あさお慶一郎(前衆議院議員 神奈川4区)

湘南の風

「北朝鮮兵器」日本企業リスト 平成11年 文藝春秋8月

2003年01月19日 (日)

「北朝鮮兵器」日本企業リスト 平成11年 文藝春秋8月

山本一太(自民党参議院議員)、浅尾慶一郎(衆議院議員)

日本本土を射程圏とする朝鮮民主主義共和国(北朝鮮)の中距離ミサイル、テポドンが三陸沖数百キロの公海上に射ち込まれるというショッキングな事件から、間もなく1年が経とうとしています。

アメリカ国務省は、先ごろ北朝鮮が再びミサイルの発射実験を行う準備を始めたという驚くべき事実を発表し、周辺国に注意を促しました。改良を加えたテポドンII、そして、発射台の大型化でロサンゼルスにまで届くとされるテポドンIIIです。

昨年8月31日に何の事前通告もなく発射されたテポドンは、北朝鮮が日本領土を攻撃する能力を備えていることを国内外に知らしめました。日本人に現実的な恐怖を呼び覚まし、金正日政権に対する警戒心を高めました。

北朝鮮から、いつミサイルが飛んでくるかわからない。それも、弾頭に生物兵器や科学兵器、最悪のケースでは核さえ積まれかねないのです。

私たちの安全を脅かすテポドン。 しかし、もし、そのテポドンに日本の技術が使われていたとしたら、テポドン問題の本質は、根本から変わってしまうはずです。 自分たちの技術が使われたミサイルや兵器で、自分たちの安全が脅かされる。 こんな冗談のような事態が野放しになっている。これこそ、いまの日本が直面するまぎれもない‘現実’なのです。

いま、朝鮮半島をめぐる情勢は大きく流動しています。転機は、2つあります。

1つは、今年5月、アメリカのペリー前国防長官が来日し、北朝鮮の金永南最高人民会議常任委員長と会談したこと。この訪朝を境に、米韓間に横たわっていた緊張が緩み、関係改善の兆しが見え始めたと考えられるからです。

気の早い永田町ではこのムードに敏感に反応し、はやくも「日朝関係正常化の早期実現を」といった声が広がり始める一方、北朝鮮の出方が読めず右往左往する状態が続いています。先頃、無期延期が決まった村山富市元首相を中心とする超党派の訪朝団など、その典型です。

もう1つが、6月15日午前9時28分に黄海(西海)の「緩衡海域」で起きた南北の銃撃戦です。北朝鮮の魚雷艇、警備艇と韓国海軍が向き合い、わずか十数メートルの距離から銃弾約2,000発を撃ち合うという壮絶な戦闘でした。

朝鮮半島はいま「緊張」と「対話」という両極端の現実が微妙なバランスで存在しています。

黄色海での激しい銃撃戦の直後、それでも南北は、北京で行われる予定の次官級会議を中止しないと発表しました。街談は第1日目の協議を終了した後、北朝鮮側の申し出で一時中断となりましたが、銃撃戦による対立と対話が、まだ微妙なバランスのなかで共存しています。

<「タカ派」でも「右」でもない>

振り返って、日本の外交の現場を見てみるとどうだったでしょうか。 テポドン発射事件から今日まで、日本と北朝鮮の関係は決して良好だったとはいえません。むしろ、北朝鮮は関係を故意に悪化させようとしているのかと、勘ぐりたくなるような事件を続けています。 今年3月23日には、北朝鮮の不審船2隻が日本領海内に侵入するという事件が起きています。 自衛隊発足後初めての「海上警備行動」が自衛隊法第82条に基づき発令されたのも、このときでした。 しかし、こうした常軌を逸した行動について、北朝鮮が今日まで日本政府に対し正式な説明を行ったでしょうか。 テポドンを発射した時など「あの実験は衛星打ち上げのためのものだった」と、実に子供騙しの発表をしたに過ぎません。これは、日本がいかに外交上、北朝鮮から軽んじられているかの証左でしかありません。

日本と北朝鮮の間には厳しい対立もなければ、実効性のある対話もありません。一方的な恫喝に対して、それに抗議する方法やルートさえ確立されていな いのが現状です。にもかかわらず何かというと問題を先送りして、とにかく「話し合いの窓口を」という姿勢ばかりが見立ちます。一部にある「最初に正常化あ りき」の理屈はまったく的外れな考え方と言わざるを得ません。米国が北朝鮮に接近しました、それなら日本も、ではダメなのです。

