三省堂が刊行している中型国語辞書の『大辞林』には、デジタル版が存在します。その名も「スーパー大辞林3.0」。これは、単に書籍版の『大辞林』を電子化しただけのものではありません。新語などが大幅に増補されており、書籍版にはない項目がたくさん収録されているのです。
▲書籍版『大辞林』第3版
▲『大辞林』のデジタル版については以前詳しく書きました
デジタル版の辞書には、紙辞書と違い、紙幅の制約がありません。紙辞書がひとつのことばを立項するためにヒイヒイ言いながら行を削ったり紙を薄くしたり付録を別冊化したりしているのを尻目に、デジタル辞書は入れたいことばをじゃんじゃん立項することができます。
「スーパー大辞林3.0」は、従来の紙辞書であればまず立項しないであろうと思われる流行語やネット俗語、単純な複合語などを大量に立項しています。デジタル版に注力している辞書には他に小学館の「デジタル大辞泉」があり、こちらも定期的に項目を追加し続けていますが、「スーパー大辞林3.0」の項目のほうが、何と申しますか、全体的にヤバい感じです。
※以下、辞書の引用に際しては、アクセント記号、種々の約物、振り仮名は省略しています。「スーパー大辞林3.0」は、物書堂版のアプリ(Ver. 4.2.2)を参照しています。
「スーパー大辞林3.0」のヤバさを端的に表していると思う項目がこれです。
コスプレダンスパーティー
〔和製語 cosplay+dance+party〕
アニメやゲームなどのコスプレをした人がディスコやクラブなどに集まり、音楽に乗って踊るイベント。アニメ-ソングやそのダンス-リミックス曲などが流される。コスプレ-ダンパ。コスパ。 →コスプレ・クラブ・リミックス
単純な複合語なんだから、項目としては「コスプレ」と「ダンスパーティー」があればよく、「コスプレダンスパーティー」の形でわざわざ見出し語にするまでもないだろうというのが第一印象です。そのくせ語釈が異様に長い。日本語由来の"cosplay"が語源等の欄*1に示されているのもなんだか変だし、「クラブ」や「リミックス」が参照項目になっている理由もよくわかりません。
単純な複合語でも基本OK
「スーパー大辞林3.0」のヤバい項目の多くは、こういう単純な複合語です。
しゅどうシュレッダー【手動シュレッダー】
→ハンド-シュレッダー
「手動」と「シュレッダー」の意味がわかれば「手動シュレッダー」の意味もわかりますから、紙幅に制約のある紙辞書では立項されにくい語ですが、デジタル版にはそんな足かせはないのです。
いっかいかんけつレッスン【一回完結レッスン】
教程が 1 回で完了する講義。
一回完結レッスンとは、一回で完結するレッスンのことだそうです。
面白トークとは、面白いトークのことだそうです。「トーク」シリーズでは他に「正直トーク」「ぶっちゃけトーク」「暴走トーク」「本気トーク」「本音トーク」「まじトーク」などが立項されており、トークを網羅しようという気概を感じます。
ごほうびランチ【ご褒美ランチ】
主に女性が自分自身への褒美として楽しむ、少し高級な昼食のこと。
「ご褒美」シリーズには他に「ご褒美チョコ」も立項されているのですが、ならば「ご褒美スイーツ」「ご褒美パフェ」「ご褒美シール」「ご褒美旅行」なども立項しないとアンバランスに思えます。単純な複合語を見出しにすると、こういうちぐはぐなことが起こりがちです。
きほんオーケー【基本OK】
大筋では承知・承認すること。全面的な承認ではない場合にいう。〔対応次第では全体への承知・承認ができないことなどを、婉曲に示すニュアンスがある〕
……? そもそも、これは一語なんでしょうか。ならば「基本ポジティブ」「基本眠い」「基本朝はパンだ」「基本辞書の凡例は読まれない」「基本通勤には6リッターW12ツインターボエンジン搭載のベントレー・コンチネンタルGTを使っている」など無数の語(?)が立項されるのも時間の問題です。
