3時間の眠りでも大丈夫という「濃縮睡眠」――カギは血流! 脳疲労の改善方法
3時間の眠りでも大丈夫という「濃縮睡眠」――睡眠セラピスト・松本美栄(下)
「睡眠=睡眠の質×睡眠時間」の計算から、重要なのは睡眠の質――そう説くのは、姿勢美矯正サロン「プロスパービューティー」を営む松本美栄さんである。松本さん自らも実践している「濃縮睡眠」、その最初のステップ「生活のリズムを整える」方法をご紹介した前回に引き続き、今回はその“実践編”である。
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生活のリズムを整えるのと同時に、「血の巡りの改善」「脳疲労の解消」「気の流れの改善」の3つを通して、睡眠の質を高めます。
まず、血の巡りが悪いと、肩が凝ったり背中が張ったりします。こうして筋肉が緊張状態にあると、交感神経が優位になってしまいますが、リラックスした状態を得るためには、副交感神経を優位にする必要があります。だから、血流を良くして筋肉の緊張をほぐすことが大切なのです。
私のサロンの「睡眠デトックス」コースでは、頭蓋と脊椎の骨格矯正を行って、血の巡りを良くします。これを一人で行うのは困難ですが、一人で行えるストレッチでも、血の巡りは改善され、副交感神経を優位にすることができます。
たとえばパソコン、特にノートパソコンを使う人は、ディスプレーが目線より下になるため、猫背になって肩甲骨の辺りが強張り、血流が悪くなりがちです。ドライバーや飲食業で働かれている人なども、同じ姿勢をとり続けることが多いと思います。
この状態だと交感神経が優位なまま覚醒状態が続き、眠りが浅くなるので、ストレッチで副交感神経を優位にします。タオルを両手で持って頭の上で左右に振るのがお勧め。強張った肩甲骨がほぐされます。
肩甲骨のストレッチとしては、指で輪を作り、そのまま腕全体をグルグルと後ろに回す動きも効果的です。その際、輪を作る指を親指と人差し指から、親指と中指、親指と薬指、親指と小指と変化させ、それが終わったら親指と人差し指に戻って、今度は腰の高さでグルグルと回します。このストレッチはサッカーの長友佑都選手も行っています。
ヨガのキャット&ドッグという運動も効果的です。猫と犬の姿勢を意識したポーズをとるのでそう呼ばれ、まず四つん這いになって猫のように背を丸め、骨盤を後傾させます。これは猫のポーズ。次にお腹を突き出すようにして、背骨を反らす犬のポーズ。この動きを通して姿勢を良くし、腰痛を抑えられます。
末端の血流を良くするために、手の指先や爪をギュッと押したり、足の指を曲げて地面に押しつけたりするのも有効です。
寝る90分ほど前に半身浴をすることも勧めています。眠るときには体温が下がります。人間のからだには上がった体温を下げようとする働きがあるので、半身浴後の体温の下降を睡眠の導入に利用するのです。これをストレッチと組みあわせると効果が増します。
ネガティブな意識を消す
脳疲労がたまることでも交感神経が活発化し、細胞内に活性酸素が発生して疲労の原因になります。私のサロンでは脳のデトックス、頭蓋のマッサージを通じて、脳疲労を解消しています。
サロンではまた、悩んでいることを自宅で毎日書き出し、それをポジティブな言葉に変換してもらっています。不安や怒り、悲しみなどネガティブな感情を抱えていると、交感神経が優位な緊張状態が続いて睡眠が浅くなりがちです。特に責任の重いポジションにいる方は、常に仕事のことを考える結果、不安感を抱きやすいのです。
そこでネガティブな感情を緩和するために、たとえば「会社の成績が上がらない」と書いてから、その上に「大丈夫」などと、ポジティブな言葉をかぶせ、ネガティブな意識を消す。不安な項目が減った人は、睡眠の質も上がっていることが多いです。
ほかに、周波数528ヘルツの音楽をかけたり、ラベンダーなど鎮静作用のあるアロマオイルを使ったりすることでも、副交感神経が優位になって睡眠の導入が良くなります。アロマオイルはわざわざ器具を買わなくても、ティッシュに含ませて枕元に置いたり、マグカップに2、3滴たらしてお湯を注いだりするだけでも大丈夫です。
就寝30分前は「パソコン」「スマホ」厳禁
寝る前に行ってはいけないこともあります。その代表がパソコンやスマートフォン。紫外線と波長が近いブルーライトが目やからだにダメージを及ぼすといいます。また、目がブルーライトを昼間の光と認識するので、寝る直前に見ると脳が覚醒してしまいます。就寝2時間前、最低でも30分前にはPCやスマホの使用をやめましょう。
