3時間の眠りでも大丈夫という「濃縮睡眠」――睡眠セラピスト・松本美栄(上)

 ナポレオンは3時間しか寝なかった、という説は半信半疑で受け止められているが、今日、現実に3時間の睡眠で、日中の眠気とも無縁な人がいる。だれにとっても1日は平等に24時間。それを最大限「活動」に割くためにも、眠りを「濃縮」する方法を伝授する。

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「今日は始発に乗るために、4時半に起床した」

「昨日は残業で終電帰りで、寝たのは2時過ぎ」

「最近、仕事が忙しくて毎日3時間くらいしか眠れていない」

 忙しい日本人からは、こんな声がよく聞こえてきます。睡眠時間を十分にとれないことを問題にしているのですが、一方、旅行や出張でいつもと違うベッドに寝たとき、睡眠時間は普段と変わらないのに、

「枕が合わなかったのか、起きたあとしばらくボーッとしていた」

3、4時間睡眠のほうが朝はすっきり

「いつもより快適に眠れて、すっきりと起きられた」

 など、寝起きの印象が違った経験はありませんか。

 睡眠というと、多くの人は「時間」に意識が向きますが、右のような体験からも、重要なのは睡眠の「時間」に加えて「質」だとわかります。「睡眠=睡眠の質×睡眠時間」なのです。

〈そう説くのは、東京は南青山で姿勢美矯正サロン「プロスパービューティー」を営む松本美栄さんだ。彼女は1日3~4時間の睡眠でも十分に疲れがとれ、集中力が高まる、「濃縮睡眠」のメソッドを独自に開発。「睡眠デトックス」の名で、主に口コミで集まってきた多忙な経営者などの睡眠改善に勤しんでいる。

 先日、日本人の平均睡眠時間は、主要28カ国で最短だという調査結果が発表された。男性が6時間30分、女性が6時間40分だそうで、不健康や低いパフォーマンスにつながりそうな印象を受けるが、松本さんによれば、睡眠の「質」さえ上げれば問題ないということになる。〉

トランプ大統領、孫正義も短時間睡眠

 実は、私も以前は睡眠時間が長いほうでしたが、姿勢矯正サロンを一人で運営していたころ、睡眠時間を削って仕事をしていたら体調を崩してしまいました。

 そんなとき、知人が短時間の睡眠で問題なく仕事をこなしていると知り、私も睡眠を改善することにしたのです。ある程度の時間はちゃんと寝なければいけない、という固定観念を外していき、自分自身の体験も参考にしながら睡眠の研究を行いました。

 その結果、2カ月ほどで、1日の睡眠時間が3、4時間で済むようになったのです。そのうえ体調もよくなって、日中に頭がボーッとすることもなくなりました。こうして、いまは以前と同じ時間を仕事に費やしながら、自由な時間を持てるようになっています。午前2時ごろ就寝し、4時半から5時半ごろに起床する毎日で、夜仕事が終わってから映画を1、2本観たり、朝に資料づくりや企画などの仕事もこなせるようになったので、日中は接客や施術に専念できています。

 睡眠の質は寝ているときの脳波によって定義できます。人が起きているときはベータ波、リラックスしているときはアルファ波、うとうとした眠りにつくとシータ波、そして、さらに深い睡眠に入るとデルタ波が出ます。入眠後、30分ほどでデルタ波が出るレベルまで深く眠ることができれば、質が高い睡眠だといえます。私のサロンでは、睡眠アプリで毎日の睡眠を計測しています。ちなみに、私は入眠後、8分から10分ほどで深い睡眠に入ることができています。

 睡眠の質が高い人は、起きたときにすっきりしていて、日中も眠くなりません。一方、深い睡眠になかなか入れず、浅い睡眠のまま長時間眠ってしまうと、朝になっても疲れがとれずに起きるのがつらかったり、日中もすっきりせず、眠気が出たりします。

 しかし、「長く眠らないといけない」という固定観念に縛られている方が多いのが現実です。すると、睡眠時間が短いことに不安が残ってしまうので、意識改革が必要です。

 まず、世界の成功者の多くは、睡眠時間が短いということを知っておくといいでしょう。たとえば、アメリカのドナルド・トランプ大統領やソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏、お笑い芸人の明石家さんまさんらの睡眠時間は3、4時間。それでパフォーマンスが下がることはないといわれています。

「質」向上のための生活術

 睡眠の「質」を向上させるためにはどうすればよいのでしょうか。最初に、生活のリズムを整える必要があります。

 人間は体内時計に沿って生活する生き物なので、起床時間や就寝時間がバラバラだと自律神経に乱れが生じ、日中のだるさや眠さにつながります。これは時差ボケが起きるのと同じメカニズムです。また、人間の体内時計は、朝日を浴びることで朝起きたことを認識し、その時間に合わせて眠くなる時間も決まります。ですから毎朝同じ時間に起床し、朝日をしっかりと浴びることが大切なのです。

 また、ベッドを「寝るための場所」だと、からだに覚えさせることも大事です。ベッドを普段からソファ代わりにしていると、いざベッドに横になっても、からだが眠るという意識になりづらいのです。寝る前のルーティンを決めておくことも有効で、パジャマを着て、水を飲んで、ストレッチをしてから眠る、と決めて毎日実行すると、反射的に眠くなるようになります。

 同様に起床時のルーティンを決めておくのも効果的で、起きたら歯を磨き、水を飲み、カーテンを開けて日光を入れると決めて習慣化すれば、脳をすぐに覚醒できるようになります。早起きするためには、事前に朝の予定を入れてしまうのもいいでしょう。朝、楽しいことをするとセロトニンが分泌され、覚醒状態になることがわかっています。

 日中に眠くならない方法のひとつとして、積極的に仮眠をとるのも効果的です。ただし、眠くなってから仮眠をとると寝すぎてしまうので、眠くなる前に15分から20分程度の「パワーナップ」と呼ばれる短い仮眠を、積極的にとるようにするといいでしょう。

 私のお勧めは「コーヒー仮眠」。コーヒーを飲んだらすぐに寝て、カフェインが効きだす20~30分後に起きるのです。

 (下)へつづく

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松本美栄(まつもと・みえ)
睡眠セラピスト。姿勢美矯正サロン「プロスパービューティー」オーナーセラピスト。自身の睡眠の悩みを解決するため、試行錯誤の末、睡眠の質と効率を高めた「濃縮睡眠」の技術を開発。その後、改良を進め、多忙なエグゼクティブらに評判を呼んでいる。

「週刊新潮」2018年4月26日号 掲載