冗談はさておき、これは「基本」の副詞的用法として「基本」の項目の中で説明すべき性質のもので、それさえしないで「基本OK」など熟しているかも怪しい形の項目を立ててしまうのは、辞書としていかがなものかと思います。
その他、単純な複合語の項目には以下のようなものがあります。
おさななじみキャラ【幼馴染みキャラ】
マンガ・アニメ・ゲームなどでしばしば登場する、主人公と幼い頃に親しかったキャラクターのこと。幼なじみキャラ。
てつどうぎじんか【鉄道擬人化】
漫画・イラストなどで、鉄道関連の題材(事業者・車両・駅など)を、萌え要素をもつ女性キャラクターとして表現すること。「─キャラ」 →萌え擬人化
新幹線を男性キャラに擬人化しても鉄道擬人化ではないということでしょうか。
しゅくはくよやくサイト【宿泊予約サイト】
ホテルや旅館の宿泊予約を受け付けるウェブ-サイト。宿泊地・宿泊日・利用人数・予算などの条件を入力すると、空室のある施設が一覧表示され、好みの部屋について予約を入れることができる。ホテル予約サイト。旅館予約サイト。宿予約サイト。
たからくじこうにゅうだいこうサービス【宝くじ購入代行サービス】
顧客に代わり宝くじを購入するサービス。人気売り場で販売される宝くじや、ブロック宝くじ(地域限定)を購入して、顧客に配送する。
「○○サイト」「○○サービス」は上記に類する項目がたくさん立っており、ぜひいちど後方一致検索をしてみてください。目がチカチカして楽しいですよ。
ナンパスポット
俗に、ナンパを目的にする人が、多く集まる場所のこと。繁華街、クラブなどの娯楽施設、大規模施設の駐車場など。
なんちゃってせいふく【なんちゃって制服】
俗に、女子高生が着用する、制服風の私服。制服風アイテム(ブレザー、スカート、スカーフなど)の自由なコーディネートをさす。
ツルツルはだ【ツルツル肌】
俗に、艶のある肌のこと。また、そのように化粧やケアをした肌のこと。艶肌。ツヤツヤ肌。ピカピカ肌。
とまあ、挙げればまだまだあります。
ネット俗語テラヤバス
「スーパー大辞林3.0」はネット俗語にも明るいようです。
アテクシ
ネット利用者が使う俗語で、私のこと。
ぽんぽんぺいん
〔「ぽんぽん」は腹の幼児語、「ぺいん」は痛み(pain)の意〕
ネット利用者が使う俗語で、腹痛のこと。生理痛など。ぽんぺ。ぽんぺい。
マソ
ネット利用者が使う俗語または隠語で、「万(円)」のこと。
すでにいにしえのことばになりつつあるような気もしますが、ネット俗語は流行の移り変わりが激しいもの。
紙辞書は普通、ネット俗語の立項にはかなり慎重で、載せるとしても一般に広く定着しているものに限られます。ところが、「スーパー大辞林3.0」にはそのような習慣は関係ありません。どんどん立項しています。
とうふメンタル【豆腐メンタル】
主にネット利用者が使う俗語で、精神面がもろい様子。〔アニメ「遊戯王デュエルモンスターズ」の登場人物をさして、ネットでいわれるようになった〕
語誌にまで触れる手の込みようです。
ぐうかわ
ネット利用者が使う俗語で、ぐうの音も出ないほど可愛いこと。ぐうかわいいとも。グウカワ。
「ぐうかわ」があるなら「ぐう畜」や「ぐう聖」も立項されているのだろうと思ったら、なぜかこれらは載っていません。このアンバランスさがヤバさのポイントです。
さらにヤバいのが、「ワロス」に代表される「○○ス」形の語を大量に立項していることです。
ウマス
ネット利用者の俗語で、うまい。〔程度を強める場合は接頭語を付けて、テラウマスなどに変化する〕
キモス
ネット利用者の俗語で、気持ち悪い。〔程度を強める場合は接頭語を付けて、テラキモスなどに変化する〕
オソロシス
ネット利用者の俗語で、恐ろしい。〔程度を強める場合は接頭語を付けて、テラオソロシスなどに変化する〕
