はじめに
モレスキンというノートがあります。
今日はこのノートの愛用者が多い理由を書いてみようと思います。
モレスキンは色々な種類で売り出していますが、ハードカバーのポケットサイズ(約A6サイズ)が有名です。
A6サイズで2000円くらいする、相場から考えれば超高級なノートです。中が手帳になっているものもありますが、オーソドックスに人気なのは無地、あるいは方眼でしょう。
ユーザによって、色々な使い方ができるのが魅力です。
また、様々なブランドとコラボしていて、その種類の多さもユーザをひきつけます。
※画像はコカコーラとのコラボ。
※ポケモンとすらコラボします。
このような魅力から、非常に愛されているノートであり、日本でも多くのファンが存在します。
私もその一人です。
思えば文房具にハマるようになったのは、このノートがきっかけといっても過言ではありません。今思えば、あのころは撫で回すようにして愛用していました。
日々感じたことを綴ったり、絵を描いてみたり、いろんな使い方をして楽しみました。
今でも最初とは違った形でですが、好きです。
濁った言い方をしたのには理由があります。
私の今のモレスキンのノートとしての印象は、あまりいいものではないからです。
- 万年筆のインクが裏抜けする
- というより油性ペン以外は高確率で裏抜けする
- 紙の質がバラバラである(クオリティ・コントロールが信用できない)
- にもかかわらず高い
- ロイヒトトゥルムという上位互換のノートが存在してしまっている
- 「芸術家や思想家に愛された伝説のノート」というキャッチコピーと、広告で言葉巧みに売っている商品である
これが今の、私のモレスキンというノートのイメージです。
最初の印象が良かっただけに、なんといいますか、イケメンだと思って付き合ったらダメンズだったことがわかったくらい気持ち的には冷めています。
「あーうん、〇〇くんね、かっこいいよねー」くらいの好きさ具合です。
モレスキンはポケットサイズ(=A6サイズ)のハードカバーが有名ですが、だいたい2000円くらい。192ページ(not 192枚)なので、1ページあたり10円くらい。
ノートジプシーの私でも、なかなか贅沢なノートだなぁと感じるくらいの常識は残っています。
これくらいの値段であれば、いくらハードカバーとはいえ、多少なりとも紙の質はいいことを期待します。しかし、残念ながらモレスキンの上述のように紙質は良いとは言えません。
機能だけ考えれば、他にも魅力的なノートはたくさんあることを知ったので、相対的にモレスキンの魅力は下がってきています。
モレスキンのライバルたち
大容量ノートの種類はあまり多くはないですが、それでも強力なライバルがいくつも存在します。
代表的なノートとしては、ほぼ同じ形状でより上質な書き味を実現する「ロディア」、「ロイヒトトゥルム」。
油性ペンでも驚きの書きやすさを実現できる国産「紳士なノート」。
ハードカバーではありませんが、書き味の良さと本体の堅牢さを持つ新進気鋭のノート、「ジークエンス」。
同じくハードカバーではないですが、 驚きの紙の薄さとページ数を持つ「365デイズノート」。
こういったノートが存在します。
モレスキンの紙質は、上記のノートと比べると明らかに見劣りします。
ハードカバーとポケットがついてるということを鑑みても、コスパが悪すぎます。
しかし、このように強力なライバルが存在するにもかかわらず、日本でのモレスキンの人気は圧倒的です。たくさん種類がある、がそこまで要員として大きいようにも思えません。
実際、私もこれらの事実を踏まえてもついついモレスキン売り場で足をとめてしまうことはしばしば。それだけよくわからない魅力があるのがこのノートです。
私自身、不思議でたまりませんので、これからモレスキンが売れる理由の真髄に迫っていこうと思います。
最初に書いた理由は表向き、ここからは裏の理由です。
伝説のノート、というブランド
モレスキン 「伝説のノート」活用術?記録・発想・個性を刺激する75の使い方
- 作者: 堀正岳,中牟田洋子
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2010/09/10
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 8人 クリック: 637回
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モレスキンの使い方ガイドブックとして、おそらく最も売れている書籍です。
この本のタイトルにもあるように、「伝説のノート」と「モレスキン」という二つのワードの間には、非常に強い結びつきが出来ています。
ヘミングウェイ、ピカソ、ゴッホ、チャトウィンの時間が刻まれた世界で一番愛されるノート、待望の世界初ガイドブック。自由であるがゆえに世界中でその使い方が熱く議論される奇跡のノート。その中から仕事とプライベートで今すぐ実践できる活用法を厳選して紹介。
そう、あの『老人と海』『誰がために鐘は鳴る』で知られる小説家・詩人のヘミングウェイ、『ひまわり』で知られる孤高の画家ゴッホも使ったノートなのだ、うーんかっこいい!・・とこの文章を読むと認識します。
おそらく大部分の人が、このようにモレスキンには長い歴史があると勘違いしているでしょう。よく読んでみると時間が刻まれた世界っていうのはなかなかわかりにくい表現ですよね。
では、モレスキンの公式ホームページを見てみましょう。そこにはどのように書いてあるのでしょうか?