もちろん北朝鮮の問題については、アメリカと北朝鮮の関係、韓国と北朝鮮の南北関係、そして日本と北朝鮮の関係が複雑に絡み合って存在している以 上、米韓との足並みを乱すわけにはいきません。私たちも、米国の北朝鮮に対する核、ミサイル、政治、経済を含んだ「包括的」なアプローチを支持しています。

半島の安定はわが国の国益という観点からも大変重要です。日本が北朝鮮と話し合いのチャンネルを持つことは、それ自体は非常に望ましいことでもあり ます。米国がNGO団体を通じて、北朝鮮との民間交流を支援しているのと同様に、日本も、その活用を考えるべきかもしれません。実際、日本にも北朝鮮との パイプ役としての機能を果たす能力を持った、少なくとも2つのNGO団体が存在します。 しかし、テポドンや不審船の領海侵犯といった問題は、明らかに日本をターゲットとした北朝鮮の示威行為です。 テポドンが日本自身の安全保障に直接関 わる問題であるとすれば、これは日本と北朝鮮の2国間の問題になります。米韓との連携は保ちながらも、日本独自の外交を展開する必要があることは言うまでもありません。

こうした主張をすると、日本ではたちまち「タカ派」であるとか「右」であるといったレッテルを貼られがちです。実は、そうした二元論的な単純な思考 こそが、日本の外交をお世辞にも高級とは言えないレベルに貶めている最大の原因なのです。北朝鮮寄りである必要もなければ、強く敵対する必要もありませ ん。むしろ、1つの国に対して一元的な態度で臨むのではなく、相手の出かたやその背後にあるものを分析することで、日本の国益にかなった合理的選択をして ゆければ良いというだけのことなのです。

<超党派の「戦略的外交を考える会」> こうした考えに基づき昨年10月、私たちは超党派の有志議員による「北朝鮮に対する戦略的外交を考える会」を立ち上げました。 日本政府はこれまで北朝鮮に対し、有効な外交政策を打ち出していない。その反省に立って「戦略的外交」を政治のリーダーシップによって構築する。それと同時に東アジアの安全保障について研究するというのが、この会の目的です。そこには北朝鮮への「外交カード」としてKEDO(朝鮮半島エネルギー開発 機構)への協力だけに頼っていていいのか、2国間レベルで硬軟をとりまぜたメッセージを送る方法はないのかという考え方が当然、存在しました。 そのためには北朝鮮の現状をこれまで以上に詳細に把握しなければなりません。中でも私たちが冒頭で述べた問題意識、すなわち「日本製品が北朝鮮に流れ、それが武器となって日本を狙うという現実」については、特に検証してみる必要があります。

99年度版米国国防報告は「北朝鮮は最も重大な近い将来の脅威である。攻撃的軍事力、生物・科学兵器やミサイルの保有等は韓国にとって恐るべき脅威になっている。また、経済状態の悪化でその動向が一層予想しにくくなっている。」と記しています。 また、テネットCIA長官は「エリート層も含め、民衆の不満が金日成に向かう傾向が強まっている」と上院で証言しました。

私たちが最も懸念するのは、追い詰められた北朝鮮が体制を維持するために、テロ行為や大量破壊兵器を活用して国威発揚をはかるのではないかという点 です。北朝鮮にはテポドンのみならず、かつてラングーンの爆破事件や大韓航空機爆破事件を起こした、総兵力10万人とも言われる特殊部隊も存在します。 そんな北朝鮮で日本の技術や製品が軍事転用されているとすれば、黙って手をこまねいているわけにはいきません。

北朝鮮向けに日本から多くのハイテク技術や関連部品が流れていることは、確証がないまでも、これまでもおぼろげに指摘されていました。それがもしも事実なら、後に詳しく触れる北朝鮮との外交戦で逆に日本の「カード」になるかもしれません。 実際にどんな日本企業の製品がどのように軍事転用されているのか。幸いにも、韓国には国境を越えて侵入しようとした北朝鮮の半潜水艇や潜水艦が保管されています。まずはそれをこの目で確認しないことには何も始まらない。

私たちが国会が休会となる5月2日から5日までの4日間、有志を募り自費で韓国に向かったのは、まさにそのためでした。参加したのは自民党の安部 晋三氏らの数名の議員です。 視察の目的には当然、金大中政権が進める「包容政策(太陽政策)」について意見交換を行うことも含まれていました。日本では軟化政策ととられながら この政策は一方で‘南風’を送りながら、その反面、北の工作に対しては非常に厳しい対応をしている。その現実をきちんと認識しておきたかったからです。 私たちは韓国で、国防部長官や外交通商次官、情報関係者などと意見交換し、日本製品の北朝鮮流出の実態について、詳細なデータの入手に成功しました。