ワカラナス
ネット利用者が使う俗語で、分からないこと。「意味が─」
ウラヤマシス
ネット利用者の俗語で、うらやましい。〔程度を強める場合は接頭語を付けて、テラウラヤマシスなどに変化する〕
他にも「ツヨス」「ウレシス」「カナシス」「カワイソス」などが立項されているのですが……いや待て待て。多くの形容詞や、動詞に助動詞「ない」がついたものがこの形をとれそうですから(「ワロス」は例外として)、「ス」という接尾語を認めて、ひとつひとつ項目は立てないというのが伝統的な処理方法になるはずです。これは、「キモさ」「おそろしさ」「うらやましさ」などをいちいち見出し語にしないのと同じことです。
「スーパー大辞林3.0」はご丁寧に、これらに「テラ」がついたものも見出し語にしています。
テラウマス
ネット利用者の俗語で、とてもうまい。〔ウマスに接頭語のテラ(1兆の意)を付けて程度を強めた語〕 →ウマス
テラキモス
ネット利用者の俗語で、とても気持ち悪い。〔キモスに接頭語のテラ(1兆の意)を付けて程度を強めた語〕 →キモス
テラウラヤマシス
ネット利用者の俗語で、とてもうらやましい。〔ウラヤマシスに接頭語のテラ(1兆の意)を付けて程度を強めた語〕 →ウラヤマシス
頭が、頭が痛い。テラアタマイタス。従来の辞書でいえば「とてもおいしい」「とてもきもい」「とてもつまらない」「とても慈しみ深い」などをいちいち見出しにしているようなもので、常識はずれとしか言いようがありません。
この頃流行りのネット俗語に「つらみ」「ねむみ」などの「○○み」があります。水野(2017)*2では、動詞の連用形+助動詞「たい」につく「食べたみ」「やりたみ」のほか、名詞につく「広島み」「三谷幸喜み」などの例も報告されていますが、「スーパー大辞林3.0」は今後これらもひとつひとつ見出しにするつもりでしょうか。
なお、「スーパー大辞林3.0」にはツイ廃の気もあります。
ツイッターはいじん【ツイッター廃人】
ツイッター利用者が使う俗語で、日常生活に支障をきたすぐらいツイッターにのめり込んでいる人。ツイ廃。
よるほー
主にツイッター利用者が使う俗語で、深夜24時(午前0時)になった時の挨拶。〔「ほー」はフクロウの鳴き声とされる〕 →ひるほー・うしほー
おやリプ
ツイッター利用者の俗語で「おやすみ」に対するリプライ(返信)のこと。
ほかえり
ツイッター利用者の俗語で、風呂から上がった人に対して「おかえりなさい」と呼びかける表現。「ほかいま」(いま、風呂から上がりました)と言った人に呼びかける。 →ほかる・ほかいま
しゃわてら
ツイッター利用者の俗語で、「シャワーにいってらっしゃい」という呼びかけ。
ちなみに、「スーパー大辞林3.0」で語釈中に「ツイッター利用者」が含まれる項目は42もあります。
ざけんな、不可解な見出し
用言はいろいろな形に活用し、また付属語がくっついて姿を変えます。それでも、特別な意味が生じたりしない限り、辞書の見出し語になるのは終止形というのがお約束です。
ところが、こんな常識も「スーパー大辞林3.0」には通じません。
ざけんな
主に若者語で、ふざけるな。「―よ」
うーん、たしかに「ふざける」を「ざける」と言うのは「ざけんな」のときだけかもしれません。だとすれば、「ざけんな」の形で項目が立っているのも理解できます。
しかしこれはおかしい。
しゃしゃんな
俗に、しゃしゃり出るな。でしゃばるな。
いやあ、おかしい。「しゃしゃる」の項目もありますし、なぜわざわざ「しゃしゃんな」が見出しになっているのか意味不明です。だったら「見んな」「触んな」「近寄んな」「老いさらばえんな」なども立項しないと筋が通りません。
また、用言ではありませんが、
ボコボコにする
→ボコる
も一語として項目が立っています。不可解です。
その見出しの仮名、大丈夫?
