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アジアの生活を激変させた、最新フィンテックの「破壊力」

こうしてデジタル社会が到来する

「リープフロッグ」という言葉をご存知だろうか。直訳すれば「蛙飛び」という意味になるのだが、ビジネスやテクノロジーの世界では、「ある分野で遅れていた国や地域が、その分野の最新手法を取り入れることで、一気に最前線へと躍り出ること」を意味する。

「フィンテック」の解説をした前編の冒頭で、Go-Payというサービスにより、インドネシアに最先端のモバイル決済社会が到来しようとしていることを紹介したが、これもリープフロッグの一例である。

アジアのフィンテックが各国で実現しようとしているのが、まさにこのリープフロッグだ。

 

銀行口座のない生活

4月といえば、日本では新学期・新年度のシーズンだ。日本人の場合、大学生にもなれば、銀行口座を持っていてもおかしくない。ましてや新社会人にもなれば、銀行口座がないので給与振り込みができない、などというケースは例外的だろう。

しかしアジア地域では、銀行口座を持っていない人々の方が主流派、という国も珍しくないのだ。

たとえば世界銀行が2014年に行った調査によれば、アセアン諸国(カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)全体で、銀行口座を持つ成人は全体の50パーセントに過ぎないことがわかっている。

またアジア地域は、国によって経済状況が大きく異なるのが1つの特徴となっているが、この点についても同様であり、特にカンボジア、ラオス、ミャンマー、フィリピン、ベトナムといった国々では、銀行口座を持つ成人の割合はおよそ30パーセントかそれに満たない数字となっている。

前述のように、私たちにとって銀行口座は「あって当たり前」の存在だ。そのため銀行口座のない、銀行を利用しない生活がどのようなものか、ちょっと想像してみてほしい。

給料はどうやって受け取るのか? 引き落としで支払っている料金や代金はどうしよう? そして何より、将来のための貯蓄をどうすればいいのか――金融機関が提供するさまざまなサービスがなければ、現代的な経済活動は困難になってしまうのだ。

こうした先進国の人々にとっては当たり前の金融サービスを、いままでそれにアクセスできなかった人々にも提供すること。これは「ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)」と呼ばれる概念で、アジア地域のフィンテック企業が活発に活動している領域のひとつだ。

象徴的な企業のひとつが、Wave Moneyという企業だ。彼らが活動しているのは、2015年に民主化された東南アジアの国・ミャンマー。

ノルウェーのテレコム会社であるTelenorと、ミャンマーのYoma Bankが立ち上げた企業で、携帯電話を通じて貯金や送金ができるというサービスを展開している。

Money20/20 Asiaでプレゼンした、Wave MoneyのBrad Jones CEO

Wave Moneyによれば、ミャンマーで1つでも金融サービスを利用したことのある人々は、人口全体のたった6パーセントでしかない。

一方で携帯電話は広く普及しており、人口全体の90パーセントが、インターネットに接続可能な携帯電話へのアクセスを有しているそうである。

そこで携帯電話をベースに金融サービスを提供することで、いわば「手つかず」の状態にあった一般向け金融サービス市場を開拓したのが、このWave Moneyである。

利用は簡単で、Telenorがミャンマーで展開している携帯電話サービスの番号を持っているだけでよい(この番号がWave Moneyのアカウントとなる)。

そして「Wave Shop」と呼ばれる近くの代理店(雑貨屋のような小さな店舗も多い)に行き、そこで現金を支払う。

するとアカウントに電子マネーがチャージされたような状態になるため、あとはこれを他の携帯電話に送金してやればOK。現金を引き出したければ、再び近所のWave Shopに行き、手続きをすれば良い。

Wave Moneyは2016年10月に、同国初のモバイル金融サービス提供者として認可されたばかりだが、Wave Moneyの代理店は、既にミャンマー全土に約2万ヵ所存在している。これは同国内に設置されているATMの数(約3,000台)のおよそ6倍、同じく銀行支店数(約2,000か所)のおよそ10倍に相当する。

その結果、同サービスは早くも約130万人のユーザーを獲得している。人口約5300万人の同国で、立ち上げから2年もたたない間に達成した成果としては、悪くない数字だろう。

プレゼンを行った、同社のブラッド・ジョーンズCEOは、この成果を文字通り「リープフロッグ」と形容した。ミャンマーはWave Moneyの力で、モバイル金融サービスにおけるリープフロッグを達成する可能性があると言えるだろう。