訪韓の成果としてまず報告しておきたいのは、日本にとって直接の脅威となっているテポドンミサイルに関して、ある衝撃的な証言を得たことです。 事態の性質上、情報ソースを明らかにすることはできませんが、非常に信頼できる筋からの情報と考えてください。 その人物によれば、昨年の8月31日に日本に向けて発射されたテポドンには、実は、「ある日本の重要な技術と部品が使用されていた」というのです。

使用されていたのは、半導体と溶接機です。特にテポドンの場合、アルミ溶接に適した高性能の溶接機がどうしても必要だったというのです。ミサイルなど非常に敏感な兵器を製造する場合、誤差を極力少なくするためにも優れた溶接機の存在が不可欠だからです。

そうした高性能の溶接機を生産しているのは何も日本だけではありません。実際、北朝鮮はミサイル製造に関し、以前はフランス製の溶接機を使っていた ようです。ところがテポドンの製造において非常に高度な溶接機が必要になった。そこでより高度な性能をもつ日本製品の調達が急務になったというのです。

もしも、これが事実ならば、まったく滑稽な話です。自ら開発した高度な技術な技術で作られたミサイルで自らの安全が脅かされているのです。

<目の当たりにした半潜水艇>

当初の目的であった半潜水艇については、実際にこの目で詳細に検分することができました。当時はまだ非公開とされていたのですが、幸運なことに視察許可が下りたのです。 成田から釜山に入った私たちは、半潜水艇が保管されている鎮海の海軍施設へと向かいました。

昨年、韓国海軍によって撃沈された半潜水艇は、軍のカマボコ型倉庫のなかに眠っていました。形は、ちょうど競艇用のボートに似ており、全長12.51メートル、幅2.5メートル、水上速力は約40ノット(時速約74キロメートル)とかなり速いのが特徴です。 中をのぞいて、まず驚いたのが、船内の異様なほどの狭さです。船室は、操縦士とそれ以外という区分になっていて、操縦士4人を含めて最大搭乗可能人員が8人。当初は実際に4人の浸透工作員が乗りこんでいたようです。

浸透工作員とは、韓国に上陸してスパイ活動をする要員のことですが、彼ら4人が乗っていたとされる船室は、とても人間が座っていられるようなスペースではありません。 広さは、おそらく普通のコタツ板ほどしかないでしょう。そこに4人の工作員が酸素吸入器をつけてじっと座っていたことを考えると、いまさらながら、北朝鮮兵士の精神力の強さと、国情の違いを感じざるを得ませんでした。

さて、問題はこの半潜水艇にどれほどの日本製部品が使われていたのかということです。 韓国軍の調査によれば、ろ獲品全85種762点、日本製であることが明らかなものは18種70点。全体に占める割合は実に21%にも達しているのです。 私たちは、その具体的な品目を詳細にしたリストを入手しました。下記の一覧表がそれなのですが、興味深いのは、特に日本製品の内訳が電子装備関連に集中していることです。

半潜水艇資料 ○総括 区分数量 ろ獲装備85種762点 日本製18種70点 比率21% ○日本製搭載電子機器(6種) 装備名製作社モデル用途 レーダーFURUNO1830航海用 GPS PLOTTER〃GP-1830位置確認 測深機〃FCV-561水深測定 HF通信機ICOMIC-725遠距離通信用 整合機〃AH-3  コンバータALINTODP-630

ユーゴ級潜水艦資料 ○総括 区分数量 ろ獲装備247種1,9581点 日本製41種287点 比率17% ○日本製搭載電子機器(8種) 装備名製作社モデル・一連番号用途 能動ソナーFURUNOCH-24/不詳水中航海用 レーダー〃1831/2384-5769航海用 HF通信機ICOMIC-725/227782遠距離通信用 GPS NAVIGATORFURUNOGP-500/2473-2183位置算出 DOPPLER LOG〃DS-70/不詳艦速力測定 GPS PLOTTER〃GP-8000/2488-17981位置確認 測深機〃GFCV-561/不詳水深測定 潜望鏡カメラCANON10R-11/000507海岸監視用

たとえば、搭載電子機器では、航海に欠かせない「レーダー」および船の位置を確認するための「GPSプロッタ」、水深を測定する「測深機」などが古 野電気社の製品。また、遠距離通信につかう「HF通信機」と「整合機」がアイコム社製。「コンバーター」はアリント社という具合です。