『大辞林』は凡例で、見出しの示し方を以下のように定めています。
(1) 見出しは原則として「現代仮名遣い」(昭和六一年七月内閣告示)の方式によって太字(ゴシック体)の仮名で示した。
(2) 和語・漢語は平仮名、外来語は片仮名で示した。
それでは、こちらをご覧ください。
ハデこん【ハデ婚】
俗に、派手に行う結婚のこと。結婚にかかわる準備やイベント(挙式・披露宴・新婚旅行など)について、その規模・演出・費用を豪華にするようなスタイルをさす。派手婚。 → ジミ婚
……「ハデ」って外来語でしたっけ?
先に挙げた「ナンパスポット」でも、「ナンパ」は漢語の「軟派」そのものですから、凡例に従えば見出しは「なんぱスポット」になるはずです。「ツルツルはだ」は「つるつるはだ」、「ボコボコにする」は「ぼこぼこにする」のはず。また、「ウマス」「ワカラナス」なども和語でしょうから、「うます」「わからなす」の形で立てるのが筋です。逆に、「ぽんぽんぺいん」の「ぺいん」は"pain"で英語由来、「しゃわてら」の「しゃわ」は「シャワー」の略ですから、それぞれ「ぽんぽんペイン」「シャワてら」とすべきです。
「スーパー大辞林3.0」から立項された項目には、このような凡例無視が横行しています。
おやバレ【親バレ】
若者語で、隠し事が親にばれてしまうこと。
「バレる」は和語です。
アクだいかん【アク代官】
鍋料理を食べるとき、率先して灰汁取りをする人。灰汁代官。〔悪代官との洒落〕
「アク」は和語です。
チラシのうら【チラシの裏】
〔ネットに公開するのではなく「チラシの裏にでも書いておけ」の意味〕
ネット利用者が使う俗語で、他人に見せるほどの価値がない文章やイラスト。掲示板などに投稿された、愚痴や独り言などの独善的な文章、下手なイラストなどについていう。チラ裏。「─で、すいません」
「チラシ」は「散らす」の連用形由来ですから和語です。
ソトアサぞく【ソトアサ族】
〔自宅外で朝食をとることから〕
職場周辺の飲食店やコンビニなどを利用して、通勤途中あるいは始業前の職場において朝食をとる人々のこと。
「ソト」も「アサ」も和語です。
ヒヤリハット
俗に、大事故につながりかねないミスの総称。直前・直後に回避したミスや、幸い被害が小さかったミスなどをさす。医療・建築の現場など、生命上の安全性が求められる分野で多く使われる。「─事例」「─報告」〔ヒヤリとしたり、ハットしたりすることから〕
しゃれて外来語ふうのなりをしているのでだまされそうになりますが、「ひやり」も「はっと」も和語です。
セツナけい【セツナ系】
J-POPで、恋愛の切ない心情を表現した楽曲。また、それを歌うアーティスト。「─ラブ-ソング」「─歌姫」
一瞬「セツナ」はサンスクリット語の音訳である「刹那」のことなのかと思いましたが、「切ない」が由来とのことなのでこれも和語です。仮に「刹那」だったとしても漢語扱いで平仮名になるんですが。
また、「まじ」や「やばい」などでは、平仮名と片仮名が混在しています。
まじうざ
若者語で、本気でうっとうしい。マジうざ。マジウザ。
マジぐい【マジ食い】
俗に、本気で食べること。本来軽く食べればすむ場面で、しっかりと食べる場合などにいう。
やばたん
主に女子中高生やネット利用者が用いる俗語で、「やばい(すごい)」。
まじヤバ
〔「まじ(マジ)でヤバ(やば)い」の略〕
→激ヤバ
せめてどっちかにしといてくれ。むろん、凡例通りなら「まじ」「やば」になるはずです。
他、「ツヤはだ」「ぬるオタ」「ドンびき」「キュンじに」「ろチュー」「パクツイ」「ひモテ」「メシウマ」などなど、類例は山のように出てきます。どうも、見出しの示し方と、実際の書き表し方とがごっちゃになっているようです。「はで」が和語であるという情報と、「はでこん」を「ハデ婚」と表記するという情報は別物なのですが。
