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「なしくずしになる前に」海賊版サイト遮断実施のNTTコムを提訴した弁護士に聞く、訴訟の理由と望ましい対策

» 2018年04月27日 16時19分 公開
[井上輝一ITmedia]

 弁護士の中澤佑一さんが4月26日、NTTコミュニケーションズ(NTTコム)が実施すると予告している海賊版サイトのブロッキングについて「通信を妨害してはならない」として、同社を東京地方裁判所に提訴した。

 原告の中澤弁護士は、通常の業務では発信者の情報開示請求や権利侵害コンテンツの削除要請などを行っており、海賊版サイトへの対策には本来賛成の立場。なぜ、海賊版サイトを遮断しようとするNTTコムを提訴したのか。中澤弁護士本人を取材した。

インターネットに関する法律に詳しい中澤佑一弁護士

なしくずしにブロッキングが始まる前に

 NTTコムを含む、NTTグループ4社は4月23日に政府指定の3サイトに対し「短期的な緊急措置として」ブロッキングを行うと発表。NTTの動きを受け、KDDIやソフトバンクが「対応を検討する」との見解を示したことから、NTTらの動きを放置すれば他のISPでもブロッキングが始まる恐れがある。

 法改正なしのブロッキングは憲法第21条に規定される「通信の秘密」を侵害し、法律上違法でも違法性を否定できる「違法性阻却事由」にも当たらないとする考え方が、これまで複数の弁護士や法学者から表明されてきた。

 「恣意的な判断で通信を遮断するのは、日本の法体系ではありえない。なしくずしにブロッキングが始まる前に、ここで何かしておこう」――中澤弁護士はそう考え、ブロッキング予告時点のNTTコムの提訴に踏み切ったという。

東京地方裁判所に提出した訴状のコピー

 訴える先がNTTコム1社なのは、中澤弁護士が利用している固定回線がNTTコムの運営するOCNが提供するものであるため。通信を利用するに当たって、著作権を侵害するサイトへのブロッキングを行うことには同意していないとして、契約の履行を求めるという。

 今回の訴訟は、通信を妨害される恐れがあるとして「妨害予防請求権」に基づき起こした。NTTコムによるブロッキングは予告の段階であり、実施には至っていないためだ。中澤弁護士は「裁判の1回目の期日は5月後半から6月上旬になるだろう」と推測しており、「それまでにブロッキングが始まっていることも考えられる。そうなれば、妨害予防請求から『実際に通信が妨害された』として慰謝料など損害賠償請求に切り替える」という。

 一方で、現在も児童ポルノサイトのDNSブロッキングは行われており、回線契約者が接続しようとするドメインやURLはISPに見られていることから「著作権侵害サイトのURLがブロックリストに加わるだけで、拡大する損害はないのではないか」という指摘もある。

 これについて中澤弁護士は、「確かに見られることに関して拡大する損害はない。しかし、『著作権侵害のサイトをブロックするために私の通信を見てもいい』とは同意していない。そのために見られたとなれば、慰謝料は請求できる」と考えを示す。

海賊版サイト対策「法の改正と国際的な枠組み進めるべき」

 通常業務では、権利侵害コンテンツの削除などを行う中澤弁護士。海賊版サイトへの対策についてはどのように考えているのか。

 「現行法が実情に追い付いておらず、海外事業者への情報開示請求がやりにくいというのはある。直接的に著作権侵害をしないリーチサイトの問題もあるため、著作権の間接侵害についても法律を改正していくのが本筋だろう」(中澤弁護士)

 漫画村などの海賊版サイトは、コンテンツの削除要求を無視する海外の配信サーバと、配信を中継するCDN(コンテンツデリバリーネットワーク)サービスの米Cloudflareを組み合わせることで運営管理者の身元を秘匿している。運営者の割り出しが困難で、権利侵害コンテンツを削除できないからブロッキングをする他ないというのが今回の政府側の見解だ。しかし中澤弁護士は「やるべきことを尽くしていないのでは」と疑問を呈する。

 「被害届を出していないのではないか。国際捜査協力で現地の警察を動かすのが先だろう。Cloudflareに発信者情報の開示要求を出せば配信元サーバの情報を教えてくれるので、サーバ会社相手に現地で弁護士を立てて裁判することもできる。1件当たり1000万~1億円程度でできるだろう。被害額が数千億円ということであれば、現地での裁判などできることはたくさんあるはず」(中澤弁護士)

 「権利侵害コンテンツ削除を行っている知り合いの弁護士も、ラトビアのサーバ会社相手に裁判している。確かに海外での裁判が難しいという面はあるが、できないことはない。こういうことを1つ1つ積み重ねて国際的な枠組みを作るというのが望ましい形。海賊版サイトの問題は国内だけでは解決しない。国内については、裁判をへたものであれば、(1)プロバイダーがブロックしても責任を問わないという規定をプロバイダ責任制限法に入れていくということとと、(2)海賊版サイトの運営者が分からないから訴えることができないということについては、名前が分からなくても対象が分かれば訴えられるよう民事訴訟法を改正するということ――が、国際捜査協力ができるまでの日本国内だけで被害をとどめる措置になるだろう」(同)

 「結論としてブロッキングを解決手段として取るのは私はいいと思う。しかし、ブロックして良い悪いを誰が決めるのか。これは裁判所が決めるしかない」(同)

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