女って何だ?
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)
カレー沢先生、セクハラと思っていないセクハラ発言へのベストアンサーを教えてください!
2018.04.27 更新「当方バツなし子なしの純粋な独身です。 独身だと言うと『なぜ?』と返される事が多いのですが、何と答えるのがベストでしょうか? ほぼ初対面のような相手に身の上を懇々と話す気にはならないし、相手も聞きたくないでしょうし… よろしくお願いします」
まずこれは、そういう質問をしてくる方がおかしいと思いましょう。
どうしても独身者に何故と聞きたいなら「既婚で子供が2人います」という女に対してもUMAを見るような目で「なんでや!?」と聞くべきです。
では、何故そんな質問をされるのかと言うと、「こいつが独身なのには壮大な物語(ストーリー)があるに違いない、その理由(さだめ)を知りたい…」と、あなたが何故独身か、知りたくてしゃあない、というわけではありません。
話は変わりますが、最近「セクハラ」が大きな問題になっています。あなたがよくされるという質問も広義で言えばセクハラです。
それに対し、「何でもセクハラと言われたら会話なんてできない」という反論があります。
しかし世間話をするにも、天気とか部屋の絨毯の模様が顔に見えるとか、誰も傷つけない話題はいくらでもあるはずです。
それを、下ネタ、容姿、年齢、恋愛、結婚の話を封じられたら「あ…うああ…ヒュッ…」と推しが尊すぎて語彙を失ったオタクみたいになってしまう、というのはいくらなんでも話題が少なすぎです。
しかし、現実に、話題のカードが少ない上に全てジョーカー、という人が存在します。
あなたに「なんで結婚しないの?」と聞いてくる人は、妙齢の女を相手にすると「結婚しているかしてないか」ぐらいのカードしかなくなるタイプなのだと思います。
あなたが独身なので、相手は「なんで?」というカードを出してきますが、もし結婚していたら「子どもは?」のカードが出てきますし、いないと言えばまた「なんで?」が出てきます。そのぐらい持ち札が少ないのです。
よって、そういうタイプの発する「結婚してないの?なんで?」という話題は、一般的な「天気」「絨毯の模様が顔に見える」と大差なく、それらに対し「今は晴れておりますが、東に見える雲から察するに午後から雨でしょう」「菅田将暉似っすね…自分、恋の予感っすわ…」とイチイチマジレスする必要はなく、むしろマジに答えると、聞いてきたくせに、天気感覚の世間話に何マジになっちゃってんの、みたいな空気になります。
それで相手が引いて、その話題を出さなくなればいいですが、「この話好きなんだな」と思われたら最悪です。
つまり、そういうタイプの「何故?」には「今日は寒いですね」「あの絨毯、顔に見えね?」と言われたとき、と同じ温度の返答でOKです。
つまり、質問に答える必要すらなく「そっすね」だけでその話題は終わる可能性があるということです。
「結婚してないの?なんで?」
「ああ~ううーん~~そっすねえ~~~?」
「そっか」
と若干長めに言えば十分通ります。
しかし、相手は、少ない手札から結婚という、ちょっとデリカシーがあったら普通は敬遠するカードを出してくる相手です。その話題を「そっすね」で切ったら、いきなり禁じ手の「下ネタ」を出してくる危険は十分ありますし、かといってそいつと沈黙になるのも嫌でしょう。
そのリスクを考慮に入れ、「結婚してないの?なんで?」の時点で「質問を質問で返す馬鹿」になりましょう。
相手は、ほぼ初対面の相手にそんな質問をする正真正銘の馬鹿なのでイーブンです。
何故?と言われたら「何故なんでしょうね?」
または、相手が結婚しているなら「そちらは何故結婚したんですか?」と聞きます。
「要らない結婚するためのアドバイス」や、「興味ゼロの結婚観」を披露されることになるかもしれませんが、話したくないプライベートの話を言わされるぐらいなら聞きたくない話に相槌を打っていた方がマシでしょう。
総じて言えるのは「上手く答える必要は一切ない」ということです。
セクハラに対し「もう~やだ~」と良さげなリアクションで上手くあしらうと、相手は「喜んでる」と勘違いして、さらに増長する場合があります。
むしろ相手が「二度とこの話題は口にすまい」と思うぐらい、スベらせた方がいいのです。
つまり、されたくない話題に関しては「コミュ症」の会話術を見習いましょう。奴らは、話題を盛り上がらせずに終わらせること、場を凍りつかせることのプロです。
達人になると、一言も発さず「無言苦笑い」だけで話題を終わらせることが可能になりますが、素人には、質問に対しすぐ答えず「…えっ?」「どういうことですか?」と、相手に何度も同じことを言わせる「無限聞き返し」をお勧めします。
ソースは私です、申し訳ないぐらいセクハラをされません。
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著者プロフィール
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)
1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』(太田出版)は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。ジャンルを問わず幅広く活躍しており、主な作品に、漫画『ヤリへん』(小学館)『やわらかい。課長 起田総司』(講談社)『ねこもくわない』(日本文芸社)、コミックエッセイ『ナゾ野菜』(小学館)、コラム集『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』(講談社)などがある。