実はリストにある日本製の部品をひとつひとつ確認しようと、一部破損した船内の側の並べられた部品の山をチェックしてみたのですが、なぜか日本製の ものが見当たりません。同行してくれた軍関係者によれば、検査のため別の場所に運んだとのこと。それでも、潜水艇上部の中心に備えつけられた円形のレー ダーやGPSは明らかに日本製で、古野電気社のマークらしきものが見てとれました。 もっともエンジンは米国マーキュリー社製のものが三機取り付けられるなど、半潜水艇はさまざまな国の製品を組み合わせて作られています。

しかし、21パーセントという数字が示すように、日本製品の役割が非常に重要であることは間違いないようです。 一方、昨年6月、韓国沖合で漁網に引っ掛かって動けなくなった潜水艦(ユーゴ級と呼ばれるもの)も同じ海軍施設にあるとの情報を得ていたのですが、 こちらは別の場所で補修作業中ということで、残念ながら実際にこの目で確認することはできませんでした。しかしながら、これにもやはり日本製品が多く使わ れていることがわかりました。

表を示しながら説明してくれた軍関係者によれば、ユーゴ級潜水艦は長さ22.3メートル、幅2.4メートルと非常に小型の潜水艦です。排水量60ト ン、水中速力は8ノット、航続距離は船速4ノットで400キロメートル。定員は、半潜水艇よりも1人多くて9名です。すでに85年から北朝鮮が独自に製造 していますが、こちらは全体の17パーセントに日本製品が使用されてるとのことでした。

おもに潜水艦搭載電子機器ですが、例えば、水中を航海する際に使う「アクティブ・ソナー」や「レーダー」、位置を計算する「GPSナビゲーター」、 艦速力を測るための「DOPPLER LOG」や「GPSプロッタ」、そして、測深機などがやはり古野電気社製。半潜水艇にも装備されていた「HF通信機」がアイコム社製。海岸監視用の潜望鏡 カメラがキャノン社製となっていました。

「すでに日本の防衛庁には、日本製品の流出を防いでほしいと公式に文書で申し入れているのですが・・・まだ正式な回答はない」 韓国国防部長官は困った表情をうかべながら話していました。 韓国滞在中に面談した政府・軍関係者や情報関係者等の話を総合すると、北朝鮮がこうした製品を入手する経路は主に次の4であると思われます。

1.民生品として直接合法的に輸入する。 2.香港やマカオといった第三国経由のルートを使う。 3.日本国内(たとえば秋葉原)やその他の国で買ったものを持ち帰る。 4.いわゆる不審船等に積み込むなどして密輸する。 もちろん、このまま放置できるような性質のものではありません。

<困惑を隠せない日本企業>

高性能の日本製品の軍事転用の問題は、ユーゴ級潜水艦や半潜水艇に限らず、さまざまな工作船についても見られる現象で、北朝鮮と国境を接して対峙す る韓国にとっては、まさに‘いまそこにある危機’なのです。しかも、そういう兵器が第三国に輸出されている可能性が大きいとのことでした。 北朝鮮が潜水艦の輸出をパキスタンを含む数カ国に持ちかけたという情報も耳にしました。

ミサイルについては実際、北朝鮮はスカッドB型やC型をイランやシリア等に輸出しています。さらに北朝鮮のノドンは、パキスタンのガウリミサイルに酷似していると言われています。 米韓のミサイル協議でも、米国から北朝鮮にミサイルの輸出に厳重な警告が発せられたのに対して、北朝鮮は輸出停止の代償として年間10億ドルの補償を求めたと言われています。 本当にそれぐらいの額を稼いでいるかどうかはともかく、ミサイルを含む兵器の輸出が、北朝鮮の重要な外貨獲得手段であることは間違いありません。そして、そこには半潜水艇やユーゴ級潜水艦同様、日本の高性能な技術や製品が転用されている可能性が非常に大きいのです。 帰国した私たちは6月下旬、武器輸出やミサイル開発技術の流出に関し、北朝鮮との関係がとりざたされるパキスタン大使館を訪ねました。予想した通 り、「すべての疑問は根も歯もない話だ」とハッサン駐日大使は言明しました。しかし、過去にパキスタンが北朝鮮から通常兵器の一部を輸入した可能性につい ては否定しませんでした。

誤解のないように付け加えておきますが、私たちが韓国で入手したリストを公開するのは、何もそこに名前の挙がった企業を糾弾するためではありません。 リストに最も多く登場した古野電気は、漁船やプレジャーボート用のGPS、レーダー、魚群探知機(測深機)などの分野では世界的な企業です。 魚群探知機に限って言えば、実に世界シェアの6割をおさえています。つまり北朝鮮がその気になれば、世界中のどこででも容易に購入できるわけです。