実は、『大辞林』は第3版から「イケメン」で同様のやらかしをしていたのでした。
イケ メン
容姿がすぐれている男性。〔若者語。「いけてる(=カッコイイ)」の略に「面」あるいは「メン(men)」をつけたものといわれる〕
補注で「いけ」は和語「いけてる」の略であると断っておきながら、見出しでは「イケ」と片仮名になってしまっています。凡例にしたがうなら、見出しは「いけめん」あるいは「いけメン」の形になり、表記欄で【イケメン】と示すか、語釈中で「『イケメン』と書く」などと注を入れるべきです。
大福大好き、B級グルメ大好き
「スーパー大辞林3.0」は大福が大好きなようです。
いちごだいふく【苺大福】
中に餡と苺を包み込んだ餅菓子。
まめだいふく【豆大福】
豌豆などの豆を餅に練り込んだ大福餅。
くらいまではまあいいとして……。
トマトだいふく【トマト大福】
中に餡と小さなトマトを包み込んだ餅菓子。
カフェオレだいふく【カフェオレ大福】
カフェオレ風味の大福餅の総称。餅の中に、コーヒーを練り込んだ餡と生クリームを包み込んだものなど。
プリンだいふく【プリン大福】
中にカスタード-クリームとカラメル-ソースを包み込んだ餅菓子。
なまクリームだいふく【生クリーム大福】
中に餡と生クリームを包み込んだ餅菓子。
大福屋のメニューでも見ているようです。「○○大福」は「スーパー大辞林3.0」に17種類載っています。
どうやらB級グルメ全般に造詣が深いようでして。
ひるぜんやきそば【ひるぜん焼きそば】
蒜山高原(岡山県真庭市)の飲食店で提供される焼きそば。鶏肉(親鶏の肉)とキャベツを具にして味噌だれなどで焼き上げる。蒜山焼きそば。
「○○焼きそば」は8種類載っています。
くろべダムカレー【黒部ダムカレー】
黒部ダムの姿を盛りつけのモチーフにしたカレー-ライス。ご飯の部分を堰堤に模して盛り上げ、ルーの部分でダム湖を表す。主に長野県大町市の飲食店で提供されている。
まず「ダムカレー」の項目が欲しい気がしますが、なぜか「黒部ダムカレー」しかありません。
「ラーメン」はすごいことになっています。「旭川ラーメン」に始まり、「恵比寿ラーメン」「荻窪ラーメン」……と、地名を冠したラーメン名がなんと30種類も立項されています。しかもスープ、麺、具材に関する記述が詳しい。
さかたラーメン【酒田ラーメン】
山形県酒田市のご当地ラーメン。魚介類(鰹節・煮干し・昆布など)・豚骨・鶏ガラなどをベースにした醬油スープ、背脂の利用、細い縮れ麺を特徴とする。具は刻み葱、麺麻、叉焼など。 →ご当地ラーメン
わかやまラーメン【和歌山ラーメン】
和歌山市のご当地ラーメン。豚骨醬油スープと、細めのストレート麺を特徴とする。具はみじん切りの青葱、叉焼、麺麻、蒲鉾など。 →ご当地ラーメン
はかたラーメン【博多ラーメン】
福岡市のご当地ラーメン。豚骨白湯スープ、細ストレート麺が特徴。具は、刻み葱、叉焼、木耳など。薬味は胡麻、紅生姜、にんにくなど。替え玉(麺のお代わり)も提供される。 →ご当地ラーメン
ほとんどレシピです。
デジタル辞書は脳に悪い
マイナスイオン
〔和製語 minus+ion〕
空気中に存在するイオンのうち、マイナスに帯電したもの。空気の澄んだ森林や高原、滝の周辺などに多く存在し、体内に取り込まれると、新陳代謝を促進し、心身をリラックスさせる効果があるといわれる。
「マイナスイオン」は、統一された定義を持つ学術用語ではなく、「マイナスイオン」なるものが健康によいという話に科学的根拠はありません。いわゆる「疑似科学」に分類されるものです。
