「ITの教室」は、ITに関わる規格や仕組みなどを簡潔に紹介するコーナーです。まずはUSBについて、その概要を解説します。
現在、USBの重要な役割の1つにスマートフォンなどの機器の充電がある。だが、充電に関しては、USBの仕様外のものが多数あり、USB仕様とは矛盾はしないものの、充電器側の仕様とケーブル、そしてスマートフォンの組み合せでは「充電できない」「充電が遅い」といったトラブルも少なくない。今回は、第1回のUSBの概要に続き、USBと充電の関係について解説しよう。
バッテリーを内蔵した機器の充電については、トラブルも多いが誤解も少なくない。バッテリーを充電することは、お風呂に水をためることによく似ている。機器を充電するとき、その制御は、スマートフォンなどの中にある「充電制御回路(コントローラー)」が行う。
コントローラーは、接続された充電器側を判断して、充電モードを切り替える。そのモードにより、必要とされる電力が決まるが、充電器側にも供給できる電力の上限がある。そのため実際には、コントローラー側の「要求電力」と充電器の「供給電力」のうち、小さい方の電力が充電に使われることになる。お風呂に水をためる場合、蛇口の状態で水量が変わるが、接続している水道管からもらう水量以上になることはできないのと同じである。
USB充電の場合には、さらに複雑な事情がある。というのは、USB 2.0が策定されたときには、USBを充電に使うという発想はなく、周辺機器へ電力を提供するということだけが考えられていた。USB 2.0では、標準で提供される電力は100ミリアンペアで、ホストとデバイスが通信して同意することで最大500ミリアンペアまで供給可能になる。
一般にUSB 2.0ポートの出力は500ミリアンペアといわれているが、本来は、ホスト側とのネゴシェーションの上、最大500ミリアンペアが供給される。そのため仕様上では、電源ラインだけを接続して500ミリアンペアを得ることはできない。ただ最近では、USB充電を考慮して、500ミリアンペア以上の電力供給が可能なUSBポートを装備するPCもあれば、厳密にUSB仕様を守っているホストも存在する。
もう1つは、USB充電を想定していないため、そもそもUSB充電器という機器がUSBの仕様には含まれていなかったことも混乱の元となっている。USBポートの電力供給の問題があるため、スマートフォンなどは、USBホストに接続しているのか、USB充電器に接続されているのかを区別する必要がある。そこで、一部のメーカーなどが充電器をUSBポートと区別するために独自の仕様を作ってしまった。
その後USBでも、機器の充電や電力供給に関する仕様として、次の2つの仕様を策定した。
だが現在でも、USB仕様とは異なる充電器仕様が広く使われている。具体的には、以下のような製品がある。
* SOC:System On a Chip。CPUや周辺回路を1つにまとめたデバイス
市場には、少なくともこの3種に加え、メーカー独自方式もあり、さらにUSB 2.0仕様、USB BCとUSB PDの3つもある。充電という機能について見ると、さまざまな仕様の「USBコネクター」があるわけだ。汎用のUSB充電器などでは、複数の仕様に対応したものもあるが、スマートフォン側は、多くの場合、このうちの一部しか対応していない。
簡単にいうと、USBコネクターで接続はできるものの、双方が同じ仕様に対応していないとスマートフォンは、(充電器ではなく)USBポートに接続されていると判断して、大電力を使わないように最低限の電力で充電を行う。トラブルの原因の1つはここにある。
また世の中には、コストを下げるため、電力ラインだけを接続した「充電専用」ケーブルが出回っている。これもUSBの仕様外なのだが、両端がUSBコネクターであり、見た目には違いが分からない。この充電専用ケーブルでは、スマートフォンによっては、充電器を正しく判断できないことがある。当然ながら、このケーブルを使ってデータを転送することもできない。
さらにUSB 3.xの登場と、USB Type-Cにより話は複雑になる。USB 3.xやUSB Type-Cの詳細は今後紹介するが、簡単に説明しておくと、大電力を出力可能なUSB PDとUSB Type-C、USB 3.xはそれぞれ独立した仕様であり、出力がUSB Type-CプラグだからといってUSB PDやUSB 3.xであるとは限らない。つまり、片側がUSB Type-Cプラグでも、供給電力の上限に違いがある。
USBによる充電は、デバイス側が「ミニUSBコネクター」「マイクロUSBコネクター」「USB Type-C」の場合に限られる。USB標準Bコネクターで接続することも不可能ではないが、一般にバッテリーで動作する機器は、可搬性が必要になるため、機器自体が小さく、逆に持ち運びできないようなサイズの機器は、バッテリー動作させる必然性がない(もちろんUPSのような例外はあるが)。最近では、ミニUSBコネクターの機器はほとんどなくなってきており、ほとんどがマイクロUSBコネクターを採用し、最近の機種で、ハイエンドからミドルレンジのものだけがUSB Type-Cコネクターを採用している。
誤解のある用語として「急速充電」がある。実は、リチウムイオン電池の充電には「急速充電」という機能はなく、実際には最短時間または最短時間に近い時間で充電を行うことを多くのメーカーは「急速充電」と呼んでいる。
世の中には、数分で充電が完了するような機能を持つ電池もある。だがリチウムイオン電池の場合、仕様上、最短時間である1時間で充電できる方式があるだけで、これに必要な電力を供給できれば「急速充電」と呼んでいる。
最短時間である1時間で充電を行うことを「1C充電」という。1C充電とは、電池容量(単位はアンペアアワー。Ahと表記するのが普通)に応じた電流から充電をスタートさせ、電池の状態を観察(電圧や温度を見ている)しながら、だんだんと電流を減らしていき、1時間で満充電とする方法である。例えば、1200ミリアンペアアワー(1200mAh)のバッテリーならば、1200ミリアンペア(1200mA=1.2A)の電流から充電をスタートさせ、電圧の上昇に従って電流を減らしていく。
