層に断層があるかどうかです。
地震のとき、地層がずれる場所があります。
この亀裂が断層です。
基準となる年代より新しく堆積した地層に亀裂がなければ活断層ではありません。
一方、地震によって基準の年代以降、新たに堆積した地層にも断層が延びている場合は活断層と判断されます。
今後も動く可能性があるからです。
調査で見つかった断層です。
詳しく見ると断層は地層の途中で切れ十数万年前より新しい地層には延びていません。
活断層ではないと見られました。
ところが、調査を続けるとすぐ近くに別の断層が見つかりました。
こちらは新しい地層まで断層が続いています。
専門家たちは活断層だと認定しました。
新たに見つかった断層と活断層。
どちらがD‐1とつながっているのか。
日本原電は断層であるとしてD‐1は活断層ではないと主張しています。
一方、専門家は活断層がD‐1とつながっている可能性があると判断。
つまりD‐1は活断層である可能性が高いとしたのです。
なぜこのような判断に至ったのか。
調査した専門家の一人、堤浩之さんは安全側に考えるという規制委員会の方針が反映されているといいます。
京都大学 堤浩之准教授
「可能性があるものについては活断層である可能性があるということをより安全側に立って評価、判断していく。」
一方、事業者である日本原電は、今はまだD‐1が活断層だという可能性が示されたにすぎず確定したわけではないと反論しています。
「非常に限定的なところだけで見ているので、科学的なスタンスじゃないと思っている。」
日本原電は現在、D‐1が活断層ではないことを証明しようと追加の調査を続行。
今月(2月)末には、新たな調査結果を規制委員会に提出するとしています。
専門家会議のメンバー、鈴木康弘さんは事業者がデータをそろえてD‐1が活断層ではないことを証明しないかぎり結論は変わらないといいます。
名古屋大学 鈴木康弘教授
「可能性が否定できなければ、考慮しないといけないのが大前提。
日本原電には、活断層である可能性が本当にないかどうかということを証明することが求められている。」
規制委員会の専門家会議は先週、追加調査の結果を待たずに全員一致でD‐1が活断層である可能性が高いと結論づけました。
軽視されてきた活断層
規制委員会がこうした姿勢を取る背景には、これまで国の規制当局が安全側の判断を下してこなかったという事実があります。
実は敦賀原発では、D‐1断層とは別に敷地内に活断層があることが20年以上前から指摘されていました。
浦底断層です。
当時、多くの専門家が活断層だという見解で一致していました。
浦底断層はD‐1断層と違い、原子炉の真下を通っていません。
そのため、直ちに運転停止とはなりませんが、大きな地震を引き起こす可能性があれば、施設や配管の補強などさまざまな対策が求められます。
しかし日本原電は、浦底断層を活断層とは認めていませんでした。
国の規制当局も、日本原電に調査を求めることはありませんでした。
たび重なる専門家の指摘を受けて、国が日本原電に浦底断層の調査を指示したのは平成17年。
日本原電が調査を行い、浦底断層を活断層と認めたのはさらに、その3年後のことでした。
浦底断層が原発の安全を脅かさないのか今も調査は続いています。
こうした状況の中敦賀原発は20年にわたって運転が続けられていたのです。
浦底断層を活断層だと指摘してきた地形学者の一人、中田高さんです。
日本活断層学会 中田高会長
「活断層の可能性が残る限りは、活断層と考えて安全な対策をとるというのが当然なわけですね。
それが十分に守られて、安全側の判断がされていくと期待したい。」
規制委員会の田中委員長は、かつての規制当局の姿勢を改め、安全側に立って判断していくとしています。
原子力規制委員会 田中俊一委員長
「これからは少なくとも国民や環境に対し、被害を及ぼすような害を及ぼすようなことは絶対させない。
今までとは明らかに違った規制だというものを作っていきたい。」
原発と活断層 規制委調査の波紋
●今回の専門家会議の出した判断
北澤さん:これは昨年の9月に、制度が完全に変わったというふうにいうことができるかと思います。
これまでは原子力を推進する側の都合を考えて、それで安全規制をしていたような面が、どうしてもあったわけですけれども、9月にできた原子力規制委員会は、そういう推進側のことを一切考えずに、国民の生命と健康と財産と環境を守るという、これを守るのが、あなた方の義務ですよと、そういう法律で、新たに出来た委員会で、しかもノーリターンルールがかかって、規制側と推進側を行ったり来たりするようなこともなくなり、それからその人たちの身分も、国会が保証するという形で、この委員会を作りましたので、この委員会は自分個人個人の誇りと、それから自分たちの知見に基づいて安全を判断していく、そういうことができるように保証されたと、それが初めて、ここで表れてきているのかなというふうに思います。
