ピカソはなぜ天才なのか、脳はその絵をどう見るか

神童から巨匠へ、圧倒的なピカソの才能を分析する

2018.04.27
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スペインのマラガに生まれ、幼少期を過ごしたピカソは早くから神童ぶりを発揮した。今もこの街には、彼にまつわるものがそこかしこに見られる。最初の息子をモデルにした1924年の作品「アルルカンに扮したパウロ」を模した落書きもある。PHOTOGRAPH BY PAOLO WOODS AND GABRIELE GALIMBERTI

 パブロ・ピカソは1881年10月25日、スペイン南部の都市マラガに生まれた。ぐったりとして動かなかったため死産だと思われたが、叔父のサルバドールに葉巻の煙を吹きかけられて息を吹き返したという。ピカソは言葉を話すより早くスケッチを始め、最初に発した単語も「ピス」(鉛筆を意味するスペイン語「ラピス」の短縮形)だったという。父親ホセ・ルイス・ブラスコは画家であり、息子の最初の教師でもあった。その点では作曲家のモーツァルトと似ている。そして、少年ピカソの実力は、瞬く間に父親を追い越した。

 こうした早熟な才能はどこから生まれるのだろう。神童は数が極端に少ないのでまとまった被験者を集めるのは難しい。だが、米ボストン・カレッジの「芸術と心理研究所」で所長を務めるエレン・ウィナーは、これまで調べた芸術系の神童たちに共通点を見いだしていた。視覚による記憶と細部への注意力に優れ、正確な模写や遠近感の表現を、同い年の子どもより何年も早く習得している。彼らは生来の才能に加えて習熟への執念が強烈で、常にスケッチをしたり、色を塗ったりせずにはいられないのだと、ウィナーは考えている。

 ピカソもこうした特徴にぴったり当てはまる。彼は幼い頃から自分の絵の才能を自慢していた。家族の証言によれば、子どもの頃は疲れ果てるまで何時間でも絵を描いていたという。

脳のネットワークを刺激する

 ピカソは誰かを喜ばせようとして作品を創ることなど皆無だった。報酬を拒み、やりたいようにやった結果、人々が関心をもてばよしとした。そんな作品になぜ引きつけられるのだろう。それを知る手がかりを提供してくれるのが最新の科学だ。神経美学という新しい研究分野では、脳スキャン技術を使い、クロード・モネからマーク・ロスコまで、さまざまな美術作品を見た人の反応を調べている。

 ドイツのフランクフルトにあるマックス・プランク経験美学研究所の神経科学者エドワード・ベッセルは、被験者に100点を超す絵画の画像を見せ、脳スキャン画像を基に反応の強さを1~4に分ける実験を行った。

 どの作品でも脳の視覚システムが活動するのは当然だが、美しい、心に残る、目が離せないといった強烈な印象を与えた作品では、「デフォルト・モード・ネットワーク」(DMN)が活発になっていることがわかった。DMNとは、複数の脳領域で構成されるネットワークのことで、内面に意識を向け、自らの思考や感情を紡ぎ出す働きをする。

 外に目を向けているのに、意識は内に向かっていく。「脳の状態としては、非常に特殊です」とベッセルは指摘する。

「絵は、それを見る人がいて初めて生命を宿す」とピカソは言っていた。科学が突きとめるよりはるか前に、こうした脳の働きを理解していたのかもしれない。

※ナショナル ジオグラフィック5月号「ピカソはなぜ天才か?」では、世界中の人々を引きつけてやまないピカソの才能と創作の源泉を探ります。

文=クローディア・カルブ/ジャーナリスト

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