とはいえ、「マイナスイオン」は広く人口に膾炙しており、辞書ももはや無視できず、紙辞書でも立項するものが複数あります。
「スーパー大辞林3.0」は、わかっているのかいないのか、疑似科学用語が充実(?)しています。
ゲームのう【ゲーム脳】
ビデオ-ゲームを習慣的に行うことで、感情や思考、創造性などをつかさどる大脳の前頭前野の働きが機能不全に陥るとする仮説。
「仮説」とは書いてありますが、科学的根拠がありそうにも読める語釈で、有害とすら言えるかもしれません。そもそも立項する必要がある用語なのかどうかも疑問です。
がんもどき【癌擬き】
一見癌に似ているが、癌ではない病変。現在の顕微鏡を用いた病理診断の技術では、これらを区別するのは難しいとされる。
これも典型的な疑似科学用語です。実際に存在が確認されているわけでもなく、定義すらも曖昧な用語ですが、この語釈では、がん患者の「自分のがんは、がんもどきかもしれない」という疑念を増幅させることにならないでしょうか。心配です。
また、これは書籍版から立項されている項目ではありますが、こんなものもあります。
ゆうよう-びせいぶつぐん【有用微生物群】
乳酸菌や酵母など様々な微生物を共存させた複合培養液。土壌蘇生、悪臭除去、ごみの減量などに利用される。EM。
まるで本当に効果があるようにも読めます。そもそもの立項の必要性にも疑問符がつく語です。
実は「スーパー大辞林3.0」には、学術的根拠のない「江戸しぐさ」およびその関連語を立項していたものの、あるバージョンから削除したという過去があります。上記の項目も、同様に削除あるいは補注が必須ではないかと思われます。
バランスは失ってほしくない
いろいろ冗談めかして書いてしまいましたが、従来の辞書が立項してこなかったネット俗語や単純な複合語などを積極的に見出し語にするという方針に一定の評価はできます。というか、そういう辞書があってもいいじゃないですか。紙幅に制約がないのですから、「どんなことばでも、無いよりはあったほうがいい」という考え方もよくわかります。
問題はその質です。これは、それぞれの見出しの形や語釈などにおかしなところがないかという個別の質と、辞書としてバランスを欠いていないかという全体の質の両面から考える必要があります。残念ながら、現在の「スーパー大辞林3.0」はそのどちらも合格とは言いにくいのではないかと思います。
個別の質に関しては、本稿でさまざまにツッコんできたとおりです。また、全体のバランスについても、「この項目があるなら、あの語もその語も見出しにしなければならないのではないか」という形でおかしさを指摘しました。
「スーパー大辞林3.0」で増補された項目を眺めていると、目新しい新語には喜んで飛びついているのに対し、目立たない新語や用法の変化、あるいはそれまで辞書が見落としていたことばには目が向いていないのではないかという疑念も湧いてきます。たとえば、ネット俗語が非常に充実している反面、コンピュータにデータを入力するという意味の「打ち込む」は載っていません。若者語のあいさつ「いってらー」は載っているのに、その元の形「いってらっしゃい」は見出しになっていません。「おかんアート*3」があるのに、その親見出しであるはずの「おかん」がないという例さえあります。
「無いよりはあったほうがいい」という方針から、全体のバランスはひとまず置いておいて、立項できそうなものはまず立項してしまうというやり方なのかもしれません。しかし、その結果、辞書がいびつな形になってしまってはいないでしょうか。辞書はことばを映す鏡だといいますが、ゆがんだ鏡からはことばの全体像を正しくとらえることができません。今後のアップデートで、『大辞林』がよりよい辞書になるのを願っています。