また、ユーゴ級潜水艦の潜望鏡に使用されていたキャノンのレンズは通常、その多くが銀行やコンビニエンスストアに設置されている監視カメラなどに組み込まれているものです。この監視カメラは、日本国内のどこででも購入可能な製品です。

さっそく古野電気の幹部2人と面会の約束を取りました。緊張気味の面持ちで現れた役員の1人は「本当に困惑している。会社のイメージにもかかわるこ とだし・・・」とすっかり頭を痛めている様子でした。ちなみにテポドンの発射以来、「たとえ合法的なものでも北朝鮮への製品輸出はまったくやっていない。 自主的な判断です」とのことでした。電話で問い合わせに応じたキャノンの広報部長もまったく同じニュアンスであり、彼らが決して故意に北朝鮮に部品を提供 したわけではないことが感じられました。

ただ重要なのは、日本の高性能製品が一旦北朝鮮に渡れば、彼らは日本人には思いもよらないような方法で軍事目的に転用してしまうということです。そうしたケースが非常に多いということを認識してもらいたいからこそ、私たちはあえてリストを公開したのです。 これは余談ですが、昨年テポドン発射で大騒ぎになったころ、日本では「北朝鮮のミサイル攻撃の目標は日本の原発ではないか」との議論が高まりまし た。現実にいまのミサイルの精度では1,000キロメートル離れた日本の原子力発電所をピンポイントで狙うことなど不可能です。しかし、高性能の日本製品 を転用した工作船が日本近海まで来ている現実を見れば、日本の原発が北朝鮮のテロの対象になる可能性は否定できません。

仮に、日本に上陸した北朝鮮の工作員が、原発を目掛けバズーカ砲を一発でも撃ちこんだとしたらどうなるでしょう。たとえ原発施設を破壊することはできないとしても、日本全体がパニックに陥ることはまず間違いありません。

そうした危機が日本よりも身近に存在する韓国の場合はさらに深刻です。東海岸にある原子力発電所には、常時、2個師団が張付いて守っているほどで す。もしも浸透工作員を乗せた半潜水艇が常に自国の近海をうろついているとしたら、日本の安全保障は根本から考え直さねばならなくなるでしょう。 幸いにして、いままで北朝鮮の半潜水艇やユーゴ級潜水艦は、日本の近海では見つかっていません。 しかしそれは、韓国軍関係者の説明によれば、その必 要がないからだろうとのことでした。「フリーパスの日本に、そんな高度な船は不要」だというのです。つまり、日本に侵入するのに、わざわざ半潜水艇などを 使う必要はない。それよりも「漁船が最適だ」と北朝鮮は考えているフシがあるというのです。まるで、冗談のような理由なのです。

話が少々それましたが、北朝鮮の日本に対するこの‘あなどり’は外交の舞台でも随所に反映されているのです。

もう一度、冷静な目でこれまでの日本と北朝鮮との交渉の経緯を見てみましょう。日本人なら誰もが、ずっと‘泣き寝入り的’外交に甘んじてきたという実感を抱いているに違いありません。

日朝国交正常化交渉が決裂した最初にきっかけである「拉致疑惑」をはじめ、テポドンや不審船など両国間に横たわる懸案は、今日まで何も新たな進展が ないままズルズルと引き伸ばされているばかりです。日本にはいつのまにか「北を刺激してはまずい」という空気さえ生まれています。これまではすべてが完全 に北朝鮮のペースです。

<議員立法による輸出規制を>

ここで日本の北朝鮮外交にオプションについて、少し技術的な話をしましょう。 一般的に言って、日本が戦略的外交を展開するためには、まず効果的なカードを持つことが理想です。言いかえれば、相手が交渉に応じざるを得ない‘強み’を持つことです。 果たして日本は現在、北朝鮮に対してどんなカードをもっているでしょうか。

日本がこれまで北朝鮮に対する外交的カードとして使ってきたのはKEDOへの協力です。しかしながら、このKEDOはもともと米韓両国との協調に基 づいて、北朝鮮の核開発を止めさせる目的で作られた国際的な枠組みであり、そこから撤退するというオプションは取りにくい事情があります。しかも、新たな 協力の交渉がまとまりつつある現状を考えれば、明らかにその効力を失ったと言っていいでしょう。

