今年は桜の季節に日本で過ごせると喜んだのもつかの間、これまでに無くひどい花粉症に悩まされた。しかし、花粉もようやく下火。暑くも寒くもない良い季節がやってきた。
今、日本は新緑の若葉がきれいだ。東京を歩いても、道路脇にさりげなく植え込まれたツツジが満開になっていたり、どこかの家の塀からレンギョウが垂れ下がっていたりで、街中のそんな花々を見るたびに、なんと美しい季節かと感動する。
冬が長く厳しいドイツでは、5月に春が突然やってくる。果樹としての桜や桃が一斉に花をつけ、丘一面が白い霞のようになって、こよなく美しい。
この時期ドイツでも、白樺やらハーゼルナッツなど様々な花粉が飛び、皆が悩まされるのは日本と同じだが、それでも春を待ちわびた人々の喜びは果てしない。モーツァルトの有名な「五月の歌」も、単純に春の喜びを表した歌曲だ。
ちなみに、今年の2月、ドイツは記録的な寒さだった。2月末には、比較的温暖なシュトゥットガルトでも、気温が昼でも氷点下から上がらない日々があった。零下10度を過ぎると、風に向かうと顔が痛い。たくさん着込んで、携帯カイロをくっつけていても、腿のあたりがジンジンと冷えてくる。
とはいえ、ちょっと雪が降ると、高速道路が閉鎖になり、人々がすってんころりんと転ぶ日本とは違い、ドイツ人が寒さに強いことは確かだ。長年の勘もある。
さて、今年の冬はそのドイツで不思議なことが起こった。ドイツ全土で時計が遅れたのだ。テレビや食器洗い機などに付いているデジタル時計である。
こういう、コンセントにつながっている電気器具に内蔵されている時計は、電気の周波数を利用して時を刻んでいる。ところが、本来、正確であるはずの周波数が落ちたため、時計が遅れてしまったという。
実は、私も自宅の電子レンジの時計が遅れていることに気づいて、もうすぐ電子レンジが壊れるのかと懸念したのだが、そうではなかったらしい。数日で6分も遅れたというから、ラジオ内蔵の目覚まし時計などを使っていた人は、電車に乗り遅れても不思議はなかった。
では、なぜ、周波数が落ちたかというと、流れる電気の量が減ってしまったからだ。なぜ、流れる電気の量が減ったかというと、電気が足りなかったからである。電流が落ちると、電圧も周波数も下がる。それを一定の範囲に収めるために、電力会社は常に発電量を調節している。
ドイツは現在、2022年の原発ゼロに向かって原発を止めようとしている。2015年6月に1基止めたのに続いて、去年の12月31日に2基目を止めたが、両方とも、産業の盛んな南ドイツの原発だ。
寒い国であるドイツでは、夏よりも冬に電力需要が増える。太陽光の発電施設は多く、普段は太陽が照ると電気が余りがちだが、冬は陽があまり差さないので、ほとんど役に立たない。さらに不都合なことに、冬は凪が多いので風力発電まで止まってしまうことがある。
厳寒となった今年は電気が足りなくなり、待機していた国外の火力まで総動員されたが、それでも供給はカツカツだった。普段なら周波数の揺れなどすぐに調整できるそうだが、今回はそれどころではなかったらしい。