ファンの想いが暴走し事件にも アイドルはいつの時代も“疲弊”している
また、今でこそネットやSNSなど、好きなアイドルへの想いをファンたちが共有・発散できる“場”があるが、当時はそういったものはなかった。そのためか、「あまりに強すぎる想いがアイドル本人に向かって暴走することもあった」と豊沢氏。実際、自宅マンションに侵入した男に監禁されたり(岡田奈々監禁事件/77年)、公演中にステージでファンに襲われたりと(松田聖子殴打事件/83年)、当時のアイドルたちもAKB48と同様の経験をしていたのである。
いつの時代も神経をすり減らすアイドルたち。そんな“消耗”するアイドルの代表例として、豊沢氏は80年代の“歌姫”中森明菜の名を上げる。当時の中森は、情念を込めた高い歌唱力でヒット曲を連発していたが、一方でスキャンダルも多かった。豊沢氏は「プライベートが話題になることも多かった中森さんでしたが、実力のあった歌唱力に“哀愁”や“悲哀”といった“ドラマ性”が加わることで、ファンが熱狂していく側面もあった」と振り返る。
疲弊したアイドルを支えたい“ファン心理”を逆手にとり、“疲弊”を装う地下アイドルも
あらゆることが可視化された現代、ファンたちにとってアイドルの実生活と芸能活動の差は事実上なく、「アイドルが見せる感情の起伏など、“ドラマ性”を強く求めるようになった」と豊沢氏。最近は、自分の弱さをウリにするという“病んドル”までが登場。特に地下アイドル系では、こうした“ダークサイド”に落ちたかのような発言でファンを呼び込もうとする人もいるようだ。「地下アイドルなどは、疲弊を“偽装”する人が多いんです。それは、『彼女を支えたい』『応援したい』といったアイドルファンの心理を突いた手法とも言えます」
悲哀の元エースが見せたアイドルの苦闘
本人も、自身のブログで「毎日心が千切れるくらいです」と明かし、「1個の事に集中したら結構いい感じになる人なのですが、それだけじゃダメだってのもわかってるのですが、天才に生まれてないからさ、これは時間かかるのですね」とアイドル活動に対する不安を露わにするなど、その消耗っぷりは明らかだった。
ただ、そんな生駒だからこそ同じアイドルの“痛み”も知っているのか、卒業シングルでのセンターを辞退したり、乃木坂メンバーに迷惑をかけないようにと、発表から3カ月という異例の速さで卒業するなど、最後まで責任感とグループ愛を見せ、ファンたちの心を打った。
「生駒ファンも、彼女の頑張りと苦労を“ストーリー”として知っているからこそ、最後まで彼女を支えようと奮起したようです。卒業公演のチケットは30倍もの競争率になるなど、彼女のファイナルを盛り上げる姿が印象的でした」(豊沢氏)
壊れゆくアイドルの神秘性と哀愁 努力から生まれる“摩耗”はファンの熱になる
「アイドルが輝くのは、上だけを向いてひたむきに歩んでいる時。だから、『総選挙で1位になる』『武道館を目指す』といった、目に見えて分かる目標のための“摩耗”は、よりファンの熱に繋がります」と豊沢氏はいう。そして、それを目の当たりにしたライト層が、ディープ層に変わるきっかっけにもなっているようだ。
前述したAKBの総選挙などは、メンバー全員が消耗している。しかしその努力をファンにきちんと見せることが必要だと豊沢氏は力説する。「自分が応援することでアイドルたちも成長していく、そのストーリー性があるからこそ、アイドルとファンとの結束が強まる」とも。
接触商法はもちろん、SNSでの広報や更新などアイドルとしての仕事の領域が広がり、アイドルの消耗が激しいのは想像に難しくない。しかし、そうした苦境を乗り越えた時にアイドルがより光り輝くのもまた事実なのである。ファンも、好きなアイドルたちの光り輝く瞬間を何度でも見たいと思うからこそ、いつまでも応援し続けるのだ。