ここで、もう一度考えてほしいのだが、私たちの訪韓の成果です。つまり、テポドンの重要部分や半潜水艇や潜水艦に日本の技術や製品が使われているという現実を、この目で確認したということです。 これまで述べてきたように、日本が自ら開発した高性能の製品によって安全を脅かさている事実は、それ自体、非常に由々しい問題であります。しかし逆 の発想をすれば、日本の技術流出を厳しく管理すれば「テポドンは作れない」、いや少なくとも「製造に支障をきたす」とは考えられないでしょうか。

しかもミサイルや潜水艦や通常兵器は、前に述べたように北朝鮮にとって外貨を稼ぐために重要な輸出品でもあるのです。だとすれば、軍事転用可能な日 本の技術と製品の流れを止めることは、実は外交上も非常に有効なカードになるはずです。これが実際にストップできれば、北朝鮮は軍事的にも経済的にもかな りの打撃を受けるに違いないからです。

いま私たちが北朝鮮に対して最も有効だと考えるカードは、日本の安全保障を脅かす技術と部品の流出という問題を逆手にとって、モノと金の流れをス トップさせてしまうこと。つまり「輸出規制」の強化という外交戦術なのです。無論、現実的には、日本から北朝鮮に流れるすべての製品を止めてしまうことは 不可能でしょう。しかし、それを大幅に制限するだけでも、北朝鮮には十分なメッセージとして伝わるに違いありません。

実は、危険な国家に対して輸出規制をしようとする動きは、すでに国際的な傾向でもあります。 アメリカでは「CATCH ALL」と名づけられた輸出規制法案が下院を通過し、現在も上院で審議されています。 外務省ではなぜか表に出しませんが、5月に小渕首相が訪米した際に行われた首脳会議で、クリントン大統領はわざわざこの技術流出問題に触れ、北朝鮮への日本製汎用品およびミサイル技術の流出を暗に警告しているのです。

一方、北朝鮮は村山訪朝団の日程が具体化する課程で、ある非公式なルートを通じ、輸出規制の動きをやめてほしいとの働きかけをした形跡があります。 もしこれが事実だとすれば、輸出規制を実施しようと声を上げただけでも、すでに北朝鮮にはボディーブローが効き始めたということになります。 問題は、どのような手段で北朝鮮への輸出規制を実現するかです。結論から述べましょう。 私たちは、これを国会議員による「議員立法」で実現すべきだと考えています。

なぜ議員立法なのかというと、そうすれば、北朝鮮に明確に日本国民の意思を伝えられると考えるからです。一連の事件に日本国民は憤っているのだという明確なメッセージを、より強く伝えることができるはずだからです。 また議員立法であれば、政府(外交当局)は北朝鮮との交渉に際して、言わば議会を悪者にすることもできる。 要するに交渉の際にワンクッションおけるメリットもあります。

現在、日本では外国為替管理法(外為法)によって、輸出品の規制、管理を行っています。しかし私たちは、外為法による輸出規制は以下の5つの問題点があると考えています。

1.日本の安全保障の観点からの輸出管理について明記されていないこと。

2.多くの政省令に委ねられており、法文上、規制の具体的な理由が明らかでないこと。

3.規制品目のリストに列挙されている製品以外は、仮に兵器に転用されると分かっていても規制する根拠がないこと。

4.事前審査制で、事後の監督体制が整備されていないこと。

5.最終的な需要者(エンドユーザー)や用途を把握するための、情報手段について規定がないこと。

グローバル化した経済のもと、日進月歩で新商品やアイディアが発表される現代社会では、兵器の拡散を防止するには、リストに列挙される方法では限界があります。輸出品のエンドユーザーを把握することも非常に重要です。

実は最近、日本から北朝鮮への製品・技術流出問題について、また1つショッキングな疑惑が持ち上がりました。

きっかけは、共同電でも報じられた今年3月11日付けの米国「ワシントン・タイムズ」の記事です。内容は「北朝鮮が核兵器開発に必要なウラン濃縮技 術を高めるために、日本企業から関連機器を輸入しようとした」というものでした。関連機器とはウラン精製に使われる遠心分離機に必要とされるもので、北朝 鮮の「Daeson Yushin」という貿易会社が窓口となって日本企業と接触したと記されていました。

記事では、日本企業については具体的に触れられていません。 実際にこの記事を書いた記者やほかの情報ソースにもコンタクトを試みましたが、結局、問題の企業を特定することはできませんでした。

しかし、もしこの企業が北朝鮮関連会社と売買契約を結んでいたとすれば、国際社会から日本企業全体のモラルが批判されることになるでしょう。世界に重大な種子をばらまくことになるからです。 この重大な核関連機器の輸出疑惑については政府として迅速な真相究明を行わなければならないことは言うまでもありません。 一方で通産省は、先の半潜水艇やユーゴ級潜水艇に使われた日本製品の実態および輸出ルートについて、少なくとも本年2月より調査を開始しています。