このようにバッテリー容量によって必要な充電電流が違うため、急速充電対応といっても、接続するスマートフォンやタブレットの内蔵バッテリー容量によっては、充電器の範囲外となってしまうことがある。
こうした場合、1C充電にはならないため、充電時間が伸びることになる。「急速充電しない」というトラブルの背景には、こうした充電器とスマートフォンのミスマッチという問題もある。コンセントがいっぱいになるという理由から複数の出力ポートを持つUSB充電器を購入するユーザーも少なくない。しかし、スマートフォンを買い換えてバッテリー容量が大きくなると、それまで使えていた充電器では、出力電流が不足する可能性がある。
一般消費者が利用する機器では、ケーブルやコネクターの破損で大電流に触れることがないように、できるだけ電流を減らすことが求められる。また、電流が大きいとケーブルやコネクターなどでの発熱も大きくなり、火災などにつながる恐れもあるからだ。このため、大容量のバッテリーを充電する場合、供給電力を一定として電圧を上げて、電流を減らすことが行われる。しかし、USBは本来5Vの出力しか想定していなかった。このために、独自の仕様が作られたが、のちに定義されたUSB Power Devliveryでは、5V以上の電圧を供給する仕組みに対応した。
第1回で、USBのケーブル接続には、電力を供給するホスト同士を接続しないようにコネクターが両端で違っているという話をした。しかし、スマートフォンのような機器は、電力の供給を受ける「デバイス」側であるが、キーボードなどのデバイスを利用する「ホスト」の側面もある。マイクロUSBやミニUSBコネクターには、ホストとデバイス側の役目を切り替えて利用する「USB On The Go(USB OTG)」という仕組みがある(USB On The Goは単に「OTG」といわれることもある)。
スマートフォンの多くがUSBデバイスとして動作する一方で、専用のケーブル(ホストケーブルと呼ばれる)を使うことで、ホストとしても動作し、USBデバイスが接続可能なスマートフォンも存在する。
OTGデバイスは、ミニUSBやマイクロUSBの仕様であり、かつ、OTGデバイスがホストになることから、対応デバイスは、電力の供給を受けるだけでなく、他の機器に対して電力を供給することになる。この辺りを整理するため、OTGについて解説しておく。
ミニUSBやマイクロUSBコネクターには、OTGを実現するための仕掛けがある。本来USBの信号線は、USBデータ線2本(「U+」「U-」)、電源線2本(「V+」「V-」)の計4本だが、ミニ/マイクロUSBのコネクターは5本目の信号線「ID」を持っている。このIDピンをプラグ内でグランド(「V-」)と接続することで、スマートフォン内部のUSBコントローラーは、動作をホストに切り替える。IDピンに何も接続されていないと(V-と接続されていないと)、デバイスとして動作する。
この「ID」を「V-」と接続したケーブルを「ホストケーブル」と呼ぶ。当初のOTGでは、ホストケーブルと通常のケーブルを区別するため、専用のプラグを定義していた。それが、ミニUSB AプラグとマイクロUSB Aプラグである。ホストケーブルではない通常のケーブルでは、ミニUSB BプラグとマイクロUSB Bプラグを利用する。
スマートフォン側は、OTGに対応してホストケーブルを接続できるものは、ミニUSB ABレセプタクルやマイクロUSB ABレセプタクルを搭載する。これは、AでもBでも接続可能なレセプタクルである。また、OTGではないUSB機器でマイクロやミニコネクターを使うものは、ミニUSB Bレセプタクル、マイクロUSB Bレセプタクルを採用する。これにより、非OTGデバイスにホストケーブルを挿してしまうことを防ぐことができた。
Android OSでは、バージョン2.3.4(Gingerbreadの後期バージョン。2011年頃)やバージョン3.0(タブレット専用バージョン。2011年)で公式にOTGデバイスに対応した。これに伴い、採用するSoCに内蔵のUSBコントローラーがOTG対応となるなど、ハードウェア側ではOTGが普及した。そのため、最近のAndroidスマートフォンは、全てのOTGに対応していると考えよい。
また、EU圏などでは、マイクロUSBコネクターを使った携帯電話やスマートフォンの充電が要求されるようになり、これは最終的に「USB Battery Charge(Ver.1.2)」へと取り込まれる。このため、マイクロUSB Bコネクターをホストケーブルでも、通常ケーブルでも利用できるように仕様が変更された。
ホストになるということは、スマートフォンが電力を供給するということになる。このときの仕様は、USB 2.0の仕様に従う必要がある。なぜなら、接続するデバイスは、USB仕様に準拠しているからである。そのため、OTGデバイスは、ホストとして動作しているときには、充電器などと同じく、電力を外部機器に供給可能だ。
しかし、もともとバッテリーで動作しているスマートフォンが電力供給まで行うことで、バッテリー駆動時間が短くなってしまう。こうした場合にもスマートフォンが電力供給を受けられるようにするのが、「USB Battery Charge(USB BC)」の1つの役割だった。USB BCについては次回解説するが、基本的には、USB 2.0やOTGとは独立した仕様であり、OTGデバイスの全てがUSB BCに対応しているのではないことに注意されたい。
このようにUSBによる「充電」には、USBの仕様外のものもあり、少し混乱した状態にある。次回は、USB Battery Chargeや独自方式のUSB充電方式を具体的に解説したい。
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