金融庁はコインチェックの仮想通貨流出事件を契機に仮想通貨交換業者への立ち入り検査等を実施しました。
2018年4月27日に開催された「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第2回)では、金融庁の立ち入り検査の結果について概要が報告されています。
今回は、この仮想通貨交換業者への金融庁の検査結果について確認します。
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結果公表の前提
まず、仮想通貨交換業者に対する金融庁の検査結果を確認する前に、金融庁が挙げている留意点を確認します。
ポイントは全ての業者に共通している訳ではないというところでしょう。合計12社に対して出した行政処分の中身が後述の検査結果となります。
全てのみなし仮想通貨交換業者、複数の仮想通貨交換業者に対し、順次、立入検査を実施中。
これまでにみなし仮想通貨交換業者10社及び登録業者2社に対し、業務停止命令・業務改善命令を発出。
以下は、そのうち主な内容を行政処分の公表文から基本的に抜粋。
(注)以下の問題は行政処分を受けた全ての業者について一様に指摘されたものではない。他方、複数の業者が同様の項目を指摘されている場合もある。
仮想通貨交換業者を規制する法律
次に金融庁が検査を行う根拠、日本における法規制について確認しておきましょう。
<改正資金決済法等の施行>
2017年4月に改正資金決済法等が施行され、仮想通貨交換業者に対して登録制を導入
(注) みなし仮想通貨交換業者について
法施行前から仮想通貨交換業を行っていた業者であって登録審査中の者。登録審査中の間、営業を認めないと、当該業者や利用者に混乱や不利益が生じるおそれがあるため、他の金融関連の制度も参考に、登録可否の判断が行われるまで業務を行うことを認める経過措置を設けたもの。
<仮想通貨交換業者に対する規制>
(1)マネロン・テロ資金供与規制(犯罪収益移転防止法)
- 顧客の本人確認(口座開設時、200万円超の仮想通貨と法定通貨等との交換時、10万円超の仮想通貨の移転時)
- 本人確認記録、取引記録の保存
- 疑わしい取引の当局への届出
- 体制整備(社内規則の整備、研修の実施、統括責任者の選任、リスク検証・モニタリングの実施、内部監査の実施など)
(2)利用者保護の規制(資金決済法)
◆内部管理体制(経営管理、システム管理、サイバーセキュリティ対策など)の整備
- 社内規則の整備、研修の実施、リスク検証・モニタリングの実施、内部監査の実施など
◆利用者への情報提供
- 法定通貨でない旨、価値を保証する者がいない場合にはその旨、価格変動による損失リスク
- 取引の内容、取り扱う仮想通貨の概要、手数料、分別管理の方法
- その他リスク(ガイドラインにおいて、レバレッジ取引のリスクやサイバー攻撃による仮想通貨の消失リスクを例示)など
◆最低資本金・純資産に係るルール(資本金1,000万円以上、純資産額が負の値でない)
◆顧客財産と自己財産の分別管理
- 金銭:自己資金とは別の預貯金口座で管理、又は、金銭信託で管理
- 仮想通貨:自己の仮想通貨と明確に区分し、かつ、顧客毎の数量を直ちに判別できる状態で管理
◆分別管理・財務諸表の外部監査
◆当局による報告徴求、検査、業務改善命令など
以上が仮想通貨交換業者が法的に求められているものであり、金融庁が検査を行う根拠となるものです。
金融庁のガイドライン
前述の法律を受けて、金融庁が仮想通貨交換業者を監督する際の内部(金融庁職員)向け手引書を公表しています。
こちらについても確認しておきます。
事務ガイドライン(29年4月施行)
- 位置付け:仮想通貨交換業者を監督する際の、行政部内の職員向けの手引書(公表)
- 以下、主な監督上の着眼点として掲載されているもの
<経営管理等(Ⅱ-1-2②)>
経営陣は、業務推進や利益拡大といった業績面のみならず、法令等遵守や適正な業務運営を確保するため、内部管理部門及び内部監査部門の機能強化など、内部管理態勢の確立・整備に関する事項を経営上の最重要課題の一つとして位置付け、その実践のための具体的な方針の策定及び周知徹底について、誠実かつ率先して取り組んでいるか。
<取引時確認等の措置(Ⅱ-2-1-2-2⑶)>
疑わしい取引の届出を行うに当たって、顧客の属性、取引時の状況その他仮想通貨交換業者の保有している当該取引に係る具体的な情報を総合的に勘案した上で、犯収法第8条第2項及び犯収法施行規則第26条、第27条に基づく適切な検討・判断が行われる態勢が整備されているか。
<利用者保護措置(Ⅱ-2-2-1-2⑴①)>
利用者に対する説明や情報提供を行うに当たっては、取り扱う仮想通貨や取引形態に応じて、内閣府令第16条第1項及び第2項各号、第17条第1項各号及び第2項各号並びに第4項に規定された事項を説明する態勢が整備されているか。
<システムリスク管理(Ⅱ-2-3-1-2⑶①)>
システムリスク管理部門は、利用者チャネルの多様化による大量取引の発生や、ネットワークの拡充によるシステム障害等の影響の複雑化・広範化など、外部環境の変化によりリスクが多様化していることを踏まえ、定期的に又は適時にリスクを認識・評価しているか。
また、洗い出したリスクに対し、十分な対応策を講じているか。
以上が金融庁のガイドラインであり、仮想通貨交換業者を監督・検査していく重点ポイントとなります。
では以下で実際にどのような検査結果が公表されているのか確認しましょう。
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ビジネス部門に関するもの