しかし、通産省の説明によれば、レーダーやGPSといったそれらの製品については、現行法の下では日本から北朝鮮に直接輸出したとしても何の問題も ないというのです。たとえ自国の安全が危機にさらされたとしても、いまの日本の制度では怪しいと思われる民生品に網もかけられないというのです。

こんな状 態は一刻も早く改善しなければなりません。

世界の軍事物資不拡散制度には条約とレジームという2つの体系があります。

レジームとは聞きなれない言葉でしょうが、少々乱暴な言い方をすれば、強制力のある条約とは異なり、一種の‘紳士協定’だと説明した方がわかりやすいかもしれません。 まず核平気や生物・科学兵器そのものについては、国際条約により、移転や開発が厳しく規制されています。それに資する汎用品にも不拡散のための枠組み、国際レジームが存在します。 ミサイルについては国際条約は存在せず、管理のための国際的レジームのみに存在します。通常兵器についても同様で、ワッセナー・アレンジメント(以下W.A)と呼ばれるレジームで規制されています。

今回、我々が韓国を訪問して見てきた半潜水艦のレーダーをGPSなどの製品は、通常兵器に使用されていましたからW.Aの範囲です。紳士協定のみで 汎用品の兵器利用が止められるわけがありません。要するに現行制度では、国内的にも国際的にも、民生品の北朝鮮への流出は阻止できないのが実情なのです。 だからこそ私たちは、現行の外為法ではなく、新たな輸出規制法制定と国際条約の締結が不可欠であると考えているのです。

<「HIRANO」と「IRAN」>

その際、重視しなければならない3つあります。 まず第一は法案の「機動性」です。 技術革新が日々猛烈なスピードで進む現代にあって、規制品目を決定するにあたってのロスタイムは致命的であるといってよいでしょう。ですから、危な いと思った製品を即座に確保しなければなりません。 同様に、規制を解除する場合は場合はにも迅速な対応ができなければ、外交カードとしての効果がまさに半 減してしまいます。 アメリカの上院で審議中の「CATCH ALL」法案も、大統領、あるいは各主務長官の判断で即刻、輸出を禁止することができると定めています。つまり、輸出規制が機動性を発揮するためには、政治の強い権限と一体であることが必要なのです。

第二は輸出規制対象品目の「事後管理」です。 せっかく輸出規制品目に指定しても、それがいつのまにか北朝鮮に流れているようでは、まったくの本末転倒です。具体的には、北朝鮮が第三国経由で日本製品を購入するのを阻止することです。 そこまできっちり規制するには、モノの流れと逆行して動く、お金の流れも把握しなければなりません。国内で輸出規制法をつくる作業と並行しながら、 各国政府と協力して国際条約結び、国境を越えたお金の流れを追いかける態度を作る。これができれば仮に香港のA商社を通じて北朝鮮に製品が流れてても、A からモノがどう動いたかは、入金状況からも把握することが可能なのです。 すでに、麻薬などの組織犯罪に対しては、各国が協力して実績を上げているケースもなくはありません。モノと金で、二重、三重に網をかけてゆけば、第三国を経由して北朝鮮に流れるルートにも対応が可能でしょう。

そして第三が「国指定」の問題です。 これは、実は私が新しい輸出規制を作るべきだという最大の理由の1つでもあるのですが、日本の現行制度には明白に、特定の国を対象に輸出規制は行わ ないという、重大な欠陥があります。北朝鮮と戦略的外交と展開するにあたっての最強のカードとは、当たり前のことですが、最も極端な場合日本から北朝鮮へ のすべてのモノと金の流れを止めてしまうことです。もちろん、このようなことを実際におこなうことは難しいですし、望ましいことでもありませんが、最悪の 場合、いつでもこのカードが切れる状態にすること自体が、日本外交にとって強みになるでしょう。

アメリカでは現行法においても「緊急管理」という条項が定められています。そのなかに国際テロリズム支援国という項目があり、それに指定された国家に対してはモノの流れも金の流れも一切がストップされる仕組みです。

実際、アメリカからテロ国家に指定されたイランなどへの送金は厳しくチェックされています。これは笑い話のようなエピソードですが、アメリカから日 本の平野さんという人物に送金しようとしたら、コンピュータで自動的に撥ねられたという話があります。英語の綴りの「HIRANO」のなかに「IRAN」 が隠されているからだというのです。

