どこに出しても恥ずかしくない量産型ダムオブ量産型ダム
「同じ形のダムはふたつとない」、と僕は昔から言っている。
ダムには重力式、アーチ式、ロックフィルなど、建設地点の地形や地質に合わせたいくつかの型式があり、たとえ同じ型式でも、用途や規模や予算などによって装備の違いもあるので、すべて形が違うのだ。 しかし、規模や用途や予算が同じようなダムだとどうしても似た形になってしまい、あまりに似すぎてファンから「量産型ダム」と呼ばれてしまう一群もいる。ふたつとないのに量産型、そんな矛盾を抱えたダムたちに光を当てたい。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
個人サイト:ダムサイト
前の記事:「その昔、新宿南口の改札前を京王線が走っていた」 人気記事:「お祖父さんが作ったドールハウスが泣けるほど昭和の住宅だった」 オンリーワンのダムいきなりダムの量産型とかオンリーワンとか言われても何が違うのか分からないだろう。そこで、まずは量産型でない、オンリーワンなダムの例を紹介したい。アイドルで例えるならセンター...かどうかは分からないけれど、最前列でソロパートもあるような存在である。
僕がダムの装備を説明するときにまず例に出す下久保ダム
たとえば埼玉県と群馬県の境にある下久保ダム。水門がいちばん上に2つ装備されていて(水が出ているところ)、その内側少し下に開いている2つ穴の中にも放流用の水門が入っている。さらに真ん中へんに2ヶ所開いている穴の中にはバルブが設置され、ここから水を出すことも可能。いちど操作してみたい、ファン垂涎の多機能堤体だ。
下久保ダムは洪水や渇水と戦ったり、飲み水や農業用、工業用の水を確保したり、発電をしたりといったさまざまな役割があって、それに応じた放流設備を備えている。かなり豪華な装備と言えるだろう(実際の使い勝手が良いかどうかは分かりません)。 ちなみにそれぞれの放流設備の役割は以下の通り。今日はどの水門を開けようかな、などという、操作員の気まぐれ放流は残念ながらできないのだ。 どの用途でどの設備を使うかが決まっている
1は非常用洪水吐と言って、普段はまず使わないけれど、このダムや放流設備の設計を超えるような大雨が降って、貯水池の水位が上がり満水を超えそうなときに、ダムの上からあふれないように最終的に開ける水門である。洗面所のボウルに空いている穴と同じ役割。
2は常用洪水吐と言って、大雨が降って川の流量が増えたときに、下流に流して安全な分を放流するための設備。それ以上の流れ込んできた分はダム湖に貯めながら下流を守り、大雨をやり過ごすのだ。 3は利水放流管。下流で飲み水や農業用水、工業用水などが必要になったときに放流する設備だ。 あと直接見えないけれど、4は表面取水設備と言って、ダム湖の水を5の発電所に送るための取り入れ口だ。ダム湖の水位は絶えず変化するけれど、下流には常にダム湖表面近くの暖かい水を流せるように取り入れる水位を変えられる仕組みになっている。でかいのに気配りのできる奴なのだ。 5の発電所で使われた水はそのまま下流に流されている。 ちなみに写真では「普段はまず使わない」、「最終的に開ける」などと書いた非常用洪水吐からふつうに放流しているけれど、これは水門がきちんと動くか動作チェックをした点検放流の模様で普段はまず見られない光景。そういえば、下久保ダムにはせっかくモデルとして出ていただいたのでお知らせすると、今年で管理開始50周年らしく、6月24日(日)に点検放流イベントを予定しているとのこと。放流見たい人は要チェックだ! では、次ページから量産型ダムの話に移ります。
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