このように、今回の政府の「緊急対策(案)」は法的根拠が薄弱で、通信事業者に一方的なリスクを背負わせる形となる。
なぜ、NTTグループの通信事業者3社は自らに「火の粉」が降りかかりうる要請に応じたのだろうか。親会社であるNTT(日本電信電話)を含めた4社の広報担当部署に質問したところ、各社から回答を得られたので体裁を整えて掲載する。
なお、各社ともに同一趣旨の回答となった場合は、代表してNTTのコメントを掲載する。
―― NTTグループ連名でブロッキングを行う旨を発表することになった経緯は。
NTT広報室 インターネット及びコンテンツビジネスの健全な発展のため、著作権侵害サイトへの対策が必要であることはNTTグループとしても重要視しているところです。
今回は、コンテンツ事業者団体からの要請と政府決定に基づきNTTグループとして、対応することとしたものです。
―― ブロッキングを実施する予定のサービスは何か。
NTTドコモ広報部 弊社のプロバイダーサービスである「spモード」「iモード」「ドコモnet」「mopera U(PCやルーター向け接続サービス)」「ビジネスmoperaインターネット(mopera Uの法人版)」「docomo Wi-Fi(公衆無線LANサービス)」 です。
NTTコミュニケーションズ広報室 個人向け、法人向けのインターネット接続サービスのほぼ全てであり、モバイル回線も含みます。
個人向けサービスにおいては「OCN 光」「OCN モバイル ONE」、法人向けサービスにおいては同じく「OCN 光」「OCN モバイル ONE for Business」などが該当します。
NTTぷらら広報担当 インターネット接続サービス「ぷらら」および「BUSINESSぷらら」を予定しています。
―― 検討しているブロッキングの手法は各社同一か。その場合どのような手法を検討しているのか。
NTT広報室 ユーザが指定したURLが、政府決定のあった海賊版サイトのURLの場合には、海賊版サイトの接続に必要なIPアドレスの変換をしない「DNSブロッキング」を検討しております。
これにより、ユーザーは海賊版サイトへの接続ができなくなるものです。
―― DNSブロッキングは「回避策が存在するため無意味である」という指摘もされている。その点についてはどう受け止めているか。
NTT広報室 ブロッキングの他にも、優先すべきまたは効果的な対策があるのではないかとの意見があることは承知しておりますが、今回は政府決定にのっとり、ブロッキングを実施するものです。
―― 今回の措置について、日本国憲法第20条や電気通信事業法第3・4条に違反するという指摘がある。実際にブロッキングを実施した場合、通信事業者として訴訟のリスクが生じる。一部では、訴訟を提起する動きも見られる。このようなことを承知の上で、今回の判断に至ったのか。
NTT広報室 そのような指摘があることは承知しております。
NTTグループとしては、コンテンツ事業者団体からの要請と政府決定に基づき対応するものであり、政府決定のプロセスにおいても法務省、総務省等の意見が反映されていると聞いています。
―― 「先に法整備を行い、それに従ってブロッキングを実施すべき」という指摘もある。海賊版対策としてのブロッキングは刑法第37条に定める「緊急避難」に当たるという解釈か。
NTT広報室 (海賊版対策を行う上で)法整備が必要と当社も認識していますが、今回は法制度を整備するまでの短期的な措置として政府決定がなされたものであり、政府決定プロセスにおいては法務省や総務省などの意見が反映されたと聞いています。
それ以上については、一事業者であるため、施策の方針や法解釈についてのコメントは差し控えさせていただきます。
―― 報道発表の末尾に「政府において、可及的速やかに法制度を整備していただきたいと考えています」とあるが、御社あるいはNTTグループとして具体的な働きかけをしているのか。
NTT広報室 強く要望しています。具体的な働きかけの内容については回答を差し控えさせていただきます。
―― 今後、今回の施策に関する報道関係者向けに説明会や会見などを行う予定はあるか。
NTT広報室 現時点で予定はありません。
このように、各社の回答はおおむね同一のものだった。NTTグループとして、政府の方針に応じているというスタンスだ。
あくまでネット接続サービスレベルでの対応となるため、「ドコモ以外が提供するネット接続サービスを使っているドコモユーザー」や「ドコモ回線を使うMVNOサービスのユーザー」はブロッキングの対象にはならない。ただし、ネット接続サービス提供者、あるいはMVNOがブロッキングを実施する場合はその限りではない。
いずれにしても、今回の政府の方針は、法的なリスクを通信事業者に押しつけてしまう点で問題がある。
関係者が膝を突き合わせて、責任の押し付け合いにならない方策を早急に検討するように期待したい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.