要するに、例えば北朝鮮がたとえば北朝鮮がテポドンを発射してきたとします。日本は直ちにスイッチをオフにして製品の流れをストップする。それに対 して北朝鮮が態度を改めて関係改善のシグナルを送ってきたならば、政治の判断ですぐにオンに切り替える。そうした対応が輸出規制では非常に重要になってく るのです。

<「瀬戸際外交」に翻弄されるな>

もう一度、言いましょう。いま日本外交が北朝鮮に対してなすべきことは、新たな輸出規制法案を作ることであると、私たちは考えます。自分たちの首を 自分たちで絞めるという馬鹿げた事態を打破することはもちろんですが、輸出規制は北朝鮮に対して戦略的外交を実践するための「切り札」となるからです。 私たちは、安部 晋三議員らと協力し、超党派の議員の賛同を呼びかける形で、前述の輸出規制法案を国会に提出したいと考えています。と同時に現在、国連の第六委員会で協議されている、国際的なテロ集団への資金の流れを規制する、条約制定に向けた努力を支持します。

最後に私たちが考える法案の内容について次の4つのポイントを示したいと思います。これまで述べてきた原稿制度の不備を補うものになっています。

1つ目は「CATCH ALL規制」。輸出品目が兵器の開発に利用されることを認識した場合、それまで規制対象外の品目であっても、すぐに輸出規制対象に指定できること。

2つ目が、規制対象外の輸出品目であっても、兵器開発に使用されるおそれがあると政府が判断した場合、その旨を輸出者に通知して規制する「インフォーム規制」。

3つ目が、輸出入に関連した資金の動きを把握する制度の整備。

4つ目が、総理大臣が安全保障会議の議決を経て、我が国の平和及び安全に重大な影響を与える特定地域を指定できること。これによって、その特定地域との貿易について、管理、把握できるようになります。 この法案と同時に、前記の資金の流れを規制する国際条約が締結されれば、非常に実効性のある輸出管理ができるようになります。つまり、仮に北朝鮮が 香港やマカオのダミー会社使って日本製品を輸入しようとしても、金の流れを把握することで、それすらも抑制できるようになるはずです。

私たちはこの法案で北朝鮮に対するすべての輸出品を規制できるとは思っていませんし、そのような規制は自由貿易体制に対する副作用も少々強すぎると感じています。しかし、この法案が国会を通過すれば、北朝鮮に明白なメッセージを送ることができると考えているのです。

以上、日本の北朝鮮外交には「対話」と「抑止」を基本とする戦略が必要であること、さらには北朝鮮への「輸出規制」が日本の安全保障上、重要な意味を持っており、戦略的外交を実践する上での「切り札」にもなることを論じてきました。

ひとつ誤解のないようにしておきたいのは、私たちの提案は決して北朝鮮を敵視したり、彼らを日乾しにすることを目的にしたものではないということです。

単なる感情論ではなく、日本の国益、ひいては北東アジア地域の安定という観点から、日本が最も合理的な戦略的志向に基づく外交政策を選択すべきだと主張しているのです。

いま、日本の対北朝鮮外交に求められているのは、軍事力による恫喝も含めたピョンヤンからの様々なメッセージに対し、その都度、的確な反応をしていくことです。

北朝鮮は追い詰められると‘自殺行為’に走るような特殊な国家であり、刺激するとかえって危険だという見方をする人も少なからずいます。しかしなが ら、北朝鮮のこれまでの動きをつぶさに監察すると、そこにはしたたかな戦略に基づく「瀬戸際外交」の姿が浮かび上がってきます。その証拠に、彼らは小さな 危機は作り出しても、決定的な衝突にエスカレートさせることは回避しています。 もちろん北朝鮮が将来の外交手段としての軍事力の影をちらつかせることは十分に考えられます。 その時、「信頼していたのに裏切られた」と嘆くような人脈外交だけに頼っていたら、日本はそれこそ北朝鮮の一挙一動に翻弄され続けるばかりです。

ところで本稿執筆中、明石 康元国連事務次長が、北朝鮮を訪問するニュースが飛び込んできました。明石ミッションに限らず、北朝鮮政府に対しNGOや適切な議員外交を通じた「対話の 窓口」を構築することは、日本としては当然のことです。しかしながら相手の挑発に対しては、硬軟あらゆる手段を駆使して外交戦を行う姿勢を整えておかねば なりません。

輸出規制の強化というカードを通じ、まず国家としての明確なメッセージを相手に伝えること。それが北朝鮮に対する「戦略的外交」の第一ステップであることを、最後に改めて強調しておきたいと思います。

湘南の風 あさお慶一郎の日記

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