モスクワのレーニン廟には、レーニンのミイラというか防腐死体があるのはもちろん有名な話だ。通常、それはソ連(およびその他)の社会主義が個人崇拝に堕した明白な印として嘲笑されることが多い(ベトナムのホーチミン廟と同じで)。そして、それ自体はまちがいないことだ。
でもその一方で、そこにはもっとずっとおっかない発想があったというのを今日初めて知った。レーニンの遺体保存を主張した葬儀委員レオニード・クラーシンは、ソヴィエト科学がいずれ死者を復活させられると本気で信じていて、そのために死体保存をすべきだと主張していたんだと。そしてレーニン廟は、それを実現するためにアレクセイ・シューセフが設計したもの。シューセフはロシア未来派の一人だったんだけれど、死者復活に備えてかれは、レーニン廟をタイムマシンとして設計したんだと。
その設計の基本的なアイデアの根底にあったのは、かのロシア未来派のマレヴィッチの思想。マレヴィッチは、正方形や立方体が大好きだったんだけれど、その理由は、彼が神智学やウスペンスキーにかぶれて、幾何学形態が高次の現実をあらわしていると思っていたから。特に立方体は四次元の、時間を超越した場をあらわし、人々を師から逃れられるようにすると思っていた。だからレーニン廟は、基本は立方体にすべきだというのがマレヴィッチの考えで、シューセフはそれをもとに、三位一体の思想とくっつけて(なんせその思想によれば2000年ほど前に死から蘇った方がいらっしゃいましたし)レーニン廟を設計したんだそうな。
もちろん死者の復活というのは、伊藤計画を読んだ人ならご存じの通りロシアコスミズムの親分フョードロフの思想なんで、ボグダーノフなんかに影響してるのは知っていたが、それが未来派やらボリシェヴィキ中枢部にここまで入り込んでいたとは知らなかった! レーニン廟がそんなオカルト建築だったおは!
でもって、そのフョードロフ思想がスターリンの大粛清をいかに正当化したかとか(そのうち生き返らせるからいいじゃん、というわけ)なにやらめちゃくちゃな話がいろいろ次の本に出ているらしいので、是非読まねば!
The Russian Cosmists: The Esoteric Futurism of Nikolai Fedorov and His Followers
- 作者: George M. Young
- 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr
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こういう話を知ったのは、Fortean Times #365のおかげ。この号では他に
ガーナの首都アクラに、ついこないだまで10年続いた偽のアメリカ大使館があった
トリュフはいまはブタを使って探したりしない(ブタは確かに見つける能力はあるが、見つけたら自分で喰ってしまうので役にたたない!)
などいろいろおもしろいネタ満載。
ロシアコスミズムのネタは前にもした。
だけどこんな主流にまで入り込んでいたとは予想外。