110年ぶりの刑法改正。性犯罪が厳罰化!

法律

刑法改正

1.はじめに:110年ぶりの刑法改正

刑法の性犯罪規定を改正し、厳罰化するための刑法改正案が、平成29年6月8日、衆議院本会議で修正可決され、平成29年6月16日、参院本会議で可決、成立しました。

改正刑法は、平成29年6月23日に、公布されました。公布の日から起算して20日を経過した日から施行する(附則1条)と定めており、平成29年7月13日に施行されました。

強制わいせつ及び強姦の罪については、平成16年の法改正によって、罰則の強化、集団強姦等罪に関する規定の新設等がなされています。しかし、刑法は、2017年まで抜本的な改正が全くなされてきませんでしたので、性犯罪を巡る大幅な法改正は、明治時代の制定以来、110年ぶりとなります。

では、具体的には、どのような点が改正されたのでしょうか。改正前の刑法(性犯罪規定)を概観した上、改正の背景やその改正内容について見てみることにしましょう。なお、修正案には、附則に施行3年後の見直し規定が、附帯決議に被害者の二次被害の防止に努めることなどが盛り込まれています。

2.改正前の刑法(性犯罪規定)

⑴ 犯罪の要件における問題点

強制わいせつ及び準強制わいせつの罪では、男女とも被害者になりますが、強姦及び準強姦の罪では、女子のみが被害者となっていました。そして、強姦罪においては、13歳以上の女子に対しては暴行・脅迫を用いた姦淫(膣性交のこと)のみが、13歳未満の女子に対しては姦淫のみが、その成立要件とされ、また、準強姦においても、姦淫のみがその成立要件とされていました。

改正前の刑法では、男性は強姦の対象になりませんし、性交類似行為の場合も強制わいせつや準強制わいせつの罪にしかならず、強姦や準強姦の罪に問えませんので、これらの点が問題となっておりました。

⑵ 罰則における問題点

改正前の刑法では、強姦及び準強姦の罪を犯した者は3年以上の有期懲役に、強姦及び準強姦の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、女子を死傷させた者は無期又は5年以上の懲役に処すると規定されていましたが、性犯罪に対する一般的処罰感情からすれば、法定刑の下限の妥当性が問題となっておりました。

⑶ 親告罪における問題点

強制わいせつ及び準強制わいせつの罪、強姦及び準強姦の罪は、いずれも親告罪でした。親告罪とは、「告訴がなければ公訴を提起することができない」犯罪類型のことをいいます。

つまり、被害者(またはその他一定の者)の告訴という手続がなければ、検察官が公訴の提起(起訴ともいい、刑事裁判にかけること)ができない犯罪のことです。

これは、被害者の名誉やプライバシーの保護等を考え、訴追を被害者の意思にかからせたからです。

一方、集団強姦等及び強制わいせつ等致死傷の罪は親告罪ではありませんし、また、2人以上の者が現場において共同して犯した強制わいせつ及び準強制わいせつの罪(未遂を含みます。)も、親告罪ではありません。これらが非親告罪なのは、犯罪が悪質で、被害者の意思を尊重する以上に犯人を処罰する必要が強いからとされています。

しかし、強制わいせつ及び準強制わいせつの罪、強姦及び準強姦の罪が親告罪で、訴えるかどうかの判断を被害者のみに委ねることがよいのかが問題となっておりました。

親告罪に関して詳しく知りたい方は、下記記事をご覧ください。

参考:「親告罪とは?不起訴に必要なのは示談交渉。弁護士にお任せください

3.刑法改正の背景

「姦淫」は、膣性交、すなわち、陰茎の膣内への挿入と定義されていますから、改正前の刑法の強姦及び準強姦の罪では、被害者を女性に限定しています。しかし、性犯罪に伴う被害は、姦淫以外の性交類似行為、例えば、陰茎の口や肛門への挿入でも起こりますので、被害者に男性も含める必要もあるわけです。

ところが、陰茎の口や肛門への挿入は、改正前の刑法では強制わいせつ及び準強制わいせつの罪にしかならず、性犯罪に伴う被害の実情と法規定の間には大きな乖離があったわけです。そして、改正前の刑法では、強制わいせつ及び準強制わいせつの罪、強姦及び準強姦の罪は、被害者の告訴がなければ起訴できませんが、他方で、告訴するかどうかの判断を被害者に委ねるのは、かえって被害者の精神的負担を重くし、結果的に、性犯罪が潜在化する一因となっていると指摘されていました。

さらに、性犯罪の実情に照らせば、法定刑が軽すぎるという指摘もあったところです。

4.刑法改正の内容(強姦罪・準強姦罪)

刑法改正2

⑴ 改正理由の趣旨

近年における性犯罪の実情等にかんがみ、事案の実態に即した対処をするためには、強姦罪の構成要件及び法定刑を改めて強制性交等罪とするとともに、監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪を新設するなどの処罰規定の整備を行い、併せて、強姦罪等を親告罪とする規定を削除する必要があるとするのが、性犯罪規定を改正する理由とされています。

以下では、まず、改正のポイントを見た上で、上記の改正理由の趣旨に照らし、大きく改正される点についてのみ説明することとします。

⑵ 改正のポイント

① 被害者を女性に限っていた「強姦罪」、「準強姦罪」から、男性も対象に含める「強制性交等罪」、「準強制性交等罪」に名称を変更します。そして、法定刑の下限を「3年以上の有期懲役」から「5年以上の有期懲役」に引き上げます。

② 懲役4年以上とされていた集団強姦等罪の規定は削除します。

③ 「監護者わいせつ罪」及び「監護者性交等罪」を新設します。

④ 上記①の罪、上記③のうちの「監護者性交等罪」又はこれらの罪の未遂罪を犯し、人を死傷させた場合について、有期懲役については「5年以上」から「6年以上」に引き上げます。