●疑わしい場合、止める方向に大きく変化
北澤さん:これまでは安全でないということが、証明できなかったら、原子炉はそのまま動き続けたんですけれども、これからは安全規制委員会が、危険ではないというふうに思えるようなレベルにならないと、大丈夫というお墨付きが出ないと、そこのところで非常に大きな差が出たというふうに思いますね。
●専門家会議の結論を受け、これからどう動くのか
岡田記者:このあと、報告書について、別の専門家からも意見を聞くことにしています。
その上で、規制委員会は報告書をもとに敦賀原発2号機の運転について、最終的な判断を示すことにしています。
敦賀原発以外については、規制委員会の専門家会議が、すでに現地調査をした青森県の東通原発については活断層の可能性が指摘されています。
また、国内で唯一、運転中の大飯原発については、活断層かどうかで見解が一致していません。
このほか、石川県の志賀原発、そして福井県の美浜原発、高速増殖炉もんじゅについては、3月中までには現地調査が始まる予定です。
●どうなる原発 規制委調査のゆくえ
岡田記者:ひと言で言いますと、運転再開のハードルが上がっていくということになりそうなんです。
電力会社は、今年(2013年)7月にできる新たな安全基準に適合しているかどうかを調査して、規制委員会がそれを審査していくということになります。
ただ、新たな基準によって特に古い原発の場合には、大規模な改修が必要になるため、大幅に時間やコストがかかることになり、場合によっては運転できない原発が相次いで出てきたり、場合によっては廃炉を余儀なくされる原発まで出てくる可能性があります。
原子力規制がより安全側に立つという姿勢を改めたことによって、日本の原発は今、大きな転換期にあるといえます。
運転停止中も続く原発のコスト
先週、関西電力の電気料金値上げについての公聴会が開かれました。
集まった市民から、値上げには納得できないという声が相次ぎました。
議論の俎上(そじょう)に上がったのは、関西電力ではなく日本原電の敦賀原発でした。
市民
「原子炉の直下に活断層がある疑いが強い。
稼働できるか分からない。
非常に不透明なところに会社(関西電力)が支払いを約束している。」
関西電力は、日本原電の敦賀原発から電気を購入し、その対価を支払います。
しかし、原発が止まっているにもかかわらず電気料金を支払い続けています。
市民
「日本原電は1ワットも発電していないのであるから、これに対して出資するということはあまりにも非常識。」
市民
「値上げは反対です。
納得できる根拠も示さず、消費者に押し付けるのはやめてください。」
日本原電の有価証券報告書です。
今年度上半期、一切、発電をしていません。
ところが757億円余りの料金収入が計上されています。
そのうち、162億円が関西電力から支払われていました。
これに対して関西電力は、建設に多額の費用がかかる原発の場合、発電しなくても支払いをやめるわけにはいかない特別な事情があると説明しました。
関西電力 岩根茂樹副社長
「全ての受電を我々(関西電力)が支払うという運命共同体的な契約ですから、これについては我々が支払っていく義務があると考えています。」
原発の電気料金の内訳です。
原発を造るのにかかった建設費、配管などのメンテナンスにかかる維持管理費、これらを基本料金として毎年、支払っています。
火力発電と比べると、基本料金の割合は突出しています。
発電しなくなれば燃料費はかかりませんが、基本料金は支払う必要があります。
関西電力 岩根茂樹副社長
「原子力発電所はどんな状況でも安全に維持管理する必要がある。
もし我々が支払いをしなければ、そういうことができない。」
たとえ原発が停止していても、その基本料金を消費者が電気料金の一部として負担することになっているのです。
公共料金に詳しい東京大学の松村敏弘さんです。
松村さんは現在の制度では、原発停止中でも消費者が基本料金を負担するのはやむをえないと考えています。
東京大学 松村敏弘教授
「敦賀原発の調査費、安全対策費は当然、固定費になりますから、今の枠組みだと基本料金の中に最終的には含まれて消費者が負担する、ということに、今の制度だとならざるを得ない。」