Moleskine®は2世紀の間、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ、パブロ・ピカソ、アーネスト・ヘミングウェイ及びブルース・チャトウィンなどの芸術家や思想家に愛されてきた伝説的ノートブックの相続人であり継承者です。丸い角を持つ黒のシンプルな長方形、ノートを束ねるゴムバンド、そして内側のマチ付きポケット: 無名だけれどもそれだけで完成された品は、小さなフランスの製本業者によって一世紀以上もの間作られ、世界中の革命的芸術家や作家が訪れて購入した、パリの文房具店に納品されていました。旅のお供にぴったりな大きさの頼れる存在。このノートブックは、有名な絵画や人気小説が世に出る前の貴重なスケッチ、走り書き、ストーリーやアイデアを記録してきたのです。
(Moleskinの歴史 より引用)
さて、ここで現代文の問題です。
設問:
上記の引用文、最後の一文の、「このノートブックは、有名な絵画や人気小説が世に出る前の貴重なスケッチ、走り書き、ストーリーやアイデアを記録してきたのです。」という文章の「このノートブック」とは、何を指すでしょうか?
選択肢:
① Moleskin
② 伝説的ノートブック
③ Moleskin=伝説的ノートブック
※じっくり読んで考えてみてください。
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答えは、③Moleskin=伝説的ノートブックと思いがちですが、②伝説的ノートブックです。
Moleskinは「伝説的ノートブックの相続人であり継承者」であり、伝説的ノートブックそのものではないことが、上記の引用文にも明記されています。
なので、後半の文章もすべてモレスキンの説明ではなく、その元となった伝説的ノートの説明となっています。誤読を目的としているようにしか思えない、高度な文章です。。。。
実際多くの人が誤認して、「伝説的ノートブック=モレスキン」だと思っています。モレスキン社の歴史は、20年ちょっとしかないんですけどね。
ですが、このイメージがモレスキンというブランド力を支えている重要な要素であることは間違いありません。
さて、愛用者が多い理由の一つ目は、モレスキンというノートの背景に物語を感じさせるストーリーを用意していること、広めることに成功したこと、だと思っています。
モレスキンを買う人は、そのストーリーの延長線上に、自分の未来を思い描くのです。
結構ギリギリなライン攻めてるんじゃないかと思います。
買ったあとの使い方を想像させるイメージ戦略
モレスキンというノートの広告は、非常に魅力的です。他のノートが実用性をうたうなか、かなり異色な売り方でしょう。店頭で流れている動画が面白いので、ちょっと載せてみました。
Coca-Cola bottle's 100th Anniversary on Moleskine
Moleskine Star Wars Notebook and Origami Template
ノートの広告自体少ないですが、文具としても極めて異質な売り方です。少なくとも私はモレスキン以外でこれほど大々的に、ブランディング広告に力を入れている文房具を知りません。
モレスキン自体を広告するというよりかは、モレスキンの世界観を表現しているような感じです。
こういった想像力が膨らむ広告を見てから購入するからか、モレスキンを購入した人は様々な使い方をします。
ここでは多くを語りませんが、instagramでモレスキンと検索してみたり、公式ホームページの専用サイトMyMoleskineを覗くだけで、様々な人が様々な使い方をしているのが垣間見えるはずです。
そこには、まさにモレスキンユーザーの世界が広がっています。
ここら辺の仕組みはほぼ日手帳やトラベラーズノートの世界にも似ています。
ユーザー信者と揶揄されるほど、強固なコミュニティを作るということは中々できるものではありません。
巧みに作られたブランドが魅力その2です。
モレスキンという製品が持つ世界観に、その製品そのものと同じように、価格に見合った価値があると認識されているからこそ、モレスキンを愛用する人は多いのだと思います。
魅力的な世界が、また住人を呼び込み世界を広げる
製品のユーザーの使い方を魅力的に感じた人が、また魅力を感じユーザーとなり、その魅力を広めていく・・・
この構図は、コアなユーザーがいる世界では一般的に見られる光景ですが、なんの変哲もないノートでそれを実現出来ているところが、すごいですよね。
モレスキンは考えてみればただのノートなので、大概のことは他のノートで代用ができます。モレスキンというノートそのものに何も特別なことはないんです。
モレスキンを媒体とした、広々としたオープンワールド的なユーザコミュニティがあることが、愛用者が多い理由その3ですね。
まとめ 製品の質以外で売る、というのはどうなのか
さて、ここからはまとめです。
モレスキンは紙の質は悪いけれども、その背景にあるストーリー・ブランド・コミュニティが魅力的なので愛用者が多い、という話でした*1。
実際、モレスキンのノートの「機能」としてのコスパは悪いと思います。
ただ、コスパってそれだけでは語れないんだろうなあっていうふうに最近思ったりもするんですよね。本人がコスパいいって思ったらコスパいい 。コスパ悪いって思ったらそれはコスパ悪いです*2
モレスキンが売れているのは、製品そのものの機能だけでなく、製品を取り巻く実態のない価値をきちんとつくれているから、だというのが、私なりの考えです。
なので、そこに実態以外に価値を見出せる人は買うし、価値を見出せない人は買わないんです。
流行りのブランドにお金を払う人と払わない人の違いのようなものですね。
以上です。
長文となってしまいましたが、読んでいただいてありがとうございました。
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