ビジネス部門(いわゆる営業・販売分野)における金融庁から指摘された問題事例は以下です。
不適切な通貨の販売という項目は、自社発行仮想通貨に流動性があるように見せるという行為でしょう。もしかしたら徐々に価格を引き上げて相場を操作していたかもしれませんが、今回の資料では判然としません。
<取り扱い仮想通貨の選定>
- 取り扱う仮想通貨が内包する各種リスクを適切に評価していない。その結果、適切な内部管理態勢が構築されていない。
<不適切な通貨の販売>
- 自社発行仮想通貨について、当社の自己勘定と社長個人の売買を対当させて価格形成を行っていたにもかかわらず、当該事実を利用者に説明しないまま、当該仮想通貨の販売勧誘を行っていた。
リスク管理・コンプライアンス部門に関するもの
このリスク管理・コンプラアンスは金融庁が最も注力しているところです。
マネロン・テロ資金供与対策で不備があれば、日本国として他国から厳しい指摘を受ける可能性があるためです。
この結果をみれば仮想通貨交換業者の利用者は、適切な業者を選定すべきと思われるでしょう。
<マネロン・テロ資金供与対策>
- 複数回にわたる高額の仮想通貨の売買にあたり、取引時確認及び疑わしい取引の届出の要否の判断を行っていない。
- 法令に基づく取引時確認を十分に実施しないまま、仮想通貨の交換サービスを提供しているほか、疑わしい取引の届出の要否の判断を適切に実施していない。
- マネー・ローンダリング及びテロ資金供与リスクなど各種リスクに応じた適切な内部管理態勢を整備していない。
- 取引時確認を検証する態勢を整備していないほか、職員向けの研修も未だ行っていないなど、社内規則等に基づく業務運営を行っていない。
- 疑わしい取引の届出の判断が未済の顧客について、改めて判断し、届出を行ったとしているが、当局の指導にもかかわらず、当局が改善を要請した内容を十分に理解する者がいないため、是正が図られていない。
<利用者保護>
- システム障害や不正出金事案・不正取引事案など多くの問題が発生しているにもかかわらず、顧客への情報開示が適切に行われていない。
- 利用者情報の安全管理を図るための態勢が構築されていない。
<分別管理>
- 特定の大口取引先からの依頼に基づき、複数回にわたり利用者から預かった多額の金銭を流用し、一時的に同取引先の資金繰りを肩代わりしていた事実が認められた。
- 代表取締役が会社の経費の支払いに充てるため、利用者から預かった金銭を一時的に流用していた事実が認められた。
- 100%株主である経営企画部長が、利用者から預かった仮想通貨(ビットコイン)を私的に流用していた事実が認められた。
- 適正な業務運営を確保するための実効性ある経営管理態勢が不十分なため、利用者財産の不適切な分別管理や帳簿書類の一部未作成が認められた。
<システムリスク>
- システム障害や不正出金事案・不正取引事案など多くの問題が発生しているにもかかわらず、その根本原因を十分に分析しておらず、適切な再発防止策を講じていない。
- 業容が急激に拡大する中、システム障害事案が頻発していたにもかかわらず、根本原因を十分に分析せず、適切な再発防止策を講じていない。
<外部委託先管理>
- 自社発行仮想通貨に関するセミナーへの勧誘等を行わせている外部委託先の活動状況等を把握しておらず、委託業務の適正かつ確実な遂行を確保するために必要な措置を講じていない。
内部監査・経営管理態勢に関するもの
こちらの内容もなかなかの指摘です。
- 内部監査が実施されていない。
- 取締役会は、業容が急激に拡大する中、業容拡大に応じた各種内部管理態勢及び内部監査態勢の整備・強化を行っていない。
- 取締役会は、法令等遵守や適正な業務運営を確保するための実効性ある経営管理態勢を整備していない。
- 取締役会において顧客保護とリスク管理を経営上の最重要課題と位置付けておらず、経営陣の顧客保護の認識が不十分なまま、業容拡大を優先させているなど経営管理態勢等に重大な問題が認められた。
- 経営陣は、自社の財務基盤・収益構造に関するリスク分析を行っておらず、合理的な経営計画を策定していない。
- 業容拡大を優先させている状況において、監査役が機能を発揮していない。
所見
今まで、仮想通貨交換業者に対して金融庁が指摘した事項について確認してきました。
かなり刺激的な内容だったとのではないでしょうか。
これは仮想通貨交換業者に非上場企業が多く会社の業務運営等がブラックボックスとなっていることが影響しているでしょう。
筆者個人としては、様々な業者が参入してくることは利用者のために有用であり、このような検査結果を受け、業務を取り止める(廃業)業者が出てくるような「事後的な監督運営が重要」ではないかと考えています。
仮想通貨という分野はまだまだ未開拓の分野であり、もしかしたら更に拡大していくかもしれません。
事前に様々なルール・規制をかけて、新規参入がほとんど無いような業界にはならないように、金融庁をはじめたとした政府には対応をしていってもらいたいと思います。
幸いにして業界団体が一つになった今、自主規制を行う団体へさらに一歩踏み出していく局面でしょう。この動きをサポートするのが行政の役割ではないでしょうか。
今、仮想通貨業界は黎明期から、成長期に入るところかもしれません。
投機対象ではなく仮想通貨が実際に資金決済に使われるようになるかもしれません。
日本が仮想通貨の一大ムーブメントを起こし、それをもって世界をリードしていくような未来があっても良いのではないかと筆者は考えています。
(ただし、仮想通貨はキャッシュフローを生まないため、投機対象としては筆者は否定的です)