しかし松村さんは、今の制度には課題があるといいます。
規制委員会が安全性に問題があるため運転を認めないとしても、廃炉にするかどうかの判断はあくまで事業者に委ねられています。
事業者が廃炉の判断を先送りして長期間、停止させても基本料金の支払いは続くのです。
東京大学 松村敏弘教授
「かかったコストは全部消費者につけ回しできる制度を改める、ということも長期的には考える必要がある。」
廃炉コストをどう負担するか
原子力規制委員会は今後も安全の側に立った判断をできるかぎり迅速に行っていくとしています。
それを受けて、事業者が廃炉を判断した場合、今度はその費用が課題となります。
廃炉費用は40年間運転することを想定して毎年積み立てられています。
仮に運転開始から20年で廃炉となると、残り20年分が不足します。
電気事業連合会の八木誠会長はその不足分について次のように述べました。
電気事業連合会 八木誠会長
「必要な廃炉の費用は積み立てているが、今回のような政策的な面で廃炉という行為が起きたときには、廃炉の費用の負担をどうするか国との協議もしていかなければならない。」
原発を止めることによって発生する費用。
費用は電力会社が払うのか。
それとも国民が負担するのか。
安全の側に立った規制を巡って今、新たな課題に直面しています。
●消費者が止まったあとも基本料金を支払うべきなのか
原子力規制委員会は、原子炉が続けられるかどうかという、その都合を考えて国民が安全かどうかという結論を変えるわけにはいかないと思います。
そうなると、どうしても廃炉になる原子炉も中には出てくるでしょうけれども、そのときに、もうすでに造ってあるわけですから、これはもうどうしようもない。
それで費用もかかります。
その費用を、投資したお金を回収していかなければならないということがありますから、だから大きく言えば、誰かが負担しなければならない。
それは最後は国民に回ってくるわけですけれども、そのおのおのを誰が負担するかというのは、最もみんなが納得できるような形で、かかると決まったら、それは専門家の会議とかいろんなことを積み重ねて、みんなが合理的に納得できる形にしていかなければならないでしょうね。
そこをこれから努力していかなければいけないんだと思います。
●造ったものはコストがかかることも受け止めざるをえないのか
これはどうしようもないと思いますね。
●国の役割、規制委員会の役割はどう見たらいいのか
これは特に今、設備を造るところでもお金がかかると言いました。
今度、設備をやめるときの廃炉の費用も、これはばく大なお金がかかるわけです。
みんなが合理的に納得できる形にしていかなければならないでしょうね。
それで1,000億円近くかかるといわれているわけです、1基当たりですね。
みんなが合理的に納得できる形にしていかなければならないでしょうね。
それでさらに高レベルの廃棄物が最後に残りますから、それを子どもの代、さらにはその子どもの代と、次々とつないで安全に維持してもらうのにかかるコストっていうのも相当にあるわけで、これもある部分は、しかたがないわけです。
ですから、それをどう負担していくかというのは、これからの大きな問題ですし、合理的な道を見つけていかなければならないと思います。
●規制委員会の立場として安全のまなざしを忘れてはいけない
規制委員会はですね、これは物事がどういうふうになるにしても、とにかく国民の安全が守れないようでは、もう、お話になりませんから、コストとかそういったことを、むしろ考えずにきちんと安全か、安全じゃないかということを考えて、外の声にあまり左右されずにちゃんとやっていってもらいたいと思います。
●原発の今後 求められる論議
これは、これまでに原子力も一定程度のエネルギーをこれまで生み出して、そして日本を豊かにするという、そういうことに役立ってきたわけですから、私たちとしては、その効果も見つめながら、それでそれを、私たちは解決していく義務があるんだということで、これはみんなが、やはりある程度の負担を覚悟して、やっていく必要はどうしてもあると思います。
その一番合理的な道を探していくということになるかと思うんですね、それをみんなが覚悟して。
エネルギーっていうのは、化石エネルギーにしても、原子力にしても、あるいは再生可能エネルギーにしても、どのエネルギーに変えていくにしても、何十年もかかるんですね。
だから、その何十年もかかるときに子どもたちと、なんとか、うまく今の大人たちが折り合いをつけて、子どもたちが夢を持ってやっていけるようにしたいというふうに思いますね。