⑤ 親告罪の規定を削除し、告訴がなくても起訴できるように改めます。改正法の施行前に起きた事件にも原則適用します。

⑶ 大きく改正される点

① 強制性交等、準強制性交等

㈠ 改正前の刑法の強姦罪(177条)、準強姦罪(178条2項)を強制性交等罪、準強制性交等罪に名称を変更し、被害者の性別は女性のみではなく、男性も含むこととし、従来の「姦淫」を「性交」に改め、これに加えて、「肛門性交又は口腔性交」も併せて「性交等」として、同等に処罰するようにします。また、法定刑も「3年以上の有期懲役」から「5年以上の有期懲役」へ厳罰化します。

㈡ 改正案要綱

㊀ 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等罪とし、5年以上の有期懲役に処するものとすること。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とすること。(177条関係)

㊁ 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、㊀の例によるものとすること。(178条2項関係)

参考:強制性交等罪とは?強姦罪はどのように改正されたか?わかりやすく解説

② 監護者わいせつ及び監護者性交等

㈠ 改正前の刑法では、強制わいせつ罪でも強姦罪でも、13歳以上の被害者に対する行為の場合には、「暴行又は脅迫」を手段とすることが要件となっています。しかも、この暴行・脅迫は、被害者の反抗を抑圧するまでの必要はないものの、著しく困難にする程度のものであることを要するとするのが、判例・通説とされています。そして、改正前の刑法(性犯罪規定)では、判例・通説にいう暴行・脅迫に至らない場合、また暴行・脅迫を手段としない場合、被害者が心神喪失・抗拒不能にない場合には、いかなる性暴力も処罰の対象とされていません。

しかし、家庭内での性的虐待については、被害者の拒否が難しいと考えられることや、その後の人生に与える影響の深刻さが指摘されていたところから、親などの「監護者」が、支配的な立場を利用して18歳未満の者と性的な行為を行った場合には、暴行・脅迫がなくても処罰することができるものとして、「監護者わいせつ罪」と「監護者性交等罪」を新設します。そして、監護者わいせつ罪は強制わいせつ罪と、監護者性交等罪は強制性交等罪と、それぞれ同等に処罰できるようにします。

㈡ 改正案要綱

㊀ 18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は、強制わいせつ罪の例によるものとすること。(179条1項関係)

㊁ 18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、強制性交等罪の例によるものとすること。(179条2項関係)

㊂ ㊀及び㊁の未遂は、罰するものとすること。(180条関係)

参考:47年ぶり最高裁判例変更?強制わいせつ罪成立に「性的意図」必要か

③ 強姦罪等の非親告罪化

㈠ 改正前の刑法では、強制わいせつ及び準強制わいせつの罪、強姦及び準強姦の罪は、被害者の告訴がなければ起訴できませんが、「強制わいせつ及び準強制わいせつの罪」、名称を変更する「強制性交等及び準強制性交等の罪」、そして、新設する「監護者わいせつ及び監護者性交等の罪」については、被害者の精神的負担を減らすため、被害者の告訴がなくても起訴できるように改め、親告罪の規定を削除することにします。

さらに、改正刑法は、公布の日から起算して20日を経過した日から施行されます(附則1条)が、改正刑法の施行前に起きた事件にも原則適用され、告訴なしに起訴できるようになります。

㈡ 改正案要綱

㊀ 180条(親告罪規定)を削るものとすること。

㊁ この法律による改正前の刑法180条の規定により告訴がなければ公訴を提起することができないとされていた罪であって、この法律の施行前に犯したものについては、この法律の施行の際既に法律上告訴がされることがなくなっているものを除き、この法律の施行後は、告訴がなくても公訴を提起することができる。(附則2条2項)

5.刑法改正後の課題

⑴ 異物(例えば、性的玩具等)や手指を女性器や肛門に挿入しても、「性交等」には当たらないため、改正法の強制性交等及び準強制性交等の罪にはなりません。強制わいせつ及び準強制わいせつの罪にしかならないのです。

異物や手指の場合でも、被害者が受ける精神的苦痛の大きさは、性交等と何ら変わらないとして、「性交等」と同等に取り扱うべきであるという指摘があり、今後の課題といえます。

⑵ 新設される「監護者わいせつ及び監護者性交等の罪」は、教師と生徒の関係、雇用関係、スポーツの指導者と選手の関係には、適用されません。

新設の規定は、上下関係、権力関係のうち、主体を監護者のみに限定するもので、特に、教師やスポーツ指導者らによる性暴力の実態を踏まえれば、主体の限定は狭すぎるという指摘がなされており、この点も今後の課題といえます。

参考:公務員・教員の刑事事件(盗撮、人身事故、傷害など)と懲戒処分

6.性犯罪の弁護は泉総合法律事務所まで

以上に見てきたように、強制わいせつ・準強制わいせつ罪や、強姦・準強姦罪は、刑法の改正に伴い、非親告罪化し、強姦・準強姦罪は強制性交等罪・準強制性交等罪となります。法定刑の下限も引き上げられるなどして厳罰化が進みます。

これらの犯罪は重大であり、被害者の苦痛も大きなものとなります。

一方、加害者の人生も大きく変わることになります。もし逮捕された場合は、早急に泉総合法律事務所までご相談ください。

当所では性犯罪を含む様々な刑事事件にて東京、神奈川、埼玉、千葉などの首都圏で多数の弁護実績があり、多くのケースで示談や減刑を獲得しております。万が一事件を起こしてしまった場合はご連絡ください。

刑事事件コラム一覧に戻る