寝る前のお酒も睡眠に悪影響を及ぼします。アルコールの作用で一時的に脳が麻痺して眠りやすくなりますが、それは就寝後に解けるので、むしろ脳が覚醒してしまうのです。そのうえアルコールを分解するために、就寝後も肝臓が活発に活動するので、結果的に睡眠は浅くなります。お酒を飲むときは同量の水を飲み、起きているうちにアルコールを分解すること。お酒を飲んだあとでハーブティを飲んでも、胃腸を整えることができます。
睡眠と栄養の関係についても述べておきます。糖質を摂りすぎると、日中に眠くなりやすいことがわかっています。体内の糖質の分解に酵素が使われ、酵素不足になると脳や身体に負担がかかります。夕食の白いご飯のお代わりをやめたら、翌朝すっきりと目覚めるようになった、という声も寄せられています。
筋肉量が多い人は、新陳代謝が活発で血流が良いことが多いため、質の高い睡眠をとりやすいといわれます。このためストレッチと別に、主に下半身の筋肉をつける運動も重要です。特にふくらはぎは「第二の心臓」と呼ばれ、血を送り出すポンプのような役割を果たしています。以前、円形脱毛症の方のケアに携わった際、自転車やジョギングなど、下半身を使う運動を取り入れて自律神経が安定し、脱毛症状が改善したことがありました。
私は1日30分ほどのウォーキング、朝晩6回ずつのスクワットなどを日常生活に取り入れることを勧めています。
だれにでも可能
〈だが、言うは易し、行うは難し、ではないのか。試みに、松本さんの指導を受けた何人かの多忙な紳士に、睡眠の現状を聞いてみた。
「以前は6時間ほど寝ても、昼間に眠くなったり、集中力が途切れたりしました。今年1月から指導を受け、いまは4時間ほどの睡眠なのに昼間眠くなることはまずありません。アプリで自分の睡眠の質を計測すると、最近は以前と違って、一気に眠りが深くなっています。忙しくて2時間しか寝なくても、次の日にしんどくなりません」
と、会社を経営する前川明海さん(50)は言う。
「骨格矯正で姿勢が改善され、疲れにくいからだになったのに加え、頭蓋骨マッサージで脳の疲れがとれているのでしょう。また、就寝前1時間はPCやスマホの使用をやめて紙の本を読み、周波数528ヘルツの音楽を流すようにしています」
むろん、骨格矯正の代わりに自分でストレッチをしてもいいわけだ。印刷会社を経営する前田明良さん(49)=仮名=は、
「毎日いまの悩みを書き出し、その横にポジティブな言葉を書いてから最初に書いた悩みを消していて、結果、“〇〇を達成したい”など前向きな課題を書くことが増えてきました。夜は開脚して上半身を前屈させるストレッチを欠かさず、これによって心身ともにリラックスできています」
その結果、以前は7時間ほど寝ていたのが、
「いまは毎日4時間。しかもすっきり起きられます。趣味の読書の時間も大幅に増えました。寝る前2時間はお酒を飲まないように指導されているので、その2時間と、朝も1時間以上早く起きるようになったので、その時間にも読みます」
税理士法人経営の山本泰三さん(50)=仮名=も、骨格矯正などのほか、
「睡眠の理論を学び、脳疲労をとる努力をし、3カ月ほどで4時間睡眠でもすっきり起きられるようになりました。“眠りのサイクルは90分”という説もウソだとわかった。日常的にもお酒を飲むときは同量の水を飲み、寝る前にヨガのキャット&ドッグのポーズをとったり、開脚ストレッチをしたりしています」〉
私は元々長く寝るほうで、平日で8時間、休日は12時間以上寝ることもありました。そんな私がいま、濃縮睡眠を実現し、日中の時間を有効活用できています。クライアントさんも、3カ月ほどで睡眠時間を3時間ほど短くできている人が多く、しかも、みなさん気軽に実践できています。
読者のみなさんも、できることから生活に取り入れ、仕事やプライベートに生かしていただければと思います。私にできたのだから、だれにでも可能です。
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松本美栄(まつもと・みえ)
睡眠セラピスト。姿勢美矯正サロン「プロスパービューティー」オーナーセラピスト。自身の睡眠の悩みを解決するため、試行錯誤の末、睡眠の質と効率を高めた「濃縮睡眠」の技術を開発。その後、改良を進め、多忙なエグゼクティブらに評判を呼んでいる。
「週刊新潮」2018年4月26日号 掲載