ソフトバンクグループ傘下の米携帯電話4位スプリントと同3位TモバイルUSが、経営統合に向けて最終調整に入った。これまでソフトバンクの孫正義会長兼社長が新会社の経営の主導権にこだわり、交渉は2度も決裂した。再び統合交渉に乗り出した背景にあるのは激しさを増す次世代通信「5G」を巡る投資競争だ。主導権を手放しても規模を追うべきだとの計算が働いてもおかしくない。
関係者によると、ソフトバンクとTモバイルの親会社のドイツテレコムが再び交渉のテーブルに着いたのはここ1、2カ月のことだ。両社は統合新会社への出資比率を巡って協議している。
スプリントとTモバイルは13年から統合に向け協議してきた。14年には米当局の認可が得られずに破談。再び交渉のテーブルについたが、17年11月に決裂した。
時価総額ではスプリントの方が小さく、統合新会社をつくればソフトバンクは経営の主導権を失う可能性がある。このため当時のソフトバンクの取締役会は受け入れるべきではないと判断した。
それから半年足らずでの3度目の交渉。今回は主導権を手放すことも視野に入れている。背景にあるのが、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」の基盤となる5G時代の到来だ。
2020年に5Gの商用化が迫り、米携帯大手間の投資競争は熱を帯びる。契約者数で1億人以上を抱えるベライゾン・コミュニケーションズ、AT&Tの2強は関連のインフラ投資で先行してきた。
ベライゾンが米ヤフーを買収するなど、通信とメディアの融合も進む。スプリントやTモバイルにとって5G投資の負担をこなしながら、規模で圧倒する2強に対抗するのは至難の業だ。
さらにソフトバンク自身の軸足が次世代技術などへの投資に移ってきたことも見逃せない。孫氏は2月、自身が関心のある分野について「人工知能(AI)、IoT、スマートロボットの3つ」と述べた。
その前の1月には約8000億円を投じ、米ライドシェア大手のウーバーテクノロジーズの筆頭株主になった。サウジアラビアなどと立ち上げた運用額10兆円規模の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を通じ、世界の有望な成長企業に相次いで投資している。
3月には中東で太陽光発電を中心としたソーラーパークを建設すると発表し、事業規模は21兆円と巨大だ。
孫氏の中で米携帯事業に対する優先順位が、以前よりも下がっている可能性も否定できない。(佐竹実)